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6、聖人君子の顔をした大悪党

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「この教会はデルデヴェーズで一番大きな教会なんですわ。孤児院と療養施設が本堂の隣に併設されてますの」

 その言葉の通り、案内された敷地内は広大で建物が4つ建てられていた。
 一つは最初にいた教会の本堂だ。
 そこから正面玄関ではなく、奥の回廊へと進むと広い中庭へと出て、そこからはす向かいに孤児院、斜め向かいに療養施設が見えた。
 孤児院からは子どものはしゃぎ声が漏れ出て聞こえてきたのですぐにわかった。よく見ると庭では洗濯を干している子どもやひなたぼっこする老人の姿が見える。
 どうやらウッドチェアでひなたぼっこをする老人のいる方が療養施設なのだろうと当たりをつける。

「小さな教会では孤児院も療養施設もないのですか?」

 それを横目で確認しながら、莉々子は問いかけた。
 子ども達も莉々子の存在に気付いてはいるようだが、警戒してか近づいては来ない。

「ない所が多いですわ。あってもどちらか片方ですわね」

 敷地と資金がないと運営できませんもの、とアンナは答える。

「運営資金の一部は税から成り立っていますわ。まぁ、その配分は領主様の裁量で変わってしまうんですけれど」
「なるほど」

 親しい存在であるユーゴが領主になることで、教会にも旨みがあるということか。

「正直、亡くなった領主様は医療にも福祉にもご興味がおありでない方でしたの。ですから、どちらかと言うと教会への寄付でなんとか賄っている状態なのですわ。ユーゴ様も、個人的に寄付をしてくださってますの」

 その言葉を聞き流しながら、莉々子は中庭を見渡す。孤児院と療養施設の奥にどうやらもう一つ屋根の高い建物があるようだが、その全貌は掴めなかった。

「そういえば、教会では審判を行うことがあるそうですが、それは具体的にはどの場所でどのように行われるのですか?」
「審判? そんなことも知りませんの? まぁ、田舎の小さな教会では“真実の腕輪”がありませんものね」

 ふふん、と田舎者を馬鹿にするように笑われるが、莉々子はその返答に内心でだらだらと汗を流した。

(やっべぇ……)

 いつものユーゴに質問するようなつもりで何気なく聞いてしまったが、この世界の人間にとってあまりに常識的なことを訊ねるのは疑われる要因だ。
 今回は幸運にも田舎者なら知らなくても不思議ではない範疇だったようだが、あまり考えなしに質問するべきではないな、と莉々子は肝に銘じた。

「貴方も噂話くらいは聞いたことがあるでしょう? “真実の腕輪”」

 まったく聞いたことがない。
 ――が、もちろんそんなことは言えるはずもない。
 莉々子はわかった顔をして、曖昧に頷いてみせた。

(私は知ってますよー)
 ――という表情だ。

「“真実の腕輪”は偽りを告げる者の腕を切り落とす、虚偽を許さない神器よ」

 そう言ってアンナは先ほど歩いてきた道を差し示す。

「さっき居た本堂があったでしょう? あそこで審判は行われるの。審判を受ける人間はその腕輪に腕を通した状態で尋問を受けるの。偽りを述べたら、その場で腕は切り落とされるわ」
「こわぁ……」

 素でびびる話だ。
 その場で血が飛び散るとかとんだスプラッタな裁判だ。
 しかし仕組みは気になる。

「それは、嘘をついた際に腕輪の内部から刃物か何かか飛び出す仕組みなのですか?」
「ええ……? 知らないわよ、そんなの。でも、もっとあれよ、刃物というか、魔法が作動してなるんだから」
「どんな魔法なんですか?」
「白魔法よ。神器なんだから、決まってるでしょ」

 なんで神器だと白魔法なのが『決まっている』のだろうか?
 白魔法というのは教会に関わりのあるものなのか、その点は後でユーゴに確認が必要だ。
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