鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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ランクアップ試験1〜Bランクへ〜

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 今日は冒険者のランクアップ試験の日だ。

 冒険者のBランクへ上がるための試験は、年に三回行われる。Cランクとは違い、毎月受験できるわけではないのだ。
 また、会場は各領の領都のみとなるため、この日のためにオペルミナ領の他の街や村の冒険者たちが、クリスタンロッキーに集まっていた。

 今回は二十四名の冒険者が受験するそうだ。


 午前中は、冒険者ギルド三階の会場で、筆記試験が行われる。

 試験会場には、木製の使い古した長机がたくさん置かれ、受験者の人数分の椅子が用意されていた。

 レイとレヴィが試験会場の部屋に入ると、冒険者ギルドの職員から、受験生はそれぞれ少し間を空けて席に座るよう指示された。

 カンニングできないように、ギルドの職員も何人か壁際に立って、受験生の方を監視するようだ。


 受験生全員が揃うと、試験官を担当するギルドの職員が、みんなの前で説明を始めた。
 試験を受けるに合ったっての注意点や禁止行為、制限時間などだ。

 その間に、別のギルド職員が答案用紙と筆記具を配っていく。


「それでは、試験を始めてください」

 説明が終わり、全員に答案用紙が配り終わると、合図があった。

 受験生たちが一斉にバッと答案用紙に向かう、静かな衣擦れの音が試験会場に響いた。

(「ドラゴンが出没した場合の対処法について、正しい順番に数字を入れよ」……この前、黒竜が出たからかな? 時事問題になるのかな?)

 レイは迷いなく、ドラゴンが出た時の対処法の順番に、数字を記入していった。

 実際に黒竜の討伐依頼にも参加したのだ。まるでこの前のことのように思い出せた。

(「護衛中に予期せぬ事態に遭遇した場合、まずは護衛対象者の安全を確保する」……当たり前でしょう!)

 レイは答案用紙に丸印を記入した。
 護衛の依頼もこなしてきたのだ。心得はもちろん、バッチリだ。

(…………うぅっ、きのこ……)

 レイの筆が止まった。レイに最大の試練が訪れたのだ。

 きのこは食用だけでなく、魔術薬の原材料にもなり、ギルドに採集依頼がくることも多い——冒険者にとっては、必修のお題だ。

 ただ、きのこはその植生がレイの元の世界とはガラリと変わるため、今だにレイはきのこを覚えるのに苦労していた。

(…………でも待って……このきのこ、私、どこかで食べてなかったっけ?)

 レイは、ぐるぐるとここ最近の食事内容を思い返していった。

 きのこの帽子亭では、毎回きのこ料理が出る——つまり、朝晩は何かしらきのこを口にしているのだ。

(赤い傘に、白い粒々……)

♫ルビー茸は愛の証~
 ルビー大好き女王様の情熱~
 きののきのっこきのこ~

——その時、レイの脳内に、きのこの帽子亭の亭主の美声が響き渡った。

(分かる! 今なら私でも、きのこが分かる!! ありがとう、マッシュさん!!!)

 レイは自信満々に回答用紙に答えを記入した。

♫ドクドクツルタケはあの世の使い~
 一撃必殺 死の天使~
 きののきのっこきのこ~

(分かった、これはドクドクツルタケだね!)

 そして、レイは脳内にきのこの歌をリフレインさせながら、残りの回答を書き込んでいった。


 レイはほくほくとした表情で、試験会場を後にした。
 後から出てきたレヴィは、余裕の表情を浮かべていた。

「レイ、嬉しそうですね。うまくいきましたか?」
「うん! 宿はきのこの帽子亭にして良かったね!」
「??? 試験内容に宿屋はありましたっけ?」

 レイがにっこりと微笑んで見上げると、レヴィはきょとんとして首を捻った。


***


 午後は試験会場となるダンジョンの前に移動し、そこでダンジョンに潜るチーム分けのくじ引きを行う。

 クォーツN二ダンジョンの入り口前の広場には、試験官を務めるギルドの職員と、今回の受験生である冒険者が集まっていた。

 緊急事態が発生した場合に備えて、クリスタンロッキーの街を拠点としているBランクパーティーも、ギルドからの依頼でここにキャンプを張るらしい。
 いざとなれば、そこに駆け込めばよいのだ。

 実技試験の制限時間は翌日の夕方ということもあり、受験生の誰もが最低一泊はできるように、それなりの装備を整えていた。

 レイは森織りのローブを羽織り、腰からショートソードを下げ、アイザックの鱗のブーツを履いている——万全の装備だ。
 長いストレートの黒髪は邪魔にならないようにポニーテールにまとめていて、ハムレットからもらった水織りのリボンで留めている。

 今日はダンジョン内で一泊できるように、キャンプ道具を空間収納付きのリュックに入れて背負っている。

 レヴィはいつもの革の部分鎧を装備し、ウィルフレッドからもらったお古の剣を佩いている。
 今日はキャンプ用品を入れたリュックを背負っているため、その上に丸盾を括り付けていた。


「それでは、これからチーム分けのくじ引きを行います! 職種ごとに分かれてくじを引いてください! くじを引いたら、同じ番号同士で集まってください!」

 ギルドの女性職員が、冒険者たちの前でチーム分けの説明をした。

 ギルドの職員たちは、くじの入った箱を手に持ち、「剣士はこっちだ!」「魔術師、集まれ~!」と声をあげている。

 レイはくじを引く魔術師の列に、レヴィは剣士の列に並んだ。

「わぁ、三番だ! レヴィは?」
「私も三番です」
「やった! 一緒のチームだね!」

 レイとレヴィが喜び合っていると、二人の元に、他の冒険者がやって来た——

「君たちも三番か? 私はニルスだ。このなりだが、治癒師をしている。よろしく」

 ニルスは巌のような強面をにかっと笑顔に変え、大きな声で力強く自己紹介と挨拶をした。

 レヴィよりもがっしりと大柄で体格が良いため、治癒師というよりも、剣士や武闘家と言われた方がしっくりくる。
 鉄杖の先に厳ついトゲトゲが付いたモーニングスターを装備していて、非常に似合っている。

「……なんだ、お前たちも三番なのか。ビョルンだ。役職はスカウトだ」

 ビョルンは、レイをチラリと見るなり、少し顔を顰めた。
 小さめのリュックを斜めがけにし、少し長めのナイフを腰から下げていた。

(この前、資料室で喧嘩してた人たちだ!)

「レイです。魔術師をしてます。水と氷魔術が使えます。よろしくお願いします」
「レヴィです。剣士です。よろしくお願いします」

 レイとレヴィも、卒なく挨拶をした。

「おぉ。水魔術が使えるとは、ありがたい」

 ニルスが嬉しそうに相槌を打った。

「そういえば、レイ。マッシュさんの歌が脳内でリピートしてるんですよね? 何かバフは付いてないですか?」
「あ、そういえばそうだね。でも、バフってどうやって調べたらいいんだろ?」

 レヴィに訊かれ、レイは小首を傾げた。

「……なんだ、知らないのか? 冒険者証に魔力を流してみろ。何かバフや状態異常が付いてる時は、ディスプレイに表示されるぞ」
「そうなんですね。ありがとうございます」

 ビョルンに言われ、レイは早速、首から下げた冒険者証を握ると、魔力を流してみた。
 ヴゥン……と低い音が鳴って、中空に青い半透明のディスプレイが表示された。

(どんなバフが付いてるんだろう? 楽しみ!)

 レイはわくわくと期待に胸をふくらませて、自身のディスプレイを上から順番に見ていった。
 そして、最後尾にある備考欄に目が釘付けになった。

 普段は何も記載されていないそこにあったものは——

『ノームにモテる』

(……嘘、でしょう……? よりにもよって、こんな……)

 レイが真っ白に固まっていると、他のチームメンバーは「なんだ、なんだ?」とわらわらとディスプレイを覗き込んだ。

 レイのディスプレイを覗き込んだ瞬間——
 ビョルンは盛大に顔を顰めた。
 ニルスは大声で笑い出し、途中でゴフッガフッと咳き込んだ。
 レヴィはよく分かってるのか分かっていないのか、「レイ、良かったですね」ととりあえず祝福の言葉を贈った。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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