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7.女神VS吸血鬼
⑲
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誤魔化すようにぶんぶんと首を横に振っていると「お、なんだおめぇさん、また来てやがったのか」とはすっぱな声がかかる。
「神父様!」
アンナの声とともに子ども達もわっ、と歓声を上げて彼の登場を歓迎した。
神父のセスはどこかに出かけていたのかいつもの正装の上に上等そうな黒いコートを羽織っていた。その服装は全体的に上品な印象でまとまっており、大人の渋みも相まってなかなかに決まっている。
「お早いお帰りですわね。大丈夫でしたの?」
その質問に彼は脱いだコートを群がる子どものうちの一人に預けながら軽く頷いた。
「いきなり招集されて驚いたがな……、まぁ、大した用件じゃねぇよ」
どうやらどこからかの呼び出しで緊急で出かけていたらしい。しかしその内容を部外者には聞かれたくなかったのか、単に子どもに配慮しただけか、彼は気まずそうにそう言葉を濁した。
(教会の主を呼び出す機関ってどこだ……?)
気にはなるが、聞いたところで答えてもらえなさそうな様子に莉々子は口を慎む。
以前話していた聖堂教会なるこの国の中央にあるという教会が怪しいが、その辺りの情報をそういえば莉々子はあまり詳しくは集めていない。
今度アンナに確認してみるか、と脳内に書き留めていると「おめぇさん、一人できたのか」と神父に話しかけられた。
「はい」
「ユーゴの野郎は息災か? ドラゴン退治がどうのとほざいているらしいじゃねぇか」
どうやらユーゴが無茶をしているのではないかと心配しているらしい。自分にもそういう心配を向ける人間が居て欲しいものだと思いながら、莉々子は「そうですね、ほざいてますね」とやる気なく同意した。
「一応青鷲団と赤獅子団の協力は取り付けられたようなので、大丈夫なんじゃないでしょうか?」
「あかじしぃ?」
マシュマロを噛もうとしたら何か別の固い物を噛んでしまった。彼はそんな顔をしながら怪訝そうな声を上げる。
「あの連中が、んな荒唐無稽な話に興味を示しやがったのか。てっきりバックレられて終わりかと思ってたんだがな」
セスの言葉に莉々子も深く頷く。彼はよくそれぞれの人となりをわかっているようだ。
「最初はバックレられそうでしたが、なんとか説得に成功したようです」
「ほぅ……?」
感心したようにセスは顎を撫でながら声を漏らした。
『一撃でエラントドラゴンに致命傷を与える方法』を一つ提示してみたところ、彼らは渋々協力を承諾してくれたのだ。
それ以降の話には莉々子はあまり関与していないため知らないが、アイデアを具体的に実現するための準備中なのだろう。
提案した方法が方法なだけにドラゴン退治当日は莉々子も参加しなくてはならないし、なんだったら明日にはその準備とやらに加わらなければならないのだが、今日のところはひとまず莉々子は短いバカンス中である。
ユーゴの奴はせいぜい今のうちに忙しくしていたらいいと思う。
「いってぇどんな手妻かは知らねぇが、そりゃあ結構なことだな」
「結局ユーゴの闇魔法を利用する、という方法で落ち着きました」
「あいつの闇魔法……? 戦闘に使えるほど即効性のあるようには思えねぇけどな」
「まぁ……、馬鹿とハサミは使いようです」
「ふん、なるほど? 馬鹿を操縦するのはおめぇさんってことか」
「ものの例えであって、私は何も致しません」
そう、主導権は常にユーゴにある。使われるのいつだって莉々子のほうだ。
けれどセスは一体何を勘違いしたのか、「ふうん」と莉々子を見ながら意地悪く笑った。
「神父様!」
アンナの声とともに子ども達もわっ、と歓声を上げて彼の登場を歓迎した。
神父のセスはどこかに出かけていたのかいつもの正装の上に上等そうな黒いコートを羽織っていた。その服装は全体的に上品な印象でまとまっており、大人の渋みも相まってなかなかに決まっている。
「お早いお帰りですわね。大丈夫でしたの?」
その質問に彼は脱いだコートを群がる子どものうちの一人に預けながら軽く頷いた。
「いきなり招集されて驚いたがな……、まぁ、大した用件じゃねぇよ」
どうやらどこからかの呼び出しで緊急で出かけていたらしい。しかしその内容を部外者には聞かれたくなかったのか、単に子どもに配慮しただけか、彼は気まずそうにそう言葉を濁した。
(教会の主を呼び出す機関ってどこだ……?)
気にはなるが、聞いたところで答えてもらえなさそうな様子に莉々子は口を慎む。
以前話していた聖堂教会なるこの国の中央にあるという教会が怪しいが、その辺りの情報をそういえば莉々子はあまり詳しくは集めていない。
今度アンナに確認してみるか、と脳内に書き留めていると「おめぇさん、一人できたのか」と神父に話しかけられた。
「はい」
「ユーゴの野郎は息災か? ドラゴン退治がどうのとほざいているらしいじゃねぇか」
どうやらユーゴが無茶をしているのではないかと心配しているらしい。自分にもそういう心配を向ける人間が居て欲しいものだと思いながら、莉々子は「そうですね、ほざいてますね」とやる気なく同意した。
「一応青鷲団と赤獅子団の協力は取り付けられたようなので、大丈夫なんじゃないでしょうか?」
「あかじしぃ?」
マシュマロを噛もうとしたら何か別の固い物を噛んでしまった。彼はそんな顔をしながら怪訝そうな声を上げる。
「あの連中が、んな荒唐無稽な話に興味を示しやがったのか。てっきりバックレられて終わりかと思ってたんだがな」
セスの言葉に莉々子も深く頷く。彼はよくそれぞれの人となりをわかっているようだ。
「最初はバックレられそうでしたが、なんとか説得に成功したようです」
「ほぅ……?」
感心したようにセスは顎を撫でながら声を漏らした。
『一撃でエラントドラゴンに致命傷を与える方法』を一つ提示してみたところ、彼らは渋々協力を承諾してくれたのだ。
それ以降の話には莉々子はあまり関与していないため知らないが、アイデアを具体的に実現するための準備中なのだろう。
提案した方法が方法なだけにドラゴン退治当日は莉々子も参加しなくてはならないし、なんだったら明日にはその準備とやらに加わらなければならないのだが、今日のところはひとまず莉々子は短いバカンス中である。
ユーゴの奴はせいぜい今のうちに忙しくしていたらいいと思う。
「いってぇどんな手妻かは知らねぇが、そりゃあ結構なことだな」
「結局ユーゴの闇魔法を利用する、という方法で落ち着きました」
「あいつの闇魔法……? 戦闘に使えるほど即効性のあるようには思えねぇけどな」
「まぁ……、馬鹿とハサミは使いようです」
「ふん、なるほど? 馬鹿を操縦するのはおめぇさんってことか」
「ものの例えであって、私は何も致しません」
そう、主導権は常にユーゴにある。使われるのいつだって莉々子のほうだ。
けれどセスは一体何を勘違いしたのか、「ふうん」と莉々子を見ながら意地悪く笑った。
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