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サラマンダー討伐2
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アイザックの周りを可視化できるほどの魔力が覆い、淡く発光していた。
彼の魔力圧で、森が大地がぐらぐらと揺れている。
サラマンダーたちは、警戒するように、恐れるようにアイザックから目が離せないでいた。まるで地面に足が縫い付けられたかのように、その場から動けなくなっていた。
アイザックは、レイが張っている結界の周りにたむろしているサラマンダーに目を向けた。彼は徐にその手に魔力を集め始めた。
(あれは絶対にヤバい!!!)
レイは、アイザックが手に集めている魔力量を見て、ゾクゾクッと背筋に悪寒が走った。
「結界っ!!!」
レイは結界を重ねがけすると、頭を抑えて地面に伏せた。その上にも強固な結界を張る。
レイのローブのフードの中にいる白縹湖の代表の蛇は、すでに失神していた。
「ウォーターバレット」
アイザックはレイが結界を強化したのを確認すると、サラマンダーに向けて強烈なウォーターバレットを放った。
「ギャギャッ!」
「グガッ!!」
「ガガッ!!!」
ズドドドドッ!!! と非常に重たいウォーターバレットがサラマンダーたちを穴だらけにし、何体ものサラマンダーが宙を舞った。
結界にも、バリン、バリンッといくつも穴があく音が聞こえた。
「きゃあぁっ!」
レイはぎゅっと目を瞑って、結界の外の酷い音にびっくりして叫び声をあげた。怖くて、ずっと地面に伏せたままだ。
(うぅっ……絶対に、今外に出たくない!!!)
「ガアァアァァッ!」
一等大きなサラマンダーが、大口を開けてアイザックに向かって突っ込んで行った。
ドシンッ! と激突して、森全体が大地ごと揺れた。
「僕に向かって来るなんて、勇敢だね。でも、相手と自分の力量差はちゃんとわきまえないとね」
元のサーペント型に戻ったアイザックが、サラマンダーを締め上げていた。
森の木々から頭一つ飛び出すほどの巨体で、純白の鱗にはパールのような煌めきが見えた。首元と尻尾だけ、モノトーンの蛇柄になっている。
「さっさと終わらせちゃおうか」
アイザックのロイヤルブルー色の瞳がギラリと怪しく光った。
まだ生き残っていたサラマンダーたちは、石像にでもなったかのように、その場から動けなくなった。——蛇睨みのスキルだ。
アイザックは、くったりと動かなくなったサラマンダーを手放すと、次々と他のサラマンダーを締め上げていった。
「レイ、大丈夫!?」
ルーファスが、レイが張った結界の周りにあるサラマンダーの死体をどかして、声をかけてきた。
「……大丈夫です……」
レイはチラリとルーファスの方を見上げた。
ルーファスの近くでは、レヴィが周囲を警戒してくれているようだ。
「外はまだアイザック様が暴れてて危ないから、結界の中にいて」
「分かりました」
ルーファスに指示され、レイはこくりと頷いた。
レイは結界の中から、ただただアイザックがサラマンダーたちを次々と倒していくのを眺めていた。
最後の一頭を締め上げた後、アイザックは空に向けて「ヴオオオォォォッ」と雄叫びをあげた。
空を覆っていた暗雲は、スッと晴れていった。
「レイ、大丈夫だった!? 怖い思いさせちゃってごめんね!」
アイザックが人型に戻って、心配そうにレイの元に駆け寄って来た。
「はい……大丈夫です」
レイは立ち上がって、パッと服に付いた埃を払うと、どうにか笑顔を作った。
森は、控えめに言ってもボロボロだった。
倒れた木々やサラマンダーの死体があちこちに転がり、サラマンダーの炎で焦げた草木や岩、地面は黒く変色して、ぷすぷすと焦げ臭いにおいを放っていた。
そして、水の大竜巻で抉られ、巻き上げられたいろいろな物が、森全体にばら撒かれていた。
「……これ、どうしましょうか……?」
結界から出て来たレイは、呆然と森だった場所を見渡していた。
「レイが無事なら何でもいいよ!!」
アイザックはどさくさに紛れて、むぎゅむぎゅとレイに抱きついた。
すぐさまレヴィがやって来て、レイからアイザックを引き剥がそうとしている。
「まずはサラマンダーの魔石を取って回収しようか。森の方は、ハムレット様や白縹湖の代表と相談かな……アイザック様、レイが作業しますから放してあげてください。レイにとって大切な冒険者経験ですよ」
ルーファスはサクッとこれからやる作業を確認し、さらに、やんわりとアイザックを諭した。
「……ちぇっ。仕方がないなぁ。魔石を取ったサラマンダーは僕のところに持って来て。僕が空間収納にしまうよ」
アイザックは渋々、レイを手放した。
(ルーファスが、アイザックの扱いに慣れてきてる……)
レイは目をぱちくりとさせた。
一瞬、某光竜王の顔が頭の隅をよぎり、ルーファスがこの手の自由気ままなタイプの扱いに慣れている理由に思い至ってしまい、ちょっぴり同情した。
「うぅ……エンドレス魔石取り出し作業……」
レイはサラマンダーの心臓のあたりにナイフを刺して切れ込みを入れると、腕を突っ込んで、魔石を取り出した。
冒険者活動で、魔物や獲物の解体作業には慣れてきていたが、一度にこれだけ大量に処理するのは、それなりに気が滅入った。
「もう少しだから、頑張ろうか」
ルーファスは眉を下げて苦笑すると、レイを優しく励ました。
彼の両腕は、魔石を取り出しまくったため、淡い黄色の光竜の鱗は真っ赤に染まっている。
「いつも丸呑みにしてたからなぁ……魔石だけ取り出すって、大変だね。……って、レヴィは器用すぎじゃない?」
アイザックは、レヴィの方を振り向いた。
レヴィは、サラマンダーを仰向けに転がすと、目にも止まらぬ速さで魔石だけを綺麗に抜き取った。
「以前のご主人様に、魔石を取り出すのが非常に上手な方がいらっしゃいましたので」
レヴィが淡々と答えた。
「それなら、レヴィが僕の分も魔石を取り出して。その間に、僕がサラマンダーをしまうから」
アイザックは早速、目の前のサラマンダーを空間収納にしまい始めた。
「はっ! もしかしたら、私もレヴィの技を使えます?」
「もちろんですよ。この方法なら、服もあまり汚れませんよ。七代目のご主人様を口寄せして下さい」
「やった! 口寄せ魔術、七代目様!!」
レイは嬉々として口寄せ魔術を使った。
(わ、分かる!! どこにナイフを入れて、どう魔石を取り出せばいいのか、分かる!)
レイは、さっきレヴィがやっていたようにサラマンダーを仰向けに転がすと、スッとナイフを入れ、最小限の動きで魔石を取り出した。
「ふ、ふわぁ……感激です! さっきまでの苦労が嘘みたいです……!」
レイは魔石を手にして、感激のあまりふるふると震えた。
「ここら辺だと、あと三体かな。竜巻で飛ばされたサラマンダーもいるから、それも探さないとだね」
ルーファスが、両腕にサラマンダーを運びながら言った。
人型はスラリと細身で程良く筋肉がついた男性姿なのだが、やはり竜なだけあって、かなりの力持ちだ。
——その時、柔らかい男性の声が森に響いた。
「君たちが探してるのは、このサラマンダーかな?」
レイたちの目の前に、残りのサラマンダーがどさどさと落ちてきて、山になった。
「ハムレット!」
「やあ。アイザック。私の森が随分荒れてるみたいなんだけど?」
「仕方がないよ! サラマンダーは暴れるし、炎を吐くし、レイがピンチだったんだよ!」
「……はぁ。君のお気に入りのためか……」
ふわりと地面に舞い降りたハムレットは、チラリとレイの方に視線を向けた。
レイは真剣に、次から次へとサラマンダーから魔石を取り出していた。
「……そうだ。レイ、君は確か、水魔術に癒し魔術を混ぜられるんだよね?」
「そうです」
レイはハムレットに声をかけられ、作業の手を止めて答えた。
「それじゃあ、この森一帯にもその水を撒いてもらおうかな。その方が森の草木の回復が早まるんでしょう? ロニヤのところでやったようにしてくれればいいよ」
ハムレットは面白がるように、色鮮やかな黄金眼を煌めかせてレイを見つめた。
「分かりました! サラマンダーを片付けてからでもいいですか?」
「それで構わないよ」
レイが確認すると、ハムレットは小さく相槌を打った。
ハムレットは作業の邪魔にならないところに移動すると、空間収納からテーブルと椅子を取り出して、ゆったりとお茶を始めた。そこでレイたちの作業を眺めるつもりらしい。
魔石を取り出し終わると、ルーファスがサラマンダーを運び、アイザックが空間収納にしまっていった。
レヴィが魔石をかき集め、レイはその魔石を水魔術で洗った。
仕上げに、自分たちに洗浄魔術をかけて、汚れを落とした。
「さて。サラマンダーも片付きましたし、やりましょうか!」
レイは気合を入れ直した。まずは祈るように両手を組み、魔力を練り始めた。
(この森が、元通りの美しい森に戻りますように。今回の戦いで傷ついた草木や大地や生き物たちが癒されますように……)
「ウォーター」
レイは祈りを込めて、胸を大きく開くように、天に向けて両腕を広げた。一緒に練り上げた魔力も解き放つ。
すると、サアァ……と、細やかな雨が森全体に降り始めた。
レイの癒し魔術と祈りを含んだ霧雨が、キラキラと森全体を包み込み、そして止んでいった。
辺りには、少しだけ雨が降ったような篭もった匂いと、レイの魔力特有のほんのりと甘く爽やかな鈴蘭の香りが、ふんわりと漂っていた。
ハムレットが、ガシッとレイの手を掴んだ。
「……ラ、ラングフォード魔術伯爵様……?」
レイはびっくりして、ハムレットを見上げた。
「……君は三大魔女だったんだね。初めて見たよ。それに、この魔術は……」
ハムレットもなぜか目を丸くして、レイを見つめていた。
「ちょっと。いつまでレイの手を握ってるのさ!」
アイザックが、じと目でハムレットを見上げた。パシッと、ハムレットからレイの手を奪う。
「……ああ、ついね。これはロニヤも感激するわけだね。私もこの魔術はとても気に入ったよ」
ハムレットは名残惜しそうに、レイの手を握っていた方の手をさすった。
***
「サラマンダーの魔石が六十三個……」
ギルドマスターのエスキルが、顔色を青くして魔石の数を数えあげた。
「随分な数が入り込んでいたね……でも、これでサラマンダー討伐依頼は完了だね」
ハムレットが満足そうに微笑んだ。
サラマンダー討伐の後、結局ハムレットは、冒険者ギルドの納品にまでついて来ていた。
「あれ? 双子湖の方のサラマンダーは??」
アイザックがきょとんとして、尋ねた。
「さっき君がサーペント型に戻っただろう? それに恐れをなした魔物たちが、元いたところに逃げ帰ったんだよ。だから、双子湖周辺にいた魔物たちも、みんな西のウォーグラフト領に戻って行ったよ」
「あーあ。獲れるサラマンダーの量が減っちゃった……」
ハムレットの説明に、アイザックはがっくりと肩を落とした。
「……それにしても、妙ですね……」
エスキルが、サラマンダーの魔石を一つ一つ持ち上げて、何やらじいっと見つめて呟いた。
「何がかな?」
「サラマンダーの魔石は火属性の魔力だけのはずですが、これには水と癒し属性も少し含まれてます」
ハムレットに訊かれ、エスキルが疑問点を口にした。
「あ……!」
レイは声を出しかけて、両手で自分の口元を押さえた。
(あの時、外に出しっぱなしだった!!)
レイが南の森に水を撒いた時、サラマンダーの魔石はまだ空間収納にしまっておらず、外に出しっぱなしだったのだ。もちろん、魔石もレイの癒しの水をしっかり浴びていた。
「……ふぅん。普通は、あのぐらいで魔術付与はされないはずなんだけどね。本当にレイの魔力は不思議だね……これはラングフォード領で預かるよ。コンロや火器の魔道具にするにはもったいないしね」
ハムレットは、魔石を見つめながら話した。
「……ごめんなさい……」
レイはしょんぼりと素直に謝った。
「謝る必要はないよ。きっと他の何かに使えるはずだから」
ハムレットは、にっこりと微笑んだ。
結局、サラマンダーの魔石は、通常通りの金額で買い取りとなり、銀の不死鳥への依頼は、これで完了となった。
彼の魔力圧で、森が大地がぐらぐらと揺れている。
サラマンダーたちは、警戒するように、恐れるようにアイザックから目が離せないでいた。まるで地面に足が縫い付けられたかのように、その場から動けなくなっていた。
アイザックは、レイが張っている結界の周りにたむろしているサラマンダーに目を向けた。彼は徐にその手に魔力を集め始めた。
(あれは絶対にヤバい!!!)
レイは、アイザックが手に集めている魔力量を見て、ゾクゾクッと背筋に悪寒が走った。
「結界っ!!!」
レイは結界を重ねがけすると、頭を抑えて地面に伏せた。その上にも強固な結界を張る。
レイのローブのフードの中にいる白縹湖の代表の蛇は、すでに失神していた。
「ウォーターバレット」
アイザックはレイが結界を強化したのを確認すると、サラマンダーに向けて強烈なウォーターバレットを放った。
「ギャギャッ!」
「グガッ!!」
「ガガッ!!!」
ズドドドドッ!!! と非常に重たいウォーターバレットがサラマンダーたちを穴だらけにし、何体ものサラマンダーが宙を舞った。
結界にも、バリン、バリンッといくつも穴があく音が聞こえた。
「きゃあぁっ!」
レイはぎゅっと目を瞑って、結界の外の酷い音にびっくりして叫び声をあげた。怖くて、ずっと地面に伏せたままだ。
(うぅっ……絶対に、今外に出たくない!!!)
「ガアァアァァッ!」
一等大きなサラマンダーが、大口を開けてアイザックに向かって突っ込んで行った。
ドシンッ! と激突して、森全体が大地ごと揺れた。
「僕に向かって来るなんて、勇敢だね。でも、相手と自分の力量差はちゃんとわきまえないとね」
元のサーペント型に戻ったアイザックが、サラマンダーを締め上げていた。
森の木々から頭一つ飛び出すほどの巨体で、純白の鱗にはパールのような煌めきが見えた。首元と尻尾だけ、モノトーンの蛇柄になっている。
「さっさと終わらせちゃおうか」
アイザックのロイヤルブルー色の瞳がギラリと怪しく光った。
まだ生き残っていたサラマンダーたちは、石像にでもなったかのように、その場から動けなくなった。——蛇睨みのスキルだ。
アイザックは、くったりと動かなくなったサラマンダーを手放すと、次々と他のサラマンダーを締め上げていった。
「レイ、大丈夫!?」
ルーファスが、レイが張った結界の周りにあるサラマンダーの死体をどかして、声をかけてきた。
「……大丈夫です……」
レイはチラリとルーファスの方を見上げた。
ルーファスの近くでは、レヴィが周囲を警戒してくれているようだ。
「外はまだアイザック様が暴れてて危ないから、結界の中にいて」
「分かりました」
ルーファスに指示され、レイはこくりと頷いた。
レイは結界の中から、ただただアイザックがサラマンダーたちを次々と倒していくのを眺めていた。
最後の一頭を締め上げた後、アイザックは空に向けて「ヴオオオォォォッ」と雄叫びをあげた。
空を覆っていた暗雲は、スッと晴れていった。
「レイ、大丈夫だった!? 怖い思いさせちゃってごめんね!」
アイザックが人型に戻って、心配そうにレイの元に駆け寄って来た。
「はい……大丈夫です」
レイは立ち上がって、パッと服に付いた埃を払うと、どうにか笑顔を作った。
森は、控えめに言ってもボロボロだった。
倒れた木々やサラマンダーの死体があちこちに転がり、サラマンダーの炎で焦げた草木や岩、地面は黒く変色して、ぷすぷすと焦げ臭いにおいを放っていた。
そして、水の大竜巻で抉られ、巻き上げられたいろいろな物が、森全体にばら撒かれていた。
「……これ、どうしましょうか……?」
結界から出て来たレイは、呆然と森だった場所を見渡していた。
「レイが無事なら何でもいいよ!!」
アイザックはどさくさに紛れて、むぎゅむぎゅとレイに抱きついた。
すぐさまレヴィがやって来て、レイからアイザックを引き剥がそうとしている。
「まずはサラマンダーの魔石を取って回収しようか。森の方は、ハムレット様や白縹湖の代表と相談かな……アイザック様、レイが作業しますから放してあげてください。レイにとって大切な冒険者経験ですよ」
ルーファスはサクッとこれからやる作業を確認し、さらに、やんわりとアイザックを諭した。
「……ちぇっ。仕方がないなぁ。魔石を取ったサラマンダーは僕のところに持って来て。僕が空間収納にしまうよ」
アイザックは渋々、レイを手放した。
(ルーファスが、アイザックの扱いに慣れてきてる……)
レイは目をぱちくりとさせた。
一瞬、某光竜王の顔が頭の隅をよぎり、ルーファスがこの手の自由気ままなタイプの扱いに慣れている理由に思い至ってしまい、ちょっぴり同情した。
「うぅ……エンドレス魔石取り出し作業……」
レイはサラマンダーの心臓のあたりにナイフを刺して切れ込みを入れると、腕を突っ込んで、魔石を取り出した。
冒険者活動で、魔物や獲物の解体作業には慣れてきていたが、一度にこれだけ大量に処理するのは、それなりに気が滅入った。
「もう少しだから、頑張ろうか」
ルーファスは眉を下げて苦笑すると、レイを優しく励ました。
彼の両腕は、魔石を取り出しまくったため、淡い黄色の光竜の鱗は真っ赤に染まっている。
「いつも丸呑みにしてたからなぁ……魔石だけ取り出すって、大変だね。……って、レヴィは器用すぎじゃない?」
アイザックは、レヴィの方を振り向いた。
レヴィは、サラマンダーを仰向けに転がすと、目にも止まらぬ速さで魔石だけを綺麗に抜き取った。
「以前のご主人様に、魔石を取り出すのが非常に上手な方がいらっしゃいましたので」
レヴィが淡々と答えた。
「それなら、レヴィが僕の分も魔石を取り出して。その間に、僕がサラマンダーをしまうから」
アイザックは早速、目の前のサラマンダーを空間収納にしまい始めた。
「はっ! もしかしたら、私もレヴィの技を使えます?」
「もちろんですよ。この方法なら、服もあまり汚れませんよ。七代目のご主人様を口寄せして下さい」
「やった! 口寄せ魔術、七代目様!!」
レイは嬉々として口寄せ魔術を使った。
(わ、分かる!! どこにナイフを入れて、どう魔石を取り出せばいいのか、分かる!)
レイは、さっきレヴィがやっていたようにサラマンダーを仰向けに転がすと、スッとナイフを入れ、最小限の動きで魔石を取り出した。
「ふ、ふわぁ……感激です! さっきまでの苦労が嘘みたいです……!」
レイは魔石を手にして、感激のあまりふるふると震えた。
「ここら辺だと、あと三体かな。竜巻で飛ばされたサラマンダーもいるから、それも探さないとだね」
ルーファスが、両腕にサラマンダーを運びながら言った。
人型はスラリと細身で程良く筋肉がついた男性姿なのだが、やはり竜なだけあって、かなりの力持ちだ。
——その時、柔らかい男性の声が森に響いた。
「君たちが探してるのは、このサラマンダーかな?」
レイたちの目の前に、残りのサラマンダーがどさどさと落ちてきて、山になった。
「ハムレット!」
「やあ。アイザック。私の森が随分荒れてるみたいなんだけど?」
「仕方がないよ! サラマンダーは暴れるし、炎を吐くし、レイがピンチだったんだよ!」
「……はぁ。君のお気に入りのためか……」
ふわりと地面に舞い降りたハムレットは、チラリとレイの方に視線を向けた。
レイは真剣に、次から次へとサラマンダーから魔石を取り出していた。
「……そうだ。レイ、君は確か、水魔術に癒し魔術を混ぜられるんだよね?」
「そうです」
レイはハムレットに声をかけられ、作業の手を止めて答えた。
「それじゃあ、この森一帯にもその水を撒いてもらおうかな。その方が森の草木の回復が早まるんでしょう? ロニヤのところでやったようにしてくれればいいよ」
ハムレットは面白がるように、色鮮やかな黄金眼を煌めかせてレイを見つめた。
「分かりました! サラマンダーを片付けてからでもいいですか?」
「それで構わないよ」
レイが確認すると、ハムレットは小さく相槌を打った。
ハムレットは作業の邪魔にならないところに移動すると、空間収納からテーブルと椅子を取り出して、ゆったりとお茶を始めた。そこでレイたちの作業を眺めるつもりらしい。
魔石を取り出し終わると、ルーファスがサラマンダーを運び、アイザックが空間収納にしまっていった。
レヴィが魔石をかき集め、レイはその魔石を水魔術で洗った。
仕上げに、自分たちに洗浄魔術をかけて、汚れを落とした。
「さて。サラマンダーも片付きましたし、やりましょうか!」
レイは気合を入れ直した。まずは祈るように両手を組み、魔力を練り始めた。
(この森が、元通りの美しい森に戻りますように。今回の戦いで傷ついた草木や大地や生き物たちが癒されますように……)
「ウォーター」
レイは祈りを込めて、胸を大きく開くように、天に向けて両腕を広げた。一緒に練り上げた魔力も解き放つ。
すると、サアァ……と、細やかな雨が森全体に降り始めた。
レイの癒し魔術と祈りを含んだ霧雨が、キラキラと森全体を包み込み、そして止んでいった。
辺りには、少しだけ雨が降ったような篭もった匂いと、レイの魔力特有のほんのりと甘く爽やかな鈴蘭の香りが、ふんわりと漂っていた。
ハムレットが、ガシッとレイの手を掴んだ。
「……ラ、ラングフォード魔術伯爵様……?」
レイはびっくりして、ハムレットを見上げた。
「……君は三大魔女だったんだね。初めて見たよ。それに、この魔術は……」
ハムレットもなぜか目を丸くして、レイを見つめていた。
「ちょっと。いつまでレイの手を握ってるのさ!」
アイザックが、じと目でハムレットを見上げた。パシッと、ハムレットからレイの手を奪う。
「……ああ、ついね。これはロニヤも感激するわけだね。私もこの魔術はとても気に入ったよ」
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***
「サラマンダーの魔石が六十三個……」
ギルドマスターのエスキルが、顔色を青くして魔石の数を数えあげた。
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ハムレットが満足そうに微笑んだ。
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「あーあ。獲れるサラマンダーの量が減っちゃった……」
ハムレットの説明に、アイザックはがっくりと肩を落とした。
「……それにしても、妙ですね……」
エスキルが、サラマンダーの魔石を一つ一つ持ち上げて、何やらじいっと見つめて呟いた。
「何がかな?」
「サラマンダーの魔石は火属性の魔力だけのはずですが、これには水と癒し属性も少し含まれてます」
ハムレットに訊かれ、エスキルが疑問点を口にした。
「あ……!」
レイは声を出しかけて、両手で自分の口元を押さえた。
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レイが南の森に水を撒いた時、サラマンダーの魔石はまだ空間収納にしまっておらず、外に出しっぱなしだったのだ。もちろん、魔石もレイの癒しの水をしっかり浴びていた。
「……ふぅん。普通は、あのぐらいで魔術付与はされないはずなんだけどね。本当にレイの魔力は不思議だね……これはラングフォード領で預かるよ。コンロや火器の魔道具にするにはもったいないしね」
ハムレットは、魔石を見つめながら話した。
「……ごめんなさい……」
レイはしょんぼりと素直に謝った。
「謝る必要はないよ。きっと他の何かに使えるはずだから」
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グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
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