鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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魔法少女2

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 レイたちが転移して来たのは、どこか人里離れた森の中の広場だった。

 四方を鬱蒼と茂る森の木々に囲まれ、広場の地面には、魔術の訓練をしたかのような抉れや窪みがいくつもできていた。
 広場の端の方には小さな山小屋があり、どうやらジャスティンの秘密の研究場のようだった。

「ここは……?」

 エヴァが不思議そうに、ぐるりと周囲を見回した。

「俺の魔術実験場だ。実際に魔術を撃ったり、魔道具を試運転する時は、ここでやっている。王宮の敷地内では、想定外に威力が出た場合は、危険とみなされて拘束される恐れがあるからな」

 ジャスティンが淡々と答えた。
 そして、徐に空間収納から魔法少女感が溢れるステッキ——ミラクルシャイン⭐︎愛と勇気のマジカルステッキ——を取り出した。

「持ち主に選ばれなければ、この杖で魔術は使えない。だが、持ち主に選ばれなくとも、これでロックゴーレムを粉砕したとの事例が報告されている。打撃武器としても優秀だ。とにかく、まずは握ってみてくれ」

 ジャスティンは、ずいっと、レイの方にミラクルシャイン⭐︎愛と勇気のマジカルステッキの持ち手を差し出した。

 レイは顔を顰めて、差し出されたステッキを凝視すると、ごくりと息を飲んだ。

(打撃武器……確かに、黒の塔の天井にも突き刺さってたし……ってか、それって全然マジカル関係ないじゃん! それに、誰かがこのステッキを振り回して、ロックゴーレムを討伐したってことだよね……?)

 魔法少女感が溢れんばかりのステッキを、ゴツい騎士が振り回す姿を脳内で想像してしまい、レイはひたすらに気が遠くなる思いだった。

「選ばれし者がこの杖を握れば、『変身の呪文』なるものが自然と思い浮かぶらしい……変身後は、自動で身体強化魔術がかかり、敵を灰燼と帰す特殊魔術を放てるようになる、と文献には書かれていた」

(完っ全に、魔法少女じゃん!!)

 ジャスティンの説明に、レイは心の中でツッコミを入れた。

「それが本当なら、是非とも黒の塔じゃなくて、騎士団か魔術師団に……」

 レイはさりげなく、このステッキを他に押し付けようとした。この歳にもなって、魔法少女に変身するなど、たまったものではなかった。

「騎士団と魔術師団は調査済みだ。残念だが、誰も選ばれし者はいなかった」

 ジャスティンにステッキを押し付けられた瞬間、レイの脳内にある言葉が思い浮かんだ。

(ゔっ……なんか「変身の呪文」みたいなものが頭に直接流れてくる……!? しかも、身体が勝手に動く……!!?)

 レイはいつの間にかステッキを握り締め、変身の呪文を口にしていた。

「ルクスルクスイントラメ! イルミナーレ!」

 レイが天高く掲げたステッキから、キラキラと虹色に輝く光が溢れ出した。
 虹色の光は繭のようにレイを包み込み、さらに眩い光を放っていった。

「こ、これが選ばれし者!?」

 エヴァは眩しそうに目を細めて、レイが変身する姿を見つめていた。

「うっ……動けねぇ……」

 ライデッカーは顔を顰めて呟いた。

「金縛りの魔術式が入っているな」

 ジャスティンは冷静に分析をしていた。

 光の繭がてっぺんから、リボンのようにシュルリシュルリと解けていくと、眩い光の中に一人の少女が立っていた。

 ドリルに巻かれたピンク色のポニーテールはふわふわと揺れ、ゆっくりと見開かれた瞳は、色鮮やかなピンクスピネル色だった。
 白とピンクを基調としたファンシーでかわいらしい衣装で、純白のパニエをたっぷりと重ねたピンク色のスカートが、魔力の風に乗ってひらりと舞った。

 そしてレイは、キュピーーーン⭐︎と決めポーズをとっていた。

(…………ゔぅっ……恥ずかしすぎて、死にたい…………)

 レイは心の中で大号泣していた。

「これが、選ばれし者……?」
「は? なんじゃこりゃ!?」

 エヴァとライデッカーは驚愕の表情で、変身したレイを見つめた。初めて見た魔法少女にどう反応して良いのか分からない、といった感じだ。

「ほお」

 ジャスティンは研究対象を見るように、興味深そうにレイを観察した。

「ふわぁ! 久しぶりのシャバにゃん!」

 その時、突然、変身したレイの周りを飛び回る玉型の精霊が現れた。
 握り拳大ぐらいの少し大きめサイズで、淡い黄色に瞬いている。

「かわいい!」

 エヴァが金色の瞳をキラキラさせて、黄色い声をあげた。

「えっ?」

(ただの光の玉だよね……???)

 レイには相変わらず玉型の精霊の美醜が分からなかった。もちろん、どこに顔があるのかも分かってはいなかった。

「ボクはにゃんタロー! 魔法少女のおともの精霊にゃんよ! キミが新しい魔法少女かにゃ? よろしくにゃん!」

 淡い黄色の光の玉は、非常にかわいらしい元気な声で挨拶をした。

「「「えぇーーーっ!!?」」」
「ほう」

 ライデッカーとエヴァとレイは驚きの声をあげ、ジャスティンは興味深そうに今度は精霊を見つめた。

「ミラクルシャイン⭐︎愛と勇気のマジカルステッキには、精霊が宿っていたのか」

 ジャスティンが感心して呟いた。

「チ、チ、チ。今回は『ウィッシングシャイン⭐︎希望と幸福のマジカルステッキ』にゃんよ! 魔法少女はどんどんバージョンアップしていくにゃん! そうじゃないと、ご本の前のみんなも飽きてきちゃうにゃん!」

 にゃんタローは、自信満々に明滅した。

「『ご本の前のみんな』……?」

 レイは、どこか元の世界で聞いたことがあるような無いような言葉に、小首を傾げた。

「どういうことだ? 『本』とは一体何のことだ?」

 ジャスティンが生真面目に顔を顰め、にゃんタローに質問をした。

「ご本は、『魔法少女物語』のことにゃん! 今は滅んだエスパルド帝国でバズったご本にゃん! 魔術が苦手な女の子が、お助け精霊の力を借りて魔法少女に変身して、強力な魔術をバンバン撃って、悪の敵をバッタバッタと倒していくにゃん! ピュアなラブロマンス付きにゃんよ!」

 にゃんタローは、元気よく答えた。

「『バズった』?」

 エヴァが聞き慣れない言葉に、訊き返した。

「うん、その国の言葉で『すごく流行った』ってことだにゃん! 今はもう使われてないのかにゃ?」

 にゃんタローは不思議そうに、宙でくるりと回った。

「そうねぇ~『バズった』なんて、初めて聞いたわ。にゃんタローが、その『お助け精霊』ってことかしら?」

 エヴァはそのまま質問を続けた。

「違うにゃんよ! それは物語の中にだけいる空想上の精霊にゃん! 魔法少女に憧れる女の子たちの純粋ピュアな想いと、魔法少女になりたくて魔術を頑張った女の子たちが大きくなったら戦場に投入したい大人たちの小汚い思惑が融合して、ボクが生まれたにゃん!」

 にゃんタローは、一際明るい声で言い放った。

「とんでもねぇもんでできてるな」

 ライデッカーがじと目でぽつりと呟いた。

 精霊は、自然物や、生き物の念や想いから生まれる神秘の生き物だ。
 そして時には、人間の間の強烈な流行から生まれることもある。それだけ大量の人間が、同じような想いや念を抱くからだ。

「半分は血生臭いものでできてるにゃんよ!」

 にゃんタローは、くるりとライデッカーの周りを飛んで回った。

「自慢するようなことじゃないんじゃ……」

 エヴァが困惑して呟いた。

「魔法少女は悪を倒すために戦うにゃん! 純粋ピュアなだけじゃやっていけにゃんよ!」

 にゃんタローは、玉型の精霊の表情が分からないレイでも分かるぐらい、ドヤァとして答えた。

「『魔法少女物語』……」

 ジャスティンは、腕を組み顎先に手を乗せると、深く考え込んだ。

「ジャスティンは何か知ってるんですか?」
「確か王宮の禁書架にあったな。高度な誘惑と扇動の魔術式が組み込まれていたな。軍事利用されていたのか……」

 レイが尋ねると、ジャスティンは難しい顔のまま、彼が知っていることを教えてくれた。

「そうにゃん! そうやって軍人になりたい女の子を増やしてたにゃん! 軍内で女の子が活躍できるように、法整備も進めてたにゃんよ! ただ、女の子たちが育つ前に、国自体が滅んじゃったけどにゃ!」

 にゃんタローは、いけしゃあしゃあと答えた。

「にゃんタローは、自分の生まれた国が滅んじゃって、嫌じゃなかったの?」

 レイは心配そうに尋ねた。

「ううん、全然にゃん! だって、『悪は徹底的にぶっ潰す』にゃん⭐︎」

 にゃんタローは、「悪は徹底的にぶっ潰す」をやけにドスの効いた低い声で呟いた。語尾の「にゃん⭐︎」でテンションを上げて、かわいらしさアピールすることも、決して忘れてはいない。

(……す、筋金入りの魔法少女のお伴……)

 レイは、にゃんタローの悪を絶対に許さない正義の心と、そんな時でも決してマスコットとしての使命を忘れないプロとしての姿に、心の底から慄いた。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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