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新人演習4
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新人演習二日目。
演習の参加者たちは、早朝に野営地を出立し、正午過ぎには目的地の領境の森に到着した。
本日は森の前の広場に野営を築き、残った時間は野営地近くの魔物を討伐する予定だ。
エヴァとレイは、女性の騎士や魔術師たちの近くにテントを張ると、テオドールとライデッカーの元へと向かった。本日の演習の指示を仰ぐためだ。
「おっ、来た来た! エヴァたちだ」
ライデッカーが、近寄って来るエヴァとレイに気づいて、声をあげた。
テオドールのそばには、ライデッカーの他に第一騎士団団長のイシュガルと、魔術師団副団長のユルゲンがいた。
「エヴァ嬢、レイ嬢、もう準備は大丈夫なのか?」
「はいっ!」
「バッチリですよ!」
テオドールに確認され、レイとエヴァは元気よく答えた。
「それなら、本日の戦闘訓練は第三騎士団の班に加わって、魔術で彼らをサポートしてもらえるか?」
「分かりました」
テオドールに訊かれ、レイは二つ返事で頷いた。
「あれ? 本来第三騎士団と組むべき魔術師はどうされたんですか? てっきりいつも通り自由行動だと思ってたのですが……」
エヴァは不思議に思って質問をした。
「それについては私から。一部の令嬢魔術師が命令違反を起こしまして、『第三騎士団とは組みたくない』と言い出したんです。それで、特殊魔術研究所の魔術師にも力を貸していただきたく……」
ユルゲンが申し訳なさそうに眉を下げて、話し出した。
令嬢魔術師は貴族出身の子女ばかりで、さらには結婚適齢期の者が多い。
粗野で身分の低い平民や騎士爵の子弟が多い第三騎士団ではなく、貴族が多く玉の輿も望めそうな第二騎士団と組みたがっているそうだ。
「真面目に働かないご令嬢魔術師には、演習中にできるだけ命令違反で減点ポイントを稼がせて、言い訳ができないようにしてから魔術師団から追い出すんだ。本番でやられたんじゃたまったもんじゃないからな」
ライデッカーが、レイの耳元でこっそりと教えてくれた。
「そうだったんですね。大変ですね……」
「ああ。周りくどいが、相手は一応貴族だからな。相応の理由で解雇しないと、彼女たちの実家から文句が出るんだ」
レイが目をぱちくりさせて同情すると、ライデッカーはものすごく渋い顔をして頷いた。
「それなら仕方ないですね。それで、何班分の魔術師が足りないんですか?」
エヴァは小さく溜め息を吐いたが、さっさと切り替えてユルゲンに尋ねた。
「ありがとうございます。三班分です」
ユルゲンは、少しだけほっと表情を緩めた。
「ライデッカーは所長の護衛があるから別々の班にはできないんだけど、レイちゃん一人でも大丈夫?」
「大丈夫ですよ!」
エヴァに優しく訊かれ、レイはにっこりと笑って頷いた。
「失礼ですが、彼女はかなり若いようですが……魔物も出るでしょうし……」
ユルゲンが不安げに口にした。魔術師団に所属する令嬢魔術師たちと比べても、レイはさらに幼く見えたのだ。
「レイ嬢は十分に上級魔術師としての実力がある。問題はないだろう」
「下手な魔術師より強いぞ」
テオドールとライデッカーが、力強く頷いてフォローした。
イシュガルは、テオドールとライデッカーの二人が自信を持ってレイを推す様子に、少し目を見開いた。
「……そうですか。魔術師団と組んでいない第三騎士団の班はこちらです。ついて来てください」
ユルゲンはまだ少し不安そうではあったが、先頭に立って案内を始めた。
***
「あっ! レヴィ!」
レイは、見知った顔を見つけて声をあげた。
ユルゲンに案内され、テオドールたちは残っている第三騎士団の班の元にやって来た。
そこには、三班ほどの第三騎士団の見習い騎士たちが、手持ち無沙汰にたむろしていた——どうやら他の班は、とっくに戦闘訓練の魔物狩りに出発していたようだ。
レヴィは、レイの方を振り返ると目を丸くした。
「レイ? どうしたんですか?」
「第三騎士団をサポートすることになったの!」
レヴィに訊かれ、レイは彼の元に嬉しそうに駆け寄った。素直に答える。
「レイ嬢は、彼と知り合いですか?」
「はい、そうです! 冒険者をしていた時に、一緒のパーティーでした!」
ユルゲンに尋ねられ、レイは元気よく答えた。
レイの後ろでは、レヴィもしかりと頷いている。
「それでしたら、一緒の班の方が安心でしょう。彼の班を担当してくれますか?」
「分かりました」
ユルゲンに確認され、レイはこくりと頷いた。
「殿下とライデッカー卿、ハートネット魔術伯爵は、他の班をお願いします」
ユルゲンはレイの班が決まると、今度はテオドールたちの方へ振り返った。他の二班の見習い騎士たちを集めて組み分けを始めている。
「えっと、黒の塔の魔術師ですか……この班のリーダーをしているリックです」
リックがレイに驚きながらも自己紹介をした。
「レイ・メーヴィスです。今日は魔術でサポートさせていただきます」
レイはにっこりと微笑んで自己紹介をした。
「よろしくお願いします。レヴィはもうご存知ですね……ピンク髪の方がワイアットで、細身の方がノーランです」
リックが、班の他のメンバーを紹介した。
「この前レヴィと一緒にいた方たちですね? よろしくお願いします」
レイは、ワイアットとノーランにも挨拶をした。
「「よろしくお願いします」」
ワイアットとノーランも少し面食らいながらも、挨拶をした。
レイたちが簡単に挨拶を交わしていると——
「レイ。こんなところにいた。レイも戦闘訓練に出るのかな?」
「とう……フェルさん!」
レイが振り返ると、そこには青年姿に変身したフェリクス——フェル——がいた。
フェルの後ろには、苦笑いの聖騎士アルバンが控えていた。
「僕たちも一緒にいいかな?」
「フェルさんはお仕事は大丈夫なんですか?」
「僕の仕事は結界張りだからね。もう張り終わったから、あとは自由時間なんだよ」
レイが小首を傾げて尋ねると、フェルは柔らかく目を細めてあっさりと答えた。
フェルとレイが揃ってリーダーのリックの方を振り返ると、リックは狼狽えながらも「戦力が増えるのでしたら……」と口角を引き攣らせて答えていた——彼に拒否権はないようだ。
レイたちの班は、第三騎士団からはリック、レヴィ、ノーラン、ワイアット、黒の塔からはレイ、教会からはフェルとアルバンという合計七名の大所帯となった。
他の班はすでに出発してしまったようで、レイたちの班が一番最後に野営地を立つことになった。
演習の参加者たちは、早朝に野営地を出立し、正午過ぎには目的地の領境の森に到着した。
本日は森の前の広場に野営を築き、残った時間は野営地近くの魔物を討伐する予定だ。
エヴァとレイは、女性の騎士や魔術師たちの近くにテントを張ると、テオドールとライデッカーの元へと向かった。本日の演習の指示を仰ぐためだ。
「おっ、来た来た! エヴァたちだ」
ライデッカーが、近寄って来るエヴァとレイに気づいて、声をあげた。
テオドールのそばには、ライデッカーの他に第一騎士団団長のイシュガルと、魔術師団副団長のユルゲンがいた。
「エヴァ嬢、レイ嬢、もう準備は大丈夫なのか?」
「はいっ!」
「バッチリですよ!」
テオドールに確認され、レイとエヴァは元気よく答えた。
「それなら、本日の戦闘訓練は第三騎士団の班に加わって、魔術で彼らをサポートしてもらえるか?」
「分かりました」
テオドールに訊かれ、レイは二つ返事で頷いた。
「あれ? 本来第三騎士団と組むべき魔術師はどうされたんですか? てっきりいつも通り自由行動だと思ってたのですが……」
エヴァは不思議に思って質問をした。
「それについては私から。一部の令嬢魔術師が命令違反を起こしまして、『第三騎士団とは組みたくない』と言い出したんです。それで、特殊魔術研究所の魔術師にも力を貸していただきたく……」
ユルゲンが申し訳なさそうに眉を下げて、話し出した。
令嬢魔術師は貴族出身の子女ばかりで、さらには結婚適齢期の者が多い。
粗野で身分の低い平民や騎士爵の子弟が多い第三騎士団ではなく、貴族が多く玉の輿も望めそうな第二騎士団と組みたがっているそうだ。
「真面目に働かないご令嬢魔術師には、演習中にできるだけ命令違反で減点ポイントを稼がせて、言い訳ができないようにしてから魔術師団から追い出すんだ。本番でやられたんじゃたまったもんじゃないからな」
ライデッカーが、レイの耳元でこっそりと教えてくれた。
「そうだったんですね。大変ですね……」
「ああ。周りくどいが、相手は一応貴族だからな。相応の理由で解雇しないと、彼女たちの実家から文句が出るんだ」
レイが目をぱちくりさせて同情すると、ライデッカーはものすごく渋い顔をして頷いた。
「それなら仕方ないですね。それで、何班分の魔術師が足りないんですか?」
エヴァは小さく溜め息を吐いたが、さっさと切り替えてユルゲンに尋ねた。
「ありがとうございます。三班分です」
ユルゲンは、少しだけほっと表情を緩めた。
「ライデッカーは所長の護衛があるから別々の班にはできないんだけど、レイちゃん一人でも大丈夫?」
「大丈夫ですよ!」
エヴァに優しく訊かれ、レイはにっこりと笑って頷いた。
「失礼ですが、彼女はかなり若いようですが……魔物も出るでしょうし……」
ユルゲンが不安げに口にした。魔術師団に所属する令嬢魔術師たちと比べても、レイはさらに幼く見えたのだ。
「レイ嬢は十分に上級魔術師としての実力がある。問題はないだろう」
「下手な魔術師より強いぞ」
テオドールとライデッカーが、力強く頷いてフォローした。
イシュガルは、テオドールとライデッカーの二人が自信を持ってレイを推す様子に、少し目を見開いた。
「……そうですか。魔術師団と組んでいない第三騎士団の班はこちらです。ついて来てください」
ユルゲンはまだ少し不安そうではあったが、先頭に立って案内を始めた。
***
「あっ! レヴィ!」
レイは、見知った顔を見つけて声をあげた。
ユルゲンに案内され、テオドールたちは残っている第三騎士団の班の元にやって来た。
そこには、三班ほどの第三騎士団の見習い騎士たちが、手持ち無沙汰にたむろしていた——どうやら他の班は、とっくに戦闘訓練の魔物狩りに出発していたようだ。
レヴィは、レイの方を振り返ると目を丸くした。
「レイ? どうしたんですか?」
「第三騎士団をサポートすることになったの!」
レヴィに訊かれ、レイは彼の元に嬉しそうに駆け寄った。素直に答える。
「レイ嬢は、彼と知り合いですか?」
「はい、そうです! 冒険者をしていた時に、一緒のパーティーでした!」
ユルゲンに尋ねられ、レイは元気よく答えた。
レイの後ろでは、レヴィもしかりと頷いている。
「それでしたら、一緒の班の方が安心でしょう。彼の班を担当してくれますか?」
「分かりました」
ユルゲンに確認され、レイはこくりと頷いた。
「殿下とライデッカー卿、ハートネット魔術伯爵は、他の班をお願いします」
ユルゲンはレイの班が決まると、今度はテオドールたちの方へ振り返った。他の二班の見習い騎士たちを集めて組み分けを始めている。
「えっと、黒の塔の魔術師ですか……この班のリーダーをしているリックです」
リックがレイに驚きながらも自己紹介をした。
「レイ・メーヴィスです。今日は魔術でサポートさせていただきます」
レイはにっこりと微笑んで自己紹介をした。
「よろしくお願いします。レヴィはもうご存知ですね……ピンク髪の方がワイアットで、細身の方がノーランです」
リックが、班の他のメンバーを紹介した。
「この前レヴィと一緒にいた方たちですね? よろしくお願いします」
レイは、ワイアットとノーランにも挨拶をした。
「「よろしくお願いします」」
ワイアットとノーランも少し面食らいながらも、挨拶をした。
レイたちが簡単に挨拶を交わしていると——
「レイ。こんなところにいた。レイも戦闘訓練に出るのかな?」
「とう……フェルさん!」
レイが振り返ると、そこには青年姿に変身したフェリクス——フェル——がいた。
フェルの後ろには、苦笑いの聖騎士アルバンが控えていた。
「僕たちも一緒にいいかな?」
「フェルさんはお仕事は大丈夫なんですか?」
「僕の仕事は結界張りだからね。もう張り終わったから、あとは自由時間なんだよ」
レイが小首を傾げて尋ねると、フェルは柔らかく目を細めてあっさりと答えた。
フェルとレイが揃ってリーダーのリックの方を振り返ると、リックは狼狽えながらも「戦力が増えるのでしたら……」と口角を引き攣らせて答えていた——彼に拒否権はないようだ。
レイたちの班は、第三騎士団からはリック、レヴィ、ノーラン、ワイアット、黒の塔からはレイ、教会からはフェルとアルバンという合計七名の大所帯となった。
他の班はすでに出発してしまったようで、レイたちの班が一番最後に野営地を立つことになった。
15
◆関連作品
『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。
『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。
『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。
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『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。
『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
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