冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜

拝詩ルルー

文字の大きさ
上 下
21 / 32
第二章 グリムフォレスト

結界張り

しおりを挟む
 次の日、俺達は結界張りの続きをしに、グリムフォレストの森との境目に来ていた。

 俺はヘンリー隊に混ぜてもらった。今日は俺の護衛役として、ウィリアムさんも一緒だ。


「グラント上級神官には、ノアさんと合流したと伝えておきましたよ」

 結界張り作業を眺めて待機していた時に、ウィリアムさんが教えてくれた。

「えっ!? 連絡が取れたんですか!?」

 俺はびっくりしてウィリアムさんに訊き返した。

 転移のスクロールで前線に飛ばされて来てからは、俺はずっと戦闘や怪我人の治療で忙しかったし、連絡を取ろうにも何も手段が無かったから、すごくありがたい。

「ええ。使い魔がいるので、手紙を持たせました」

 ウィリアムさんはそこまで言うと、内緒話をするように俺の耳元で、声を潜めて言葉を続けた。

「皆さん、とても心配されてましたよ。何せ、ノアさんは急に消えてしまいましたからね。慌てて後を追えば、後方支援キャンプにはいないし、キャンプにいた神官や聖女達に聞いても『来ていない』と言われるしで大騒ぎでしたよ」
「……その節は……大変ご迷惑をおかけしました。すみません」

 うっ……グラントさんもリリアンもエラも、すごい心配してそう。リリアンには後で何か言われるかも……
 それにまさか、後方支援キャンプの方にまで迷惑をかけていたとは……

 俺は申し訳なさで、ズーンと心が重くなった。

「それで、他の皆は今どうしてるんですか?」
「皆さん、今は後方支援キャンプで待機してますよ」
「あぁ……」

 ウィリアムさんの回答に、俺は妙に納得した。

 確かに、結界張り部隊がここにいて、後方支援キャンプが遠すぎて帰れていないから、そうなるよな……怪我人が運び込まれないわけだし。

——それにしても、レスタリア領はこんなことして何がしたいんだ???


「モノケロス騎士、少しお話が……」

 結界張りの合間に、ヘンリー騎士がウィリアムさんに耳打ちしていた。
 今は、ザック神官の護衛は、聖騎士見習いの三人に任せているようだった。

 昨日、魔物寄せのスクロールで魔物を引き寄せていた神官が捕まった影響か、今日は魔物に襲撃されることもなく、順調に結界張り作業が進んでいた。
 怪我人も出てないし、俺は結界は張れないし、俺もウィリアムさんもボーッと他の神官達の作業を眺めているだけだった。

「ええ。どうかされました?」

 ウィリアムさんはすぐにポケットの中に手を突っ込むと、防音結界を展開した。ヴゥーンと低い音が鳴る。

「防音結界ですか、ありがたい」
「ええ。昨日の感じですと、まだ内通者がいてもおかしくはないですから」

 ヘンリー騎士とウィリアムさんが頷き合った。

「それで、随分おかしなことになっているようですね?」

 ウィリアムさんは、世間話をするような何気ない感じで、話の続きを促した。

 ヘンリー騎士は、昨日俺に話してくれたのと同じ内容のことを、ウィリアムさんに報告した。
 ウィリアムさんは、ヘンリー騎士の話が一通り終わるまで、静かに彼の話に耳を傾けていた。

「……そうですか。このことは上にも報告させていただきます。幸い支援物資も届けるべき所に届けられましたし、怪我をしても最高の回復役がここにいる。このまま後方支援キャンプには戻らずに、結界を張り終えてしまいましょう」

 ウィリアムさんの判断に、ヘンリー騎士も大きく頷いた。

「それにしても、レスタリア領は何がしたいんでしょうか?」

 俺は不思議に思ってたことを尋ねてみた。

「私の推測では、領地を広げたいのでしょう」

 ウィリアムさんがさらりと答えた。
 ヘンリー騎士も難しい顔をしながらも、無言で頷いている。

「へ? 領地を広げるったって……」

 俺はますます訳が分からなくなった。

 レスタリア領は広いし、隣国とは仲が悪いわけでも戦争をしているわけでもない。
 ドラゴニア王国は、火竜の血を引く王族が治めている大国だから、今のところ喧嘩を吹っかけようっていう国は周辺地域にはいない。

 流石に同じ国内だし、隣の領を狙うなんてことも無いよな……???

「レスタリア領の多くはグリムフォレストに覆われてますし、グリムフォレストの大半は妖精自治区——人間が踏み込めない土地です……おそらく、そこに領地を広げたいのかと思います」

 ウィリアムさんが簡潔に説明してくれた。

「最近跡目を継いだ新しい領主は、かなりの野心家だとの噂は耳にしたことがあります。今回レスタリア領に結界を張るよう依頼された位置は、そのほとんどが妖精自治区の近くです……中には、妖精自治区とかぶる部分もあります」

 ヘンリー騎士も薄らと眉根を寄せて、教えてくれた。

「それって、自分達だと妖精自治区に踏み込めないから、代わりに教会を使おうとしてるってことですか?」

 そんなことのために、わざわざ結界を張りに来てくれた神官や聖騎士達が傷ついてもいいってことのなのか!?

「おそらく、そうでしょう。全く、教会を何だと思っているのか……」

 ウィリアムさんが呆れたように言うと、ヘンリー騎士もうんうんと相槌を打った。

「そうなると、後方支援キャンプのことは……」
「嫌がらせでしょうねぇ。『後方支援キャンプを結界の近くに築きたいなら、言うことを聞け』と交渉するおつもりなのでしょう」

 俺の疑問には、ウィリアムさんが「アホらしい」と言いたげに肩をすくめて教えてくれた。

「……でも、そうなると魔物の件はどうなんでしょう? 昨日の神官は魔物寄せをしてたんですよね?」

 俺はさらに疑問に思ってたことを口にした。

「ああ、どうやらそれもレスタリア領からの指示みたいですよ? 最近、南の方から魔物が戻って来たらしくて、その討伐代を出すのをケチって、聖騎士に処理させたかったようですね。聖鳳教会の聖騎士は屈強ですからね」
「なっ!!!」

 ウィリアムさんの話に、ヘンリー騎士が一気に顔を真っ赤にした。眉と目尻を吊り上げて、かなり怒ってるみたいだ……でも、あの命懸けの激闘を経験したら、そうもなるよな。途中参加の俺だってむかつくんだし!

「昨日捕らえた者がもう吐いたみたいですね。うちの尋問部隊は優秀ですから」

 ウィリアムさんが、やけにいい笑顔で答えた。
 その笑みに、俺はなんだか背筋がゾクゾクッときた。


——その時、森の方から人の叫び声が聞こえてきた。

「きゃーっ! 助けてぇー!!」
「嘘っ!? まだついて来てる!?」
「いいから前を見て走れっ!」
「人だっ! 人がいる! 助けてくれぇーーー!!」

 森から、男女四人組の冒険者達が、必死の形相でこちらに駆けて来た。

 彼らの後ろからは、大きなロックリザードが群れをなして追いかけて来ていた。大きな口に強靭な顎、ゴツゴツと岩石のように硬い鱗が厄介な、大型のトカゲ型の魔物だ。

「総員! 戦闘準備!!」

 ヘンリー騎士が武器を手に取って、前に出て行く。

「少々数が多いですね。私もノアさんをお守りしますが、いざとなったらこの前渡した武器を使ってください。ロックリザードには、効果抜群ですよ」

 ウィリアムさんは、白銀色の聖槍を構えて言った。

 俺は素直に頷いた。
 聖騎士の武器は剣ばかりだし、防御力の高いロックリザードには少々不利だ。あまりにも鱗が頑丈すぎて、魔術も通りづらいしな。

 あの武器はあまり使いたくなかったけど、そうも言ってられなそうだ——


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...