鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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サラマンダー討伐1

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 今日はサラマンダー討伐の日だ。

 討伐メンバーは、アイザックを筆頭に、ルーファス、レイ、レヴィだ。

 アイザックは今日は大好物を捕まえるため、動きやすさ重視だ。よく着ているヒラヒラな魔術師のローブではなく、狩人のような軽装だ。
 今日はサラマンダーを狩りに行くだけなので、髪の毛の擬態も解いていて、白髪に一筋、モノトーンの蛇柄が入った元の髪色をしている。

 ルーファスはいつもの冒険者の服装なのだが、メイン武器の弓矢は持っていなかった。珍しく腰に解体用のナイフとミスリルソードを差している。
 肩口くらいまでの淡い金髪は、三つ編みにしてまとめている。

 レイは腰元にショートソードを下げ、森の加護が厚い森織りのローブを羽織っている。足元はアイザックの鱗のブーツで、完全防備だ。
 長い黒髪も、炎が付いて燃え広がらないように、結い上げてまとめている。

 レヴィはいつもの冒険者姿だ。腰にはウィルフレッドにもらったお古の剣を佩き、革の部分鎧を着て、背中に丸盾を背負っている。丸盾には、昨夜のうちにレイに炎を跳ね返す魔術を付与してもらっていた。

 前日のうちにルーファスが下見をしてくれていたらしく、サラマンダーの群れがいるという白縹湖しろはなだこの近くまで彼の転移魔術で向かった。

「レイはこれを飲んで。炎耐性が上がる魔術薬だよ」

 ルーファスが赤い液体の入った小瓶を、レイに手渡した。

「ありがとうございます」

 レイは神妙な面持ちで受け取って、ごくりと一気に魔術薬を飲んだ。

「みんなは飲まなくても大丈夫なんですか?」

 レイは銀の不死鳥メンバーを見回した。

「僕は光竜だから、そもそもあらゆる耐性が高いんだ。サラマンダーぐらいの魔物の炎なら問題ないよ」

 ルーファスが安心させるように、優しく微笑んだ。

「心配してくれるの!? 嬉しいなぁ~! 僕はスキルで耐性があるから大丈夫だよ!」

 アイザックはどさくさに紛れて、レイに抱きつこうとした。
 すかさずレヴィが、レイとアイザックの間に入ってブロックする。——ニールの特訓の賜物だ。

「私は元の体が剣なので問題ないです。おそらく、その魔術薬も私には効果がないです」

 レヴィはアイザックを弾き飛ばしながら、レイの質問に淡々と答えた。

「ちょっと! なんで邪魔したの!?」
「私は盾にもなれるようになったのです」

 アイザックがレヴィに文句を言うと、レヴィは胸を張ってちょっぴり自慢げに話した。

「『盾』ってそういう意味なの!?」

 レヴィが盾にも変身できるようになったと勘違いしていたアイザックは、ツッコミを入れていた。


***


 水竜湖の南にある白縹湖は、青みを含んだクリーミーな白い色の湖だ。
 白縹湖周辺には、どこか警戒するように深い霧が立ち込めていた。

「う~ん。向こう岸側の森の奥に、強い反応がたくさんあります。属性も火っぽいです」

 レイが探索魔術の結果を、声を潜めてパーティーメンバーに共有した。

「水辺にサラマンダーがいるのは珍しいですね」

 ルーファスも少しだけ声の大きさを落として言った。

「白縹湖は強い主がいない分、弱い魔物や妖精、精霊なんかが集まって増えてるんだ。サラマンダーにとっては、棲み心地は良くないけど、餌はいっぱいある状態かな」

 アイザックがさっくりと答えた。

「そうなると、この霧は誰が……?」
「う~ん、水の精霊や魔物、妖精たちが協力して出してるみたい」

 レイが小首を傾げると、アイザックが周りを見渡して答えた。

「シュルル……」

 その時、アイザックの前に、ミルキーブルー色の全長三十センチほどの蛇が現れた。
 小さな頭を下げてアイザックに挨拶すると、何やら魔物の言葉で話し始めた。

「えっ? 君がこの湖の代表? サラマンダーのところまで連れて行ってくれるの?」

 アイザックが確認すると、ミルキーブルー色の蛇はこくこくと相槌を打った。

「どうする? 連れて行ってくれるって」
「それなら、サラマンダーを狙いやすい所まで運んでもらいましょうか」

 アイザックがパーティーメンバーの方を振り向いて確認すると、ルーファスがしかりと頷いて答えた。

「じゃあ、みんな、気配を消して。武器は構えといて。レイはサポートをお願いね。作戦通りに行こうか」

 アイザックがニヤリと笑って言うと、全員が相槌を打った。

 その様子を見上げていたミルキーブルー色の蛇は、魔力を捻り出すようにぷるぷると震え出した。

 レイたちの周りを、ふわふわと真っ白な魔術の霧が包み込んだ。


 レイたちの視界が晴れた時、風下に大きなサラマンダーの群れが見えた。

 サラマンダーは、三~五メートルぐらいの、ワニとトカゲを足して二で割ったような見た目だ。
 その鱗は赤やオレンジ、ブラウンなどの赤ベースで、時々高温になって眩く光っている鱗を持っているサラマンダーもいた。

「アイスエイジ!」

 レイは探索魔術でサラマンダーの居場所を特定し、氷魔術を発動した。

 サラマンダーだけが次々と凍っていった。レイから離れていたサラマンダーの中には、部分的にしか凍らなかったり、運よく氷魔術を避けられた個体もいたが、周囲の気温も一気に冷えたため、動きを鈍らせた。

 アイザック、ルーファス、レヴィは散開して、次々とサラマンダーにとどめを刺していった。

 アイザックは素手でサラマンダーを捻り上げ、ルーファスは両腕を竜の腕に変えて、荒々しく腕力と爪で仕留めていった。レヴィは剣で的確に急所を狙っていく。

(私はここで結界を張って、サラマンダーたちを凍らせて動きを鈍らせる。新しくサラマンダーが現れたら、それも凍らせる。もし誰かが致命的な攻撃されそうになったら、結界を張る……)

 レイは心の中で、今日の作戦での彼女の役割を繰り返した。
 常に探索魔術を周囲一帯に敷いて、いつでも追加で氷魔術を発動できるように準備していた。

 その時、レイの頬のあたりで、チロチロッと何かが動くのが見えた。

 びっくりしてレイが振り向くと、半分ぐらいの大きさにまで縮んでしまった白縹湖の代表の蛇が、いつの間にかちゃっかり彼女の肩に乗っていたのだ。

「もしかして、湖の代表さん!?」

 レイが目を丸くして尋ねると、ミルキーブルー色の蛇は「お世話になります」といった風に、ぺこりとお辞儀をした。

(まぁ、いっか。確かにここが一番安全かもしれないし)

 レイはまたサラマンダー討伐に集中することにした。

 目の前には、すでに仕留められたサラマンダーの山がいくつもできていた。

(!? 奥の方から、新しい群れが来てるかも……しかも、かなり強い個体もいる!!)

「アイスエイジ!!」

 レイは、新しく近づいて来たサラマンダーの群れに向けて、氷魔術を撃った。

 新たにやって来たサラマンダーたちは、横一列に並ぶと、大きく喉を膨らまし、勢いよく口から炎を吐き出した。
 レイが撃った氷魔術を打ち消していく。

「嘘っ!?」

 レイは氷魔術を相殺されて、驚愕の声をあげた。

「やるねぇ」

 アイザックが、炎を避けるために張っていた水の結界を解き、ニヤリと笑った。ロイヤルブルー色の瞳は、瞳孔が縦型になっている。 

「連携を取られると厄介ですね」

 ルーファスが盾に使っていたサラマンダーを、ぽいっと捨てた。

「強力な炎ですね。この盾も、使えてあと数回ですね」

 レヴィが丸盾に残った火の粉を払った。レイにしっかりと魔術付与をしてもらったはずなのだが、一部分が黒く焦げ付いていた。

「ガアァアァァッ!」

 一等大きなサラマンダーが雄叫びをあげると、サラマンダーたちが一斉に、レイたちに向かって駆け出した。
 それぞれ口から炎を吐き出し、動きが鈍った仲間や凍った仲間を助けながら、壁のように組んで押し寄せて来る。

「危ないっ! 結界!!」

 レイは慌てて、アイザックたち三人の周りに結界を張った。

 アイザックたちはサラマンダーを器用に避けつつも、攻撃を加えて何頭か仕留めていった。

 一方で、レイは今いる場所に結界を張っていたため、その場から動けないでいた。

 サラマンダーたちは、レイがいる場所に炎を吐きつけ、ガンガンと結界に体当たりしてきた。

「きゃあっ!!」

 レイは、勢いよく結界にぶつかって来たサラマンダーや炎にびっくりして、叫び声をあげた。

 ミルキーブルー色の蛇も真っ青になって、レイの森織りのローブのフードの中へ、震えながら逃げ込んだ。

「「レイ!!?」」

 ルーファスとレヴィが、心配して彼女の方を振り向いて叫んだ。その時——

 ドンッ! と大地が揺れ、巨大な水の竜巻が轟々と大空へと立ち上がった。
 空には真っ黒な暗雲が垂れ込め、サラマンダーたちが次々と巻き上げられていった。

「……いい加減にしてもらえないかな。僕のレイになんてことしてくれてんの」

 アイザックの圧倒的な魔力圧が、森全体を覆った。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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