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砂漠のガザル sideイヴァン
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イヴァンが家で寛いでいると、急な地震と共に、遠くの地でガザルの強大な魔力が発せられたのを感じた。
「!? ……ガザル?」
イヴァンが慌てて家の外に出て空を見上げると、天が真っ二つに割れていた。
ガザルのブレスが割ったものだ。
イヴァンがガザルの元へ急ごうとすると、ヴゥゥンッという低い音が鳴って、妖精向けのトラップと結界が展開された。
「ガザルはいつの間にこんな……!?」
急に巻き起こった小規模な砂嵐のトラップに、イヴァンは自身の周りに結界を張った。
「……複雑すぎる……! 普段、全然魔術を使わないのに、なぜこんな時にだけ才能を発揮するんですか!!」
イヴァンは目に魔力を込めて、トラップの魔術陣の解析を始めた。
フェイクやダミーの魔術陣が次々と浮かび上がり、イヴァンを翻弄し、本物のトラップの魔術陣を隠していく。
長生きで博識なイヴァンにとっても、罠の解除はかなり難解なものだった。
「くっ……あの方は一体何をなさろうとしているんだ……まさか!?」
イヴァンはあることに思い至ると、さらに集中して、トラップの魔術陣の解除を急いだ。
***
イヴァンが、ガザルのトラップと結界を抜け出すのには、丸一日かかった。
彼がガザルの元にたどり着いたのは、最悪のタイミングだった。
ガザルとラヒムが、向かい合うように対峙していた。彼らの間の空気はどこか甘いのだが、ピリピリと痺れるような緊張感が張り詰めていた。
ガザルの蜂蜜のように濃い黄金眼には、うるりと涙の膜が張っていた。
イヴァンは瞬時に幻影結界を自らの身の回りに展開した。ラヒムに見つからないようにするためだ。
チラリとガザルがイヴァンを見た。
イヴァンは、ガザルの視線に射抜かれ、金縛りのように動けなくなった。ただのガザルの魔力圧だ。魔王種のような別格な魔物にとって、こんなことは造作もなかった。
(何をするのかは分かりませんが、「手を出すな」ということでしょうか……)
イヴァンはどうしようもなくて、ただもう静観することしかできなくなった。
「私に呪われた、と言いなさい。竜に呪われた土地は、誰も欲しがらないわ。エスパルド帝国だけじゃなく、他の国も手を出さないでしょう」
ガザルがキッとラヒムを見上げて言った。
彼女のたおやかな長い髪の先から、淡いローズ色の砂がサラサラと流れ落ちていく。
(!! ガザル、まさか……!? それだけはダメだ!!!)
イヴァンは力の限り、ガザルの金縛りを振り解こうとした。馬鹿なことはやめろと、止めに入ろうと必死だった。
「……ガザル、何を言って……?」
「きっと、あなたは今エスパルドを退けても、また同じようなことが起これば、戦ってしまうんでしょう? 本当に、仕方のない人」
「や、やめろ……やめて、くれ……」
ガザルの覚悟の決まった静かな声と、彼女の変化に気づいて、ラヒムの悲鳴にも似た震えて声にならない声が響いた。
ラヒムがガザルを止めようと手を伸ばす。
『侵略者たちよ、私の愛を思い知れ』
ガザルから重々しい竜の言葉が溢れる。
長かった彼女の髪は、もう肩ぐらいの長さになっていた。
(ああ……ガザルは、もう……)
イヴァンは何もできない自分を、こんなにも悔しく思うことはなかった。
本来であれば、彼女を守るのはイヴァンの役目だったのだ。
「…………それなら、せめて私は……私たちは、君の名前を忘れないようにしよう——君から受けた全てを、忘れないように……」
ラヒムは、嗚咽混じりに、たどたどしく言った。彼の指の間を、サラサラと、ガザルだった砂がすり抜けて落ちていく。
「ふふっ。素敵な贈り物ね。ラヒムから貰った物の中で、一番だわ」
ガザルが、ふわりと満面の泣き笑いをした。
強い風が吹いた瞬間、最後に、イヴァンはガザルの涙目に見つめられた。
彼女は何かを伝えようと口をぱくぱくと動かすと、キュッと口角を上げて微笑んだ。
——それが、イヴァンが見た正真正銘最後のガザルの笑みだった。
世界は、魔法のように一瞬でローズ色の砂の砂漠に覆われていた。
「ガザルーーーーー!!!」
ラヒムの慟哭が、淡いローズ色の砂漠に響いた。
「ガザル……」
イヴァンは力なく肩を落とした。胸が締め上げられるように悲鳴をあげ、何もかもが無駄に思えるようだった。
しばらくして、ヨロヨロと、ローズ色の砂漠にうずくまるラヒムに、イヴァンは近づいた。
ラヒムはまだぐずぐずと涙に濡れていた。
もうイヴァンの金縛りは解けていた。
「あなたは愚かですね。わざわざ契約になんてしなくても良かったのに。あなたの子孫など、差し出さなくても良かったのに」
イヴァンは気まぐれにラヒムに声をかけた。
今イヴァンが感じている言いようの無い喪失感は、目の前のこの男と一緒だったからだ。
イヴァンは、ガザルを奪ったラヒムが嫌いだ。
でも今は、この気持ちを誰かと共有したい気分だった。
「…………いいえ、私は知っていました。彼女は竜でしょう? 竜にも矜持があるのでしょう? これだけのことを私のために、国のためにしてくれたんだ。契約ぐらいしますよ。それに、私の命だけが対価の格安な契約では、彼女の立つ瀬が無い。私に連なる血族ぐらい、彼女に差し出しましょう」
ローズ色の砂漠に座り込みながら、ラヒムが震える声で答えた。
イヴァンは目を剥いてラヒムを見つめた。
この男は何も考えてないと、思い込んでいたからだ。
主人がこれ程までに考えられ、尊重されたのだ。悪い気はしなかった——が、どうにも複雑な想いだった。
「ええ。竜たちにとって、偉大な女王の誕生です」
イヴァンが皮肉げに言い放った。
そして、イヴァンはパチリと指を鳴らした。
一瞬のうちに、イヴァンとラヒムは王都が見える所まで転移していた。
ガザルのために契約を成した、ラヒムへのサービスだった。
王都周辺は、見るも無惨に様変わりしていた。
森の大部分が見渡す限りのローズ色の砂に埋もれ、王都を取り囲むように巨大なオアシスが湧いていた。
生き残った人々は、オアシスで溺れる人々を救助したり、砂に埋もれた人がいないか探したり、掘り起こそうとしたりしていた。
「もう二度と、会うことは無いでしょう」
イヴァンは、へたりこんで変わり果てた王都を呆然と眺めているラヒムを、冷たく見下ろして言った。
「……あなた様は……?」
ラヒムがぎこちなくイヴァンの方を振り向いた。
あまりにもいろいろなことが立て続けに起こって、理解が追いついていないようだ。
「私は、私の魔王様の言葉に従うだけです」
「やはり、ガザルは……」
ラヒムが何かを言いかけた瞬間、イヴァンはさっさと転移魔術を発動していた。
恋敵と悠長におしゃべりなんてしている暇なんて、彼には無かったのだ。
「何が、『あとはよろしく』ですか……」
イヴァンは一人、ガザルの最後の言葉を思い返し、片手で胸を押さえた。まだズキズキと棘が刺すように痛んでいる。
(ええ、ええ。仰せのままに。私の魔王様……)
イヴァンは、ローズ色の砂に埋もれた遺跡の真ん中で、大魔術を発動した。
大きな白銀色の水鏡が現れ、レースのような繊細な縁飾りのその周りに、イヌサフランが芽生え、茎や葉を伸ばし、薄紫色の花が次々と咲いていく。
「私がこの国を見守るしかないですね。でも、ちゃんと対価はいただきますよ。ガザル、貴女との思い出です」
イヴァンは、水鏡の鏡面にそっと手を置いた。
鏡面に、水の波紋が幾重にも広がる。
次の瞬間、イヴァンはこの世界から消えていた——自らが築き上げた水鏡の世界の中に入ったのだ。
そこには、ガザルによって砂漠化される前のサハリア王国があった。
街並みも、人々も、そこにあったであろう感情でさえも、再現して再構築した世界——妖精魔術の最高傑作と言えよう。
「ここは、私たちの記憶を使って再構築した世界。この世界でのガザルは、もう私だけのもの」
イヴァンは暗く微笑んだ。
イヴァンは、サクリサクリとオレンジ色の砂漠の上を歩いて行った。サラサラと崩れるように、砂漠に付けた足跡が消えていく。
「竜の愛は『力と献身』でしたね……癪ではありますが、あの男が成した契約のおかげで、ガザルは『人間に誑かされて献身だけを捧げた愚かな女王』から、『愛する男を力づくで国ごと奪い、国ごと守る、竜の愛を貫いた偉大な女王』になった……彼女は竜の英雄になってしまった……」
(面子でも名誉でもなく、ガザルが本当に欲しかったモノは……)
そう考えると、イヴァンの胸は張り裂けそうな程にギシギシと軋んだ。
「本当に愚かな竜だ。それにあの男も知恵は回るだろうに愚かだ。愛に第一に生きる妖精からしたら、本当に愚かとしか思えない……」
(想い合ってなお、なぜ互いを選ばない……?)
見慣れたオレンジ色の砂漠の景色、見慣れた彼女の家、見慣れた——
「だから、これは私のガザルですよ。ラヒム、あなたのものではありません」
イヴァンの目線の先には、笑顔で大きくこちらに手を振るガザルがいた。
——まだラヒムと別れることを知らない、あの日のガザルが——
***
それからしばらくして、サハリア王国の国王が変わった。
彼は国を大きく変えた。
自らを新サハリア王国の初代国王とし、彼が子孫を使ってまで成した竜との契約を果たすため、愛しい契約の竜の名前を忘れないため、王都の名前も変えた——「ガザル」と。
「!? ……ガザル?」
イヴァンが慌てて家の外に出て空を見上げると、天が真っ二つに割れていた。
ガザルのブレスが割ったものだ。
イヴァンがガザルの元へ急ごうとすると、ヴゥゥンッという低い音が鳴って、妖精向けのトラップと結界が展開された。
「ガザルはいつの間にこんな……!?」
急に巻き起こった小規模な砂嵐のトラップに、イヴァンは自身の周りに結界を張った。
「……複雑すぎる……! 普段、全然魔術を使わないのに、なぜこんな時にだけ才能を発揮するんですか!!」
イヴァンは目に魔力を込めて、トラップの魔術陣の解析を始めた。
フェイクやダミーの魔術陣が次々と浮かび上がり、イヴァンを翻弄し、本物のトラップの魔術陣を隠していく。
長生きで博識なイヴァンにとっても、罠の解除はかなり難解なものだった。
「くっ……あの方は一体何をなさろうとしているんだ……まさか!?」
イヴァンはあることに思い至ると、さらに集中して、トラップの魔術陣の解除を急いだ。
***
イヴァンが、ガザルのトラップと結界を抜け出すのには、丸一日かかった。
彼がガザルの元にたどり着いたのは、最悪のタイミングだった。
ガザルとラヒムが、向かい合うように対峙していた。彼らの間の空気はどこか甘いのだが、ピリピリと痺れるような緊張感が張り詰めていた。
ガザルの蜂蜜のように濃い黄金眼には、うるりと涙の膜が張っていた。
イヴァンは瞬時に幻影結界を自らの身の回りに展開した。ラヒムに見つからないようにするためだ。
チラリとガザルがイヴァンを見た。
イヴァンは、ガザルの視線に射抜かれ、金縛りのように動けなくなった。ただのガザルの魔力圧だ。魔王種のような別格な魔物にとって、こんなことは造作もなかった。
(何をするのかは分かりませんが、「手を出すな」ということでしょうか……)
イヴァンはどうしようもなくて、ただもう静観することしかできなくなった。
「私に呪われた、と言いなさい。竜に呪われた土地は、誰も欲しがらないわ。エスパルド帝国だけじゃなく、他の国も手を出さないでしょう」
ガザルがキッとラヒムを見上げて言った。
彼女のたおやかな長い髪の先から、淡いローズ色の砂がサラサラと流れ落ちていく。
(!! ガザル、まさか……!? それだけはダメだ!!!)
イヴァンは力の限り、ガザルの金縛りを振り解こうとした。馬鹿なことはやめろと、止めに入ろうと必死だった。
「……ガザル、何を言って……?」
「きっと、あなたは今エスパルドを退けても、また同じようなことが起これば、戦ってしまうんでしょう? 本当に、仕方のない人」
「や、やめろ……やめて、くれ……」
ガザルの覚悟の決まった静かな声と、彼女の変化に気づいて、ラヒムの悲鳴にも似た震えて声にならない声が響いた。
ラヒムがガザルを止めようと手を伸ばす。
『侵略者たちよ、私の愛を思い知れ』
ガザルから重々しい竜の言葉が溢れる。
長かった彼女の髪は、もう肩ぐらいの長さになっていた。
(ああ……ガザルは、もう……)
イヴァンは何もできない自分を、こんなにも悔しく思うことはなかった。
本来であれば、彼女を守るのはイヴァンの役目だったのだ。
「…………それなら、せめて私は……私たちは、君の名前を忘れないようにしよう——君から受けた全てを、忘れないように……」
ラヒムは、嗚咽混じりに、たどたどしく言った。彼の指の間を、サラサラと、ガザルだった砂がすり抜けて落ちていく。
「ふふっ。素敵な贈り物ね。ラヒムから貰った物の中で、一番だわ」
ガザルが、ふわりと満面の泣き笑いをした。
強い風が吹いた瞬間、最後に、イヴァンはガザルの涙目に見つめられた。
彼女は何かを伝えようと口をぱくぱくと動かすと、キュッと口角を上げて微笑んだ。
——それが、イヴァンが見た正真正銘最後のガザルの笑みだった。
世界は、魔法のように一瞬でローズ色の砂の砂漠に覆われていた。
「ガザルーーーーー!!!」
ラヒムの慟哭が、淡いローズ色の砂漠に響いた。
「ガザル……」
イヴァンは力なく肩を落とした。胸が締め上げられるように悲鳴をあげ、何もかもが無駄に思えるようだった。
しばらくして、ヨロヨロと、ローズ色の砂漠にうずくまるラヒムに、イヴァンは近づいた。
ラヒムはまだぐずぐずと涙に濡れていた。
もうイヴァンの金縛りは解けていた。
「あなたは愚かですね。わざわざ契約になんてしなくても良かったのに。あなたの子孫など、差し出さなくても良かったのに」
イヴァンは気まぐれにラヒムに声をかけた。
今イヴァンが感じている言いようの無い喪失感は、目の前のこの男と一緒だったからだ。
イヴァンは、ガザルを奪ったラヒムが嫌いだ。
でも今は、この気持ちを誰かと共有したい気分だった。
「…………いいえ、私は知っていました。彼女は竜でしょう? 竜にも矜持があるのでしょう? これだけのことを私のために、国のためにしてくれたんだ。契約ぐらいしますよ。それに、私の命だけが対価の格安な契約では、彼女の立つ瀬が無い。私に連なる血族ぐらい、彼女に差し出しましょう」
ローズ色の砂漠に座り込みながら、ラヒムが震える声で答えた。
イヴァンは目を剥いてラヒムを見つめた。
この男は何も考えてないと、思い込んでいたからだ。
主人がこれ程までに考えられ、尊重されたのだ。悪い気はしなかった——が、どうにも複雑な想いだった。
「ええ。竜たちにとって、偉大な女王の誕生です」
イヴァンが皮肉げに言い放った。
そして、イヴァンはパチリと指を鳴らした。
一瞬のうちに、イヴァンとラヒムは王都が見える所まで転移していた。
ガザルのために契約を成した、ラヒムへのサービスだった。
王都周辺は、見るも無惨に様変わりしていた。
森の大部分が見渡す限りのローズ色の砂に埋もれ、王都を取り囲むように巨大なオアシスが湧いていた。
生き残った人々は、オアシスで溺れる人々を救助したり、砂に埋もれた人がいないか探したり、掘り起こそうとしたりしていた。
「もう二度と、会うことは無いでしょう」
イヴァンは、へたりこんで変わり果てた王都を呆然と眺めているラヒムを、冷たく見下ろして言った。
「……あなた様は……?」
ラヒムがぎこちなくイヴァンの方を振り向いた。
あまりにもいろいろなことが立て続けに起こって、理解が追いついていないようだ。
「私は、私の魔王様の言葉に従うだけです」
「やはり、ガザルは……」
ラヒムが何かを言いかけた瞬間、イヴァンはさっさと転移魔術を発動していた。
恋敵と悠長におしゃべりなんてしている暇なんて、彼には無かったのだ。
「何が、『あとはよろしく』ですか……」
イヴァンは一人、ガザルの最後の言葉を思い返し、片手で胸を押さえた。まだズキズキと棘が刺すように痛んでいる。
(ええ、ええ。仰せのままに。私の魔王様……)
イヴァンは、ローズ色の砂に埋もれた遺跡の真ん中で、大魔術を発動した。
大きな白銀色の水鏡が現れ、レースのような繊細な縁飾りのその周りに、イヌサフランが芽生え、茎や葉を伸ばし、薄紫色の花が次々と咲いていく。
「私がこの国を見守るしかないですね。でも、ちゃんと対価はいただきますよ。ガザル、貴女との思い出です」
イヴァンは、水鏡の鏡面にそっと手を置いた。
鏡面に、水の波紋が幾重にも広がる。
次の瞬間、イヴァンはこの世界から消えていた——自らが築き上げた水鏡の世界の中に入ったのだ。
そこには、ガザルによって砂漠化される前のサハリア王国があった。
街並みも、人々も、そこにあったであろう感情でさえも、再現して再構築した世界——妖精魔術の最高傑作と言えよう。
「ここは、私たちの記憶を使って再構築した世界。この世界でのガザルは、もう私だけのもの」
イヴァンは暗く微笑んだ。
イヴァンは、サクリサクリとオレンジ色の砂漠の上を歩いて行った。サラサラと崩れるように、砂漠に付けた足跡が消えていく。
「竜の愛は『力と献身』でしたね……癪ではありますが、あの男が成した契約のおかげで、ガザルは『人間に誑かされて献身だけを捧げた愚かな女王』から、『愛する男を力づくで国ごと奪い、国ごと守る、竜の愛を貫いた偉大な女王』になった……彼女は竜の英雄になってしまった……」
(面子でも名誉でもなく、ガザルが本当に欲しかったモノは……)
そう考えると、イヴァンの胸は張り裂けそうな程にギシギシと軋んだ。
「本当に愚かな竜だ。それにあの男も知恵は回るだろうに愚かだ。愛に第一に生きる妖精からしたら、本当に愚かとしか思えない……」
(想い合ってなお、なぜ互いを選ばない……?)
見慣れたオレンジ色の砂漠の景色、見慣れた彼女の家、見慣れた——
「だから、これは私のガザルですよ。ラヒム、あなたのものではありません」
イヴァンの目線の先には、笑顔で大きくこちらに手を振るガザルがいた。
——まだラヒムと別れることを知らない、あの日のガザルが——
***
それからしばらくして、サハリア王国の国王が変わった。
彼は国を大きく変えた。
自らを新サハリア王国の初代国王とし、彼が子孫を使ってまで成した竜との契約を果たすため、愛しい契約の竜の名前を忘れないため、王都の名前も変えた——「ガザル」と。
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