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7.女神VS吸血鬼
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ユーゴの後ろについて歩いて1時間ほど経った頃だろうか。道が登り坂になり、下りたいはずなのに再び上の道が近づいてきた頃にそれは起こった。
甲高い鳴き声が聞こえた。
「ん?」
声が聞こえた方向を振り返る。
「下がれ! リリィ……っ!!」
ユーゴの『命令』に頭が思考するよりも先に身体が従って後ろへと大きく飛び退く。
ほんの数秒前まで莉々子が立って居た場所に、その牙が突きたったのはそれとほぼ同時だった。
逃げ遅れた前髪がわずかに刈り取られて宙に舞う。
莉々子は着地に失敗してその場に膝をついた。
黄色い瞳にぬめっとした光沢のある青い鱗、手足には地面をえぐるほどに鋭く長い爪を持ち、牙がびっしりと並んだ口を開いて、それは吠える。
甲高い咆吼が莉々子の全身を震わせて駆け抜けた。
地上から見上げた時にはあんなに小さく見えた身体は、こうして間近で目にすると莉々子よりも一回りほど大きかった。
「こ、こも……っ」
恐怖にへたり込む莉々子に
「ぼさっとするな! 後ろへ下がれ!!」
ユーゴの命令が飛ぶ。その声に身体が動き再び地面を蹴ると、なんとかユーゴの後ろへと回り込むことができた。
すぐさま飛びかかってくるコモドラゴンの牙を、ユーゴが手にしたステッキで受け止める。
その勢いにステッキはひび割れ、内部に隠された刀身を顕わにした。
「ユーゴ様……っ!」
がっちりとかみ合ったまま動かないと思われたその体勢から、ドラゴンは首を大きく振りかぶってユーゴのことを突き飛ばす。
それを慌てて全身をクッションにするようにして受け止めて、莉々子は地面へと倒れ伏した。
「ぐっ……っ」
「……げほっ、リリィ……」
ユーゴが何か命令を下そうとして、声にならずに咳き込む。
あいにくとこのような状況でユーゴの命令になしに動けるほど、莉々子は暴力に慣れた人間ではなかった。
青いドラゴンが力強い足を踏みしめてこちらへと駆けてくる。逃げなくてはならないと頭ではわかっているのに、ユーゴを抱きしめたまま、身体はぴくりとも動かなかった。
大した距離ではないのに、まるでスローモーションのようにドラゴンが近づいてくるのが見える。
(もう駄目……っ)
思わず瞼を下ろした時、すぐ前方から熱風が吹き上げてくるのを感じた。
続いて甲高い悲痛な叫び声があがる。
「やれやれ、自ら設定した約束の時間に遅刻するだけならいざ知らず、まさかこんなところで先にドラゴンと遊んでいらっしゃるとは……、さすがは次期領主候補殿、大物ですなぁ」
真紅の炎が開いた目に焼き付いた。
先程まで莉々子達を追い詰めていたドラゴンがまるでミミズのように踊りながら炎に飲まれてのたうち回っている。
皮肉気な笑みとともにそう嫌みを吐き捨てたのはまるで目の前の炎のように赤い髪を一つくくりにして背中に流した長身の男であった。ナイフのように鋭い切れ長の眼がじろり、とこちらを視線だけで睨みつける。
「…………っ」
自分よりも年上であろう男からのその攻撃的な態度に、莉々子は言葉を発せずに萎縮した。彼の右手には炎に包まれた剣が握られ、おそらくはそれによってドラゴンは燃やされたのだと推察された。
甲高い鳴き声が聞こえた。
「ん?」
声が聞こえた方向を振り返る。
「下がれ! リリィ……っ!!」
ユーゴの『命令』に頭が思考するよりも先に身体が従って後ろへと大きく飛び退く。
ほんの数秒前まで莉々子が立って居た場所に、その牙が突きたったのはそれとほぼ同時だった。
逃げ遅れた前髪がわずかに刈り取られて宙に舞う。
莉々子は着地に失敗してその場に膝をついた。
黄色い瞳にぬめっとした光沢のある青い鱗、手足には地面をえぐるほどに鋭く長い爪を持ち、牙がびっしりと並んだ口を開いて、それは吠える。
甲高い咆吼が莉々子の全身を震わせて駆け抜けた。
地上から見上げた時にはあんなに小さく見えた身体は、こうして間近で目にすると莉々子よりも一回りほど大きかった。
「こ、こも……っ」
恐怖にへたり込む莉々子に
「ぼさっとするな! 後ろへ下がれ!!」
ユーゴの命令が飛ぶ。その声に身体が動き再び地面を蹴ると、なんとかユーゴの後ろへと回り込むことができた。
すぐさま飛びかかってくるコモドラゴンの牙を、ユーゴが手にしたステッキで受け止める。
その勢いにステッキはひび割れ、内部に隠された刀身を顕わにした。
「ユーゴ様……っ!」
がっちりとかみ合ったまま動かないと思われたその体勢から、ドラゴンは首を大きく振りかぶってユーゴのことを突き飛ばす。
それを慌てて全身をクッションにするようにして受け止めて、莉々子は地面へと倒れ伏した。
「ぐっ……っ」
「……げほっ、リリィ……」
ユーゴが何か命令を下そうとして、声にならずに咳き込む。
あいにくとこのような状況でユーゴの命令になしに動けるほど、莉々子は暴力に慣れた人間ではなかった。
青いドラゴンが力強い足を踏みしめてこちらへと駆けてくる。逃げなくてはならないと頭ではわかっているのに、ユーゴを抱きしめたまま、身体はぴくりとも動かなかった。
大した距離ではないのに、まるでスローモーションのようにドラゴンが近づいてくるのが見える。
(もう駄目……っ)
思わず瞼を下ろした時、すぐ前方から熱風が吹き上げてくるのを感じた。
続いて甲高い悲痛な叫び声があがる。
「やれやれ、自ら設定した約束の時間に遅刻するだけならいざ知らず、まさかこんなところで先にドラゴンと遊んでいらっしゃるとは……、さすがは次期領主候補殿、大物ですなぁ」
真紅の炎が開いた目に焼き付いた。
先程まで莉々子達を追い詰めていたドラゴンがまるでミミズのように踊りながら炎に飲まれてのたうち回っている。
皮肉気な笑みとともにそう嫌みを吐き捨てたのはまるで目の前の炎のように赤い髪を一つくくりにして背中に流した長身の男であった。ナイフのように鋭い切れ長の眼がじろり、とこちらを視線だけで睨みつける。
「…………っ」
自分よりも年上であろう男からのその攻撃的な態度に、莉々子は言葉を発せずに萎縮した。彼の右手には炎に包まれた剣が握られ、おそらくはそれによってドラゴンは燃やされたのだと推察された。
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