上 下
124 / 147

ノルメの修行開始

しおりを挟む
 修行に出たノルメは、途中でカリーナと別れて一人で《ボルケイノ》の遺跡に向かった。

 久しぶりのボルケイノに、ノルメは少し体が震えていた。
 出発前はあんなに楽しみだったのに、少し前まで奴隷として暮らしていた街に戻るのは、昔のことを思い出してしまう。
 理不尽に殴られ、理不尽にご飯を抜かれ、理不尽に罵声を浴びせられる。
 その記憶は消す事は出来ない。フォレスたちに会った後でも、悪夢としてその時のことを夢に見ることがある。

「気持ちを切り替えないと」

 だけど、昔のことを思い出して身を震わせるよりも、更に恐ろしいことが神の所為で起きようとしている。
 そのことを考えると、身が引き締まる。
 そして、遺跡に着くと以前来た時と変わらない姿でノルメのことを迎え入れてくれた。

 遺跡に入ったノルメは、何個もある道から、昔自分が入った道を思い出してその道に入って行った。
 少し歩くと、見覚えのある場所に着いた。

「たのもー!!!」

 ノルメはその場にそぐわない言葉を大きな声で放った。

「・・・たの……」
「道場破りならお断りよ」
「うわぁ! び、びっくりした……」
「何よ、こっちのほうがびっくりしたわよ。まぁ良いわ、中に入って、そこで話を聞くわよ」

 アイリスに付いてきて、以前にも座った椅子に腰を下ろした。
 アイリスに飲み物を用意してもらって、ノルメは口を開いた。

「私は強くなりたいです。仲間がどんなに傷を受けても回復させられる力、仲間がどんなに敵に攻撃を与えられなくても、私の力で道を切り開いてあげたいんです。その為のきっかけを、作りたいんです」

 アイリスはノルメの必死のスピーチに肘をついて話を聞いていた。
 その姿に、ノルメはほんの少し怒った。

「話、聞いてますか?」
「聞いてるよ。でもさ、それって、聖女じゃなくても出来るよね? 勇者は持続回復を持ってるし、道を切り開くのは聖魔士と聖弓士が居たら聖女は必要ないよ。なのに、それをしたいの?」
「そ、それは……」

 そんな事、ノルメが一番知っている。
 その時、ノルメの感情のダムが決壊した。

「そんなこと、私が一番知ってるよ! どんな戦いでも私は戦いが終わった後の回復だけ、最近になってやっとデバフとバフが出来るようになったけど、私の力が弱いから敵はそんなもの、あってもないようなものだし、カリーナたちにバフしても、デバフした敵にすぐやられる、お兄ちゃんにはよくやったって褒めてもらえるけど、いつも惨めになる! お兄ちゃんは本心で言っているから、質が悪い! もう、私にあそこに居場所なんてないんだ……」

 そう言って、ノルメは泣き崩れてしまった。
 アイリスはノルメの背中を摩った。

 少しして、ノルメは泣き止んだ。

「大丈夫? 落ち着いた?」
「……は、はい」

 アイリスはノルメの手を握って立ち上がらせた。

「ノルメ、一つ言っておくよ。居場所が無いなんて思っているのはノルメだけだよ。さっき、質が悪いとか言っていたけど、二度とそんなことを言わないで、貴女のことを大切に思っているお兄ちゃんが可哀想だよ。それに、そんな風に思うの辛いでしょ?」
「……はい」
「まぁ、今のノルメにはまだ難しいと思うけど、貴女を強くして、みんなが私が居ないと駄目ってノルメに思わせるぐらい強くしてあげる」
「はい!! お願いします!!!」

 そして、ノルメの修行が始まった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

憤怒のアーティファクト~伝説のおっさん、娘を探すために現役に復帰し無双する~

ゆる弥
ファンタジー
溺愛していた娘は五年前に探索者として家を出た。 毎日無事を祈っていたが、まさかこんな事になるとは。 消息不明になった娘は俺が探し出す。 現役時代、伝説の探索者であったおっさんの愛娘を捜索する旅が始まる。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...