鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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はじめてのダンジョン2

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 クォーツN二ダンジョン内は、元廃鉱山らしく、綺麗に掘り進められた坑道が長く続いていた。

 天井にはところどころ、クリスタルの屑石を使ったクリスタルライトが吊るされていたり、岩肌に直接埋め込まれたりしていて、歩くのに不便を感じないぐらいには明るかった。

 ダンジョン探索の隊列は、先頭からルーファス、レイ、レヴィの順番だ。

「思っていたよりも、暗くはないですね」

 レイはきょろきょろと辺りを見回しながら感想を口にした。

「元が鉱山だからね。昔使われてたクリスタルライトがまだついてるね。ダンジョン内は他のところよりも魔力が豊富だから、魔力切れしないんだろうね。あと、壁で光ってる石があるんだけど、見える?」
「あれですか?」

 ルーファスが指差した方向を、レイは見上げた。

 クリスタルライトとはまた違った、ぽわりと淡い黄緑色の光をまとった石が、いくつも岩壁から覗いていた。

「あれは魔蛍石まけいせきと言って、こういった冒険者がよく潜るようなダンジョンでは、取らないのがマナーなんだ。ランタンが切れたとしても、魔蛍石があるだけで、ダンジョン内が見えるようになるからね」
「そうなんですね」

 ルーファスの解説に、レイは相槌を打った。

「ここはクリスタルライトがついていて明るい方ですけど、ダンジョンによっては本当に真っ暗なところもあります。私も以前のご主人様たちと何度も潜りました。ランタンを無くしたり切らしたりしても、魔蛍石をたよりに脱出できたという話は昔からよく聞きます」

 レヴィも自身の経験や昔話を語ってくれた。


 しばらく坑道を進むと、レイは探索魔術に奇妙な反応があることに気づいた。

「ルーファス、この先に何か魔術反応があるんですが……」
「……そうだね、何かあるね。もしかしたら罠かもね。本来は罠なら近づいてはいけないんだけど、後学のためにも見ておこうか?」

 ルーファスも、自身で探索魔術をかけて確認した。レイの方を見て、どうするか問いかける。

「そうですね、行ってみましょう」

 レイは神妙な顔で頷いた。


 しばらく行った坑道の分かれ道の先に、とんがり帽子をかぶった布製の人形が、落とし物のようにぽつんと落ちていた。

「……むぅ。お人形さん……?」

 レイは予想外な物を見つけて、目をしぱしぱとさせた。

「魔術陣を見た感じ、この人形に触れると、どこかに飛ばされる魔術がかかってるね」

 ルーファスは目に魔力を込めて、人形にかかっている魔力を軽く分析していた。

「『なんだろう?』って興味を持って、手を出してたらアウトだったんですね……こんなところでこんな物を見つけたら、なんだか興味を持っちゃいそうですよね」

 意外と人の心理の隙を突いている罠に、レイはぷるりと震えた。

「こういうのは割と珍しいタイプの罠だね。あったとしても、ダンジョンの深層階に多いかな。よくある罠は、落とし穴や仕掛けかな。仕掛けは、ある場所に侵入すると、自動で魔術や矢や岩なんかが発射されるタイプだよ」

 ルーファスは、罠について説明を始めた。

「あとは、冒険者が探索済みのダンジョンの場合は、宝箱にも注意かな。大抵は、先にダンジョンに入った冒険者が、すでに宝箱の中身を持ち帰ってるからね。その場合に無事な宝箱って、どんなものがあると思う?」

「う~ん、まだ発見されていない部屋にある宝箱ですか?」

 ルーファスの問いかけに、レイは首を捻った。

「それもあるね」
「あとは、宝箱の中身だけ抜いて、宝箱に罠を仕掛けておくとかですか?」

 レイは腕を組んで、むむむ、と考え込んで答えた。

「そうだね、そういう心無い冒険者が時々いるんだよね。それから、ミミックの場合もあるから、気をつけてね。言うなれば、魔物型の罠だね」
「ダンジョンには危険がいっぱいですね……」
「よくよく注意して進まないと、足元を掬われるからね」

 ルーファスのダンジョンの罠講義を聞きながら、レイたちは元の道へと戻って行った。

 レヴィが、クリスタンロッキーの街で買ったクォーツN二ダンジョンの地図を、手元のランタンで照らして確認しながら先頭を進んでいた。

 その時、レイは、こちらへ高速で向かって来る気配をいくつも探知した。

「!? 何か来ます! 早いです!!」

 レイの掛け声で、全員が一瞬で戦闘態勢に入った。

 レヴィは剣を抜き、ルーファスの両腕は光竜の腕に変化していた。

 キーッ!
 キキーッ!
 キキッ!

 バサバサと、大量の何かが羽ばたく音と、甲高い鳴き声が聞こえてきた。

「吸血バットです!」

 レヴィは、黒々と塊になって突撃してきた吸血バットを、次々と一閃していった。

 彼の取りこぼしを、レイが氷魔術で凍らせ、ルーファスが光竜の腕を振り翳して、地面に叩きつけていく。

(一匹一匹は小さくて弱いけど、群れになって襲ってくるから厄介かも!)

 レイは必死に、自分めがけて飛び込んで来る吸血バットたちを、氷の塊にしていった。

 その時、地面から何かがレイの胴体に向かって、ビュンッと飛びかかってきた。

「きゃっ!?」

 レイの腰につけていた妖精払いの術符が、一瞬ピカッと眩しく光ったかと思うと、飛びかかってきた何かは、その光に跳ね返されてボトリと地面に落ちた。

 吸血バットたちを退治し終わると、レイたちは地面に落ちた何かを、まじまじと観察した。

「……これ、何でしょう? 泥みたいな、土塊つちくれみたいな……?」
「妖精払いの術符が反応したってことは、ノーム関係かな? ノームは地魔術が得意だからね。土人形を使って、レイを攫おうとしたのかな?」

 レイとルーファスは、むむむ……と難しい顔をして、地面に落ちた土塊を睨みつけていた。

 先ほどの妖精払いの術符の影響か、土塊にかかっていたはずの魔術の痕跡は、綺麗さっぱり消し飛ばされていた。

 二人が分析している間、レヴィは周囲を警戒しつつ、吸血バットの魔石を回収していた。

「あぁっ!? 妖精払いの術符が真っ黒になってます!」

 レイがふと腰につけていた術符を確認すると、真っ黒に焦げていた。

「守られるのは一回だけか……予備があるから、交換しようか?」
「お店の人が『強力だ』って言ってたのは、こういうことだったんですね……」

 ルーファスに予備の妖精払いの術符を手渡され、レイはしょんぼりと真っ黒になった物と交換した。

「レイ、ルーファス。魔石の回収が終わりましたよ。先に進みましょうか」

 作業を終えたレヴィが、二人に声をかけた。

「そうだね、行こう」
「ふぁい……」

 ルーファスはしっかりと、レイはしょんぼりと返事を返した。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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