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第二章 グリムフォレスト
結界張り
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次の日、俺達は結界張りの続きをしに、グリムフォレストの森との境目に来ていた。
俺はヘンリー隊に混ぜてもらった。今日は俺の護衛役として、ウィリアムさんも一緒だ。
「グラント上級神官には、ノアさんと合流したと伝えておきましたよ」
結界張り作業を眺めて待機していた時に、ウィリアムさんが教えてくれた。
「えっ!? 連絡が取れたんですか!?」
俺はびっくりしてウィリアムさんに訊き返した。
転移のスクロールで前線に飛ばされて来てからは、俺はずっと戦闘や怪我人の治療で忙しかったし、連絡を取ろうにも何も手段が無かったから、すごくありがたい。
「ええ。使い魔がいるので、手紙を持たせました」
ウィリアムさんはそこまで言うと、内緒話をするように俺の耳元で、声を潜めて言葉を続けた。
「皆さん、とても心配されてましたよ。何せ、ノアさんは急に消えてしまいましたからね。慌てて後を追えば、後方支援キャンプにはいないし、キャンプにいた神官や聖女達に聞いても『来ていない』と言われるしで大騒ぎでしたよ」
「……その節は……大変ご迷惑をおかけしました。すみません」
うっ……グラントさんもリリアンもエラも、すごい心配してそう。リリアンには後で何か言われるかも……
それにまさか、後方支援キャンプの方にまで迷惑をかけていたとは……
俺は申し訳なさで、ズーンと心が重くなった。
「それで、他の皆は今どうしてるんですか?」
「皆さん、今は後方支援キャンプで待機してますよ」
「あぁ……」
ウィリアムさんの回答に、俺は妙に納得した。
確かに、結界張り部隊がここにいて、後方支援キャンプが遠すぎて帰れていないから、そうなるよな……怪我人が運び込まれないわけだし。
——それにしても、レスタリア領はこんなことして何がしたいんだ???
「モノケロス騎士、少しお話が……」
結界張りの合間に、ヘンリー騎士がウィリアムさんに耳打ちしていた。
今は、ザック神官の護衛は、聖騎士見習いの三人に任せているようだった。
昨日、魔物寄せのスクロールで魔物を引き寄せていた神官が捕まった影響か、今日は魔物に襲撃されることもなく、順調に結界張り作業が進んでいた。
怪我人も出てないし、俺は結界は張れないし、俺もウィリアムさんもボーッと他の神官達の作業を眺めているだけだった。
「ええ。どうかされました?」
ウィリアムさんはすぐにポケットの中に手を突っ込むと、防音結界を展開した。ヴゥーンと低い音が鳴る。
「防音結界ですか、ありがたい」
「ええ。昨日の感じですと、まだ内通者がいてもおかしくはないですから」
ヘンリー騎士とウィリアムさんが頷き合った。
「それで、随分おかしなことになっているようですね?」
ウィリアムさんは、世間話をするような何気ない感じで、話の続きを促した。
ヘンリー騎士は、昨日俺に話してくれたのと同じ内容のことを、ウィリアムさんに報告した。
ウィリアムさんは、ヘンリー騎士の話が一通り終わるまで、静かに彼の話に耳を傾けていた。
「……そうですか。このことは上にも報告させていただきます。幸い支援物資も届けるべき所に届けられましたし、怪我をしても最高の回復役がここにいる。このまま後方支援キャンプには戻らずに、結界を張り終えてしまいましょう」
ウィリアムさんの判断に、ヘンリー騎士も大きく頷いた。
「それにしても、レスタリア領は何がしたいんでしょうか?」
俺は不思議に思ってたことを尋ねてみた。
「私の推測では、領地を広げたいのでしょう」
ウィリアムさんがさらりと答えた。
ヘンリー騎士も難しい顔をしながらも、無言で頷いている。
「へ? 領地を広げるったって……」
俺はますます訳が分からなくなった。
レスタリア領は広いし、隣国とは仲が悪いわけでも戦争をしているわけでもない。
ドラゴニア王国は、火竜の血を引く王族が治めている大国だから、今のところ喧嘩を吹っかけようっていう国は周辺地域にはいない。
流石に同じ国内だし、隣の領を狙うなんてことも無いよな……???
「レスタリア領の多くはグリムフォレストに覆われてますし、グリムフォレストの大半は妖精自治区——人間が踏み込めない土地です……おそらく、そこに領地を広げたいのかと思います」
ウィリアムさんが簡潔に説明してくれた。
「最近跡目を継いだ新しい領主は、かなりの野心家だとの噂は耳にしたことがあります。今回レスタリア領に結界を張るよう依頼された位置は、そのほとんどが妖精自治区の近くです……中には、妖精自治区とかぶる部分もあります」
ヘンリー騎士も薄らと眉根を寄せて、教えてくれた。
「それって、自分達だと妖精自治区に踏み込めないから、代わりに教会を使おうとしてるってことですか?」
そんなことのために、わざわざ結界を張りに来てくれた神官や聖騎士達が傷ついてもいいってことのなのか!?
「おそらく、そうでしょう。全く、教会を何だと思っているのか……」
ウィリアムさんが呆れたように言うと、ヘンリー騎士もうんうんと相槌を打った。
「そうなると、後方支援キャンプのことは……」
「嫌がらせでしょうねぇ。『後方支援キャンプを結界の近くに築きたいなら、言うことを聞け』と交渉するおつもりなのでしょう」
俺の疑問には、ウィリアムさんが「アホらしい」と言いたげに肩をすくめて教えてくれた。
「……でも、そうなると魔物の件はどうなんでしょう? 昨日の神官は魔物寄せをしてたんですよね?」
俺はさらに疑問に思ってたことを口にした。
「ああ、どうやらそれもレスタリア領からの指示みたいですよ? 最近、南の方から魔物が戻って来たらしくて、その討伐代を出すのをケチって、聖騎士に処理させたかったようですね。聖鳳教会の聖騎士は屈強ですからね」
「なっ!!!」
ウィリアムさんの話に、ヘンリー騎士が一気に顔を真っ赤にした。眉と目尻を吊り上げて、かなり怒ってるみたいだ……でも、あの命懸けの激闘を経験したら、そうもなるよな。途中参加の俺だってむかつくんだし!
「昨日捕らえた者がもう吐いたみたいですね。うちの尋問部隊は優秀ですから」
ウィリアムさんが、やけにいい笑顔で答えた。
その笑みに、俺はなんだか背筋がゾクゾクッときた。
——その時、森の方から人の叫び声が聞こえてきた。
「きゃーっ! 助けてぇー!!」
「嘘っ!? まだついて来てる!?」
「いいから前を見て走れっ!」
「人だっ! 人がいる! 助けてくれぇーーー!!」
森から、男女四人組の冒険者達が、必死の形相でこちらに駆けて来た。
彼らの後ろからは、大きなロックリザードが群れをなして追いかけて来ていた。大きな口に強靭な顎、ゴツゴツと岩石のように硬い鱗が厄介な、大型のトカゲ型の魔物だ。
「総員! 戦闘準備!!」
ヘンリー騎士が武器を手に取って、前に出て行く。
「少々数が多いですね。私もノアさんをお守りしますが、いざとなったらこの前渡した武器を使ってください。ロックリザードには、効果抜群ですよ」
ウィリアムさんは、白銀色の聖槍を構えて言った。
俺は素直に頷いた。
聖騎士の武器は剣ばかりだし、防御力の高いロックリザードには少々不利だ。あまりにも鱗が頑丈すぎて、魔術も通りづらいしな。
あの武器はあまり使いたくなかったけど、そうも言ってられなそうだ——
俺はヘンリー隊に混ぜてもらった。今日は俺の護衛役として、ウィリアムさんも一緒だ。
「グラント上級神官には、ノアさんと合流したと伝えておきましたよ」
結界張り作業を眺めて待機していた時に、ウィリアムさんが教えてくれた。
「えっ!? 連絡が取れたんですか!?」
俺はびっくりしてウィリアムさんに訊き返した。
転移のスクロールで前線に飛ばされて来てからは、俺はずっと戦闘や怪我人の治療で忙しかったし、連絡を取ろうにも何も手段が無かったから、すごくありがたい。
「ええ。使い魔がいるので、手紙を持たせました」
ウィリアムさんはそこまで言うと、内緒話をするように俺の耳元で、声を潜めて言葉を続けた。
「皆さん、とても心配されてましたよ。何せ、ノアさんは急に消えてしまいましたからね。慌てて後を追えば、後方支援キャンプにはいないし、キャンプにいた神官や聖女達に聞いても『来ていない』と言われるしで大騒ぎでしたよ」
「……その節は……大変ご迷惑をおかけしました。すみません」
うっ……グラントさんもリリアンもエラも、すごい心配してそう。リリアンには後で何か言われるかも……
それにまさか、後方支援キャンプの方にまで迷惑をかけていたとは……
俺は申し訳なさで、ズーンと心が重くなった。
「それで、他の皆は今どうしてるんですか?」
「皆さん、今は後方支援キャンプで待機してますよ」
「あぁ……」
ウィリアムさんの回答に、俺は妙に納得した。
確かに、結界張り部隊がここにいて、後方支援キャンプが遠すぎて帰れていないから、そうなるよな……怪我人が運び込まれないわけだし。
——それにしても、レスタリア領はこんなことして何がしたいんだ???
「モノケロス騎士、少しお話が……」
結界張りの合間に、ヘンリー騎士がウィリアムさんに耳打ちしていた。
今は、ザック神官の護衛は、聖騎士見習いの三人に任せているようだった。
昨日、魔物寄せのスクロールで魔物を引き寄せていた神官が捕まった影響か、今日は魔物に襲撃されることもなく、順調に結界張り作業が進んでいた。
怪我人も出てないし、俺は結界は張れないし、俺もウィリアムさんもボーッと他の神官達の作業を眺めているだけだった。
「ええ。どうかされました?」
ウィリアムさんはすぐにポケットの中に手を突っ込むと、防音結界を展開した。ヴゥーンと低い音が鳴る。
「防音結界ですか、ありがたい」
「ええ。昨日の感じですと、まだ内通者がいてもおかしくはないですから」
ヘンリー騎士とウィリアムさんが頷き合った。
「それで、随分おかしなことになっているようですね?」
ウィリアムさんは、世間話をするような何気ない感じで、話の続きを促した。
ヘンリー騎士は、昨日俺に話してくれたのと同じ内容のことを、ウィリアムさんに報告した。
ウィリアムさんは、ヘンリー騎士の話が一通り終わるまで、静かに彼の話に耳を傾けていた。
「……そうですか。このことは上にも報告させていただきます。幸い支援物資も届けるべき所に届けられましたし、怪我をしても最高の回復役がここにいる。このまま後方支援キャンプには戻らずに、結界を張り終えてしまいましょう」
ウィリアムさんの判断に、ヘンリー騎士も大きく頷いた。
「それにしても、レスタリア領は何がしたいんでしょうか?」
俺は不思議に思ってたことを尋ねてみた。
「私の推測では、領地を広げたいのでしょう」
ウィリアムさんがさらりと答えた。
ヘンリー騎士も難しい顔をしながらも、無言で頷いている。
「へ? 領地を広げるったって……」
俺はますます訳が分からなくなった。
レスタリア領は広いし、隣国とは仲が悪いわけでも戦争をしているわけでもない。
ドラゴニア王国は、火竜の血を引く王族が治めている大国だから、今のところ喧嘩を吹っかけようっていう国は周辺地域にはいない。
流石に同じ国内だし、隣の領を狙うなんてことも無いよな……???
「レスタリア領の多くはグリムフォレストに覆われてますし、グリムフォレストの大半は妖精自治区——人間が踏み込めない土地です……おそらく、そこに領地を広げたいのかと思います」
ウィリアムさんが簡潔に説明してくれた。
「最近跡目を継いだ新しい領主は、かなりの野心家だとの噂は耳にしたことがあります。今回レスタリア領に結界を張るよう依頼された位置は、そのほとんどが妖精自治区の近くです……中には、妖精自治区とかぶる部分もあります」
ヘンリー騎士も薄らと眉根を寄せて、教えてくれた。
「それって、自分達だと妖精自治区に踏み込めないから、代わりに教会を使おうとしてるってことですか?」
そんなことのために、わざわざ結界を張りに来てくれた神官や聖騎士達が傷ついてもいいってことのなのか!?
「おそらく、そうでしょう。全く、教会を何だと思っているのか……」
ウィリアムさんが呆れたように言うと、ヘンリー騎士もうんうんと相槌を打った。
「そうなると、後方支援キャンプのことは……」
「嫌がらせでしょうねぇ。『後方支援キャンプを結界の近くに築きたいなら、言うことを聞け』と交渉するおつもりなのでしょう」
俺の疑問には、ウィリアムさんが「アホらしい」と言いたげに肩をすくめて教えてくれた。
「……でも、そうなると魔物の件はどうなんでしょう? 昨日の神官は魔物寄せをしてたんですよね?」
俺はさらに疑問に思ってたことを口にした。
「ああ、どうやらそれもレスタリア領からの指示みたいですよ? 最近、南の方から魔物が戻って来たらしくて、その討伐代を出すのをケチって、聖騎士に処理させたかったようですね。聖鳳教会の聖騎士は屈強ですからね」
「なっ!!!」
ウィリアムさんの話に、ヘンリー騎士が一気に顔を真っ赤にした。眉と目尻を吊り上げて、かなり怒ってるみたいだ……でも、あの命懸けの激闘を経験したら、そうもなるよな。途中参加の俺だってむかつくんだし!
「昨日捕らえた者がもう吐いたみたいですね。うちの尋問部隊は優秀ですから」
ウィリアムさんが、やけにいい笑顔で答えた。
その笑みに、俺はなんだか背筋がゾクゾクッときた。
——その時、森の方から人の叫び声が聞こえてきた。
「きゃーっ! 助けてぇー!!」
「嘘っ!? まだついて来てる!?」
「いいから前を見て走れっ!」
「人だっ! 人がいる! 助けてくれぇーーー!!」
森から、男女四人組の冒険者達が、必死の形相でこちらに駆けて来た。
彼らの後ろからは、大きなロックリザードが群れをなして追いかけて来ていた。大きな口に強靭な顎、ゴツゴツと岩石のように硬い鱗が厄介な、大型のトカゲ型の魔物だ。
「総員! 戦闘準備!!」
ヘンリー騎士が武器を手に取って、前に出て行く。
「少々数が多いですね。私もノアさんをお守りしますが、いざとなったらこの前渡した武器を使ってください。ロックリザードには、効果抜群ですよ」
ウィリアムさんは、白銀色の聖槍を構えて言った。
俺は素直に頷いた。
聖騎士の武器は剣ばかりだし、防御力の高いロックリザードには少々不利だ。あまりにも鱗が頑丈すぎて、魔術も通りづらいしな。
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