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6、聖人君子の顔をした大悪党
⑩
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「私の白魔法は、少し特殊なのですわ」
「特殊……?」
いぶかる声を出す莉々子に、アンナは嫌そうに嘆息する。それに首を傾げつつ見つめているとしぶしぶと説明を始めてくれた。
「私の白魔法は、頭脳症を治すことが出来るんですの」
「えっ!」
(それはかなりすごいことじゃないのか)
にも関わらず、何故アンナはこんなに嫌そうなのか、莉々子には理解しがたい。
しかしその答えもアンナが教えてくれた。
「ただし、一時的に」
うんざりとしたその口調は刺々しい。
「私の白魔法は一時的には非常に効果を発しますわ。けれど、持続はしないんですの」
どんな魔法もすぐに効果が切れてしまうのですわと彼女は言う。
「小さな擦り傷も、一時的には治せます。けれどすぐに元の傷に戻ってしまうんですの。……私の魔法は、出来損ないなのですわ」
しょんぼりと肩を落とすその様子はひどく弱々しく可憐だ。
けれど莉々子の頭は様々な情報が駆け巡り、その分析に忙しく、それどころではなかった。
『頭脳症を治せる』、『一時的に』。
少なくとも他の治癒魔法とは異なる機序が働いていることは間違いない。
先程のイーハが脳出血なのか脳梗塞なのかは全くわからない。しかし話から察するにその傷の治癒過程は終了し、すでに慢性期に入っていると考えるのが妥当であろう。
それを更に治療する、というのは『機能の早送り』では説明が付かない。
先程のイーハは完璧だった。完璧に正常に言語を操り、腕の動きすらも何の淀みも認められなかった。
そんなものは、ただの治癒ではありえない。
(『巻き戻し』もしくは『完璧な修正』)
完全に『正常な状態』へと一時的とはいえ導いたのだ。
それが『完璧に正常な状態へと修正する』力なのか、『時間を巻き戻してかつての状態へと戻す』力なのかは判別が着かない。
(けれどこれは……)
俯くアンナの手を握りしめ、莉々子は感極まって涙ぐんだ。しかし、その表情は笑顔だ。
「素晴らしいです!!」
アンナは意表を突かれた顔をして、呆気にとられていた。
けれどそんなことには構わずに、莉々子はまくし立てる。
「貴方にしか使えない唯一の魔法! 私の魔法とは異なる機序で類似した結果をもたらすことが出来るということは、まさしく各々の魔法には異なるシステムがある可能性の証明です!」
つまりそれは、ユーゴと異なる魔法でも、異世界召喚という結果を得られる可能性があるかも知れないということだ。
それと同時に、アンナの魔法は莉々子の目的に役立つシステムをしているかも知れない可能性を秘めていた。
目をきらきらと光らせて手を強く掴む莉々子に、アンナは最初は目を白黒としていたが、やがて理解が追いついたのか、呆れたようにため息をついた。
けれどその表情は先程までのように苦々しいものではなく、微笑みに近いものだ。
「あなた、やっぱりユーゴ様の姉ね」
「えっ?」
莉々子は聞き返す。
それにアンナは苦笑を返した。
「今まで私の魔法を笑わなかったのは、ユーゴ様だけよ」
ほぅ、と小さく息を吐いて、アンナは遠くを見つめた。その視線が向かう方向はユーゴ達がいる礼拝堂だ。
「私のことを認めてくださったのは、ユーゴ様だけ」
ぽつりと呟いて、しばし黙り込む。ゆっくりと振り返ると彼女は美しい青色で莉々子のことを見つめた。
「貴方は2人目ね」
その笑顔は花が咲くように可愛らしかった。
「特殊……?」
いぶかる声を出す莉々子に、アンナは嫌そうに嘆息する。それに首を傾げつつ見つめているとしぶしぶと説明を始めてくれた。
「私の白魔法は、頭脳症を治すことが出来るんですの」
「えっ!」
(それはかなりすごいことじゃないのか)
にも関わらず、何故アンナはこんなに嫌そうなのか、莉々子には理解しがたい。
しかしその答えもアンナが教えてくれた。
「ただし、一時的に」
うんざりとしたその口調は刺々しい。
「私の白魔法は一時的には非常に効果を発しますわ。けれど、持続はしないんですの」
どんな魔法もすぐに効果が切れてしまうのですわと彼女は言う。
「小さな擦り傷も、一時的には治せます。けれどすぐに元の傷に戻ってしまうんですの。……私の魔法は、出来損ないなのですわ」
しょんぼりと肩を落とすその様子はひどく弱々しく可憐だ。
けれど莉々子の頭は様々な情報が駆け巡り、その分析に忙しく、それどころではなかった。
『頭脳症を治せる』、『一時的に』。
少なくとも他の治癒魔法とは異なる機序が働いていることは間違いない。
先程のイーハが脳出血なのか脳梗塞なのかは全くわからない。しかし話から察するにその傷の治癒過程は終了し、すでに慢性期に入っていると考えるのが妥当であろう。
それを更に治療する、というのは『機能の早送り』では説明が付かない。
先程のイーハは完璧だった。完璧に正常に言語を操り、腕の動きすらも何の淀みも認められなかった。
そんなものは、ただの治癒ではありえない。
(『巻き戻し』もしくは『完璧な修正』)
完全に『正常な状態』へと一時的とはいえ導いたのだ。
それが『完璧に正常な状態へと修正する』力なのか、『時間を巻き戻してかつての状態へと戻す』力なのかは判別が着かない。
(けれどこれは……)
俯くアンナの手を握りしめ、莉々子は感極まって涙ぐんだ。しかし、その表情は笑顔だ。
「素晴らしいです!!」
アンナは意表を突かれた顔をして、呆気にとられていた。
けれどそんなことには構わずに、莉々子はまくし立てる。
「貴方にしか使えない唯一の魔法! 私の魔法とは異なる機序で類似した結果をもたらすことが出来るということは、まさしく各々の魔法には異なるシステムがある可能性の証明です!」
つまりそれは、ユーゴと異なる魔法でも、異世界召喚という結果を得られる可能性があるかも知れないということだ。
それと同時に、アンナの魔法は莉々子の目的に役立つシステムをしているかも知れない可能性を秘めていた。
目をきらきらと光らせて手を強く掴む莉々子に、アンナは最初は目を白黒としていたが、やがて理解が追いついたのか、呆れたようにため息をついた。
けれどその表情は先程までのように苦々しいものではなく、微笑みに近いものだ。
「あなた、やっぱりユーゴ様の姉ね」
「えっ?」
莉々子は聞き返す。
それにアンナは苦笑を返した。
「今まで私の魔法を笑わなかったのは、ユーゴ様だけよ」
ほぅ、と小さく息を吐いて、アンナは遠くを見つめた。その視線が向かう方向はユーゴ達がいる礼拝堂だ。
「私のことを認めてくださったのは、ユーゴ様だけ」
ぽつりと呟いて、しばし黙り込む。ゆっくりと振り返ると彼女は美しい青色で莉々子のことを見つめた。
「貴方は2人目ね」
その笑顔は花が咲くように可愛らしかった。
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