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グリムフォレスト9
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「む……本当に、この部屋に魔力を制限する魔術式が敷かれているんですか? 普通に取り出せましたけど……」
レイは空間収納から、いざという時用の保存食のサンドイッチを取り出した。さすがに、ヨハンのご飯に手をつける気はなかった。
「……!? おかしいな……でも、私は使えないままだぞ」
ヨハンは訝しげに自身の手を見つめていた。何かしら魔術を使おうとして、失敗したようだ。
「「???」」
二人して首を捻っていると、妖精たちが子供のようにかわいらしい声をあげた。
「その子の魔力がとぉーーーっても多いんだ!」
「この部屋の魔術式じゃ抑えられないぐらいたっぷりなの!」
「その子が魔術を使うと、魔術式がギシギシ軋むんだよ!」
妖精たちに身振り手振りも交えて元気よく言われ、レイとヨハンは目を丸くした。
「魔術式が軋むほど……君はどれだけ魔力が多いんだ?」
ヨハンが、半分びっくり半分呆れかえった様子でレイを見つめた。
レイは「あはは」と誤魔化し笑いをした。
(魔力量は無限です……)
「とりあえず、魔術は使えるみたいなので、この部屋から出ることはできるみたいですね」
レイは、また空間収納に手を突っ込むと、妖精たちの分のマフィンを取り出して、書き物机の上に置いた。
帰ることに問題が無いのであれば、まずは腹ごなしである。腹が減っては何もできないのである。
妖精たちが、「わー!」「おいしそう!」「食べてもいいの?」と嬉しそうに、マフィンの周りに集まって来た。
「いや、普通は出られないものなのだが……」
ヨハンはすっかり呆れ顔でレイを見つめた。
「とりあえず、ご飯にしましょうか? ヨハンさんの食事も届きましたし」
レイは食事の準備をしながら、淡々と言った。
先ほど、看守がヨハン用の夕食を、この部屋にまで持ってきてくれたのだ。彼は、いきなり増えていた大きな妖精であるレイを見て、ビクッと肩を震わせて驚いていた。
看守は「また妖精が潜り込んだのか」と渋い顔をして、食事だけ置いてさっさと戻って行った。
ヨハンは、早くも今の状況に慣れて普通に過ごそうとしているレイを見て、すっかり呆気にとられ、「あぁ……」と生返事を返した。
***
「何? レイが幽閉塔に?」
ティターニアは低い声で尋ね返した。
ティターニアは非番が終わったためか、妖精騎士団の団長服に着替えていた。
妖精騎士たちが集まる要塞の一室で、オリヴァーからの報告を受け、薄らと眉間に皺を寄せている。
冷静沈着で普段あまり表情の変わらないティターニアが動揺している様子に、妖精騎士たちにもどよめきが起こった。すぐにティターニアにジロリと睨め付けられ、ピシャンッと背筋を伸ばして黙りこくる。
「さすがにレイでも幽閉塔から出るのは無理だろう……だが、レスタリア領主がこちらの話を聞き入れて、牢を開けてくれるかどうか……」
ティターニアは考え込むように顎先に指を添え、難しい顔をした。
「ごめんなさい、ティターニア……」
「大事なお客様を送っちゃった……」
「ごめんなさい……」
小さな花の妖精たちがしょんぼりと、ティターニアの前に出て来て、彼女を見上げた。
「お前たちもよくよく考えて行動せよ。ただのいたずらでは済まんぞ」
「「「はい……!」」」
ティターニアにピシャリと言われ、花の妖精たちは揃って返事をした。
「俺は、水竜王様にこのことを報告しに行って来ます」
「分かった、頼む」
オリヴァーが進言すると、ティターニアは重々しく頷いた。
オリヴァーはティターニアの許可を得ると、すぐさま蜻蛉のような四枚羽を羽ばたかせて、シルルベルクへと戻って行った。
「……それにしても、どうするかのう。今の領主は頑固者で、妖精というだけで一気に聞く耳を持たなくなるからな……」
ティターニアは物憂げに溜め息をつくと、考え込んだ。
***
シルルベルクの高台にあるカフェで、ハムレットとアルマは作戦会議を開いていた。
「ヨハン殿を救出するにしても、どうしようか? バルトルト殿にいきなり掛け合っても難しいよね? 勝手にヨハン殿を連れ出したとしても、それはそれで問題があるだろうし……」
「そうですよね……」
ハムレットの言葉に、アルマは難しい顔をした。
「? ……レイ……?」
不意に、ハムレットが何かに気づいたかのように顔を上げた。
不思議そうに、辺りを見回す。
「どうかされました?」
アルマも、きょとんと目を丸くする。
「……いや、気のせいかもしれないけど、今回一緒にレスタリア領に来ていた子の気配がしてね……今はシルルベルクにはいないはずなんだけど」
ハムレットが悩ましげに告げると、アルマは「そうですか……」と曖昧に相槌を打った。
「それよりも、今はヨハン殿を助ける方法だったね。バルトルト殿に何か弱みは無いのかな?」
ハムレットは気持ちを切り替えると、アルマに質問した。
「バルトルト兄様の弱み……兄様は妖精が苦手というか、恐れているというか……子供の頃に妖精に揶揄われてからは、どうも妖精が苦手みたいで。でも、ヨハン兄様は、妖精の愛し子なんです。ヨハン兄様の側にはいつも妖精がいて、それが余計に、バルトルト兄様がヨハン兄様を恐れる原因になっているんですよね……」
アルマが困ったように眉を下げて語った。
「妖精の愛し子か、珍しいね。でも、ここはグリムフォレストがあるから、妖精の愛し子が間に入った方が、やりやすいのではないのかな?」
「それが、バルトルト兄様が、ヨハン兄様が領政治に参加することをなかなか認めてくださらなくて……それに、妖精はどうも、どの子もみんな個性的で……寿命も人間よりもずっと長いですから、王国建国当初の人間と妖精の争いのことで未だに人間に恨みを持ってる方もいますし、かといえば、子供のように純粋で人懐っこかったり、いたずら好きな子も多いですし……」
アルマが苦笑して説明した。
「……ああ、妖精だからね……そこは仕方ないね……」
ハムレットも苦笑いをした。
妖精族には、子供のように純粋で単純な者から、「森の賢者」とも呼ばれ尊ばれるほど賢い者もいる。
妖精の派生元となったモノによっても性質や性格がかなり異なり、個性豊かすぎる妖精族を相手にしようとすれば、一筋縄ではいかないのだ。
その時、バンッ! とカフェの扉を乱暴に開けて、オリヴァーが入って来た。彼は、ハムレットたちが座る席へと、ズンズンと足早に近づいて来た。
「ラングフォード卿、レイが幽閉塔に放り込まれました!」
オリヴァーが一息に報告をした。オリーブ色の髪は乱れ、肩で息を荒く吐いており、慌ててやって来たのは明らかだ。
「…………はぁ?」
ハムレットから、かなり不機嫌な低い声が漏れた。
じっとりと重たい水魔力も漏れ、急に上がった湿度に、カフェの窓の内側には結露ができた。
レイは空間収納から、いざという時用の保存食のサンドイッチを取り出した。さすがに、ヨハンのご飯に手をつける気はなかった。
「……!? おかしいな……でも、私は使えないままだぞ」
ヨハンは訝しげに自身の手を見つめていた。何かしら魔術を使おうとして、失敗したようだ。
「「???」」
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「その子が魔術を使うと、魔術式がギシギシ軋むんだよ!」
妖精たちに身振り手振りも交えて元気よく言われ、レイとヨハンは目を丸くした。
「魔術式が軋むほど……君はどれだけ魔力が多いんだ?」
ヨハンが、半分びっくり半分呆れかえった様子でレイを見つめた。
レイは「あはは」と誤魔化し笑いをした。
(魔力量は無限です……)
「とりあえず、魔術は使えるみたいなので、この部屋から出ることはできるみたいですね」
レイは、また空間収納に手を突っ込むと、妖精たちの分のマフィンを取り出して、書き物机の上に置いた。
帰ることに問題が無いのであれば、まずは腹ごなしである。腹が減っては何もできないのである。
妖精たちが、「わー!」「おいしそう!」「食べてもいいの?」と嬉しそうに、マフィンの周りに集まって来た。
「いや、普通は出られないものなのだが……」
ヨハンはすっかり呆れ顔でレイを見つめた。
「とりあえず、ご飯にしましょうか? ヨハンさんの食事も届きましたし」
レイは食事の準備をしながら、淡々と言った。
先ほど、看守がヨハン用の夕食を、この部屋にまで持ってきてくれたのだ。彼は、いきなり増えていた大きな妖精であるレイを見て、ビクッと肩を震わせて驚いていた。
看守は「また妖精が潜り込んだのか」と渋い顔をして、食事だけ置いてさっさと戻って行った。
ヨハンは、早くも今の状況に慣れて普通に過ごそうとしているレイを見て、すっかり呆気にとられ、「あぁ……」と生返事を返した。
***
「何? レイが幽閉塔に?」
ティターニアは低い声で尋ね返した。
ティターニアは非番が終わったためか、妖精騎士団の団長服に着替えていた。
妖精騎士たちが集まる要塞の一室で、オリヴァーからの報告を受け、薄らと眉間に皺を寄せている。
冷静沈着で普段あまり表情の変わらないティターニアが動揺している様子に、妖精騎士たちにもどよめきが起こった。すぐにティターニアにジロリと睨め付けられ、ピシャンッと背筋を伸ばして黙りこくる。
「さすがにレイでも幽閉塔から出るのは無理だろう……だが、レスタリア領主がこちらの話を聞き入れて、牢を開けてくれるかどうか……」
ティターニアは考え込むように顎先に指を添え、難しい顔をした。
「ごめんなさい、ティターニア……」
「大事なお客様を送っちゃった……」
「ごめんなさい……」
小さな花の妖精たちがしょんぼりと、ティターニアの前に出て来て、彼女を見上げた。
「お前たちもよくよく考えて行動せよ。ただのいたずらでは済まんぞ」
「「「はい……!」」」
ティターニアにピシャリと言われ、花の妖精たちは揃って返事をした。
「俺は、水竜王様にこのことを報告しに行って来ます」
「分かった、頼む」
オリヴァーが進言すると、ティターニアは重々しく頷いた。
オリヴァーはティターニアの許可を得ると、すぐさま蜻蛉のような四枚羽を羽ばたかせて、シルルベルクへと戻って行った。
「……それにしても、どうするかのう。今の領主は頑固者で、妖精というだけで一気に聞く耳を持たなくなるからな……」
ティターニアは物憂げに溜め息をつくと、考え込んだ。
***
シルルベルクの高台にあるカフェで、ハムレットとアルマは作戦会議を開いていた。
「ヨハン殿を救出するにしても、どうしようか? バルトルト殿にいきなり掛け合っても難しいよね? 勝手にヨハン殿を連れ出したとしても、それはそれで問題があるだろうし……」
「そうですよね……」
ハムレットの言葉に、アルマは難しい顔をした。
「? ……レイ……?」
不意に、ハムレットが何かに気づいたかのように顔を上げた。
不思議そうに、辺りを見回す。
「どうかされました?」
アルマも、きょとんと目を丸くする。
「……いや、気のせいかもしれないけど、今回一緒にレスタリア領に来ていた子の気配がしてね……今はシルルベルクにはいないはずなんだけど」
ハムレットが悩ましげに告げると、アルマは「そうですか……」と曖昧に相槌を打った。
「それよりも、今はヨハン殿を助ける方法だったね。バルトルト殿に何か弱みは無いのかな?」
ハムレットは気持ちを切り替えると、アルマに質問した。
「バルトルト兄様の弱み……兄様は妖精が苦手というか、恐れているというか……子供の頃に妖精に揶揄われてからは、どうも妖精が苦手みたいで。でも、ヨハン兄様は、妖精の愛し子なんです。ヨハン兄様の側にはいつも妖精がいて、それが余計に、バルトルト兄様がヨハン兄様を恐れる原因になっているんですよね……」
アルマが困ったように眉を下げて語った。
「妖精の愛し子か、珍しいね。でも、ここはグリムフォレストがあるから、妖精の愛し子が間に入った方が、やりやすいのではないのかな?」
「それが、バルトルト兄様が、ヨハン兄様が領政治に参加することをなかなか認めてくださらなくて……それに、妖精はどうも、どの子もみんな個性的で……寿命も人間よりもずっと長いですから、王国建国当初の人間と妖精の争いのことで未だに人間に恨みを持ってる方もいますし、かといえば、子供のように純粋で人懐っこかったり、いたずら好きな子も多いですし……」
アルマが苦笑して説明した。
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妖精の派生元となったモノによっても性質や性格がかなり異なり、個性豊かすぎる妖精族を相手にしようとすれば、一筋縄ではいかないのだ。
その時、バンッ! とカフェの扉を乱暴に開けて、オリヴァーが入って来た。彼は、ハムレットたちが座る席へと、ズンズンと足早に近づいて来た。
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じっとりと重たい水魔力も漏れ、急に上がった湿度に、カフェの窓の内側には結露ができた。
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◆関連作品
『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。
『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。
『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。
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