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水竜王祭4
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「かわいい~!」
アイザックは頬を緩めて、とろけるような笑顔で、レイを褒めた。
レイは、アイシーピンク色のふんわりとしたスカートに、白いブラウス姿で、女の子らしい格好に着替えた。
先ほどの騒動でボサボサになっていた髪は、緩やかな三つ編みに編み直して、リボンで留めている。
これからアクアブリッジの東岸地区に遊びに行くのだ。
メンバーは、アイザック、レイ、レヴィだ。
「東岸地区は庶民の街だからね。水竜王祭の時にはいろんな屋台が出るんだよ」
アイザックは、レイとレヴィに触れると、一瞬で東岸地区のひと気のない場所に転移した。
「アイザックは水竜王祭に何回も来てるんですか?」
レイは隣を歩くアイザックを見上げた。
「うん、何回も来てるよ。僕が水竜王祭に行くようになったのは、ハムレットの代になってからだね。先代の時の水竜王祭は、大酒飲み大会だったからね。おじさんメインの祭だったんだ」
アイザックは、レイたちを案内しながら答えた。
「私もその時の水竜王祭に連れて行かれたことがあります。ご主人様たちがへべれけに酔い潰れていたのを覚えてます」
レヴィが物珍しそうに街並みを眺めながら語った。
「へぇ~。昔の剣聖も水竜王祭に来てたんだね。ほら、着いたよ!」
東岸地区にある大きな公園には、たくさんの屋台が出ていた。
水竜湖で獲れた魚の塩焼き、水鳥のグリル、魔水牛のモッツァレラチーズとベーコンのクロワッサンサンド、湖エビのフリッターなどこの地方でしか食べられないようなものだけでなく、定番のドーナツやチョリソー、クレープやドリンクなどさまざまな屋台が軒を連ねていた。
屋台の近くには、テーブルや椅子が追加でいくつも置かれていて、屋台で食べ物を買った後に自由に使っていいようだ。
公園の広場には、吟遊詩人や奇術師、役者などの旅芸人も来ていて、芝居や曲芸、歌や手品など、さまざまな芸を披露していた。
「わぁ! お店も人もいっぱいですね!」
レイはキラキラと瞳を輝かせて、屋台を見回した。見慣れない食べ物やおいしそうなものが多く、どれにしようか目移りしてしまう。
「せっかくですから、まずはここでしか食べられないものにしましょう!」
レヴィもわくわくと品定めを始めた。
「それなら、湖エビと瑠璃鮎のフリッターにしようよ! みんなで分けられるし、結構おいしいんだ!」
アイザックがレイの手を引いて、フリッターの屋台の列に並んだ。
「むむっ! あの湖鴨のローストサンドもおいしそうです!」
レイは隣の屋台に目が釘付けになった。
「レヴィ、行ってきてよ! 僕たちはこっちに並んでるからさ!」
アイザックが、パッとレヴィの方を振り向いて提案した。
「でも、護衛任務が……」
「すぐ隣の屋台だし、僕がいる限りレイに手を出させたりしないから、大丈夫だよ!」
「……それでしたら……」
レヴィは渋々頷いた。
「僕は塩ダレで!」
「私はオレンジソースがいい!」
アイザックがソースに注文をつけると、レイもうきうきと希望を伝えた。
「分かりました」
レヴィはこくりと頷いた。
湖エビと瑠璃鮎のフリッターと、湖鴨のローストサンドを買った後は、アイザックたちは近くの空いているテーブルに席をとった。
アイザックが、レイが魔術で出した水が飲みたいと言い出したため、ドリンクはレイが準備した。
「ぷはぁ! やっぱり、レイの水はおいしいね! この澄んだ水魔力に、冷たい温度……水魔術が本当に上手になったね!」
アイザックは、レイが入れてくれた水をぐいっと一気に飲み干して、嬉々と褒めた。
「ふふっ。ありがとうございます。おかわりもありますよ」
「うん、お願い!」
アイザックは、コップにおかわりの水を入れてもらい、またごくごくと飲み始めた。
「レイ、私のローストサンドも一口食べますか?」
「こっちは何ソース?」
「玉ねぎソースです」
「やった! ありがとう! 私のも一口食べる?」
「ええ。ありがとうございます」
レヴィとレイは一口ずつローストサンドを交換し合った。
玉ねぎソースは甘塩っぱい定番の味で、オレンジソースはさっぱり系で、爽やかな香りがした。
どちらのソースも湖鴨のローストにマッチしていて、おいしかった。
「レヴィは以前に比べたら随分人っぽくなったね。前はこんなことしなかったでしょ?」
アイザックは二人の様子を興味深く眺めていた。
「こうすると、より料理がおいしくなると学んだんです」
レヴィが少し自信ありげに答えた。
「……うん、まぁ、そうなんだけどさ。前はもっと『変わった奴』って感じだったけど、何というか少し丸くなったよね」
アイザックは、まじまじとレヴィを見つめて言った。
「そうなんですか? いつも一緒にいるから、言われて初めて気づきました」
レイもレヴィの方を振り向いた。
「そういうことってあるよね~。案外、離れて初めて気づくこともあるし。あ、このフリッター、おいしい」
アイザックは、サクサクッと瑠璃鮎のフリッターを味わうように咀嚼した。
「湖エビの方もおいしいです!」
(えびせんっぽい!)
レイは、元の世界で慣れ親しんだ味に似ている湖エビのフリッターに、テンションを上げた。
「あれ? あいつ、エスキルじゃない?」
アイザックは、糸目の大柄の人物を見つけて、「お~い」と手を振った。
エスキルは小さく会釈すると、こちらのテーブルに向かって歩いて来た。
「アイザック様。それに、レイとレヴィ。こんにちは。どうですか? お祭りは楽しまれてますか?」
エスキルは、にこやかに微笑んだ。
彼は手元に水鳥のグリルと、魔水牛のチーズとチョリソーが入ったブリトーの包みを持っていた。
レイとレヴィも「こんにちは」とにこやかに返す。
「うん。楽しんでるよ~。エスキルは見回り?」
アイザックはにこにこと気軽に尋ねた。
「そうですね。ただ、今は休憩時間中です」
「じゃあ、エスキルもレイに水出してもらいなよ。すっごくおいしいし、元気が出るよ」
アイザックは、エスキルに席をすすめた。
エスキルは、レヴィの隣の席に腰かけると、空間収納からコップを取り出した。
レイも心得たもので、そのコップに水魔術で水を注ぐ。
「……これは!」
エスキルは、レイに注いでもらった水を一口飲むと、目をカッと見開いて驚いた。
アイザックは防音結界を展開すると、にやりと笑って、エスキルを見やった。
「水魔物にとっては、極上の飲み物だよ」
「……ええ。今までの疲れが吹き飛ぶようです。力も湧いてきますね」
エスキルは強く頷くと、ごくごくと水を飲み干した。
「それでさ~、Bランクのランクアップ試験って、いつどこでやるの?」
「……アイザック様、これが狙いですか?」
アイザックの一言に、エスキルは片手で額を覆った。少し悔しそうに項垂れる。
(……アイザック!? もしかして、賄賂の押し売り!!?)
レイはびっくりしすぎて、アイザックを二度見した。
レイは「ダメですよ!」と渋い顔をして首を小さく横に振るが、アイザックは「僕に任せて」とウィンクで返した。
「Bランクのランクアップ試験って、実技はダンジョンでしょ? それは変わってないの?」
「それは変わりないですね。ダンジョンに潜って、指定の階層にある『踏破の印』を持ち帰って来られれば、実技試験は合格ですね。ジョブを勘案して、ランダムにチーム編成されるのも変わりはないです」
レイは、アイザックとエスキルの会話にじっと聴き耳を立てていた。
(実技試験はダンジョン? すっごく冒険者っぽくて気になるかも……!)
レイがそわそわしていると、アイザックはさらに質問を続けた。
「試験会場のダンジョンは、毎回変わるんだよね?」
「……変わりますが、どうしてもダンジョンごとに適正レベルがありますので、試験会場はローテーションになります」
「ふぅん……レイはさ、フェリクス様と契約があるんだ。だから、フェリクス様が創られたダンジョンだとさ、有利すぎたり、周囲にいろいろバレたりしない?」
「えっ!? フェリクス様と……!? 確かに、誰かしら強者との契約の匂いを感じてはいましたが、まさか先代魔王様とは……」
エスキルは驚愕の表情でレイを見つめた。
(義父さんが、ダンジョンを創った……? それに、義父さんのダンジョンだと、何か良くないことでもあるのかな……?)
レイが首を捻っていると、アイザックが確認してきた。
「レイは、ダンジョンに潜ったことは?」
「まだ無いです」
「フェリクス様からダンジョンについて説明を受けたことは?」
「無いです」
レイはアイザックの質問に、ふりふりと首を横に振った。
「魔王様の仕事に『ダンジョン創造』っていうのがあるんだ。で、レイはフェリクス様と親子契約があるから、フェリクス様が創られたダンジョンだと、レイはダンジョンの魔物と同じ判定になるんだよ」
「へっ?」
アイザックの予想外の説明に、レイは目を丸くして、そのまま固まった。
(私、魔物扱いなの……?)
「う~ん、フェリクス様の眷属と同じような扱いになるからかな? ……だから、レイがフェリクス様のダンジョンに入っても、魔物に襲われることはないし、罠も発動しない」
「えぇえぇ!?」
レイは驚愕の表情でアイザックを見つめた。
「ついでに言うと、レヴィも契約魔術でレイの眷属と同じような扱いになるから、同じく魔物には襲われないし、罠も発動しない」
「そうですか? ダンジョンの魔物になるのは初体験です」
レヴィはアイザックの説明に、少し嬉しそうに目を丸くしていたが、論点がどこかおかしかった。
「……そうなると、レイ様とレヴィ様はラングフォードでBランクへのランクアップ試験は受けられない方がいいですね。この領にあるダンジョンは全てフェリクス様が創造されたものになります」
エスキルが言葉を改めて、説明をした。レイとレヴィを見つめる視線は、ただの冒険者に対するものとは違って、どこか畏敬の念が込められていた。
「ドラゴニア王国は、フェリクス様が創造されたダンジョンが多いですが、他の魔王様が創られたダンジョンもあるにはあります。そちらの領に移動されてから、ランクアップ試験を受けられた方が良いでしょう……失礼ですが、冒険者証を確認しても?」
「はい」
エスキルに訊かれ、レイは自分の冒険者証を手渡した。
エスキルは冒険者証に少し魔力を流すと、中空に現れた青い半透明のディスプレイを見つめた。
「功績ポイントが赤くなっている……Bランク試験を受けるには十分ですね。一番近場でしたら、オペルミナ領ですね。あそこはフェリクス様とさらにその前の魔王様のダンジョンを交互に試験会場にしてますから。……確か、次は先々代魔王様のダンジョンだったかと……」
「分かりました。ありがとうございます!」
レイは微笑んで、エスキルにお礼を言った。
レイが水のおかわりをコップの中に入れると、エスキルはパァッと顔色を明るくした。
アイザックは筆記試験の内容も確認しようとしていたが、「それではレイ様のためになりませんよ」とエスキルに嗜められ、黙りこくってしまった。
「じゃあ、次はオペルミナ領に行こうか?」
「そうですね。宿舎に戻ったら、ルーファスにも伝えましょう」
レイとレヴィは互いに顔を見合わせて、頷き合った。
アイザックは頬を緩めて、とろけるような笑顔で、レイを褒めた。
レイは、アイシーピンク色のふんわりとしたスカートに、白いブラウス姿で、女の子らしい格好に着替えた。
先ほどの騒動でボサボサになっていた髪は、緩やかな三つ編みに編み直して、リボンで留めている。
これからアクアブリッジの東岸地区に遊びに行くのだ。
メンバーは、アイザック、レイ、レヴィだ。
「東岸地区は庶民の街だからね。水竜王祭の時にはいろんな屋台が出るんだよ」
アイザックは、レイとレヴィに触れると、一瞬で東岸地区のひと気のない場所に転移した。
「アイザックは水竜王祭に何回も来てるんですか?」
レイは隣を歩くアイザックを見上げた。
「うん、何回も来てるよ。僕が水竜王祭に行くようになったのは、ハムレットの代になってからだね。先代の時の水竜王祭は、大酒飲み大会だったからね。おじさんメインの祭だったんだ」
アイザックは、レイたちを案内しながら答えた。
「私もその時の水竜王祭に連れて行かれたことがあります。ご主人様たちがへべれけに酔い潰れていたのを覚えてます」
レヴィが物珍しそうに街並みを眺めながら語った。
「へぇ~。昔の剣聖も水竜王祭に来てたんだね。ほら、着いたよ!」
東岸地区にある大きな公園には、たくさんの屋台が出ていた。
水竜湖で獲れた魚の塩焼き、水鳥のグリル、魔水牛のモッツァレラチーズとベーコンのクロワッサンサンド、湖エビのフリッターなどこの地方でしか食べられないようなものだけでなく、定番のドーナツやチョリソー、クレープやドリンクなどさまざまな屋台が軒を連ねていた。
屋台の近くには、テーブルや椅子が追加でいくつも置かれていて、屋台で食べ物を買った後に自由に使っていいようだ。
公園の広場には、吟遊詩人や奇術師、役者などの旅芸人も来ていて、芝居や曲芸、歌や手品など、さまざまな芸を披露していた。
「わぁ! お店も人もいっぱいですね!」
レイはキラキラと瞳を輝かせて、屋台を見回した。見慣れない食べ物やおいしそうなものが多く、どれにしようか目移りしてしまう。
「せっかくですから、まずはここでしか食べられないものにしましょう!」
レヴィもわくわくと品定めを始めた。
「それなら、湖エビと瑠璃鮎のフリッターにしようよ! みんなで分けられるし、結構おいしいんだ!」
アイザックがレイの手を引いて、フリッターの屋台の列に並んだ。
「むむっ! あの湖鴨のローストサンドもおいしそうです!」
レイは隣の屋台に目が釘付けになった。
「レヴィ、行ってきてよ! 僕たちはこっちに並んでるからさ!」
アイザックが、パッとレヴィの方を振り向いて提案した。
「でも、護衛任務が……」
「すぐ隣の屋台だし、僕がいる限りレイに手を出させたりしないから、大丈夫だよ!」
「……それでしたら……」
レヴィは渋々頷いた。
「僕は塩ダレで!」
「私はオレンジソースがいい!」
アイザックがソースに注文をつけると、レイもうきうきと希望を伝えた。
「分かりました」
レヴィはこくりと頷いた。
湖エビと瑠璃鮎のフリッターと、湖鴨のローストサンドを買った後は、アイザックたちは近くの空いているテーブルに席をとった。
アイザックが、レイが魔術で出した水が飲みたいと言い出したため、ドリンクはレイが準備した。
「ぷはぁ! やっぱり、レイの水はおいしいね! この澄んだ水魔力に、冷たい温度……水魔術が本当に上手になったね!」
アイザックは、レイが入れてくれた水をぐいっと一気に飲み干して、嬉々と褒めた。
「ふふっ。ありがとうございます。おかわりもありますよ」
「うん、お願い!」
アイザックは、コップにおかわりの水を入れてもらい、またごくごくと飲み始めた。
「レイ、私のローストサンドも一口食べますか?」
「こっちは何ソース?」
「玉ねぎソースです」
「やった! ありがとう! 私のも一口食べる?」
「ええ。ありがとうございます」
レヴィとレイは一口ずつローストサンドを交換し合った。
玉ねぎソースは甘塩っぱい定番の味で、オレンジソースはさっぱり系で、爽やかな香りがした。
どちらのソースも湖鴨のローストにマッチしていて、おいしかった。
「レヴィは以前に比べたら随分人っぽくなったね。前はこんなことしなかったでしょ?」
アイザックは二人の様子を興味深く眺めていた。
「こうすると、より料理がおいしくなると学んだんです」
レヴィが少し自信ありげに答えた。
「……うん、まぁ、そうなんだけどさ。前はもっと『変わった奴』って感じだったけど、何というか少し丸くなったよね」
アイザックは、まじまじとレヴィを見つめて言った。
「そうなんですか? いつも一緒にいるから、言われて初めて気づきました」
レイもレヴィの方を振り向いた。
「そういうことってあるよね~。案外、離れて初めて気づくこともあるし。あ、このフリッター、おいしい」
アイザックは、サクサクッと瑠璃鮎のフリッターを味わうように咀嚼した。
「湖エビの方もおいしいです!」
(えびせんっぽい!)
レイは、元の世界で慣れ親しんだ味に似ている湖エビのフリッターに、テンションを上げた。
「あれ? あいつ、エスキルじゃない?」
アイザックは、糸目の大柄の人物を見つけて、「お~い」と手を振った。
エスキルは小さく会釈すると、こちらのテーブルに向かって歩いて来た。
「アイザック様。それに、レイとレヴィ。こんにちは。どうですか? お祭りは楽しまれてますか?」
エスキルは、にこやかに微笑んだ。
彼は手元に水鳥のグリルと、魔水牛のチーズとチョリソーが入ったブリトーの包みを持っていた。
レイとレヴィも「こんにちは」とにこやかに返す。
「うん。楽しんでるよ~。エスキルは見回り?」
アイザックはにこにこと気軽に尋ねた。
「そうですね。ただ、今は休憩時間中です」
「じゃあ、エスキルもレイに水出してもらいなよ。すっごくおいしいし、元気が出るよ」
アイザックは、エスキルに席をすすめた。
エスキルは、レヴィの隣の席に腰かけると、空間収納からコップを取り出した。
レイも心得たもので、そのコップに水魔術で水を注ぐ。
「……これは!」
エスキルは、レイに注いでもらった水を一口飲むと、目をカッと見開いて驚いた。
アイザックは防音結界を展開すると、にやりと笑って、エスキルを見やった。
「水魔物にとっては、極上の飲み物だよ」
「……ええ。今までの疲れが吹き飛ぶようです。力も湧いてきますね」
エスキルは強く頷くと、ごくごくと水を飲み干した。
「それでさ~、Bランクのランクアップ試験って、いつどこでやるの?」
「……アイザック様、これが狙いですか?」
アイザックの一言に、エスキルは片手で額を覆った。少し悔しそうに項垂れる。
(……アイザック!? もしかして、賄賂の押し売り!!?)
レイはびっくりしすぎて、アイザックを二度見した。
レイは「ダメですよ!」と渋い顔をして首を小さく横に振るが、アイザックは「僕に任せて」とウィンクで返した。
「Bランクのランクアップ試験って、実技はダンジョンでしょ? それは変わってないの?」
「それは変わりないですね。ダンジョンに潜って、指定の階層にある『踏破の印』を持ち帰って来られれば、実技試験は合格ですね。ジョブを勘案して、ランダムにチーム編成されるのも変わりはないです」
レイは、アイザックとエスキルの会話にじっと聴き耳を立てていた。
(実技試験はダンジョン? すっごく冒険者っぽくて気になるかも……!)
レイがそわそわしていると、アイザックはさらに質問を続けた。
「試験会場のダンジョンは、毎回変わるんだよね?」
「……変わりますが、どうしてもダンジョンごとに適正レベルがありますので、試験会場はローテーションになります」
「ふぅん……レイはさ、フェリクス様と契約があるんだ。だから、フェリクス様が創られたダンジョンだとさ、有利すぎたり、周囲にいろいろバレたりしない?」
「えっ!? フェリクス様と……!? 確かに、誰かしら強者との契約の匂いを感じてはいましたが、まさか先代魔王様とは……」
エスキルは驚愕の表情でレイを見つめた。
(義父さんが、ダンジョンを創った……? それに、義父さんのダンジョンだと、何か良くないことでもあるのかな……?)
レイが首を捻っていると、アイザックが確認してきた。
「レイは、ダンジョンに潜ったことは?」
「まだ無いです」
「フェリクス様からダンジョンについて説明を受けたことは?」
「無いです」
レイはアイザックの質問に、ふりふりと首を横に振った。
「魔王様の仕事に『ダンジョン創造』っていうのがあるんだ。で、レイはフェリクス様と親子契約があるから、フェリクス様が創られたダンジョンだと、レイはダンジョンの魔物と同じ判定になるんだよ」
「へっ?」
アイザックの予想外の説明に、レイは目を丸くして、そのまま固まった。
(私、魔物扱いなの……?)
「う~ん、フェリクス様の眷属と同じような扱いになるからかな? ……だから、レイがフェリクス様のダンジョンに入っても、魔物に襲われることはないし、罠も発動しない」
「えぇえぇ!?」
レイは驚愕の表情でアイザックを見つめた。
「ついでに言うと、レヴィも契約魔術でレイの眷属と同じような扱いになるから、同じく魔物には襲われないし、罠も発動しない」
「そうですか? ダンジョンの魔物になるのは初体験です」
レヴィはアイザックの説明に、少し嬉しそうに目を丸くしていたが、論点がどこかおかしかった。
「……そうなると、レイ様とレヴィ様はラングフォードでBランクへのランクアップ試験は受けられない方がいいですね。この領にあるダンジョンは全てフェリクス様が創造されたものになります」
エスキルが言葉を改めて、説明をした。レイとレヴィを見つめる視線は、ただの冒険者に対するものとは違って、どこか畏敬の念が込められていた。
「ドラゴニア王国は、フェリクス様が創造されたダンジョンが多いですが、他の魔王様が創られたダンジョンもあるにはあります。そちらの領に移動されてから、ランクアップ試験を受けられた方が良いでしょう……失礼ですが、冒険者証を確認しても?」
「はい」
エスキルに訊かれ、レイは自分の冒険者証を手渡した。
エスキルは冒険者証に少し魔力を流すと、中空に現れた青い半透明のディスプレイを見つめた。
「功績ポイントが赤くなっている……Bランク試験を受けるには十分ですね。一番近場でしたら、オペルミナ領ですね。あそこはフェリクス様とさらにその前の魔王様のダンジョンを交互に試験会場にしてますから。……確か、次は先々代魔王様のダンジョンだったかと……」
「分かりました。ありがとうございます!」
レイは微笑んで、エスキルにお礼を言った。
レイが水のおかわりをコップの中に入れると、エスキルはパァッと顔色を明るくした。
アイザックは筆記試験の内容も確認しようとしていたが、「それではレイ様のためになりませんよ」とエスキルに嗜められ、黙りこくってしまった。
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レイとレヴィは互いに顔を見合わせて、頷き合った。
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