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5英雄の断罪
牢屋の中で
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「ごきげんよう! ルディ・レナード! 気分はいかがかしら? 私は最悪よ!」
豪奢なドレスを身に纏って、わざとぎらぎらと光る宝石をじゃらじゃら身につけた状態でジュリアは牢屋へと姿を現した。
看守に賄賂を送り、その上役にも掛け合ってもらって賄賂を送り、合法的な面会を力尽くで取り付けたのだ。
そのあまりの勢いに案内役だった看守はひき気味に「あ、ご用事がお済みになったらお声がけください」とだけ告げてこそこそと退散する。
「ご機嫌麗しゅう、ジュリア。その、……俺の目にはとても元気に見えますが……」
「当たり前じゃないの! わかりやすく落ち込むなんて最低だわ!」
から元気よ! と若干戸惑った様子のルディにもジュリアは溌剌と応じる。
そうして牢の前までずかずかと踏み込むと、そこに小さな木製の椅子があることに気づいてそこにどかり、と腰を下ろした。
わずかに椅子の脚が軋むが、ジュリアの経験上この程度の音ならば大丈夫だろう。
そんないつもと変わらぬジュリアの様子に、ルディは少しだけ唇を綻ばせた。
「そうでしたか、それはそれは……。不快にさせてしまって申し訳ありません」
「全くだわ。わかってるなら、そんなところからはさっさと出てきてちょうだい!」
その言葉に、ルディは顔を上げる。
ジュリアは常の通りに扇を広げ、狭い椅子の上でふんぞり返っていた。
「それは出来ません、ジュリア」
「いいえ、否定は許さないわ」
ルディの否定をジュリアは更に否定で返すと目をすがめてルディを見下ろした。
「貴方は牢屋から出るのよ。何の罪もない一般人、いいえ、無実の罪を着せられた悲劇のヒーローを気取ってね。そうして民衆に拍手を持って出迎えられるのだわ」
「出来ません」
「いいえ、出来るわ」
「なりません」
「いいえ、成るわ」
沈黙が降りた。
二人は格子を挟んでしばし見つめ合う。先に視線を逸らしたのはやはりと言おうか、ルディの方だった。
「ジュリア、貴方は優しすぎる」
「優しい?」
その言葉にジュリアは唖然とする。
(私が?)
頭に血が上った。
冗談じゃない!
「私は、ジュリアよ」
宣言して立ち上がる。
「地位も名誉も財産も、何でも持っているの! ないのは美貌と愛嬌だけ!」
胸に手を当てて、ジュリアは叫んだ。
「こんなこと! 私がなんとでもしてやるんだから!」
それは祈りを捧げるような、叶わない願いを訴えるような、悲痛な覚悟をはらんだ声だった。
けれどその瞳は閉じられないし、涙なども流されない。
背筋はぴんと伸びて、少しもうつむかなかった。
その姿勢に、態度に、ルディの目は眩むようだ。
(ああ、彼女はいつだってそうだ。初めて会った時からそうだった)
「ジュリア。俺は貴方をお慕いしております」
「何よ、急に」
突然の告白に、ジュリアは鼻白む。
けれどルディは構わなかった。
「愛しているんです、本当に」
思わず息を飲む。
これまで散々甘い言葉は囁かれたが、明確に『愛』と告げられたのは初めてだった。
「貴方はきっと、覚えておられないことでしょう。俺たちは会ったことがあるのです。俺がまだ英雄と呼ばれていない頃、それよりももっと前、魔王討伐の旅に出るよりも昔に」
ルディの瞳には、その時の光景が今もまざまざと蘇る。
ルディにとってひとときも忘れたことのない、それは大切な宝物だった。
豪奢なドレスを身に纏って、わざとぎらぎらと光る宝石をじゃらじゃら身につけた状態でジュリアは牢屋へと姿を現した。
看守に賄賂を送り、その上役にも掛け合ってもらって賄賂を送り、合法的な面会を力尽くで取り付けたのだ。
そのあまりの勢いに案内役だった看守はひき気味に「あ、ご用事がお済みになったらお声がけください」とだけ告げてこそこそと退散する。
「ご機嫌麗しゅう、ジュリア。その、……俺の目にはとても元気に見えますが……」
「当たり前じゃないの! わかりやすく落ち込むなんて最低だわ!」
から元気よ! と若干戸惑った様子のルディにもジュリアは溌剌と応じる。
そうして牢の前までずかずかと踏み込むと、そこに小さな木製の椅子があることに気づいてそこにどかり、と腰を下ろした。
わずかに椅子の脚が軋むが、ジュリアの経験上この程度の音ならば大丈夫だろう。
そんないつもと変わらぬジュリアの様子に、ルディは少しだけ唇を綻ばせた。
「そうでしたか、それはそれは……。不快にさせてしまって申し訳ありません」
「全くだわ。わかってるなら、そんなところからはさっさと出てきてちょうだい!」
その言葉に、ルディは顔を上げる。
ジュリアは常の通りに扇を広げ、狭い椅子の上でふんぞり返っていた。
「それは出来ません、ジュリア」
「いいえ、否定は許さないわ」
ルディの否定をジュリアは更に否定で返すと目をすがめてルディを見下ろした。
「貴方は牢屋から出るのよ。何の罪もない一般人、いいえ、無実の罪を着せられた悲劇のヒーローを気取ってね。そうして民衆に拍手を持って出迎えられるのだわ」
「出来ません」
「いいえ、出来るわ」
「なりません」
「いいえ、成るわ」
沈黙が降りた。
二人は格子を挟んでしばし見つめ合う。先に視線を逸らしたのはやはりと言おうか、ルディの方だった。
「ジュリア、貴方は優しすぎる」
「優しい?」
その言葉にジュリアは唖然とする。
(私が?)
頭に血が上った。
冗談じゃない!
「私は、ジュリアよ」
宣言して立ち上がる。
「地位も名誉も財産も、何でも持っているの! ないのは美貌と愛嬌だけ!」
胸に手を当てて、ジュリアは叫んだ。
「こんなこと! 私がなんとでもしてやるんだから!」
それは祈りを捧げるような、叶わない願いを訴えるような、悲痛な覚悟をはらんだ声だった。
けれどその瞳は閉じられないし、涙なども流されない。
背筋はぴんと伸びて、少しもうつむかなかった。
その姿勢に、態度に、ルディの目は眩むようだ。
(ああ、彼女はいつだってそうだ。初めて会った時からそうだった)
「ジュリア。俺は貴方をお慕いしております」
「何よ、急に」
突然の告白に、ジュリアは鼻白む。
けれどルディは構わなかった。
「愛しているんです、本当に」
思わず息を飲む。
これまで散々甘い言葉は囁かれたが、明確に『愛』と告げられたのは初めてだった。
「貴方はきっと、覚えておられないことでしょう。俺たちは会ったことがあるのです。俺がまだ英雄と呼ばれていない頃、それよりももっと前、魔王討伐の旅に出るよりも昔に」
ルディの瞳には、その時の光景が今もまざまざと蘇る。
ルディにとってひとときも忘れたことのない、それは大切な宝物だった。
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