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フェニックスの祝祭4
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フェニックスの祝祭二日目——
レイは気持ち良く目を覚ました。
今回泊まっているフェリクスの宿舎、もとい離宮は、昨年以上に快適に整えられていた。
天蓋付きのお姫様ベッドには、ふんわりとした白いレースがかかっていて、大きくてふかふかの枕やクッションがいくつも置かれている。今年は枕元に、琥珀用の猫クッションも増えていた。
壁沿いには二人掛けのピンク色のソファがあり、膝掛けと猫さん柄のクッションが置かれている。純白のテーブルは、楕円形の天板で、優美な猫脚だ。
クリスタルライトが組み込まれたシャンデリアは、手元にあるリモコンのような魔道具で、点けたり消したりできる。明るさの調整も可能だ。
レイの部屋は、もちろん、フェリクスの部屋の隣だ。
何かあれば、部屋に備え付けの呼び鈴を鳴らせば、執事長のマルコムや侍女たちだけでなく、フェリクスも駆けつけてくれる。
本当に至れり尽くせりの環境なのだ。
レイは女性神官の制服に着替えると、ダイニングへと向かった。
階段を下りていると、執事長のマルコムとすれ違った。
「お嬢様、おはようございます」
マルコムが、好々爺のようににっこりと顔に皺を寄せて、挨拶をする。
「おはようございます」
「フェリクス様はすでにいらしてますよ」
「分かりました! ありがとうございます!」
レイも笑顔で返事を返した。
「義父さん、おはようございます!」
「うん、おはよう」
レイがダイニングに着くと、フェリクスはすでに席に座ってコーヒーを飲んでいた。
フェリクスの背後にある窓からは、朝の清々しい日の光が差し込み、彼の緩くウェーブがかかった銀髪を、キラキラと輝かせていた。
レイはフェリクスの向かいに座った。
本日のレイの朝食は、ご飯、卵焼き、ほうれん草のお浸し、漬物、味噌汁だ。——ニールが気を利かせて、食材や調味料やレシピを、フェリクスの離宮のシェフに提供してくれていたのだ。
(今日もおいしそう!)
レイはこの世界では珍しい和食の朝ごはんに、目を輝かせた。
「いっただきまーす!」
(この世界で和食が食べられる贅沢……!!)
レイはご飯とほうれん草を一緒に口に放り込むと、「くぅ~!」と小さく唸った。
レイの食事が一通り終わると、フェリクスが声をかけてきた。
「そういえば、昨日の浄化の儀では、ずっと浄化の花を降らせてたね。体調に変わりはないかい?」
「? 大丈夫ですけど……??」
レイは小首を傾げた。
「他の詠唱役の神官たちがね、レイのことを心配していたよ。張り切りすぎて、無理してるんじゃないかって」
「う~ん、特に無理はしてないですけど……」
「三大魔女は魔力量無限だから、分かりづらいのかな。浄化の花は、かなり魔力を使うんだよね。普通の人間ではあんなに連発はできないんだよ」
「え゛……」
レイはびっくりしすぎて、喉から変な声が出た。
(それ、早く言ってよーーー!!)
フェリクスは、レイの魔力量が無限であることを知っており、フェリクス自身も余裕で毎回浄化の花を降らせることができてしまうため、あまり意識していなかったようだ。——強すぎて「当たり前」のラインがバグってしまっている先代魔王様の弊害だ。
「それでいて毎回詠唱役をやってるから、神官たちは、いつレイが魔力切れで倒れないか、心配していたみたいなんだ」
フェリクスは悩ましげに眉を下げた。
「ゔぅっ……じゃあ、今日からは控えます……」
「そうだね、浄化の花はここぞという時だけにした方がいいかもね」
「はい……」
フェリクスがのほほんと言うと、レイはこくりと頷いた。
朝食後、レイが身支度を整えて玄関ホールへ向かうと、すでにフェリクスと、本日の護衛であるアルバンとランディが待っていた。
「「おはようございます、レイお嬢様」」
「おはようございます! 本日もよろしくお願いします!」
アルバンとランディ、レイはにこやかに朝の挨拶を交わした。
「じゃあ、今日も頑張ろうか」
「はい!」
フェリクスに優しく微笑まれ、レイも元気よく返事をした。
***
浄化の儀は、日に五回行われる。
浄化の儀は魔力を大量に消費するため、通常、詠唱役の神官は休憩を取りつつ、日に二度まで参加している。
ただ、「魔力量お化け」と周囲から認識されているフェリクスとレイは、浄化の儀に毎回参加していた。
それとは別に、魔力の特性として、「大量に消費するとお腹が空いてしまう」ということがある。
レイは、フェリクスの離宮のシェフに、控え室で摘めるようなおやつを作ってもらっていた。
魔力の消費が激しいレイが、お腹が空いてしまうのは当たり前で、控え室にいる神官や聖騎士たちは、微笑ましげにレイがおやつを食べる様子を眺めていた。
今日はちょうど、浄化の儀の合間に、フェリクスがアルバンを連れて軽い打合せに出ていた。
(今日のおやつは何かな~?)
レイは控え室の端っこで、ワクワクと離宮から届けられたおやつの包みを開いた。ふわりと甘い洋酒の香りが漂うパウンドケーキが出てきた。
レイがぱくりと口に含むと、甘くてほろ苦いラムレーズンと、コリコリと歯ごたえの良い胡桃が入っていた。
(おいふぃ……)
レイは幸せそうに目を瞑り、無心に食べた。
「お嬢様は、ずいぶん嬉しそうに召し上がりますね」
ランディがくすくすと笑いながら、レイの斜め前から話しかけた。
「だって、おやつがおいしいんですよ! もうそれだけで幸せですよ!」
レイは笑顔を綻ばせて答えた。
せっかくなので、ランディにもまだ開けていないおやつを差し出して、勧めてみる。
「いえ、今は護衛中なので遠慮させていただきます。そういえば、お嬢様は、今回の護衛のうちで誰が気になりました? それとも昨日求婚された方が気になりましたか?」
ランディが人懐っこく、レイに尋ねた。
「えっ!? き、求婚のことを知ってるんですか!?」
レイはびっくりして思わず大声をあげた。
ハッと気づいて、遅ればせながら、恥ずかしそうに口元を両手で覆った。
「ええ。さすがお嬢様! おモテになる~!」
「そ、そんなことないですよ!」
ランディが軽く囃し立てると、レイは慌てて否定した。
「またまた~!」
「ゔぅっ、あまり他の人に言いふらさないでくださいよ? 私、女ったらしの方はちょっと……」
「あれ? 求婚された方はそうなんですか?」
「そうですね……」
レイは、水竜王ハムレットを想い、非常に遠い目をした。彼以上の女好きを、未だかつて見たことは無かった。
「それなら、護衛の騎士はどうですか? 全員独身で婚約者なし! 業務に忙殺されているから、浮気の心配もなし! ……それとも、お嬢様にはすでに婚約者が……?」
「婚約者なんていないですよ!」
レイはまたもや慌てて否定した。
「あれ? ルーファス大司教とのお噂は……?」
「ルーファスとの噂? 何かあるんですか?」
レイは初めて聞く話に、目を瞬かせた。
「いえいえ、ご存知ないなら大丈夫ですよ! 単なる噂ですし!」
「いや、でも……」
(すっごい、気になる!)
レイは、いやそこは誤魔化さないでくれと、心から思った。
「それより、お嬢様は気になる騎士はいましたか?」
ランディが、淡いブラウン色の瞳で、じっと覗き込んできた。ふざけているようで、ちょっとだけ真剣そうな雰囲気だ。
(なぜいきなり恋バナを……???)
「気になると言われましても、浄化の儀に集中してるので……」
レイは、しどろもどろに答えた。
「あーーーっ! もったいない! こんなにたくさんいい男がいるのに!!」
ランディは、わざとらしく頭を抱えて嘆いた。
(えぇ……)
レイは、ランディの大袈裟な様子に、一歩引いた。
「アルバン騎士は、フェリクス大司教の覚えもめでたい専属護衛ですよ! 次に聖剣の騎士になるのは彼ではないかと言われているんです。デレク騎士は、聖属性所属の聖騎士の中では、第二席の出世頭! お二人とも、教会内では人気の聖騎士ですよ! ケイは伯爵家の三男で、直感頼りなところもあるけど、力も体力もあっていい騎士ですよ! アレクシスも侯爵家の三男で、妖精の血を強く引いてとっつきにくいところはあるけど、身内は大事にしますよ!」
「え、えぇえっとぉ~……」
(ラ、ランディさんって、騎士マニア……??)
レイは、ランディの勢いに押されて、たじろいでいた。
「もちろん、私も伯爵家の次男ですから! 顔良し、身分良し、魔力良しで、婿入りも可能ですよ!」
ランディに、バチコンとウィンクを決められて捲し立てられ、レイはただただぽかーんと聞いていた。もはや何を言われたのかは、理解していなかった。
「……ランディ……」
背後から、アルバンの地を這うような低い声が響いた。
「わわっ!? アルバン騎士!?」
「お嬢様を困らせるな。護衛から外されたいのか?」
「い、いえっ!」
アルバンの鋭い三白眼に睨みつけられ、ランディは「失礼しました!」と慌ててレイから少し離れた。
アルバンは「お嬢様、少し席を外します」と断りを入れると、ランディの首根っこを捕まえて、控え室を出て行った。
(……ランディさん、こってり絞られるのかな……?)
レイは呆気にとられて、二人の背中を見送った。
「レイ、大丈夫だった?」
「あ、義父さん。お帰りなさい」
レイは、いつの間にか戻っていたフェリクスの方を見上げた。
「う~~~ん、彼を護衛にしたのは間違いだったのかな? でも、観えたんだよね……」
フェリクスが珍しく首を捻りつつ、呟いた。
(はっ! ランディさんの失業のピンチ!?)
「私は別に困ったことは無かったですよ」
レイは、フェリクスの袖をツンと引っ張ると、気を遣ってそう答えた。
レイの愛らしい仕草に、フェリクスがハッと目を丸くした。
(ランディさん、変わった人だとは思うけど……)
レイは、ランディに急にグイグイこられたことにはびっくりしていたが、すぐに担当を変えてもらう程ではないと感じていた。
(それに、今って教会が忙しいだろうし、急に護衛の変更があったら、迷惑だよね……?)
「仕方ないね。また変なことを言われたら、ちゃんと僕に言うんだよ?」
「はい!」
フェリクスに優しく言われ、レイは素直に返事をした。
(……それにしても、気になる騎士様なんて……あれ?)
レイは不意に、一瞬だけ以前ユグドラで見かけた少年が思い浮かんだ。
「レイ、そろそろ時間だよ」
「は~い! すぐ行きます!」
フェリクスに呼ばれ、レイはパッと頭を切り替えた。詠唱には集中力がいるのだ。
レイは、すぐにフェリクスの後を追った。
レイは気持ち良く目を覚ました。
今回泊まっているフェリクスの宿舎、もとい離宮は、昨年以上に快適に整えられていた。
天蓋付きのお姫様ベッドには、ふんわりとした白いレースがかかっていて、大きくてふかふかの枕やクッションがいくつも置かれている。今年は枕元に、琥珀用の猫クッションも増えていた。
壁沿いには二人掛けのピンク色のソファがあり、膝掛けと猫さん柄のクッションが置かれている。純白のテーブルは、楕円形の天板で、優美な猫脚だ。
クリスタルライトが組み込まれたシャンデリアは、手元にあるリモコンのような魔道具で、点けたり消したりできる。明るさの調整も可能だ。
レイの部屋は、もちろん、フェリクスの部屋の隣だ。
何かあれば、部屋に備え付けの呼び鈴を鳴らせば、執事長のマルコムや侍女たちだけでなく、フェリクスも駆けつけてくれる。
本当に至れり尽くせりの環境なのだ。
レイは女性神官の制服に着替えると、ダイニングへと向かった。
階段を下りていると、執事長のマルコムとすれ違った。
「お嬢様、おはようございます」
マルコムが、好々爺のようににっこりと顔に皺を寄せて、挨拶をする。
「おはようございます」
「フェリクス様はすでにいらしてますよ」
「分かりました! ありがとうございます!」
レイも笑顔で返事を返した。
「義父さん、おはようございます!」
「うん、おはよう」
レイがダイニングに着くと、フェリクスはすでに席に座ってコーヒーを飲んでいた。
フェリクスの背後にある窓からは、朝の清々しい日の光が差し込み、彼の緩くウェーブがかかった銀髪を、キラキラと輝かせていた。
レイはフェリクスの向かいに座った。
本日のレイの朝食は、ご飯、卵焼き、ほうれん草のお浸し、漬物、味噌汁だ。——ニールが気を利かせて、食材や調味料やレシピを、フェリクスの離宮のシェフに提供してくれていたのだ。
(今日もおいしそう!)
レイはこの世界では珍しい和食の朝ごはんに、目を輝かせた。
「いっただきまーす!」
(この世界で和食が食べられる贅沢……!!)
レイはご飯とほうれん草を一緒に口に放り込むと、「くぅ~!」と小さく唸った。
レイの食事が一通り終わると、フェリクスが声をかけてきた。
「そういえば、昨日の浄化の儀では、ずっと浄化の花を降らせてたね。体調に変わりはないかい?」
「? 大丈夫ですけど……??」
レイは小首を傾げた。
「他の詠唱役の神官たちがね、レイのことを心配していたよ。張り切りすぎて、無理してるんじゃないかって」
「う~ん、特に無理はしてないですけど……」
「三大魔女は魔力量無限だから、分かりづらいのかな。浄化の花は、かなり魔力を使うんだよね。普通の人間ではあんなに連発はできないんだよ」
「え゛……」
レイはびっくりしすぎて、喉から変な声が出た。
(それ、早く言ってよーーー!!)
フェリクスは、レイの魔力量が無限であることを知っており、フェリクス自身も余裕で毎回浄化の花を降らせることができてしまうため、あまり意識していなかったようだ。——強すぎて「当たり前」のラインがバグってしまっている先代魔王様の弊害だ。
「それでいて毎回詠唱役をやってるから、神官たちは、いつレイが魔力切れで倒れないか、心配していたみたいなんだ」
フェリクスは悩ましげに眉を下げた。
「ゔぅっ……じゃあ、今日からは控えます……」
「そうだね、浄化の花はここぞという時だけにした方がいいかもね」
「はい……」
フェリクスがのほほんと言うと、レイはこくりと頷いた。
朝食後、レイが身支度を整えて玄関ホールへ向かうと、すでにフェリクスと、本日の護衛であるアルバンとランディが待っていた。
「「おはようございます、レイお嬢様」」
「おはようございます! 本日もよろしくお願いします!」
アルバンとランディ、レイはにこやかに朝の挨拶を交わした。
「じゃあ、今日も頑張ろうか」
「はい!」
フェリクスに優しく微笑まれ、レイも元気よく返事をした。
***
浄化の儀は、日に五回行われる。
浄化の儀は魔力を大量に消費するため、通常、詠唱役の神官は休憩を取りつつ、日に二度まで参加している。
ただ、「魔力量お化け」と周囲から認識されているフェリクスとレイは、浄化の儀に毎回参加していた。
それとは別に、魔力の特性として、「大量に消費するとお腹が空いてしまう」ということがある。
レイは、フェリクスの離宮のシェフに、控え室で摘めるようなおやつを作ってもらっていた。
魔力の消費が激しいレイが、お腹が空いてしまうのは当たり前で、控え室にいる神官や聖騎士たちは、微笑ましげにレイがおやつを食べる様子を眺めていた。
今日はちょうど、浄化の儀の合間に、フェリクスがアルバンを連れて軽い打合せに出ていた。
(今日のおやつは何かな~?)
レイは控え室の端っこで、ワクワクと離宮から届けられたおやつの包みを開いた。ふわりと甘い洋酒の香りが漂うパウンドケーキが出てきた。
レイがぱくりと口に含むと、甘くてほろ苦いラムレーズンと、コリコリと歯ごたえの良い胡桃が入っていた。
(おいふぃ……)
レイは幸せそうに目を瞑り、無心に食べた。
「お嬢様は、ずいぶん嬉しそうに召し上がりますね」
ランディがくすくすと笑いながら、レイの斜め前から話しかけた。
「だって、おやつがおいしいんですよ! もうそれだけで幸せですよ!」
レイは笑顔を綻ばせて答えた。
せっかくなので、ランディにもまだ開けていないおやつを差し出して、勧めてみる。
「いえ、今は護衛中なので遠慮させていただきます。そういえば、お嬢様は、今回の護衛のうちで誰が気になりました? それとも昨日求婚された方が気になりましたか?」
ランディが人懐っこく、レイに尋ねた。
「えっ!? き、求婚のことを知ってるんですか!?」
レイはびっくりして思わず大声をあげた。
ハッと気づいて、遅ればせながら、恥ずかしそうに口元を両手で覆った。
「ええ。さすがお嬢様! おモテになる~!」
「そ、そんなことないですよ!」
ランディが軽く囃し立てると、レイは慌てて否定した。
「またまた~!」
「ゔぅっ、あまり他の人に言いふらさないでくださいよ? 私、女ったらしの方はちょっと……」
「あれ? 求婚された方はそうなんですか?」
「そうですね……」
レイは、水竜王ハムレットを想い、非常に遠い目をした。彼以上の女好きを、未だかつて見たことは無かった。
「それなら、護衛の騎士はどうですか? 全員独身で婚約者なし! 業務に忙殺されているから、浮気の心配もなし! ……それとも、お嬢様にはすでに婚約者が……?」
「婚約者なんていないですよ!」
レイはまたもや慌てて否定した。
「あれ? ルーファス大司教とのお噂は……?」
「ルーファスとの噂? 何かあるんですか?」
レイは初めて聞く話に、目を瞬かせた。
「いえいえ、ご存知ないなら大丈夫ですよ! 単なる噂ですし!」
「いや、でも……」
(すっごい、気になる!)
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「それより、お嬢様は気になる騎士はいましたか?」
ランディが、淡いブラウン色の瞳で、じっと覗き込んできた。ふざけているようで、ちょっとだけ真剣そうな雰囲気だ。
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レイは、しどろもどろに答えた。
「あーーーっ! もったいない! こんなにたくさんいい男がいるのに!!」
ランディは、わざとらしく頭を抱えて嘆いた。
(えぇ……)
レイは、ランディの大袈裟な様子に、一歩引いた。
「アルバン騎士は、フェリクス大司教の覚えもめでたい専属護衛ですよ! 次に聖剣の騎士になるのは彼ではないかと言われているんです。デレク騎士は、聖属性所属の聖騎士の中では、第二席の出世頭! お二人とも、教会内では人気の聖騎士ですよ! ケイは伯爵家の三男で、直感頼りなところもあるけど、力も体力もあっていい騎士ですよ! アレクシスも侯爵家の三男で、妖精の血を強く引いてとっつきにくいところはあるけど、身内は大事にしますよ!」
「え、えぇえっとぉ~……」
(ラ、ランディさんって、騎士マニア……??)
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「……ランディ……」
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「わわっ!? アルバン騎士!?」
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「い、いえっ!」
アルバンの鋭い三白眼に睨みつけられ、ランディは「失礼しました!」と慌ててレイから少し離れた。
アルバンは「お嬢様、少し席を外します」と断りを入れると、ランディの首根っこを捕まえて、控え室を出て行った。
(……ランディさん、こってり絞られるのかな……?)
レイは呆気にとられて、二人の背中を見送った。
「レイ、大丈夫だった?」
「あ、義父さん。お帰りなさい」
レイは、いつの間にか戻っていたフェリクスの方を見上げた。
「う~~~ん、彼を護衛にしたのは間違いだったのかな? でも、観えたんだよね……」
フェリクスが珍しく首を捻りつつ、呟いた。
(はっ! ランディさんの失業のピンチ!?)
「私は別に困ったことは無かったですよ」
レイは、フェリクスの袖をツンと引っ張ると、気を遣ってそう答えた。
レイの愛らしい仕草に、フェリクスがハッと目を丸くした。
(ランディさん、変わった人だとは思うけど……)
レイは、ランディに急にグイグイこられたことにはびっくりしていたが、すぐに担当を変えてもらう程ではないと感じていた。
(それに、今って教会が忙しいだろうし、急に護衛の変更があったら、迷惑だよね……?)
「仕方ないね。また変なことを言われたら、ちゃんと僕に言うんだよ?」
「はい!」
フェリクスに優しく言われ、レイは素直に返事をした。
(……それにしても、気になる騎士様なんて……あれ?)
レイは不意に、一瞬だけ以前ユグドラで見かけた少年が思い浮かんだ。
「レイ、そろそろ時間だよ」
「は~い! すぐ行きます!」
フェリクスに呼ばれ、レイはパッと頭を切り替えた。詠唱には集中力がいるのだ。
レイは、すぐにフェリクスの後を追った。
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