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一度目の結末
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ある時から、段々とテレパシーが繋がらなくなってきたのだ。
そして、二人のタイミングもズレだした。
テレパシー魔法の研究結果も、どんどん悪くなっていった。
——後から知ったことだけれど、その時は丁度、デーヴィッド様に格上の侯爵家から婚約の申し出がきていたのだ。
お相手は、マヤ・スカーレット侯爵令嬢。
とても美しい方ではあるのだけれど、子供の頃から何でも与えられて育ってきてしまったらしく、他の人の物を欲しがる悪い癖があるのだとか。
特に、私とデーヴィッド様のような特別な関係は、彼女にとってどんな宝石よりも価値のある物に見えたらしく、恰好の獲物になってしまった。
家格のこともあるけれど、スカーレット侯爵家は商売も上手で、経済的にも裕福だった。
美人なマヤ様の熱烈なアプローチと、莫大な持参金に目が眩んだデーヴィッド様は、あっさりと彼女の方に乗り替えてしまった。
もちろん、テレパシーが繋がりにくくなっていたとはいえ、そういったデーヴィッド様の心の変化は、私には筒抜けだった。
彼はどこか「これも悪くないな」と魅力に感じていたみたいだった。
彼の心がどんどん離れていく度に、私の心は痛くて、辛すぎてズキンズキンと悲鳴をあげていった。
ある日、デーヴィッド様から呼び出しを受けた。
放課後の魔法学園の中庭で、デーヴィッド様と二人きり……というわけではなく、少し離れた所からチラチラとこちらの様子を窺うマヤ様とその取り巻き達が見えた。
デーヴィッド様は、初めて出会ってから十年程経って、美青年に成長していた。
どこかやんちゃな雰囲気はそのままで、背がスラッと高く伸び、大人の男性らしく精悍な顔つきになってきていて、燃えるような赤髪も情熱的なガーネットの瞳も、よく似合っていた。
さらに、今はマヤ様に情熱的に求められ、スカーレット侯爵家の後ろ盾も期待できて将来の見通しも明るいためか、余計に自信に満ち溢れているみたいだった。
デーヴィッド様は困ったような表情を浮かべていたけれど、私には「婚約解消するためにポーズを取る必要があるだろうな~」と面倒臭く考えていることが、ぼんやりと感じられた。
それが余計に、ツキツキと私の胸に棘を刺した。
「シャーロット、すまないが婚約を解消してくれ。格上のスカーレット侯爵家からの申し出で断れないということもあるし、何よりあの家は手広く商売をしている。もしこの婚約話を蹴れば、ローラット家やアトリー家の領や商売にまで迷惑をかけかねないんだ。君や家を守るために、仕方がないんだ」
デーヴィッド様は「仕方がない」なんて言ってるけれど、本当は彼女の方が条件が良くて嬉しいんでしょ?
美人にベタベタに褒められて、それに大金も家に舞い込んでくることになって、舞い上がってるんでしょう?
それから、「当然、婚約解消するもんだよな?」という彼の傲慢な考えも伝わってきて、私はただただ悲しくなった。
「……分かったわ……」
外堀が埋まってしまった以上、私にはもうこれ以外の何も言えなかった。
泣いてすがるような無様な真似はしなかった——そんな姿を、デーヴィッド様にもマヤ様達にも、悔しすぎて見せたくなかった。せめてもの矜持だった。
その時、プツリと二人の間の何かが途切れたのを感じた。
中庭を去る私の後ろでは、視界の端にデーヴィッド様に嬉しそうに飛びつくマヤ様と、それを祝う取り巻き達が見えた。
彼らの黄色い声が、イヤに耳の奥に貼りついて聞こえた。
婚約解消をしてからというもの、テレパシーは一切通じなくなった。
テレパシー魔法が使えなくなってしまった以上、国の研究を続けることはできなくなってしまった。
研究者たちは「使えなくなってしまったのは非常に残念だ」と口では言っていたけれど、なぜこうなってしまったのかという「きっかけ」については、苦々しい表情を浮かべていた。
その後、マヤ様がテレパシー魔法の研究に立候補したらしいけれど、一切テレパシー魔法は使えず、結果は出なかったみたい。
——彼女は、デーヴィッド様自身ではなく、「珍しい特殊魔法のテレパシー魔法が使える」ということが欲しかったみたい。
魔法学園でも私達は有名だったし、目立っていた——それが余計に彼女の「欲しい」っていう欲望を刺激してしまったみたい。
結局、マヤ様はテレパシー魔法が使えないことを、デーヴィッド様に当たり散らした。
さらにマヤ様は「私がテレパシー魔法を使えないのは、デーヴィッドの元婚約者のせい」と公言して、私の命を狙い出した……私がいなくなればテレパシー魔法を使えるようになると、本気で思い込んでたみたい……
私の一度目の人生は、馬車の事故に見せかけられて、スカーレット侯爵家に雇われた暗殺者の手によって幕を下ろした。
そして、二人のタイミングもズレだした。
テレパシー魔法の研究結果も、どんどん悪くなっていった。
——後から知ったことだけれど、その時は丁度、デーヴィッド様に格上の侯爵家から婚約の申し出がきていたのだ。
お相手は、マヤ・スカーレット侯爵令嬢。
とても美しい方ではあるのだけれど、子供の頃から何でも与えられて育ってきてしまったらしく、他の人の物を欲しがる悪い癖があるのだとか。
特に、私とデーヴィッド様のような特別な関係は、彼女にとってどんな宝石よりも価値のある物に見えたらしく、恰好の獲物になってしまった。
家格のこともあるけれど、スカーレット侯爵家は商売も上手で、経済的にも裕福だった。
美人なマヤ様の熱烈なアプローチと、莫大な持参金に目が眩んだデーヴィッド様は、あっさりと彼女の方に乗り替えてしまった。
もちろん、テレパシーが繋がりにくくなっていたとはいえ、そういったデーヴィッド様の心の変化は、私には筒抜けだった。
彼はどこか「これも悪くないな」と魅力に感じていたみたいだった。
彼の心がどんどん離れていく度に、私の心は痛くて、辛すぎてズキンズキンと悲鳴をあげていった。
ある日、デーヴィッド様から呼び出しを受けた。
放課後の魔法学園の中庭で、デーヴィッド様と二人きり……というわけではなく、少し離れた所からチラチラとこちらの様子を窺うマヤ様とその取り巻き達が見えた。
デーヴィッド様は、初めて出会ってから十年程経って、美青年に成長していた。
どこかやんちゃな雰囲気はそのままで、背がスラッと高く伸び、大人の男性らしく精悍な顔つきになってきていて、燃えるような赤髪も情熱的なガーネットの瞳も、よく似合っていた。
さらに、今はマヤ様に情熱的に求められ、スカーレット侯爵家の後ろ盾も期待できて将来の見通しも明るいためか、余計に自信に満ち溢れているみたいだった。
デーヴィッド様は困ったような表情を浮かべていたけれど、私には「婚約解消するためにポーズを取る必要があるだろうな~」と面倒臭く考えていることが、ぼんやりと感じられた。
それが余計に、ツキツキと私の胸に棘を刺した。
「シャーロット、すまないが婚約を解消してくれ。格上のスカーレット侯爵家からの申し出で断れないということもあるし、何よりあの家は手広く商売をしている。もしこの婚約話を蹴れば、ローラット家やアトリー家の領や商売にまで迷惑をかけかねないんだ。君や家を守るために、仕方がないんだ」
デーヴィッド様は「仕方がない」なんて言ってるけれど、本当は彼女の方が条件が良くて嬉しいんでしょ?
美人にベタベタに褒められて、それに大金も家に舞い込んでくることになって、舞い上がってるんでしょう?
それから、「当然、婚約解消するもんだよな?」という彼の傲慢な考えも伝わってきて、私はただただ悲しくなった。
「……分かったわ……」
外堀が埋まってしまった以上、私にはもうこれ以外の何も言えなかった。
泣いてすがるような無様な真似はしなかった——そんな姿を、デーヴィッド様にもマヤ様達にも、悔しすぎて見せたくなかった。せめてもの矜持だった。
その時、プツリと二人の間の何かが途切れたのを感じた。
中庭を去る私の後ろでは、視界の端にデーヴィッド様に嬉しそうに飛びつくマヤ様と、それを祝う取り巻き達が見えた。
彼らの黄色い声が、イヤに耳の奥に貼りついて聞こえた。
婚約解消をしてからというもの、テレパシーは一切通じなくなった。
テレパシー魔法が使えなくなってしまった以上、国の研究を続けることはできなくなってしまった。
研究者たちは「使えなくなってしまったのは非常に残念だ」と口では言っていたけれど、なぜこうなってしまったのかという「きっかけ」については、苦々しい表情を浮かべていた。
その後、マヤ様がテレパシー魔法の研究に立候補したらしいけれど、一切テレパシー魔法は使えず、結果は出なかったみたい。
——彼女は、デーヴィッド様自身ではなく、「珍しい特殊魔法のテレパシー魔法が使える」ということが欲しかったみたい。
魔法学園でも私達は有名だったし、目立っていた——それが余計に彼女の「欲しい」っていう欲望を刺激してしまったみたい。
結局、マヤ様はテレパシー魔法が使えないことを、デーヴィッド様に当たり散らした。
さらにマヤ様は「私がテレパシー魔法を使えないのは、デーヴィッドの元婚約者のせい」と公言して、私の命を狙い出した……私がいなくなればテレパシー魔法を使えるようになると、本気で思い込んでたみたい……
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