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8、英雄を作るためのA toZ 

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 前回見た時はその全体像がまるで掴めず、岩のようだとか翼が大きいとしか感じなかったが、こうして見るとドラゴンは莉々子の知る動物に所々似ているところがあった。
 所謂ファンタジーゲームや小説に出てくるドラゴンや、恐竜と呼ばれるものと概ね姿形は同じなのだが、ほんの少し違うところもある。

 一つは頭部にある耳の存在だ。
 通常の爬虫類というものはだいたい穴だけが開いていて所謂耳介部分は存在しないことが多いのだが、ドラゴンの頭部には毛のない犬の耳のような薄い突起状の皮膜が突き出ていた。おそらく空気の抵抗を減らすためなのか、その耳は後方に張り付いていることが多いが、時々ぴょこんと姿を現して周囲の音を探るように動く。
 鼻も一見すると穴が開いているだけに見えるが、わずかに他よりも突き出ており、他の体表部分とその皮膚は異なるように見える。

 空を飛ぶためなのか、翼は胴体部分に対して比重が大きく、また、コモドラゴンよりも前足部分が退化しているのか小さく見える。しかし後ろ足はどっしりとして爪も鋭く、蹴り飛ばされたらひとたまりもないだろう。
 ユーゴと一緒に専門家に尋ねて知ったことだが、コモドラゴンは飛ぶことは出来るものの、それは移動のためでその生活拠点は地上であることが多いらしい。それに対してエラントドラゴンはコモドラゴンよりも空にいることが多く、狩りの方法も地上に降りて戦うのではなく、滞空したまま獲物を攻撃するのだという。
 どのように空から地上に向けて攻撃するのかというと……

 低いうなり声と共にエラントドラゴンの口から光の帯のようなものが放たれた。
 それが地上に降り注ぐと、そこにいた獣がその光に貫かれ、もだえ苦しみ倒れ伏した。

「…………」

 その倒れた獲物を悠々と滑空して後ろ足でわしづかむとそのまま攫っていってしまったのを見送って莉々子はうんざりとした。

「吐きそう……」
「吐くならよそでやれ」

 ユーゴの言葉はいつもの事ながらドライアイスのように冷たい。 
 それにちっ、と軽く舌打ちしつつ、莉々子は周囲を見渡した。
 ユーゴと莉々子が今現在いるのは以前に赤獅子団の少女、コールが目星をつけていたドラゴン達の潜む谷の東方に位置する崖の上である。
 莉々子達は各自警団の隊長2人と共にそこに簡易的なやぐらのような物を組み、そこを拠点としていた。
 崖の下には青鷲団が配置し、ドラゴン達の居所を挟んで対角線上に赤獅子団が潜んでいるのが見える。

「いよいよ、ドラゴン退治の開始ですね」

 カイルが緊張したような面持ちでそう口にした。

「この場にいる全員があいつらの栄養にならねぇといいですなぁ」

 その隣で不敵な笑みを浮かべながらアイゼアは吐き捨てた。
 対照的な自警団の両隊長はお互いに視線を合わせてじろり、と睨み合う。なんとなく両者の雰囲気から察してはいたが、どうやら二人はその関係性だけでなく性格的にも相性がよろしくないらしい。
 王子様然とした爽やか美形のカイルとマフィアじみたすごみのある美形のアイゼアはいかにも相反しそうだ。

「用意はいいか?」

 二人のそんな険悪な空気は全てまるっと無視してユーゴは平然と声をかけた。
 二人はほぼ同時にそれに対して睨み合う視線はそのままに肯定の返事を返す。
 両隊長が手を挙げて準備を促す合図を出すと崖下で待機している部下はそれに合わせて身構えるのがわかった。

「敵はドラゴン数十体。相手どって不足はないだろう」

 不足どころか過度なほどだ。
 莉々子の内心の突っ込みを読み取ったのか、ちらり、と横目でこちらを見て、ユーゴはにやりと意地悪く笑った。

「これは超えられない障壁ではない。我々がのぼるための"ただの石段"だ」

 ユーゴが真っ直ぐに指を伸ばし、エラントドラゴンを指さす。皆の視線がその指先に集中した。

「かかれ」

 その静かな号令と共に、両隊長の手が振り下ろされた。
 開戦の幕が開けたのだ。
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