一人で恋はできません

拝詩ルルー

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テレパシー魔法

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 私、シャーロット・アトリーには誰にも言えない秘密がある。

 私は今までに二度死んで、今は三度目の人生だ。

 両親や兄様には心配をかけたくなくて、みんなには秘密にしてる。


***


「さぁ、着いたぞ」

 父様の声で、私は馬車の窓の外に目を向けた。

 白い壁に青い屋根の大きなお屋敷がそこにはあった。

 ローラット邸の車寄せに着くと、父様は母様をエスコートし、兄様は私をエスコートして馬車を降りた。

「ネイサン! オリビア夫人に、子供たちも! よく来てくれた!」

 アンドリュー・ローラット伯爵とその夫人のエブリン様、そしてお二人の息子のデーヴィッド様が朗らかに出迎えてくれた。

 今日は家族みんなでローラット伯爵家に遊びに来たのだ。

 アトリー伯爵家とローラット伯爵家は領が隣同士で、非常に仲が良い。
 父と母が、それぞれ学園時代の同級生で仲が良かったということもある。

 私は六歳の時に、いつもここで運命と出会う。

 デーヴィッド・ローラット様。
 同い年の男の子。

 父親似の燃えるような赤髪はきちんと整えられていて、ガーネットのような赤紫色の瞳は、興味深そうに私を見つめていた。
 少しやんちゃそうだけど、顔の整った可愛らしい男の子だ。

「ほら、挨拶をしなさい」

 母様にそっと背中を押され、私達兄妹は自己紹介をした。

「サミュエル・アトリーです!」

 兄様が元気よく笑顔で自己紹介をした。
 柔らかい栗色の髪と青色の瞳は私と一緒で、一つ年上だ。まだ幼くて、天使のように可愛い。

「シャーロット・アトリーです。よろしくお願いします」

 私も少し緊張しながら挨拶をする。

「デーヴィッド・ローラットです」

 頬を赤らめて、デーヴィッド様がハキハキと挨拶をした。

「あっちに行って、遊ぼう」

 自己紹介が終わると、デーヴィッド様がきゅっと私の手をとって駆け出した。中庭に案内してくれるのだ。兄様も「待って!」とついて来る。

 父様も母様もローラット伯爵夫妻も微笑ましそうに私達を見つめて、「子供達は、子供達で遊ばせましょう」と朗らかに語っている。

——毎回、同じ流れだ。この顔合わせが終わった後、私達は婚約することになる。


***


 一度目の人生では、六歳のあの日に私は恋に落ちた。

 一目惚れだった。

 デーヴィッド様の小さな手はあたたかくて、私は心臓のドキドキが止まらなかった。

 自分のほっぺたが熱くなっていることも、心臓の大きなドキドキ音も、彼にバレたら恥ずかしすぎる! って、ずっと気になってしまって、一緒に遊んでいても気が気じゃなかったのを覚えてる。

——兄様にはバレてたみたいだけどね。後から教えてもらったわ。

 その日、家に帰った後、夕食の席で父様から優しく訊かれた。

「デーヴィッド君と婚約してはどうか、という話になったんだが、シャーロットはどうかな?」

 私は天にも昇るような気持ちで、「デーヴィッド様と婚約したい!」と即答した。

 父様も母様も嬉しそうで、兄様も「いいんじゃないの」と笑っていた。


 デーヴィッド様の方も気持ちは一緒だったみたいで、すぐに私達の婚約は両家の正式なものとなった。

 それからはほぼ毎週、字の練習も兼ねて手紙のやりとりを始めた。
 デーヴィッド様はまだ字があまり上手じゃなくて、手紙の文章も短かった。
 それでも、私のために一生懸命に書いて送ってくれることがとても嬉しかった。 

 月に一度は、お茶会の練習も兼ねて、どちらかの家に遊びに行った。
 好きなお菓子も、気に入るおもちゃも、私とデーヴィッド様はなぜか一緒だった。
 デーヴィッド様とのおしゃべりは楽しすぎて、何時間もいっぱい話をした。
 話題は尽きなかった。

 私達はどんどん仲良くなっていった。

 とても幸せだった。
 会うたびに、どんどんデーヴィッド様のことが大好きになっていった。


 そして、婚約してから一年もしないうちに、あることが分かった。

「「テレパシー魔法?」」

 私とデーヴィッド様の声が重なった。
 こくりと首を傾げる仕草までも。

 母様とエブリン様が、同時に苦笑いをした。

「そうよ。とっても珍しい魔法なの」

 母様が優しく説明してくれた。

 テレパシー魔法は、我が国のような魔法国家でも珍しい特殊魔法だ。
 一方が心の中で思っただけで、もう片方に伝えたいことが伝わるらしい。
 二百年の歴史を持つ我が国でも、過去に十数件程しか前例がなくて、私達は最新の事例になるみたい。

「それで、国の研究所でテレパシー魔法の観察をしたいみたいなの。協力してもらえるかしら?」

 エブリン様に訊かれ、私はデーヴィッド様の瞳を覗き込んだ。

 綺麗な赤紫色の瞳は、「いいんじゃない」と言っていた。

「「うん、いいよ」」

 また私とデーヴィッド様、二人の声が揃った。

 母様とエブリン様はホッと安堵しつつ、「すごいわね」「テレパシーかしら?」と笑い合っていた。


 それからは時々母様に連れられて、王宮内にある魔法研究所に行って、テレパシー魔法の研究を手伝った。

 研究内容はさまざまだった。

 例えば、私とデーヴィット様がそれぞれ別の部屋に入って、片方が見聞きしたもの——りんごだったり猫だったり、有名な詩や、時には音楽など——を、別室にいるもう片方に確認するのだ。

 初めはなんとな~~~く、イメージが湧いた。
 ぼやっと「何か赤くて丸いもの」とか「柔らかくて温かいもの」などが思い浮かんだ。

 何回か研究を重ねていくうちに、ハッキリとイメージがわくようになり、「なぜか詩の一節が思い浮かぶ」とか「誰々の何の曲が思い浮かぶ」など、だんだんと具体的になっていった。

 それにつられて、正答率もどんどん上がっていった。

 そのうち研究に関係なく、普段の生活でも本当にテレパシーが通じ合うかのように、相手のことが手に取るように分かるようになっていった——「何を考えているのか」どころか、「なぜそう考えるのか」まで。

 考えてることが似通ってしまうからか、何か行動を起こそうとすると、タイミングがピッタリと合うようになった——「宿題やらなくちゃ」とか「寂しいから、声が聴きたい」とか、後になってから「その時、俺も同じこと思ってたよ」って言われることがたびたび起こった。

 魔法学園に入学すれば、ベストなタイミングでいろいろなことが鉢合わせるようになった——学園内で頻繁に鉢合わせたり。他の学友達とグループでおしゃべりしていても、私達は笑ったり相槌を打ったりするタイミングがピタリと合っていた。

 そうこうするうちに、私達は魔法学園でも有名な名物カップルになっていた。二人はこのままいけば結婚するものだと思っていた——あの時までは。


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