鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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フェニックスの祝祭1

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 今日はレイは、聖鳳教会本部にあるフェリクスの執務室を訪れていた。

 応接スペースのソファに座っているのは、聖属性の大司教フェリクス、現教皇ライオネル、光属性の大司教ルーファス、レイだ。

 ライオネルの膝の上には、久しぶりの再会に機嫌良く喉を鳴らす琥珀が、ちょこんと香箱座りをしていた。琥珀の首元には、白地に青いラインが入った使い魔のリボンが付けられている——教会内で自由に影移動できる許可証に当たるものだ。

「レイも僕の膝に座るかい?」

 チラリと隣のライオネルの様子を窺った後、フェリクスが目尻に皺を寄せ、うきうきと尋ねた。

「私、もうそんな歳じゃありませんよ」

 ただ、義娘のレイの方は、無情にもふるふると首を横に振った。

「義娘の成長は嬉しいけど、寂しいものだね……」

 フェリクスは、ソファの隣に座る大柄なライオネルの肩に、よよよと嘆くように額を預けた。
 ライオネルは、主の初めて見る行動に、男らしい精悍な顔をピキリと強張らせた。

「フェリクス様、もしよろしかったら、席を代わりましょうか?」

 ルーファスが、気遣うような柔らかい口調で尋ねた。サラサラの淡い金髪に、淡い黄色の瞳をしていて、優しげな白皙の美貌は健在だ。

「……うん、変わってくれるかな?」

 フェリクスはそう言うや否や、そそくさとルーファスと席を代わった。
 ほんわかと嬉しそうな雰囲気が、レイの隣の席から伝わってくる。

「また少し背が伸びたかな? それに、神官服も間に合って良かった。とてもよく似合っているよ」

 フェリクスが、レイの頭を優しく撫でた。蜂蜜のようにとろりと濃い黄金眼は、慈愛に満ちてキラキラと星々が輝いていた。

「ふふっ。ありがとうございます。背が伸びたのは、光竜の里のお米のおかげですよ。それに成長期ですから! まだまだ伸びますよ!」

 レイはにっこりと微笑んで、フェリクスを見上げた。

 白と青を基調とした詰襟のワンピースは、レイにピッタリと似合っていた。真っ直ぐな長い黒髪はハーフアップにしていて、全体的に清楚で綺麗めにまとまっている。
 ワンピースの裏地には、昨年と同じように、漏れ出る魔力量を中級魔術師ぐらいに抑えるための魔術刺繍が、こっそり施されている。
 そして、今年もフード付きのケープを羽織っている。ケープには聖属性所属を表す青色のラインが入っていて、もちろん、フードは認識阻害の魔術付きだ。

「うん、楽しみだね」

 フェリクスも、ふわりと柔らかく微笑み返す。

 執務室の端の方に控えていた護衛や神官達は、フェリクスの心からの笑みに、目を瞠っていた。

「フェリクス様、そろそろ本題を……」

 ライオネルが、さりげなく話を促した。

「そうだね。レイは今年も詠唱役として、浄化の儀を手伝ってくれるので良かったかな?」
「もちろんですよ!」

 フェリクスに優しく確認され、レイは二つ返事で快諾した。

 浄化の儀は、今年一年で溜め込んだ穢れを祓う儀式だ。
 聖堂内に特殊な香を焚き、詠唱役の神官たちが呪文を詠唱することで、呪いや不要な魔術の痕跡などの穢れを、信徒たちから引き剥がして浮かび上がらせる。その穢れを、フェリクスが浄化魔術で祓うのだ。

 聖属性の最上位魔物であるフェリクスの浄化の儀は、もちろん効果はばつぐんだ——毎回大盛況で、年々、参加希望者が増えている。

「うん、ありがとう。それから、昨年は祝祭日に襲撃があったし、さらに今年はレヴィは仕事でいないからね。警備を見直すことになったんだ」

 フェリクスの言葉に、レイはぎこちなく相槌を打った。ちょうどレイも心配していたことだったからだ。

 フェリクスが、専属護衛の聖騎士アルバンに視線をやった。
 アルバンは心得たとばかりに軽く頷くと、隣の控え室から、上級神官のザックと年若い聖騎士見習いたちを連れて来た。

 ザックを先頭に、聖騎士見習い三人がぞろぞろとその後に続き、応接スペースのソファから少し離れた場所に並び立った。

「ザックさん、お久しぶりです! お元気そうで良かったです!」

 レイは久々の再会に、パァッと顔色を明るくした。

「おう。レイも元気そうだな。少し背が伸びたか?」
「はい!」

 ザックは教会の大物たちを前に、少し緊張した面持ちだったが、にかっと破顔した。
 レイも、笑顔で元気よく返事を返す。

 聖騎士見習いたちは、レイよりも少し年上そうな少年たちだ。

 一人目は、ウェーブがかった紫色の髪をしていて、ハンサムな顔立ちの少年だ。どこか軽薄そうだが、親しみやすそうな雰囲気がある。淡いブラウン色の瞳は、興味深そうにレイを見つめていた。

 二人目の少年は一番大柄で、他の少年たちに比べて頭一つ分は飛び抜けて背が高く、肩幅もあってがっしりとした体格だ。黒髪の短髪に、ヘーゼル色の瞳をした、どこかやんちゃそうな顔立ちで、にこにこと笑顔でレイを見つめている。

 三人目は少し線が細めで、儚げな印象の少年だ。サラリと綺麗な銀髪を一つにまとめ、エメラルド色の瞳は、まるで森の木漏れ日のような輝きを灯しているかのようだ。人形のように綺麗に整った顔立ちで、熱心にレイをじっと見つめている。

(……あれ? あの人、どこかで見たことがあるような……?? 気のせいかな……???)

 レイはなんとなく見覚えのある顔に、目を瞬かせた。ただ、どこで出会ったのか、そしてその人本人で合っているのか何とも判別がつかず、不思議そうに少しだけ小首を傾げた。

「彼らは、昨年の祝祭期間中にスカウトした聖騎士見習いの子たちなんだ。一年間教会で鍛えてきたし、優秀だからね。せっかくだからレイの護衛をお願いしようかと思って」
「そうだったんですね」

 フェリクスに簡単に説明され、レイは素直に相槌を打った。

「お嬢様の護衛は、聖騎士は私アルバンと、デレクが交代で務めさせていただきます。見習いたちは、我々のサポートで、彼らも交代で一緒に護衛させていただきます」

 アルバンが、具体的な説明を始めた。

 彼の横には、アルバンとそう変わらない背格好の聖騎士がいた。浅黒い肌に、プラチナ色の瞳をしたエキゾチックな雰囲気の聖騎士だ。

「聖騎士のデレクです。誠心誠意お嬢様をお守りさせていただきますので、よろしくお願いします」

 デレクが、片手を胸元に当てて教会式の礼の姿勢をとると、彼の三つ編みにしたダークブラウンの髪がちょこんと揺れた。

「レイ・メーヴィスです。祝祭期間中は詠唱役を務めますので、どうぞよろしくお願いします」

 レイも丁寧に自己紹介をした。たどたどしく、見様見真似で教会式の礼の姿勢をとってみる。

「見習いは、銀髪がアレクシス、紫髪がランディ、一番大柄なのがケイです」

 アルバンがまとめて紹介をした。

 レイがにっこりと聖騎士見習いたちに微笑みかけると、彼らは揃って教会式の礼の姿勢をとった。こちらは、慣れていないレイとは違って、かなりさまになっていた。

「レイは、聖属性の適性が『極』だ。昨年の本部の浄化の儀で、浄化の花を咲かせたのは、フェリクス大司教と彼女だ。非常に優秀な神官だからな、しっかりと守ってやってくれ」

 ライオネルが、重々しく告げた。威圧するように、赤く鋭い瞳で、デレクと聖騎士見習いたちを見回す。

「「「「「はっ!」」」」」

 アルバンとデレク、そして聖騎士見習いたちは、キリッと返事をした。彼らの表情は、引き締まるを通り越して、かなり緊張していた。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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