上 下
50 / 92
6、聖人君子の顔をした大悪党

しおりを挟む
「私の白魔法は、少し特殊なのですわ」
「特殊……?」

 いぶかる声を出す莉々子に、アンナは嫌そうに嘆息する。それに首を傾げつつ見つめているとしぶしぶと説明を始めてくれた。

「私の白魔法は、頭脳症を治すことが出来るんですの」
「えっ!」

(それはかなりすごいことじゃないのか)
 にも関わらず、何故アンナはこんなに嫌そうなのか、莉々子には理解しがたい。
 しかしその答えもアンナが教えてくれた。

「ただし、一時的に」

 うんざりとしたその口調は刺々しい。

「私の白魔法は一時的には非常に効果を発しますわ。けれど、持続はしないんですの」

 どんな魔法もすぐに効果が切れてしまうのですわと彼女は言う。

「小さな擦り傷も、一時的には治せます。けれどすぐに元の傷に戻ってしまうんですの。……私の魔法は、出来損ないなのですわ」

 しょんぼりと肩を落とすその様子はひどく弱々しく可憐だ。
 けれど莉々子の頭は様々な情報が駆け巡り、その分析に忙しく、それどころではなかった。

 『頭脳症を治せる』、『一時的に』。

 少なくとも他の治癒魔法とは異なる機序が働いていることは間違いない。
 先程のイーハが脳出血なのか脳梗塞なのかは全くわからない。しかし話から察するにその傷の治癒過程は終了し、すでに慢性期に入っていると考えるのが妥当であろう。
 それを更に治療する、というのは『機能の早送り』では説明が付かない。
 先程のイーハは完璧だった。完璧に正常に言語を操り、腕の動きすらも何の淀みも認められなかった。
 そんなものは、ただの治癒ではありえない。

(『巻き戻し』もしくは『完璧な修正』)

 完全に『正常な状態』へと一時的とはいえ導いたのだ。
 それが『完璧に正常な状態へと修正する』力なのか、『時間を巻き戻してかつての状態へと戻す』力なのかは判別が着かない。

(けれどこれは……)

 俯くアンナの手を握りしめ、莉々子は感極まって涙ぐんだ。しかし、その表情は笑顔だ。

「素晴らしいです!!」

 アンナは意表を突かれた顔をして、呆気にとられていた。
 けれどそんなことには構わずに、莉々子はまくし立てる。

「貴方にしか使えない唯一の魔法! 私の魔法とは異なる機序で類似した結果をもたらすことが出来るということは、まさしく各々の魔法には異なるシステムがある可能性の証明です!」

 つまりそれは、ユーゴと異なる魔法でも、異世界召喚という結果を得られる可能性があるかも知れないということだ。
 それと同時に、アンナの魔法は莉々子の目的に役立つシステムをしているかも知れない可能性を秘めていた。
 目をきらきらと光らせて手を強く掴む莉々子に、アンナは最初は目を白黒としていたが、やがて理解が追いついたのか、呆れたようにため息をついた。
 けれどその表情は先程までのように苦々しいものではなく、微笑みに近いものだ。

「あなた、やっぱりユーゴ様の姉ね」
「えっ?」

 莉々子は聞き返す。
 それにアンナは苦笑を返した。

「今まで私の魔法を笑わなかったのは、ユーゴ様だけよ」

 ほぅ、と小さく息を吐いて、アンナは遠くを見つめた。その視線が向かう方向はユーゴ達がいる礼拝堂だ。

「私のことを認めてくださったのは、ユーゴ様だけ」

 ぽつりと呟いて、しばし黙り込む。ゆっくりと振り返ると彼女は美しい青色で莉々子のことを見つめた。

「貴方は2人目ね」

 その笑顔は花が咲くように可愛らしかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...