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第一章 冒険者から神官へ
sideアイアン・ケルベロス(ローラ視点)
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あたしはローラ。
グリーンフィスト一の冒険者パーティー「アイアン・ケルベロス」で槍使いをしているわ。
最近のあたし達は不調だった。
そう、サポーター役のノアをアイアン・ケルベロスから追い出してからよ。
戦闘の連携は上手くいかなくなったし、リーダーのアンガスはいつもイライラしているし、魔術師のコーディも常に疲れた顔をして、以前みたいな集中力も無くなってしまったみたいなの。
初めは、三人パーティーになってまだ慣れていないからだとか、新人が入ってはすぐに抜けてを繰り返して落ち着かないからだと思っていたの。
でも、よくよく考えたら、やっぱりノアが原因なんじゃないかって思ったの。
ノアは、ギルドで紹介された時、亜麻色の髪は艶々と柔らかそうで、緑色の瞳はキラキラしてて、とっても可愛くて、初めは女の子かと思った。
顔立ちは、カッコいいというよりかは、可愛らしいタイプかな。
アンガスも、途中までずっと女の子だと思い込んでたみたいだし。
男の人としては、身長は平均的だし、やや細身。
いつもニコニコしてて誰にでも優しいし、笑顔が爽やかだから、ギルドの女の子達には割とモテてたかも。
なんだか癪だから、本人には教えてあげなかったけど!
あたしは、冒険者っていう生業をしてることもあるし、やっぱり男は腕っ節が強い方がいいと思ってた。
ノアは治癒とか雑用ぐらいしかできないし、サポート役だから、あたしの理想の「強い男」じゃない。何よりも、年下って頼りなさそうだし!
せめて剣とか弓とか、何か武器が扱えればまだ良かったんだろうけど、戦うのが苦手なノアが選んだのは、盾役のタンク。だから余計に「ちょっと惜しい男の子」のイメージだった。
アンガスに何か言われても、反抗も反論もしないし、魔術師のコーディとつるんで魔術の話ばかりしてて、なんだかなよなよしたイメージがあって、どこかで「ノアはタイプじゃないから」ってよく見ないようにしてたのかも。
アイアン・ケルベロスで一人だけBランクだし、最近はずっと顔色が悪くて辛そうだったから、もうあたし達についていくには無理があるんじゃないかって、心配してた。
だから、ノアのためだと思って、彼をアイアン・ケルベロスから追い出すことに賛成した。
——でも、ノアを追い出して少し経ってから、なんだか急にいろいろ物足りなく感じるようになっていった。
ノアがタンクを張ってくれてたから、あたしもアンガスも戦闘で落ち着いて立ち回れてたのかなって、今頃になって気づいた。
ノアがアイアン・ケルベロスの雑用を一手に引き受けてくれてたから、コーディも戦闘に集中できてたんだなって分かった。
ノアはいつもニコニコ笑ってあたしの話を聞いてくれたし、さりげなくアンガスのお触りから守ってくれたし、あたしが傷ついた時には、すぐに治癒魔術をかけて助けてくれた……
あたしの方がお姉さんなんだし、戦えるんだし、ノアは弱いから、あたしが守ってあげなくちゃって、ずっと気を張りすぎてたのかも……
グリーンフィスト領に移ってから、ずっと一緒だったから、あまりにも近すぎて気づかなかったっていうのもあるかも……
とにかく、ノアのことをちゃんと見てあげられてなかったな、って気づいた。
でも、ダンジョンの十階層に置いてきちゃったし、もう遅いよね……
失ってから気づくことってあるんだ、ってしみじみ思った。
あたし、もしかして本当はずっとノアのことが……?
全然、理想の「強い男」じゃないのに……?
このことに気づいた時には、あまりにもいろいろな事が遅すぎて、あたしはすごく後悔した。
好きと後悔と「もういないんだ」っていう事実で、ずっと胸のあたりがモヤモヤして晴れない日が続いた。
アンガスはやけに距離が近くてベタベタ触ってこようとしてくるし、コーディは相変わらず何考えてるか分かんないし、ノアみたいにさりげなくアンガスの気を散らして助けてくれる、なんてこともない。
新人たちもどんどん辞めてっちゃっていつの間にか入れ変わってるから、誰が誰とかもう覚えてらんないし、いろんな事がもうどうでもよかった。
***
「そういえば、ノアのギルドに預けてる金って、俺達が引き継げるんだよな?」
ある日、ふと思い出したようにアンガスが言い始めた。
そういえば、同じパーティーのメンバーが亡くなった時、他に家族とかがいなければ、パーティーメンバーがそのお金を引き継げるんだったよね?
「ああ。そうだな。ノアは孤児だから家族はいないし、ノアが亡くなっていれば、アイアン・ケルベロスに引き継ぐ権利があるな」
コーディが冷静に相槌を打ってる。
「もう野垂れ死んでんじゃねぇのか?」
アンガスが面倒くさそうに言い放った。
コーディはその後、アンガスに「お前、行ってこい」って言われて、ギルドに手続きに向かってた。
あたしは、アンガスとコーディの「ノアが死んでる」って言葉に、頭の中が一瞬真っ白になるぐらいショックを受けた。
それから、胸のあたりがやけにズキズキと痛んだ。
ノアが死んでるって、認めたくなかったんだと思う。
その後もいろいろ考えて、結局、「もうノアはいないけど、せめて最後に何か弔いができれば、何か思い出にできれば」と思って、ギルドに手続きに行ったコーディに確認してみた。
「ねぇ。ノアのお金どうだった?」
ギルドから出て来たコーディは、やけに顔色が悪かった。
「それが……俺たちには権利が無いらしい」
「えっ!? どうして!?」
嘘でしょ!? あたし達、三年も一緒にパーティーを組んでいたのに!? どういうこと!?
「ノアが生き残ってたみたいなんだ。王都の方で、アイアン・ケルベロスからの脱退手続きをしたらしい。だからもう、俺たちはノアの預金を引き継げないんだ」
「王都で……そっか……」
お金を引き継げないって聞いた時はすごくびっくりしたけど、ノアが生きてるって聞いて、なんだかすごくホッとした。
——王都に行けば、ノアに会える。そしたら、今のあたしのモヤモヤした想いもスッキリするかも。それに、次にノアに会ったら、ちゃんと……
その後も「アンガスにどう説明すれば……」とコーディがブツブツ言って悩んでたけど、あたしの役割じゃないから、口を出すのは止めておいた。アンガスって怒るとすごく怖いし。
その頃からだった。
ギルドに行くと、皆から遠巻きにされるようになったのは。
以前は普通に挨拶していた人達も、よくおしゃべりしてた子達も、あたしがギルドに顔を出すと、顔色を変えて避けるようになった。
最近は、聞くに堪えないあたし達の変な噂ばかり耳にするし、ギルドの居心地がすごく悪くなった。
ギルドのことはコーディに任せて、あたしはギルドに近づかないようになっていった。
***
ある日、アンガスに街の酒場に連れて行かれた。もちろん、コーディも一緒。
「そろそろ、ここいらで一つ、デカい仕事をしようぜ」
アンガスがバンッと酒場のテーブルに叩きつけたのは、Aランクの依頼票だった。
アイアン・ケルベロスなら受けられる依頼ね。
討伐対象はBランクのブラックホーンディア。今までも何度か討伐してきたし、大丈夫でしょ。
場所はウルフィアだから、グリーンフィストと王都の丁度真ん中ぐらい……これなら、この依頼をこなした後は、王都に行ってノアに会えるかもしれない!
「いいじゃない、やりましょう!」
もちろん、あたしは即決した。
あたしは早くも浮き足立っていた。
王都に行けば、ノアに会える!
それに、またノアをアイアン・ケルベロスに誘えば、元のようなあたし達に戻れるかも!
あたし達にはやっぱりノアが必要なのよ!
——この時は、そんな淡い期待を抱いていた。
グリーンフィスト一の冒険者パーティー「アイアン・ケルベロス」で槍使いをしているわ。
最近のあたし達は不調だった。
そう、サポーター役のノアをアイアン・ケルベロスから追い出してからよ。
戦闘の連携は上手くいかなくなったし、リーダーのアンガスはいつもイライラしているし、魔術師のコーディも常に疲れた顔をして、以前みたいな集中力も無くなってしまったみたいなの。
初めは、三人パーティーになってまだ慣れていないからだとか、新人が入ってはすぐに抜けてを繰り返して落ち着かないからだと思っていたの。
でも、よくよく考えたら、やっぱりノアが原因なんじゃないかって思ったの。
ノアは、ギルドで紹介された時、亜麻色の髪は艶々と柔らかそうで、緑色の瞳はキラキラしてて、とっても可愛くて、初めは女の子かと思った。
顔立ちは、カッコいいというよりかは、可愛らしいタイプかな。
アンガスも、途中までずっと女の子だと思い込んでたみたいだし。
男の人としては、身長は平均的だし、やや細身。
いつもニコニコしてて誰にでも優しいし、笑顔が爽やかだから、ギルドの女の子達には割とモテてたかも。
なんだか癪だから、本人には教えてあげなかったけど!
あたしは、冒険者っていう生業をしてることもあるし、やっぱり男は腕っ節が強い方がいいと思ってた。
ノアは治癒とか雑用ぐらいしかできないし、サポート役だから、あたしの理想の「強い男」じゃない。何よりも、年下って頼りなさそうだし!
せめて剣とか弓とか、何か武器が扱えればまだ良かったんだろうけど、戦うのが苦手なノアが選んだのは、盾役のタンク。だから余計に「ちょっと惜しい男の子」のイメージだった。
アンガスに何か言われても、反抗も反論もしないし、魔術師のコーディとつるんで魔術の話ばかりしてて、なんだかなよなよしたイメージがあって、どこかで「ノアはタイプじゃないから」ってよく見ないようにしてたのかも。
アイアン・ケルベロスで一人だけBランクだし、最近はずっと顔色が悪くて辛そうだったから、もうあたし達についていくには無理があるんじゃないかって、心配してた。
だから、ノアのためだと思って、彼をアイアン・ケルベロスから追い出すことに賛成した。
——でも、ノアを追い出して少し経ってから、なんだか急にいろいろ物足りなく感じるようになっていった。
ノアがタンクを張ってくれてたから、あたしもアンガスも戦闘で落ち着いて立ち回れてたのかなって、今頃になって気づいた。
ノアがアイアン・ケルベロスの雑用を一手に引き受けてくれてたから、コーディも戦闘に集中できてたんだなって分かった。
ノアはいつもニコニコ笑ってあたしの話を聞いてくれたし、さりげなくアンガスのお触りから守ってくれたし、あたしが傷ついた時には、すぐに治癒魔術をかけて助けてくれた……
あたしの方がお姉さんなんだし、戦えるんだし、ノアは弱いから、あたしが守ってあげなくちゃって、ずっと気を張りすぎてたのかも……
グリーンフィスト領に移ってから、ずっと一緒だったから、あまりにも近すぎて気づかなかったっていうのもあるかも……
とにかく、ノアのことをちゃんと見てあげられてなかったな、って気づいた。
でも、ダンジョンの十階層に置いてきちゃったし、もう遅いよね……
失ってから気づくことってあるんだ、ってしみじみ思った。
あたし、もしかして本当はずっとノアのことが……?
全然、理想の「強い男」じゃないのに……?
このことに気づいた時には、あまりにもいろいろな事が遅すぎて、あたしはすごく後悔した。
好きと後悔と「もういないんだ」っていう事実で、ずっと胸のあたりがモヤモヤして晴れない日が続いた。
アンガスはやけに距離が近くてベタベタ触ってこようとしてくるし、コーディは相変わらず何考えてるか分かんないし、ノアみたいにさりげなくアンガスの気を散らして助けてくれる、なんてこともない。
新人たちもどんどん辞めてっちゃっていつの間にか入れ変わってるから、誰が誰とかもう覚えてらんないし、いろんな事がもうどうでもよかった。
***
「そういえば、ノアのギルドに預けてる金って、俺達が引き継げるんだよな?」
ある日、ふと思い出したようにアンガスが言い始めた。
そういえば、同じパーティーのメンバーが亡くなった時、他に家族とかがいなければ、パーティーメンバーがそのお金を引き継げるんだったよね?
「ああ。そうだな。ノアは孤児だから家族はいないし、ノアが亡くなっていれば、アイアン・ケルベロスに引き継ぐ権利があるな」
コーディが冷静に相槌を打ってる。
「もう野垂れ死んでんじゃねぇのか?」
アンガスが面倒くさそうに言い放った。
コーディはその後、アンガスに「お前、行ってこい」って言われて、ギルドに手続きに向かってた。
あたしは、アンガスとコーディの「ノアが死んでる」って言葉に、頭の中が一瞬真っ白になるぐらいショックを受けた。
それから、胸のあたりがやけにズキズキと痛んだ。
ノアが死んでるって、認めたくなかったんだと思う。
その後もいろいろ考えて、結局、「もうノアはいないけど、せめて最後に何か弔いができれば、何か思い出にできれば」と思って、ギルドに手続きに行ったコーディに確認してみた。
「ねぇ。ノアのお金どうだった?」
ギルドから出て来たコーディは、やけに顔色が悪かった。
「それが……俺たちには権利が無いらしい」
「えっ!? どうして!?」
嘘でしょ!? あたし達、三年も一緒にパーティーを組んでいたのに!? どういうこと!?
「ノアが生き残ってたみたいなんだ。王都の方で、アイアン・ケルベロスからの脱退手続きをしたらしい。だからもう、俺たちはノアの預金を引き継げないんだ」
「王都で……そっか……」
お金を引き継げないって聞いた時はすごくびっくりしたけど、ノアが生きてるって聞いて、なんだかすごくホッとした。
——王都に行けば、ノアに会える。そしたら、今のあたしのモヤモヤした想いもスッキリするかも。それに、次にノアに会ったら、ちゃんと……
その後も「アンガスにどう説明すれば……」とコーディがブツブツ言って悩んでたけど、あたしの役割じゃないから、口を出すのは止めておいた。アンガスって怒るとすごく怖いし。
その頃からだった。
ギルドに行くと、皆から遠巻きにされるようになったのは。
以前は普通に挨拶していた人達も、よくおしゃべりしてた子達も、あたしがギルドに顔を出すと、顔色を変えて避けるようになった。
最近は、聞くに堪えないあたし達の変な噂ばかり耳にするし、ギルドの居心地がすごく悪くなった。
ギルドのことはコーディに任せて、あたしはギルドに近づかないようになっていった。
***
ある日、アンガスに街の酒場に連れて行かれた。もちろん、コーディも一緒。
「そろそろ、ここいらで一つ、デカい仕事をしようぜ」
アンガスがバンッと酒場のテーブルに叩きつけたのは、Aランクの依頼票だった。
アイアン・ケルベロスなら受けられる依頼ね。
討伐対象はBランクのブラックホーンディア。今までも何度か討伐してきたし、大丈夫でしょ。
場所はウルフィアだから、グリーンフィストと王都の丁度真ん中ぐらい……これなら、この依頼をこなした後は、王都に行ってノアに会えるかもしれない!
「いいじゃない、やりましょう!」
もちろん、あたしは即決した。
あたしは早くも浮き足立っていた。
王都に行けば、ノアに会える!
それに、またノアをアイアン・ケルベロスに誘えば、元のようなあたし達に戻れるかも!
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