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「お久しぶりです、殿下。本日もご機嫌麗しく……」
「麗しいように見えるのかしら?」

 うふふ、と微笑む顔は完璧に整って晴れやかだが、その心中では嵐が吹き荒れていることだろう。身体の前で組まれた手は強い力で握りしめられ、皮膚に皺を刻んで震えていた。
 ぎゅうううううっ、と強い音が聞こえてきそうだ。
 一体どうするのかとハラハラして見守っていると、ルディは一度王女を見つめてから目を伏せ、そうして静かに再び口を開いた。

「申し訳ありません。少々配慮が欠けていたようです」

 殊勝な顔をして、そう告げる。

「どうか、貴方の憂いをお聞かせ願えないでしょうか。私にそれが払えるとは到底思えませんが、多少の気晴らしにはなるかも知れません」

 そうして続けられた真摯な言葉に、ミリディアも言葉に詰まったようだ。
 さすがに、お前が自分ではなくそこのデブを選んだから怒っているのだ、とは言いがたかったのだろう。気まずげに視線をそらすと小さく咳払いをした。
 その両頬はわずかにだが怒りだけではない理由でほのかに色づいている。

「大したことではないわ。少し……、そう、少し療養に来たのよ。このレーゼルバールはとても気候がよい酪農地だと聞いて、穏やかに休むことが出来ると思って」
「そうでしたか。確かにここはとても温暖な土地です。きっと殿下のお気に召されることでしょう」

 そうか、王女はここに療養をしに来たのか、ジュリアは今更ながら内心で頷いた。
 そんな事実はジュリアは今初めて聞いた。一応この地の領主であるはずなのに、全く事情を把握していない。

「とりあえず、離れを整えておいてちょうだい」
「承知いたしました」

 実は近くに潜んでいたロザンナに指示を出す。
 なんだか最近の我が家はイレギュラーなお客様が多いな、と人ごとのようにジュリアは思った。
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