冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜

拝詩ルルー

文字の大きさ
上 下
4 / 32
第一章 冒険者から神官へ

sideアイアン・ケルベロス(コーディ視点)

しおりを挟む
「最悪だ。何で俺が荷物持ちなんて……」

 俺はぐしゃりと頭を掻きむしった。

「あら。だって、コーディが新しいマジックバッグがあるから大丈夫って言って追い出したんじゃない?」

 ローラがあっけらかんと言い放つ。

「そういうことだ。他に荷物持ちが欲しいなら、そのうち腕の立つ奴をスカウトして来いよ」

 アンガスが、さも簡単そうに言う。

 ずっと気に入らなかったノアを追い出せたのは良かった。
 だが、ノアがやっていたことを、なぜ全部俺がやることになったんだ!?

 ローラはアンガスのお気に入りだからって何もやらないし、アンガスも「何でリーダーの俺が?」みたいな態度で、全く取り合ってくれない。

「おら、さっさと行くぞ……ギャァッ!!」

 アンガスが早速、床に仕掛けてあった罠を踏み抜いた。壁から放たれた矢が、アンガスの脛を掠った。
 アンガスはすぐさま治癒の魔道具でかすり傷を治していた。

 その魔道具、俺が怪我してもほとんど使わせてもらってないんだが……

 治癒の魔道具は早くも魔力切れを起こしたようで、アンガスの傷は中途半端にしか治らなかった。

「チッ。コーディ、これに魔力を貯められるか?」
「いや、俺ももう魔力切れだ。これ以上は、脱出のスクロールも使えなくなる」
「ふんっ。仕方ねぇ。今回は一旦撤退するぞ」

 脱出のスクロールをマジックバッグから取り出すと、俺は魔力を込めた。魔術陣が俺たちの足元に現れて光り輝いた。

 やっと、この地獄から離れられる……


 俺たちはダンジョンの十一階層をうろうろしていた——それも五日間もだ!!

 ノアを追い出して、荷物を奪……貰ったのはいいものの、俺もアンガスもローラも、誰も地図の見方がよく分かっていなかった。全部、ノアがやっていたからだ。

 さらにノア以外、誰も今まで罠のチェックや索敵をやってこなかったから、罠には引っかかりまくるわ、魔物にも会いまくるわ……

 誰もタンクをやらなくなったから、アンガスもローラも魔物を捌くのに時間がかかるようになったし、怪我も増えた。
 もちろん、連携もぐちゃぐちゃになって、ダンジョンを進むごとに、パーティー内での喧嘩が増えた。

 結局、俺の魔力が枯渇して、ダンジョンで拾った治癒の魔道具も魔力切れを起こして、撤退することになった。


***


「ノアを追い出したのは早計だったか……」

 俺はぼんやりと一人、公園のベンチに座って呟いた。今の俺の唯一の憩いの場だ。

 あれから、俺はノアの代わりにありとあらゆる雑用を押し付けられて、もう身も心もクタクタだった……


 ダンジョンから逃げ帰ってからも大変だった。

「ノアとダンジョンで逸れたんだ。かなり階層が深い所だったから、あいつが今頃どうなってるか、分からない……」

 俺たちは冒険者ギルドにノアのことを報告した。

 心底心配そうに語るアンガスを見て、「どの口が言う……」とも思ったが、俺は何も言わなかった。
 もちろん、ローラもただ悲しそうな表情で俯いて肩を震わせる振りだけして、何も言わなかった。

 他の冒険者やギルドの職員達は、アンガスの話を聞いて、初めは俺たちに同情的だった。そう、初めは。

 最初からギルマスだけが、キツく俺たちを睨みつけていた。


 ノアを失ったアイアン・ケルベロスに、他の冒険者は同情的だったし、初めは加入希望者が殺到した。

 元々、グリーンフィスト領一の冒険者パーティーと言われた程のチームだ。新メンバーのスカウトも簡単だった。

「あのアイアン・ケルベロスに!? 俺でいいんですか!? 光栄っす!」

 と、どいつもこいつも初めは調子の良いことを言うが、結局、三日も持つことは無かった。

 皆、辞めていく時は同じことを言っていた。

「ノアさんは本当にこれ全部やってたんですか!? ありえないっす! 俺じゃ無理っす!!」

 どいつもこいつも、雑用すら碌にできずに逃げるように辞めていった。


「結局、何人辞めたんだっけか……」

 新人の辞めた人数が両手で余る程になった時、もう誰もアイアン・ケルベロスのスカウトには頷かなくなっていた。

「アンガスは簡単にスカウトして来いって言うけど、この街じゃあ、もう無理だろうな……」

 俺は頭を抱え込んだ。

 新人が入らないんじゃ、雑用は全部俺がやらなきゃいけない。
 アンガスもローラも決して手伝ってはくれない。

——ノア、お前は本当にこんなこと全部、あんな平気な顔をして、こなしてたっていうのか!?


***


 それから程なくして、俺たちアイアン・ケルベロスに対する冒険者ギルドの目が、一段と厳しくなる事件が起こった。

 冒険者の預金は、冒険者が死亡した場合、冒険者の家族か、パーティーを組んでいれば、パーティーメンバーに引き継ぐことができる。
 ノアは孤児だから家族はいないし、当然、俺たちアイアン・ケルベロスに権利があると思っていた。

「もう野垂れ死んでんじゃねぇのか?」

 という適当なアンガスの言葉に従って、俺は冒険者ギルドに手続きに行った。

 受付でノアの預金を引き出そうとすれば、

「ノアさんですが、王都でアイアン・ケルベロスからの脱退手続きをされてますね。なので、もうあなた達にはノアさんの預金を引き出す権利はありません」

 受付嬢の睨みつけるような視線は、とんでもなく痛かった。

 言外に「お前らが酷いやり方でノアを追い出したんだろう?」って言っているようだった。

 まぁ、あながち間違いではないが……

 ノアは子供の頃から冒険者ギルドに入り浸っていたらしい。
 ギルマスも、ギルドの職員達も皆、ノアの味方だった。

 手塩にかけて育てて、グリーンフィスト領一の冒険者パーティーの一員にまでなったノアが、突然いなくなったのだ。

 俺たちが睨まれるのも当然だ。


 それからは、どうやらアイアン・ケルベロスは要注意パーティーに指定されたようだ。

 たった数日で辞めていった元メンバー達の証言もあり、今の俺たちは、冒険者ギルド内での立ち位置が危うくなった。

 いつギルドに行っても、アイアン・ケルベロスのメンバーが現れれば、蜘蛛の子を散らすように避けられて、ヒソヒソと噂話をされる。

「アンガスって、新人に対する扱いが酷いんだって」

「ああ。殴られたとか、暴言吐かれたとか、よく聞くよ」

「ローラもコーディも完全に見て見ぬ振りだって」

「同じパーティーだってのに、ありえないよな」

「新人だからって、雑用全部押し付けられるんだとよ」

「武器の手入れまで人に任せるって、冒険者舐めてんのか?」

——ああ、うるさい。全部聞こえてるんだよ。


「今まで全部ノアさんがやってたんだろ」

「あの人だけ唯一まともだったよな。真面目だし、いろんなこと教えてもらったし」

「教え方も丁寧だったし、分かりやすかったよな。本当、惜しい人を亡くしたぜ」

「俺、実は前にこっそりノアさんに治癒魔術をかけてもらったことがあるんだ」

「優しいし、冒険者として堅実だし、すげぇいい先輩だったよな」

「ねぇ。ノアさんが実はアイアン・ケルベロスから追い出されたって本当?」

——そうだよ、ノアはもういねぇんだよ。


 アンガスもローラも知ってか知らずか、冒険者ギルドへの足が遠のいていった。

 ギルドでの用事は、全部、俺に押し付けられた。

 俺がギルドに顔を出す度に、ギルド職員には睨まれるし、他の冒険者には避けられる……

 俺たちが何をしたってんだ!

 こんなことになるはずじゃなかったんだ!!


***


 ある日、アンガスに酒場に連れて行かれた。ローラも一緒だ。

「そろそろ、ここいらで一つ、デカい仕事をしようぜ」

 アンガスがバンッと酒場のテーブルに叩きつけたのは、Aランクの依頼票だった。
 
 かなり危険度が高い依頼だ。

 討伐対象のブラックホーンディアはBランク魔物だが、身体が大きく、厄介なことに群れる。この時期は繁殖期にも当たるため、気が立っているだろう。

 確かに、アイアン・ケルベロスはAランクパーティーで、この依頼を受けることができる。

 ただ、最近のアイアン・ケルベロスは、新人が来なくなって、俺は雑用で疲弊して戦闘中でも集中力が続かなくなり、アンガスもローラも連携が上手くいかなくなって、目にみえる程に戦績は下がっていた。

 ノアがいたなら、達成できたかもしれない。

 だが、今の俺達には……

——完全に嫌な予感しかしなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...