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グリムフォレスト11
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(うっ……なんかいつもと違って難しいかも。変に魔力が乱されてやりにくい……)
レイは集中するように、ぎゅっと目をつぶった。
レイたちが今いる部屋には魔力を阻害する魔術が敷かれているためか、レイが魔力を練ろうとすると、それを打ち消そうと邪魔をしてくる。
転移魔術は、転移する位置を指定したり、転移するメンバーを指定したりと、繊細な魔力コントロールが必要な上級魔術だ。そのうえ集中力も必要だ。
レイは魔術を発動させるのに、いつも以上に時間がかかっていた。
(もう! ちょっと外に出るだけだし、力押しでいっちゃおう!)
焦れたレイは、一気に魔力を流した。
部屋中にレイの魔力が急速に広がって、外側へと膨張した壁や天井がミシミシと悲鳴をあげた。
「わわっ!」
「まずいよ!」
「ボンッ⭐︎しちゃうよー!」
妖精たちが手足をバタつかせて、小さな悲鳴をあげた。
「転移! ……きゃあ!」
「うわっ!?」
「「「わぁー!」」」
レイの魔力は、部屋に施された魔術と反発し合い、押し勝ったレイの魔力が炸裂した。
ドッゴーン! と大きな音を立てて壁と天井が吹き飛び、塔の最上階の部屋は一気に吹きさらしになった。
パラパラと、破片になった壁材などが、塔の下へと落ちていく。
「「「やったー! 外に出られたぁ!!」」」
妖精たちは嬉しそうにはしゃぎ声をあげた。
レイとヨハンは、急に風通しが良くなった部屋の真ん中で、呆然と座り込んでいた。
「は、ははは……確かに、外には出られたな」
「すみません……」
ヨハンが顔を引き攣らせて乾いた笑いをこぼすと、レイはしゅんと項垂れた。
「……とにかく行こう。こうしている暇はない」
ヨハンは気持ちを切り替えると、力強くレイに言った。
「ねぇねぇ、大変だよ!」
「悪いやつらが下に集まって来たよ!」
「みんなびっくりしてるよー!」
妖精たちが、レイとヨハンの頬をペチペチと触って注意を引いた。
妖精たちが指差す先には、騒ぎを聞きつけた役人や騎士たちが、わらわらと塔の真下に集まって来ていた。
「ちょうどいい。彼らと協力して住民の避難を……」
「「「みんなー! 助けてー!!」」」
ヨハンの言葉を遮って、妖精たちが大声で呼びかけた。
妖精たちの声は不思議なことに、やまびこのように辺り一帯に響いた。
「どうしたの?」
「何があったの?」
「わっ! あの部屋が吹き飛んでる!?」
妖精の小道から、種類も大きさもさまざまな妖精たちが、「なんだ、なんだ」と顔を覗かせた。
「みんな助けて!」
「ヨハンが大変なんだ!」
「今、とってもピンチなんだ!」
元々レイたちと一緒にいた妖精たちが、大慌てで助けを求めた。
ただあまりにも慌て過ぎていたため、何が大変なのかは要領を得ていなかった。
「お部屋から出られたんだね!?」
「よしきた!」
「僕たちの愛し子を守るぞ!」
「「「「「「「「「「おーっ!!!」」」」」」」」」」
新たに現れた妖精たちは、声を揃えて拳を突き上げた。妖精の愛し子であるヨハンがピンチだと、すっかり勘違いしてしまったようだった。
伝言ゲームのように次々と仲間を呼ぶと、大量の妖精たちはレイとヨハンの下に潜り込んで、二人をふわりと持ち上げて、空を飛んで運び出した。
暗雲垂れ込める暗い空の下には、レイたちが運ばれた軌跡に、妖精魔術の光で虹がかかっていった。
新たに呼ばれた妖精たちも、レイとヨハンと妖精たちの行進に参加していく。
「えっ!? ちょっと、まっ……!!」
レイは妖精たちを止めようとしたが、妖精たちの上は不安定で、ゆらゆらと揺さぶられて舌を噛みそうになった。
近くを飛んでいた妖精に、「今喋ると危ないよー」となぜか嗜められる。
「待ってくれ! 私は大丈夫だ! 運ばないでくれ!」
ヨハンも必死に妖精たちに呼びかけたが、妖精たちは「僕たちが守るから大丈夫!」「任せて!」と小さな胸を叩いて、自信満々に答えた。
「違うー!!」
ヨハンは頭を抱えた。
「あっ、あれ!」
レイはふと、街を見下ろして指差した。
その指指した先には、民家の壁や屋根、道路や塀などにいたずら書きをする妖精たちがいた。
妖精たちが描いた絵は、いきなり実在化して飛び出すと、逃げ惑う人々を驚かせたり、落書き同士でおしゃべりをしたり、陽気に笑ったり歌ったりしていた。
落書きは、妖精が通る出入り口にもなっているようで、壁や屋根に描かれた扉やトンネルからは、新たな妖精たちが次々と飛び出して来ていた。
「一体、何をしてるんだぁぁあ!?」
ヨハンは街の混乱した状態を見て、頭を抱えたまま絶叫した。
「ヨハンをいじめた奴らは許さないよ!」
「妖精のいたずらはね、トラップになるんだよ!」
「それに妖精の通り道にもなるんだ!」
「みんなが混乱してるうちに逃げようよ!」
ヨハンを運んでいた妖精たちが、元気よく答えた。
「きゃっ!?」
レイはいきなり前方から飛んできた水鉄砲に、身をすくめた。
レイがびっくりして閉じた目を開けると、そこには淡く水色に光る水の精霊がいた。
水の精霊は嬉しそうに、レイの周りをくるりと飛んだ。
「? え?? いきなり、何???」
レイは身を縮こめたまま、自分の周りを飛ぶ精霊を見た。
「水竜王様がお水を出してくれたんだって!」
「久しぶりのお水に感激してるんだって!」
「水の妖精も精霊も魔物も、お祭りなんだって!」
レイの近くにいた妖精たちが、口々に教えてくれた。
レイが水の竜巻の方に目を向けると、その周りには、数ヶ月ぶりの水に大喜びをしている水系魔物や精霊、妖精たちがはしゃいで飛び回り、互いに水鉄砲をかけ合って楽しんでいた。
水系の精霊や妖精たちは、嬉しすぎてテンションが上がりすぎたのか、避難しようと逃げ惑う人たちにも、水鉄砲を当てていた。
シルルベルクの住民たちは、突如現れた水の竜巻や、いきなり驚かせてくる妖精のいたずら書きや、街を飛び交う妖精や水系の魔物や精霊たちに、「きゃー!」「うわぁ!」とただただ悲鳴をあげて逃げ惑っていた。
シルルベルクの騎士や役人たちも、小回りが利く妖精たちに、身体の周りをブンブンと飛ばれて付きまとわれ、翻弄されていた。妖精たちを追い払うのに精一杯で、まともに住民の避難誘導も、魔物の討伐にも手が出せずにいた。
(……カ、カオスすぎる……)
レイは、気が遠くなるような思いでくらりと揺れた。
倒れそうになったレイを、すかさず妖精たちが空から落ちないように支えてくれた。
「わっ!?」
「大丈夫?」
空飛ぶ妖精たちに支えられ、レイは小さく「ありがとう」とお礼を言った。
「僕たちが安全なところまで送るから、安心して!」
「ヨハンには手出しさせないから!」
妖精たちは自信満々に胸を張って言った。
「「「「「ここは僕たちに任せて、先に行って!!」」」」」
眼下の街の方からも、いたずら書きをしていた妖精たちが手を振って、声援を送った。
レイたちを運ぶ妖精たちも、「ありがとう!」「ここは任せた!」と力強く返している。
(……絶対に、そうじゃない!!!)
レイはカオスすぎる状況に、両手で顔を覆った——現実逃避ともいう。
隣のヨハンは、もはや半分魂が抜けたかのように、呆然とシルルベルクの街を見下ろしていた。
***
ハムレットとオリヴァーは、領主館裏手の塔の前で、呆然と空を見上げていた。
助けようとしていたレイは、ちょうど彼らの目の前で、妖精たちに連れられてグリムフォレストへと向かって空を行進していた——キラキラと輝く妖精魔術の虹の軌跡を空に描いて。
「……ラングフォード魔術伯爵……」
オリヴァーが非常に気の毒そうに、ハムレットに声をかけた。
「……今さっき、レイと一緒に逃げた男は誰かな?」
「…………」
ハムレットの質問に、オリヴァーは口を閉ざした。
オリヴァーとしても、妖精の愛し子に危険が及ぶようなことはしたくなかった。
「ラングフォード魔術伯しゃ……ヒィ!」
塔の騒ぎを聞きつけたアルマも、息を弾ませて駆けつけた。
ハムレットに声をかけようとして、言葉を噤んだ。
「……さっきの彼は確か、幽閉されていた君のお兄さんだったよね?」
ハムレットは、今度はアルマの方を向いて質問した。
ハムレットは社交的な笑みを浮かべてはいたが、そこには魔物の王らしく酷薄な凄みがあった。
アルマは口元を震える両手で押さえ、真っ青な顔色でコクンと頷いた。
レイは集中するように、ぎゅっと目をつぶった。
レイたちが今いる部屋には魔力を阻害する魔術が敷かれているためか、レイが魔力を練ろうとすると、それを打ち消そうと邪魔をしてくる。
転移魔術は、転移する位置を指定したり、転移するメンバーを指定したりと、繊細な魔力コントロールが必要な上級魔術だ。そのうえ集中力も必要だ。
レイは魔術を発動させるのに、いつも以上に時間がかかっていた。
(もう! ちょっと外に出るだけだし、力押しでいっちゃおう!)
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「わわっ!」
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妖精たちが手足をバタつかせて、小さな悲鳴をあげた。
「転移! ……きゃあ!」
「うわっ!?」
「「「わぁー!」」」
レイの魔力は、部屋に施された魔術と反発し合い、押し勝ったレイの魔力が炸裂した。
ドッゴーン! と大きな音を立てて壁と天井が吹き飛び、塔の最上階の部屋は一気に吹きさらしになった。
パラパラと、破片になった壁材などが、塔の下へと落ちていく。
「「「やったー! 外に出られたぁ!!」」」
妖精たちは嬉しそうにはしゃぎ声をあげた。
レイとヨハンは、急に風通しが良くなった部屋の真ん中で、呆然と座り込んでいた。
「は、ははは……確かに、外には出られたな」
「すみません……」
ヨハンが顔を引き攣らせて乾いた笑いをこぼすと、レイはしゅんと項垂れた。
「……とにかく行こう。こうしている暇はない」
ヨハンは気持ちを切り替えると、力強くレイに言った。
「ねぇねぇ、大変だよ!」
「悪いやつらが下に集まって来たよ!」
「みんなびっくりしてるよー!」
妖精たちが、レイとヨハンの頬をペチペチと触って注意を引いた。
妖精たちが指差す先には、騒ぎを聞きつけた役人や騎士たちが、わらわらと塔の真下に集まって来ていた。
「ちょうどいい。彼らと協力して住民の避難を……」
「「「みんなー! 助けてー!!」」」
ヨハンの言葉を遮って、妖精たちが大声で呼びかけた。
妖精たちの声は不思議なことに、やまびこのように辺り一帯に響いた。
「どうしたの?」
「何があったの?」
「わっ! あの部屋が吹き飛んでる!?」
妖精の小道から、種類も大きさもさまざまな妖精たちが、「なんだ、なんだ」と顔を覗かせた。
「みんな助けて!」
「ヨハンが大変なんだ!」
「今、とってもピンチなんだ!」
元々レイたちと一緒にいた妖精たちが、大慌てで助けを求めた。
ただあまりにも慌て過ぎていたため、何が大変なのかは要領を得ていなかった。
「お部屋から出られたんだね!?」
「よしきた!」
「僕たちの愛し子を守るぞ!」
「「「「「「「「「「おーっ!!!」」」」」」」」」」
新たに現れた妖精たちは、声を揃えて拳を突き上げた。妖精の愛し子であるヨハンがピンチだと、すっかり勘違いしてしまったようだった。
伝言ゲームのように次々と仲間を呼ぶと、大量の妖精たちはレイとヨハンの下に潜り込んで、二人をふわりと持ち上げて、空を飛んで運び出した。
暗雲垂れ込める暗い空の下には、レイたちが運ばれた軌跡に、妖精魔術の光で虹がかかっていった。
新たに呼ばれた妖精たちも、レイとヨハンと妖精たちの行進に参加していく。
「えっ!? ちょっと、まっ……!!」
レイは妖精たちを止めようとしたが、妖精たちの上は不安定で、ゆらゆらと揺さぶられて舌を噛みそうになった。
近くを飛んでいた妖精に、「今喋ると危ないよー」となぜか嗜められる。
「待ってくれ! 私は大丈夫だ! 運ばないでくれ!」
ヨハンも必死に妖精たちに呼びかけたが、妖精たちは「僕たちが守るから大丈夫!」「任せて!」と小さな胸を叩いて、自信満々に答えた。
「違うー!!」
ヨハンは頭を抱えた。
「あっ、あれ!」
レイはふと、街を見下ろして指差した。
その指指した先には、民家の壁や屋根、道路や塀などにいたずら書きをする妖精たちがいた。
妖精たちが描いた絵は、いきなり実在化して飛び出すと、逃げ惑う人々を驚かせたり、落書き同士でおしゃべりをしたり、陽気に笑ったり歌ったりしていた。
落書きは、妖精が通る出入り口にもなっているようで、壁や屋根に描かれた扉やトンネルからは、新たな妖精たちが次々と飛び出して来ていた。
「一体、何をしてるんだぁぁあ!?」
ヨハンは街の混乱した状態を見て、頭を抱えたまま絶叫した。
「ヨハンをいじめた奴らは許さないよ!」
「妖精のいたずらはね、トラップになるんだよ!」
「それに妖精の通り道にもなるんだ!」
「みんなが混乱してるうちに逃げようよ!」
ヨハンを運んでいた妖精たちが、元気よく答えた。
「きゃっ!?」
レイはいきなり前方から飛んできた水鉄砲に、身をすくめた。
レイがびっくりして閉じた目を開けると、そこには淡く水色に光る水の精霊がいた。
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倒れそうになったレイを、すかさず妖精たちが空から落ちないように支えてくれた。
「わっ!?」
「大丈夫?」
空飛ぶ妖精たちに支えられ、レイは小さく「ありがとう」とお礼を言った。
「僕たちが安全なところまで送るから、安心して!」
「ヨハンには手出しさせないから!」
妖精たちは自信満々に胸を張って言った。
「「「「「ここは僕たちに任せて、先に行って!!」」」」」
眼下の街の方からも、いたずら書きをしていた妖精たちが手を振って、声援を送った。
レイたちを運ぶ妖精たちも、「ありがとう!」「ここは任せた!」と力強く返している。
(……絶対に、そうじゃない!!!)
レイはカオスすぎる状況に、両手で顔を覆った——現実逃避ともいう。
隣のヨハンは、もはや半分魂が抜けたかのように、呆然とシルルベルクの街を見下ろしていた。
***
ハムレットとオリヴァーは、領主館裏手の塔の前で、呆然と空を見上げていた。
助けようとしていたレイは、ちょうど彼らの目の前で、妖精たちに連れられてグリムフォレストへと向かって空を行進していた——キラキラと輝く妖精魔術の虹の軌跡を空に描いて。
「……ラングフォード魔術伯爵……」
オリヴァーが非常に気の毒そうに、ハムレットに声をかけた。
「……今さっき、レイと一緒に逃げた男は誰かな?」
「…………」
ハムレットの質問に、オリヴァーは口を閉ざした。
オリヴァーとしても、妖精の愛し子に危険が及ぶようなことはしたくなかった。
「ラングフォード魔術伯しゃ……ヒィ!」
塔の騒ぎを聞きつけたアルマも、息を弾ませて駆けつけた。
ハムレットに声をかけようとして、言葉を噤んだ。
「……さっきの彼は確か、幽閉されていた君のお兄さんだったよね?」
ハムレットは、今度はアルマの方を向いて質問した。
ハムレットは社交的な笑みを浮かべてはいたが、そこには魔物の王らしく酷薄な凄みがあった。
アルマは口元を震える両手で押さえ、真っ青な顔色でコクンと頷いた。
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