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グリムフォレスト14
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シルルベルクの騒動があった翌日、ハムレットとレイとオリヴァーは、ティターニアに連れられてグリムフォレストの山中に水を撒きに来ていた。
シルルベルクの街は、妖精のいたずらや水の竜巻、水の精霊や魔物がはしゃいだ影響で大変な状態になっていたため、レイたちは混乱を極める領主館ではなく、妖精自治区の方に泊まらせてもらっていた。
山火事の跡地に案内されると、ハムレットは恨みがましくぽつりと呟いた。
「レイはオリヴァーと二人でグリムフォレストに行っちゃうし、いつの間にか幽閉塔には囚われてるし、昨日はものすごく心配したんだよ」
「ゔっ……」
(……それ、昨日から何度も聞きました……)
レイは愛想笑いの口角をひくつかせた。
「水の魔物はこうなると恨みがましいぞ。お主も面倒な男に好かれたものだな」
ティターニアが特に同情するでも憐れむでもなく、レイの耳元で囁いた。レイも小さく「はい……」と返す。
「せっかく私が颯爽と現れて囚われのお姫様を助けようとしたのに、そこから男と二人で逃避行に出てしまうし」
ハムレットが困ったように眉を下げ、レイを見つめた。彼の黄金眼には、どこか恨めしげな色がのっていた。
「『逃避行』だなんて、そんな! あれは仕方がなかったんです! それに、妖精たちもいたから、二人きりじゃないですよ!」
レイは聞き捨てならないと、反論した。ハムレットを見上げて、ぷっくりと頬も膨らませる。
「レイには分からないよね、私がどれほど心配したのか……」
ハムレットはハッと怯んで、傷ついたようにレイから視線を逸らした。しゅんと、肩を落とす。
(ゔぅっ、面倒くさい……まるで私が加害者みたいに……!)
レイはなんとも言えないモヤモヤとした気持ちが、喉元まで迫り上がってきていた。
「ほら、いつまでも戯れてないで、早う癒しの水とやらを撒いてはくれぬか?」
ティターニアが、しらっと冷めた視線をハムレットとレイに向けた。
ハムレットもレイも拗ねた表情で、ティターニアの方を無言で振り向いた。
「……それもそうだね。レイ、提案なんだけど、一発で水撒きを終わらせない?」
先に動いたのはハムレットだ。レイの方に向き直って、提案をしてきた。
「そんなこと、できるんですか?」
「できるよ。でも、レイの協力が必要だ。私と契約して」
ハムレットの急な申し出に、レイは「へ?」と目を丸くしてきょとんとなった。
ハムレットはにこにこと柔らかい微笑みを浮かべていた。
(……怪しい……)
レイはじと目でハムレットを見上げた。
今までのハムレットは、湧水の妖精の祝福に当てられてレイを口説いたり、水織りのリボンをプレゼントしようとしてくれた時には、数々のいかがわしい魔術を付与しようとしていた——彼を手放しに信用することはできなかった。
「おや? 私では役不足かな?」
「……『契約』とは、どんな契約ですか?」
意外そうなハムレットに、レイは慎重に尋ねた。
「レイを主、私を従とする主従契約だね。私が主人になると、フェリクス様とニールに消されかねないからね。もちろん、特約も付けないよ。あとから彼らに怒られそうだし」
ハムレットが説明する魔術契約内容に、レイは腕を組んで「う~ん」と考え込んだ。
(パッと聞いた感じでは特に問題は無さそうだけど……)
「……それは、後から契約破棄もできるんですか?」
「そんな! レイは私を捨てる気なのかい!? …………でも、主人の君に言われてしまったら、寂しいけどお別れするしかないね」
レイの質問に、ハムレットは酷く傷ついた顔をした。ただ、渋々、契約破棄が可能であることは認めた。
(……言い方はなんか引っかかるけど、一応、契約破棄も可……)
「……分かりました。でも、後から何か変なことが分かったら、契約破棄しますよ」
レイは神妙な表情で頷いた。もちろん、しっかりと条件を付けることも忘れない。
ハムレットはレイの答えに、パァッと顔色を明るくすると、素早くテキパキと魔術契約の準備に取りかかった。
彼は「失礼するよ」とレイの片手を取ると、水でできたナイフで彼女の指先を薄く切りつけた。
足元には、二人を囲うように複雑な魔術陣が光を放っていた。
「レイも魔力を込めて。それから、私がレイの血をいただいて、契約完了だ」
ハムレットに優しく言われ、レイもこくりと頷いて、魔力を流した。
ハムレットがレイの指先を口に含むと、魔術陣の光がより一層強く輝き、そして収束していった。
「これで主従契約完了だね。よろしくね、ご主人様」
ハムレットが貴族らしく整った顔を綻ばせて、華やかに笑った。両手で愛おしげにレイの小さな手を包み込むと、彼女の指先の傷を魔術で治した。
「……よろしくお願いします……」
レイは少しだけ唇を尖らせて答えた。
(何か変なことがあったら、即、契約解除しよう……!)
ハムレットは上機嫌にレイの手を引くと、「さ、行こうか。私のお姫様」と、にこやかに山火事の跡地まで誘った。
レイもいきなりのお姫様扱いに面食らいながらも、素直について行った。
跡地の中心まで来ると、不意にハムレットは立ち止まって、レイに尋ねた。
「レイは元々、何ヶ所かある山火事の跡地を巡って、それぞれの場所で癒し魔術入りの水を撒くつもりだったのかな?」
「そうです」
「じゃあ、水を撒く範囲をグリムフォレスト全体にしようか。それなら一回で済むよ」
「えっ……大丈夫でしょうか? 私、どこからどこまでがグリムフォレストの範囲か分からないですよ。それに、癒しと水の混合魔術だから、そんなに広範囲に撒くのはコントロールが難しいかも……」
レイは心配そうにハムレットを見上げた。
(魔力量は問題ないとしても、範囲が分からないんじゃ闇雲に水を撒くことになるし、今回は今まで以上に広範囲に撒くからなぁ……)
「大丈夫。私がサポートするよ。この世界に雨を降らせるのも、私の管轄だからね。さ、手を出して」
ハムレットは優しく微笑むと、レイの目の前に、両手のひらを上にして差し出した。
レイは、ハムレットの手に自分の手を重ねると、集中するように目を瞑った。
「レイは今、私と主従契約があるからね。シンプルに私に命令してくれればいいよ。『グリムフォレスト全体に雨を降らせ』って」
ハムレットが囁くように、レイの耳元で言った。
(水を撒く範囲は、水竜王様がなんとかしてくれる。だから、私は癒しの水を練ることに集中すればいいか)
レイは大量の魔力を練り始めた。
水気を含んだ高密度の魔力がレイとハムレットの周りを包み込み、むわっと、鈴蘭のほのかに甘く爽やかな香りが広がった。
「水竜王様、グリムフォレスト全体に癒しの雨を降らせて」
「お安いご用で、マイレディ」
ハムレットがフッと小さく笑うと、レイと彼の周りにあった魔力がドドドドッと天へと昇っていった。
レイの魔力で作り上げられた雨雲が次々と空で広がっていき、サアアァッと軽やかな小雨が森全体に降り注いだ。
「おお、これは……!」
「……見事なものだな」
オリヴァーとティターニアが空を見上げ、感嘆の声を漏らした。
微かな雨粒の一つ一つに、癒しの魔術がこもり、山火事で傷つき荒れた草木や大地を潤していった。
草木や大地の精霊や妖精たちも、ひょっこりと焼け焦げた跡地から顔を覗かせると、ぽかんと口を開けて空を見上げた。
癒しの雨はほんの数分だけグリムフォレストに降り注ぎ、何事もなかったかのように雨雲は消えていった。
山火事跡をよしよしと優しく撫でるように微風が吹き抜け、鈴蘭の甘く爽やかな香りが辺りにフワッと舞った。
「レイの魔力はいいね、惚れ直したよ。こんなに澄んだ水魔力なのに、癒しの魔術も綺麗に乗るからね。それに、今まで見た中でも最も美しい水魔術だった……一緒に魔術を発動できて、光栄だよ」
ハムレットが感極まって頬を薔薇色に染め、少し潤んだ瞳でレイを見下ろした。
レイは、急に褒められて嬉しいような恥ずかしいような気分で、「ありがとうございます」とはにかんで返した。
「これでグリムフォレストも早く回復するであろう。礼を言おう。ありがとう、水竜王殿。そして、三大魔女レイ殿」
ティターニアが穏やかにお礼を口にした。
「わっ! 気づかれたんですか!?」
「人間で魔力に香りが乗るのは、三大魔女だけだ。久方振りに会ったぞ」
レイがびくっと驚いていると、ティターニアがどこか嬉しそうに答えた。
「……三大魔女……」
オリヴァーは、レイの方を振り向いて大きく目を瞠ると、ぽかんと呟いた。
「わわっ! オリヴァーさん、みんなには内緒にしててください!」
「……ああ、グリムフォレストの恩人の頼みだ。他の者には話さないと約束しよう」
レイにお願いされ、オリヴァーは驚きつつも、こくりと頷いた。
「それにしても、お主、良かったのか? あやつは水の王、この世の全ての水を統べる者だ。水ある所、奴に把握できぬものは無いぞ。契約で結び付けば、その力がより一層強まるだろう」
「へっ?」
ティターニアに小声で訊かれ、レイは変な声を漏らした。
(それって、水自体がGPS機能を持ってるってこと……? 私がどこにいても把握できちゃうってこと……?)
レイは悍ましすぎる契約の効果に、ゾゾゾッと全身に鳥肌が立った。
「じゃが、お主が手綱を握れば、あやつの行動を抑えることもできよう」
ティターニアは「できればの話だがな」と断りを入れつつ、語った。
(そんな肉を切らせて骨を断つみたいな! ……っていうか、先にそれ言って欲しかった!!)
レイは自分で自分をぎゅっと抱きしめると、ぶるりと震えた。
「そうそう。私のことは、気軽に『レット』と愛称で呼んで欲しいな」
大魔術の感動の余韻から戻ってきたハムレットが、キラリンと色鮮やかな黄金眼を煌めかせて、レイに話しかけてきた。
「『レット』ですか……?」
「何かな、レイ?」
レイが思わず復唱すると、ハムレットは嬉しそうに頬を染めて返事をした。
その様子を眺めていたティターニアは、「レイには難しそうだな」とポツリと呟いていた。
こうして、ティターニアからの依頼を完遂したハムレットとオリヴァーとレイは、数日後にはレスタリア領を立ったのだった。
シルルベルクの街は、妖精のいたずらや水の竜巻、水の精霊や魔物がはしゃいだ影響で大変な状態になっていたため、レイたちは混乱を極める領主館ではなく、妖精自治区の方に泊まらせてもらっていた。
山火事の跡地に案内されると、ハムレットは恨みがましくぽつりと呟いた。
「レイはオリヴァーと二人でグリムフォレストに行っちゃうし、いつの間にか幽閉塔には囚われてるし、昨日はものすごく心配したんだよ」
「ゔっ……」
(……それ、昨日から何度も聞きました……)
レイは愛想笑いの口角をひくつかせた。
「水の魔物はこうなると恨みがましいぞ。お主も面倒な男に好かれたものだな」
ティターニアが特に同情するでも憐れむでもなく、レイの耳元で囁いた。レイも小さく「はい……」と返す。
「せっかく私が颯爽と現れて囚われのお姫様を助けようとしたのに、そこから男と二人で逃避行に出てしまうし」
ハムレットが困ったように眉を下げ、レイを見つめた。彼の黄金眼には、どこか恨めしげな色がのっていた。
「『逃避行』だなんて、そんな! あれは仕方がなかったんです! それに、妖精たちもいたから、二人きりじゃないですよ!」
レイは聞き捨てならないと、反論した。ハムレットを見上げて、ぷっくりと頬も膨らませる。
「レイには分からないよね、私がどれほど心配したのか……」
ハムレットはハッと怯んで、傷ついたようにレイから視線を逸らした。しゅんと、肩を落とす。
(ゔぅっ、面倒くさい……まるで私が加害者みたいに……!)
レイはなんとも言えないモヤモヤとした気持ちが、喉元まで迫り上がってきていた。
「ほら、いつまでも戯れてないで、早う癒しの水とやらを撒いてはくれぬか?」
ティターニアが、しらっと冷めた視線をハムレットとレイに向けた。
ハムレットもレイも拗ねた表情で、ティターニアの方を無言で振り向いた。
「……それもそうだね。レイ、提案なんだけど、一発で水撒きを終わらせない?」
先に動いたのはハムレットだ。レイの方に向き直って、提案をしてきた。
「そんなこと、できるんですか?」
「できるよ。でも、レイの協力が必要だ。私と契約して」
ハムレットの急な申し出に、レイは「へ?」と目を丸くしてきょとんとなった。
ハムレットはにこにこと柔らかい微笑みを浮かべていた。
(……怪しい……)
レイはじと目でハムレットを見上げた。
今までのハムレットは、湧水の妖精の祝福に当てられてレイを口説いたり、水織りのリボンをプレゼントしようとしてくれた時には、数々のいかがわしい魔術を付与しようとしていた——彼を手放しに信用することはできなかった。
「おや? 私では役不足かな?」
「……『契約』とは、どんな契約ですか?」
意外そうなハムレットに、レイは慎重に尋ねた。
「レイを主、私を従とする主従契約だね。私が主人になると、フェリクス様とニールに消されかねないからね。もちろん、特約も付けないよ。あとから彼らに怒られそうだし」
ハムレットが説明する魔術契約内容に、レイは腕を組んで「う~ん」と考え込んだ。
(パッと聞いた感じでは特に問題は無さそうだけど……)
「……それは、後から契約破棄もできるんですか?」
「そんな! レイは私を捨てる気なのかい!? …………でも、主人の君に言われてしまったら、寂しいけどお別れするしかないね」
レイの質問に、ハムレットは酷く傷ついた顔をした。ただ、渋々、契約破棄が可能であることは認めた。
(……言い方はなんか引っかかるけど、一応、契約破棄も可……)
「……分かりました。でも、後から何か変なことが分かったら、契約破棄しますよ」
レイは神妙な表情で頷いた。もちろん、しっかりと条件を付けることも忘れない。
ハムレットはレイの答えに、パァッと顔色を明るくすると、素早くテキパキと魔術契約の準備に取りかかった。
彼は「失礼するよ」とレイの片手を取ると、水でできたナイフで彼女の指先を薄く切りつけた。
足元には、二人を囲うように複雑な魔術陣が光を放っていた。
「レイも魔力を込めて。それから、私がレイの血をいただいて、契約完了だ」
ハムレットに優しく言われ、レイもこくりと頷いて、魔力を流した。
ハムレットがレイの指先を口に含むと、魔術陣の光がより一層強く輝き、そして収束していった。
「これで主従契約完了だね。よろしくね、ご主人様」
ハムレットが貴族らしく整った顔を綻ばせて、華やかに笑った。両手で愛おしげにレイの小さな手を包み込むと、彼女の指先の傷を魔術で治した。
「……よろしくお願いします……」
レイは少しだけ唇を尖らせて答えた。
(何か変なことがあったら、即、契約解除しよう……!)
ハムレットは上機嫌にレイの手を引くと、「さ、行こうか。私のお姫様」と、にこやかに山火事の跡地まで誘った。
レイもいきなりのお姫様扱いに面食らいながらも、素直について行った。
跡地の中心まで来ると、不意にハムレットは立ち止まって、レイに尋ねた。
「レイは元々、何ヶ所かある山火事の跡地を巡って、それぞれの場所で癒し魔術入りの水を撒くつもりだったのかな?」
「そうです」
「じゃあ、水を撒く範囲をグリムフォレスト全体にしようか。それなら一回で済むよ」
「えっ……大丈夫でしょうか? 私、どこからどこまでがグリムフォレストの範囲か分からないですよ。それに、癒しと水の混合魔術だから、そんなに広範囲に撒くのはコントロールが難しいかも……」
レイは心配そうにハムレットを見上げた。
(魔力量は問題ないとしても、範囲が分からないんじゃ闇雲に水を撒くことになるし、今回は今まで以上に広範囲に撒くからなぁ……)
「大丈夫。私がサポートするよ。この世界に雨を降らせるのも、私の管轄だからね。さ、手を出して」
ハムレットは優しく微笑むと、レイの目の前に、両手のひらを上にして差し出した。
レイは、ハムレットの手に自分の手を重ねると、集中するように目を瞑った。
「レイは今、私と主従契約があるからね。シンプルに私に命令してくれればいいよ。『グリムフォレスト全体に雨を降らせ』って」
ハムレットが囁くように、レイの耳元で言った。
(水を撒く範囲は、水竜王様がなんとかしてくれる。だから、私は癒しの水を練ることに集中すればいいか)
レイは大量の魔力を練り始めた。
水気を含んだ高密度の魔力がレイとハムレットの周りを包み込み、むわっと、鈴蘭のほのかに甘く爽やかな香りが広がった。
「水竜王様、グリムフォレスト全体に癒しの雨を降らせて」
「お安いご用で、マイレディ」
ハムレットがフッと小さく笑うと、レイと彼の周りにあった魔力がドドドドッと天へと昇っていった。
レイの魔力で作り上げられた雨雲が次々と空で広がっていき、サアアァッと軽やかな小雨が森全体に降り注いだ。
「おお、これは……!」
「……見事なものだな」
オリヴァーとティターニアが空を見上げ、感嘆の声を漏らした。
微かな雨粒の一つ一つに、癒しの魔術がこもり、山火事で傷つき荒れた草木や大地を潤していった。
草木や大地の精霊や妖精たちも、ひょっこりと焼け焦げた跡地から顔を覗かせると、ぽかんと口を開けて空を見上げた。
癒しの雨はほんの数分だけグリムフォレストに降り注ぎ、何事もなかったかのように雨雲は消えていった。
山火事跡をよしよしと優しく撫でるように微風が吹き抜け、鈴蘭の甘く爽やかな香りが辺りにフワッと舞った。
「レイの魔力はいいね、惚れ直したよ。こんなに澄んだ水魔力なのに、癒しの魔術も綺麗に乗るからね。それに、今まで見た中でも最も美しい水魔術だった……一緒に魔術を発動できて、光栄だよ」
ハムレットが感極まって頬を薔薇色に染め、少し潤んだ瞳でレイを見下ろした。
レイは、急に褒められて嬉しいような恥ずかしいような気分で、「ありがとうございます」とはにかんで返した。
「これでグリムフォレストも早く回復するであろう。礼を言おう。ありがとう、水竜王殿。そして、三大魔女レイ殿」
ティターニアが穏やかにお礼を口にした。
「わっ! 気づかれたんですか!?」
「人間で魔力に香りが乗るのは、三大魔女だけだ。久方振りに会ったぞ」
レイがびくっと驚いていると、ティターニアがどこか嬉しそうに答えた。
「……三大魔女……」
オリヴァーは、レイの方を振り向いて大きく目を瞠ると、ぽかんと呟いた。
「わわっ! オリヴァーさん、みんなには内緒にしててください!」
「……ああ、グリムフォレストの恩人の頼みだ。他の者には話さないと約束しよう」
レイにお願いされ、オリヴァーは驚きつつも、こくりと頷いた。
「それにしても、お主、良かったのか? あやつは水の王、この世の全ての水を統べる者だ。水ある所、奴に把握できぬものは無いぞ。契約で結び付けば、その力がより一層強まるだろう」
「へっ?」
ティターニアに小声で訊かれ、レイは変な声を漏らした。
(それって、水自体がGPS機能を持ってるってこと……? 私がどこにいても把握できちゃうってこと……?)
レイは悍ましすぎる契約の効果に、ゾゾゾッと全身に鳥肌が立った。
「じゃが、お主が手綱を握れば、あやつの行動を抑えることもできよう」
ティターニアは「できればの話だがな」と断りを入れつつ、語った。
(そんな肉を切らせて骨を断つみたいな! ……っていうか、先にそれ言って欲しかった!!)
レイは自分で自分をぎゅっと抱きしめると、ぶるりと震えた。
「そうそう。私のことは、気軽に『レット』と愛称で呼んで欲しいな」
大魔術の感動の余韻から戻ってきたハムレットが、キラリンと色鮮やかな黄金眼を煌めかせて、レイに話しかけてきた。
「『レット』ですか……?」
「何かな、レイ?」
レイが思わず復唱すると、ハムレットは嬉しそうに頬を染めて返事をした。
その様子を眺めていたティターニアは、「レイには難しそうだな」とポツリと呟いていた。
こうして、ティターニアからの依頼を完遂したハムレットとオリヴァーとレイは、数日後にはレスタリア領を立ったのだった。
14
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