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ランクアップ試験2〜Bランクへ〜
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「こんな変わった子供に『ノームにモテる』バフ……ノームに攫ってくれと言っているようなもんだろう……」
ビョルンは苦々しく呟いた。
「『変わった子供』って何ですか!? 私だって、こんなバフは望んでませんよ!!」
レイはパッと勢いよくビョルンの方を見上げて、抗議した。
「変わってるのは事実だろう……普通、ここら辺の子供は、そんな年頃でダンジョンに挑んだりしないからな。ノームに攫われるし」
「うぅっ……試験会場は別のところを選べば良かったです……」
レイはビョルンの言葉に、ラングフォード領から近場のオペルミナ領を選んだことを今更ながらに後悔した。
「ハッハッハッ! ノームは子供を攫ったり、いたずら好きという点に目をつぶれば、働き者だぞ。良い旦那になるだろう」
ニルスは豪快に笑った。
「そんなーっ!」
レイは、ほとほと困ってニルスの方を見上げた。
「レイ、今回は三日間の我慢です。期限がハッキリしてます」
「うぅ……それじゃあ、試験期間の方が先に終わっちゃうよぉ……」
レヴィの慰めになっていない慰めの言葉に、レイはがっくりと肩を落とした。
「『今回は』って……いつもこんなバフばかり付いてるのか?」
ビョルンが呆れた声を出した。
「静粛に! チーム分けは終わったな! これからBランクへのランクアップ試験の実技を始める!」
クリスタンロッキーの冒険者ギルドのマスターが、注目を集めるように、大声で今回の受験生の冒険者たちに呼びかけた。
それまでざわついていた冒険者たちはおしゃべりをやめて、ギルドマスターの方を振り向いた。
「これから皆にはこのダンジョンに潜ってもらい、一チームに一つ、この『踏破の印』を持ち帰って来てもらう。『踏破の印』は、五階層の一番奥の広い部屋に置いてある。制限時間は明日の夕刻、日が沈むまでだ」
ギルドマスターは、踏破の印をゴツい手で掲げ持ち、実技試験の説明を始めた。
踏破の印は、手のひらサイズの割符のような魔道具だ。
(転移のマーキングみたいな魔術がかかってる……たぶん、もう一個の割符があって、互いに引き合って、どこにあるか場所が分かるようになってるのかも)
レイは魔力を目に込めて、踏破の印を見て分析していた。
「もし途中で棄権する場合は、今から渡すこちらの魔道具を使ってください。使い方は握りつぶすだけです。使用者の周りに結界が張られますので、その場から動かないでください。後から職員が救助に向かいます」
ギルドの女性職員が、小さな魔道具の説明を始めた。
他のギルド職員たちは、実物を受験者たちに配っていく。
レイは配られた魔道具をしげしげと眺めた。手のひらに乗るサイズの玉だ。ぷにぷにとしていて柔らかい。
(こっちには、居場所を知らせるマーキングと結界の魔術陣が付けられてるっぽい……)
「何か質問はあるか?」
ギルドマスターが、ぐるりと受験生を見回して尋ねた。
「途中でパーティーメンバーが欠けたら、合否はどうなるのでしょうか?」
一人の受験生が軽く挙手をして、質問をした。
「実技試験では、ダンジョンを踏破できる実力のみならず、『チームで目的を達成できるかどうか』もみている。たとえ『踏破の印』を提出できたとしても、チームメンバーに欠けがあるようなら、その場合はチーム全体を失格とする」
ギルドマスターは、キッパリと言い切った。
(……それじゃあ、絶対にノームに捕まったりはできないよね……)
レイはきゅっと、腰のベルトにつけた妖精払いの術符を握りしめた。
レイがノームに攫われた時点で、三番チームは実技試験の不合格が決まったようなものだろう。
「他に質問はないか? ……無いようなら、実技試験を開始する!」
ギルドマスターは、ぐるりと受験生を見回して他に質問が無さそうだと判断すると、ギルド職員へ目配せした。
「ダンジョンへは、くじに書かれた番号順に、チームごとに入ってもらいます。前のチームがダンジョンに入ってから五分後に、次のチームに出発してもらいます。まずは、一番のチームの方!」
ダンジョンの入り口脇に立っていたギルドの職員が、説明をした。
一番のくじを引いたと思しき四人組のチームが、早速、ダンジョンの入り口へと向かって行った。
最初のチームがクォーツN二ダンジョンの中へと消えて行き、五分後、ギルド職員の声がけで、次のチームがダンジョンの中へと入って行った。
レイたちのチームは三番目だ。
「いよいよだね」
「ええ。きちんと合格しましょう」
レイは、レヴィの方を見上げた。
レヴィも、レイを見てしかりと頷く。
「フッ。私がいるのだ。このチームは合格だろう」
ニルスが自信満々に胸を張った。
「はぁ……ノームの邪魔が入らなければいいけどな……」
ビョルンは、早くも疲れが混じった溜め息を溢していた。
「三番のチームの方、どうぞ!」
ギルド職員の掛け声で、レイたちはダンジョンの中へと進んで行った。
***
——ピカッ!!!
ピーッ!!
キキッ!
「うわぁあぁあぁん! 早くも妖精払いの術符が……!!」
レイはダンジョンの入り口付近で咽び泣いた。
妖精払いの術符はそこそこの高級品だ——いわば、懐具合を嘆く魂の叫びでもある。
「ここはまだ入り口だぞ!! そんなので五階層まで持つのかっ!!?」
ビョルンがすかさずツッコミを入れた。
クォーツN二ダンジョンに入り、坑道を歩くこと数分——レイは早くもノーム特製の泥人形に狙われた。
すぐさま妖精払いの術符が反応してことなきを得たが、身代わりに術符は真っ黒になってしまった。一回限りの強力な妖精払いなのだ。
「うぅっ……試験日までに術符を量産しといて良かった……でも、想定以上に減りが早すぎる……」
レイは半べそをかきながら、腰のベルトにつけている真っ黒に焦げてしまった妖精払いの術符を新しいものと交換した。
「……そんな簡単に複製されたら、魔道具師の商売あがったりだな……」
べそべそしながらもテキパキと術符を交換しているレイを見つめながら、ニルスが呟いた。
「うぅっ……きのこの歌が頭から離れない……今、全然そんな気分じゃないのに……脳内だけテンションが高すぎるぅ……」
泣きっ面に蜂とばかりに、陽気なきのこの歌が、レイのメンタルをさらに削っていった。
***
「ここならノームも手を出して来ないだろう。ここでキャンプにするか?」
クォーツN二ダンジョンの四階層に下りると、ニルスが提案をした。
四階層は、純粋なダンジョン階層だ。
廃鉱山の坑道とは違った光景が広がっていた。
四階層は、遺跡の一部がジャングルに飲み込まれてしまったかのようなダンジョンだ。
壊れて崩れた何かの遺跡のような土壁は、苔むしていて、つる植物が巻き付き、尖った葉を茂らせていた。
オペルミナ領どころかドラゴニア王国でさえ今まで見たことがないような南国風の木々が生えていて、謎の赤い実を実らせている。
辺りには、魔物の怪鳥の不気味なホーホーという鳴き声が響き、小さなネズミのような生き物が地面を駆けて行った。
「…………うぅっ、お願いします」
レイは項垂れて、がくりと地面に膝をついた。
普段の冒険でなら、決してやらないような無防備な行動だ。
坑道が続いている一階層と三階層では、レイはノーム特製の泥人形や土人形に何度も襲われた。
その度に妖精払いの術符が発動し、レイは無事だったが、それに反比例するように、かなりの勢いで術符のストックが目減りしていった。
(術符を買うと高いから、材料を買い込んでルーファスと一緒にたくさん作ったのに……)
妖精払いの術符を買うよりは安上がりになるとはいえ、術符の材料もそこそこ高価だった。
レイの懐はシクシクと切ない悲鳴をあげていた。
「普通、強い魔物が出やすいところでキャンプは張らないんだけどな……」
ビョルンが呆れて呟いた。だが、ここでのキャンプには反対ではないようで、安全そうな場所を探し始めた。
ビョルンに導かれ、遺跡の壁に囲まれた小さな空き地にキャンプを張ることになった。
そこでビョルンは、手際よく小さな焚き火をおこした。
「見張りの順番はどうするか?」
ニルスがチームメンバー全員を見回して尋ねた。
「嬢ちゃんはさっさと休みな。そんなメンタルが落ち込んだ状態じゃ、足を引っ張るだけだよ」
ビョルンがぶっきらぼうにだが、レイを気遣って言葉をかけた。
「……ごめんなさい。ありがとうございます……」
(……そうだ。私は今、足手まといだ。あまり強い魔物が出ない坑道だと、私がノームに襲われちゃうから、わざわざこんな危ない所でキャンプを張らなきゃいけなくなったんだし……)
レイはしょんぼりと肩を落として座り込んだ。
そして、そのまましょんぼりと本日消費した妖精払いの術符を数え始めた。
「レイの分の見張りは私がやりますよ。睡眠はあまり必要じゃないんです」
「そうか? それなら頼んだ」
レヴィの申し出に、ニルスが軽く頷いた。
グルル……
「……おい……泥ワニだ……」
ビョルンが顔を青ざめさせて、震える指を鳴き声がした方へ差した。
そこには、泥をまとったワニのような大型のリザードが、獲物を狙うように、遺跡の壁越しにこちらを見つめていた。
すぐさまレヴィが剣を、ニルスがモーニングスターを構えて臨戦体制に入った。
「チッ。四階層のボス級か」
ニルスが舌打ちしてナイフを構える。
「…………泥…………?」
真っ黒になった妖精払いの術符を握り潰して、レイが幽鬼のようにゆらりと立ち上がった。
レイの右手に水魔術の、左手に氷魔術の魔術陣が現れ、煌々と青く光る。
「もうっ!! 泥もきのこも、いい加減にしてっ!!!」
レイの怒りのウォーターランスとアイスランスが炸裂した。
マッドリザードは思わぬ反撃にびっくりして逃げ出そうとしたが、すぐに特大の水と氷魔術に巻き込まれ、巨大な遺跡の壁ごと氷像と化した。
すかさずレヴィがマッドリザードに飛びかかり、その首を一閃して落とした。
「ふんっ。もう、邪魔しないでよね!!」
レイはぷっくりと頬をめいいっぱい膨らませ、ぷんすこと腰に手を当てた。
「レイ。ナイスです」
レヴィは地面に着地すると、いつも通り気軽に褒め言葉をかけた。
「「はっ……???」」
ニルスとビョルンは、呆気にとられて、ポカンと大きく口を開けたまま固まった。
ビョルンは苦々しく呟いた。
「『変わった子供』って何ですか!? 私だって、こんなバフは望んでませんよ!!」
レイはパッと勢いよくビョルンの方を見上げて、抗議した。
「変わってるのは事実だろう……普通、ここら辺の子供は、そんな年頃でダンジョンに挑んだりしないからな。ノームに攫われるし」
「うぅっ……試験会場は別のところを選べば良かったです……」
レイはビョルンの言葉に、ラングフォード領から近場のオペルミナ領を選んだことを今更ながらに後悔した。
「ハッハッハッ! ノームは子供を攫ったり、いたずら好きという点に目をつぶれば、働き者だぞ。良い旦那になるだろう」
ニルスは豪快に笑った。
「そんなーっ!」
レイは、ほとほと困ってニルスの方を見上げた。
「レイ、今回は三日間の我慢です。期限がハッキリしてます」
「うぅ……それじゃあ、試験期間の方が先に終わっちゃうよぉ……」
レヴィの慰めになっていない慰めの言葉に、レイはがっくりと肩を落とした。
「『今回は』って……いつもこんなバフばかり付いてるのか?」
ビョルンが呆れた声を出した。
「静粛に! チーム分けは終わったな! これからBランクへのランクアップ試験の実技を始める!」
クリスタンロッキーの冒険者ギルドのマスターが、注目を集めるように、大声で今回の受験生の冒険者たちに呼びかけた。
それまでざわついていた冒険者たちはおしゃべりをやめて、ギルドマスターの方を振り向いた。
「これから皆にはこのダンジョンに潜ってもらい、一チームに一つ、この『踏破の印』を持ち帰って来てもらう。『踏破の印』は、五階層の一番奥の広い部屋に置いてある。制限時間は明日の夕刻、日が沈むまでだ」
ギルドマスターは、踏破の印をゴツい手で掲げ持ち、実技試験の説明を始めた。
踏破の印は、手のひらサイズの割符のような魔道具だ。
(転移のマーキングみたいな魔術がかかってる……たぶん、もう一個の割符があって、互いに引き合って、どこにあるか場所が分かるようになってるのかも)
レイは魔力を目に込めて、踏破の印を見て分析していた。
「もし途中で棄権する場合は、今から渡すこちらの魔道具を使ってください。使い方は握りつぶすだけです。使用者の周りに結界が張られますので、その場から動かないでください。後から職員が救助に向かいます」
ギルドの女性職員が、小さな魔道具の説明を始めた。
他のギルド職員たちは、実物を受験者たちに配っていく。
レイは配られた魔道具をしげしげと眺めた。手のひらに乗るサイズの玉だ。ぷにぷにとしていて柔らかい。
(こっちには、居場所を知らせるマーキングと結界の魔術陣が付けられてるっぽい……)
「何か質問はあるか?」
ギルドマスターが、ぐるりと受験生を見回して尋ねた。
「途中でパーティーメンバーが欠けたら、合否はどうなるのでしょうか?」
一人の受験生が軽く挙手をして、質問をした。
「実技試験では、ダンジョンを踏破できる実力のみならず、『チームで目的を達成できるかどうか』もみている。たとえ『踏破の印』を提出できたとしても、チームメンバーに欠けがあるようなら、その場合はチーム全体を失格とする」
ギルドマスターは、キッパリと言い切った。
(……それじゃあ、絶対にノームに捕まったりはできないよね……)
レイはきゅっと、腰のベルトにつけた妖精払いの術符を握りしめた。
レイがノームに攫われた時点で、三番チームは実技試験の不合格が決まったようなものだろう。
「他に質問はないか? ……無いようなら、実技試験を開始する!」
ギルドマスターは、ぐるりと受験生を見回して他に質問が無さそうだと判断すると、ギルド職員へ目配せした。
「ダンジョンへは、くじに書かれた番号順に、チームごとに入ってもらいます。前のチームがダンジョンに入ってから五分後に、次のチームに出発してもらいます。まずは、一番のチームの方!」
ダンジョンの入り口脇に立っていたギルドの職員が、説明をした。
一番のくじを引いたと思しき四人組のチームが、早速、ダンジョンの入り口へと向かって行った。
最初のチームがクォーツN二ダンジョンの中へと消えて行き、五分後、ギルド職員の声がけで、次のチームがダンジョンの中へと入って行った。
レイたちのチームは三番目だ。
「いよいよだね」
「ええ。きちんと合格しましょう」
レイは、レヴィの方を見上げた。
レヴィも、レイを見てしかりと頷く。
「フッ。私がいるのだ。このチームは合格だろう」
ニルスが自信満々に胸を張った。
「はぁ……ノームの邪魔が入らなければいいけどな……」
ビョルンは、早くも疲れが混じった溜め息を溢していた。
「三番のチームの方、どうぞ!」
ギルド職員の掛け声で、レイたちはダンジョンの中へと進んで行った。
***
——ピカッ!!!
ピーッ!!
キキッ!
「うわぁあぁあぁん! 早くも妖精払いの術符が……!!」
レイはダンジョンの入り口付近で咽び泣いた。
妖精払いの術符はそこそこの高級品だ——いわば、懐具合を嘆く魂の叫びでもある。
「ここはまだ入り口だぞ!! そんなので五階層まで持つのかっ!!?」
ビョルンがすかさずツッコミを入れた。
クォーツN二ダンジョンに入り、坑道を歩くこと数分——レイは早くもノーム特製の泥人形に狙われた。
すぐさま妖精払いの術符が反応してことなきを得たが、身代わりに術符は真っ黒になってしまった。一回限りの強力な妖精払いなのだ。
「うぅっ……試験日までに術符を量産しといて良かった……でも、想定以上に減りが早すぎる……」
レイは半べそをかきながら、腰のベルトにつけている真っ黒に焦げてしまった妖精払いの術符を新しいものと交換した。
「……そんな簡単に複製されたら、魔道具師の商売あがったりだな……」
べそべそしながらもテキパキと術符を交換しているレイを見つめながら、ニルスが呟いた。
「うぅっ……きのこの歌が頭から離れない……今、全然そんな気分じゃないのに……脳内だけテンションが高すぎるぅ……」
泣きっ面に蜂とばかりに、陽気なきのこの歌が、レイのメンタルをさらに削っていった。
***
「ここならノームも手を出して来ないだろう。ここでキャンプにするか?」
クォーツN二ダンジョンの四階層に下りると、ニルスが提案をした。
四階層は、純粋なダンジョン階層だ。
廃鉱山の坑道とは違った光景が広がっていた。
四階層は、遺跡の一部がジャングルに飲み込まれてしまったかのようなダンジョンだ。
壊れて崩れた何かの遺跡のような土壁は、苔むしていて、つる植物が巻き付き、尖った葉を茂らせていた。
オペルミナ領どころかドラゴニア王国でさえ今まで見たことがないような南国風の木々が生えていて、謎の赤い実を実らせている。
辺りには、魔物の怪鳥の不気味なホーホーという鳴き声が響き、小さなネズミのような生き物が地面を駆けて行った。
「…………うぅっ、お願いします」
レイは項垂れて、がくりと地面に膝をついた。
普段の冒険でなら、決してやらないような無防備な行動だ。
坑道が続いている一階層と三階層では、レイはノーム特製の泥人形や土人形に何度も襲われた。
その度に妖精払いの術符が発動し、レイは無事だったが、それに反比例するように、かなりの勢いで術符のストックが目減りしていった。
(術符を買うと高いから、材料を買い込んでルーファスと一緒にたくさん作ったのに……)
妖精払いの術符を買うよりは安上がりになるとはいえ、術符の材料もそこそこ高価だった。
レイの懐はシクシクと切ない悲鳴をあげていた。
「普通、強い魔物が出やすいところでキャンプは張らないんだけどな……」
ビョルンが呆れて呟いた。だが、ここでのキャンプには反対ではないようで、安全そうな場所を探し始めた。
ビョルンに導かれ、遺跡の壁に囲まれた小さな空き地にキャンプを張ることになった。
そこでビョルンは、手際よく小さな焚き火をおこした。
「見張りの順番はどうするか?」
ニルスがチームメンバー全員を見回して尋ねた。
「嬢ちゃんはさっさと休みな。そんなメンタルが落ち込んだ状態じゃ、足を引っ張るだけだよ」
ビョルンがぶっきらぼうにだが、レイを気遣って言葉をかけた。
「……ごめんなさい。ありがとうございます……」
(……そうだ。私は今、足手まといだ。あまり強い魔物が出ない坑道だと、私がノームに襲われちゃうから、わざわざこんな危ない所でキャンプを張らなきゃいけなくなったんだし……)
レイはしょんぼりと肩を落として座り込んだ。
そして、そのまましょんぼりと本日消費した妖精払いの術符を数え始めた。
「レイの分の見張りは私がやりますよ。睡眠はあまり必要じゃないんです」
「そうか? それなら頼んだ」
レヴィの申し出に、ニルスが軽く頷いた。
グルル……
「……おい……泥ワニだ……」
ビョルンが顔を青ざめさせて、震える指を鳴き声がした方へ差した。
そこには、泥をまとったワニのような大型のリザードが、獲物を狙うように、遺跡の壁越しにこちらを見つめていた。
すぐさまレヴィが剣を、ニルスがモーニングスターを構えて臨戦体制に入った。
「チッ。四階層のボス級か」
ニルスが舌打ちしてナイフを構える。
「…………泥…………?」
真っ黒になった妖精払いの術符を握り潰して、レイが幽鬼のようにゆらりと立ち上がった。
レイの右手に水魔術の、左手に氷魔術の魔術陣が現れ、煌々と青く光る。
「もうっ!! 泥もきのこも、いい加減にしてっ!!!」
レイの怒りのウォーターランスとアイスランスが炸裂した。
マッドリザードは思わぬ反撃にびっくりして逃げ出そうとしたが、すぐに特大の水と氷魔術に巻き込まれ、巨大な遺跡の壁ごと氷像と化した。
すかさずレヴィがマッドリザードに飛びかかり、その首を一閃して落とした。
「ふんっ。もう、邪魔しないでよね!!」
レイはぷっくりと頬をめいいっぱい膨らませ、ぷんすこと腰に手を当てた。
「レイ。ナイスです」
レヴィは地面に着地すると、いつも通り気軽に褒め言葉をかけた。
「「はっ……???」」
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13
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