鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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新人演習6

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 今年の秋の新人軍事演習には、第一王子のエイダンと第三王子のテオドールが参加していた。

 現国王は未だ王太子を指名しておらず、王位継承権の順位さえも決めていなかった。
 そのことが、余計に国内での正妃派と側妃派の争いを苛烈なものにしていた。


 エイダンは、火竜の加護の厚い混じり気のない鮮やかな赤い色の髪と瞳をしていて、どこか初代国王の面影があり、非常に漢らしい顔つきだ。また、火竜の血を濃く継いでいるためか、かなり大柄で頑丈だ。

 成人するまでは騎士団に所属し、魔術は特に火魔術と身体強化魔術が得意だ。剣術や体術も修めており、元々恵まれた体躯をしていることから、騎士団内でも生半可な者では束になっても相手にすらならなかった。

 一応、幼馴染の手練れたちを側近や近衛騎士として従えてはいるが、今まで暗殺者のどんな襲撃も、その剛腕で打ち破ってきた。
 その正々堂々と迎え撃って勝ち取るストロングスタイルは、特に騎士団所属の男性陣から人気が高い。


 一方、テオドールも火竜の加護が厚い深紅の髪と瞳をしている。母の側妃によく似た繊細に整った顔立ちで、体格も男性にしては細身で、背丈も平均よりは少し高いくらいだ。
 優しく落ち着いた印象を持たれやすいためか、こちらは特に貴族の紳士淑女から人気が高い。

 幼い頃に双子の兄を亡くし、それ以降、なぜか火竜以外の人外の高位者の強力な加護を持つようになった。——今となっては、彼には毒も呪いも一切効かない身体となっているのである。
 このような特異体質もあり、現在では呪い魔術を扱う特殊魔術研究所の所長も任されている。

 強力な加護は他の高位者も惹きつけるのか、高ランクの雷竜がテオドールを気に入り、加護を与えて護衛をするようになった。——暗殺者としてはますます頭の痛い問題であった。


 二人の王子は公式行事以外ではほとんど交流はなく、特段仲が良いとも悪いとも噂は無かった。

 このためか、新人の軍事演習に王子が二人揃って参加すると分かった時には、関係各所に激震が走った。

 野外での軍事演習。しかも、魔物との戦闘訓練もあるとなれば、事故に見せかけて暗殺するには絶好の機会だ。

 結果として、急遽、第一騎士団団長イシュガルと近衛騎士たちも参加することとなった。

 もちろん、正妃と側妃それぞれに雇われた暗殺者たちも——


***


 新人演習三日目。

 本日は朝から一日かけての戦闘訓練だ。

 本日も魔術師団副団長のユルゲンが直々に頭を下げて、特殊魔術研究所の魔術師に、第三騎士団の魔術サポートを依頼しに来ていた。

 エヴァもレイも特に断る理由がないため、二つ返事で頷いた。

「それにしても、サポートを断った方々は、訓練中は何をされてるのでしょうか?」

 レイはふと気になって尋ねた。

「それぞれですよ。テントでずっと暇をしている令嬢もいれば、好みの騎士に付きまとって彼らの後について森に入る令嬢もいます。まぁ、どちらにしろ命令違反で減点対象ですが」

 ユルゲンが律儀に答えてくれた。もはや彼女たち令嬢魔術師に対しては何の感慨も思い浮かばないのか、非常に凪いだ表情をしていた。

「……大変ですね……」
「いえ。これでまた人員を整理できます」

 レイが不憫に思って言うと、ユルゲンはキリッと答えた。彼の中ではもうとっくに折り合いがついているのだろう。

「レイちゃん。彼女たち令嬢魔術師を推薦したのは、ラングフォード魔術伯爵だから。きっとレイちゃんがおねだりすれば、かの方もむやみに推薦状を書くことを止めてくれると思うよ?」

 ライデッカーが身を屈めると、レイに耳打ちした。

「え。でも、私もラングフォード魔術伯爵に推薦状を書いてもらいましたし、そんなお願いをするのはご迷惑なのでは……?」
「いや、むしろ人助けになるから。あの方は、ただ女性にいい顔したいだけだから。ちょ~~~っと上目遣いで『他の女の人の推薦状を書いちゃヤダ』って言ってくれるだけでいいから」

 レイとライデッカーがおしゃべりしていると、ユルゲンが口を挟んだ。

「まさか、レイ嬢はラングフォード卿に推薦された黒の塔の魔術師……?」
「そうですけど……」

 レイはきょとんとして、小首を傾げた。

「なぜ、ラングフォード卿は魔術師団うちには、碌な人材を紹介しないんだ……!!?」

 ユルゲンは嘆くように急に頭を抱えだした。

「いや、俺もレイちゃんの推薦状書いてるから。レイちゃんは黒の塔向きの人材だからね! 今さら魔術師団には渡さないからね!」

 ライデッカーは、すかさずユルゲンに釘を刺していた。

「ほら、ユルゲン副団長もこんなに困ってるよ? 人助けだと思ってさ~」

 ライデッカーはレイの方にくるりと向き直ると、さらに言い募った。

「……それなら、今度ラングフォード魔術伯爵にお会いした時になりますけど……」

 押しに弱いレイは、渋々了承した。少しだけ唇を尖らせる。

「おぉ! 助かります!! 奴に制裁の鉄槌を!!!」

 ユルゲンは感極まって、レイの両手を握った。その手をブンブンと、上下に振る。よほど令嬢魔術師は頭の痛い問題だったのであろう。

(水竜王様にとって、鉄槌になるのかなぁ……???)

 レイは「あはは……」と愛想笑いを浮かべて、誤魔化していた。


***


 本日は、エヴァとレイが同じ班になった。

 まだ魔術師と組んでいない第三騎士団の見習い騎士たちの元には、なぜかフェルと聖騎士アルバンもいた。

 アルバンは主人のわがままにはもう慣れてしまっているようで、端の方で粛々とフェルの護衛任務をしていた。レイたちが来たのに気づくと、小さく目礼をした。

「今日も一緒にいいかな?」

 フェルがわくわくと嬉しそうな表情でレイに尋ねると、彼女は隣にいるエヴァを見上げた。

「……私は構わないわよ。あとは騎士団の方に確認してちょうだい」

 エヴァはあっさりと答えた。

「ありがとうございます! えっと……」

 レイはエヴァにお礼を言って、今度は残っている見習い騎士たちの方に顔を向けた。

 見習い騎士たちは「神官様と聖騎士様がついて来てくださるなら、心強いですね」と笑顔で快諾してくれた。


 本日は第三騎士団の見習い騎士四名、黒の塔からはエヴァとレイ、教会からはフェルとアルバンという、合計八名の班になった。

「私たちがここを出る最後の班になってしまいましたね。すぐに出立しましょう」

 第三騎士団の班のリーダーの言葉に、その場の全員が頷いた。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

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『魔法少女』編のスピンオフです。

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