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水竜の神殿
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「おはよう、レイ! 今日もかわいいね!」
レイとレヴィがバレット商会の宿舎の門の外に出ると、アイザックが満面の笑みで声をかけてきた。
「おはようございます、アイザック!」
「おはようございます」
レイとレヴィも元気よく朝の挨拶を返す。
今日はアイザックの案内で、水竜湖の中央にある水竜の神殿に観光に行く予定だ。
SSランクのサーペントで、水竜王とも友人であるアイザックがいれば、水魔物にすぐに好かれてしまうレイでも安全に観光できるだろう、と彼が案内役を買って出たのだ。
なお、光竜のルーファスは、あまり水竜の聖地に近寄りすぎてしまうと、トラブルになる可能性があるため、本日はお休みだ。
明日のサラマンダー討伐の準備をしたりして、のんびり過ごす予定だそうだ。
「むっ……やっぱりレヴィも来るの?」
「ええ。水竜の神殿は、人型では初めて訪れますから」
アイザックが少し嫌そうに確認すると、レヴィは少しはしゃいだ声で返した。
「少しぐらい気を遣ってくれてもいいんじゃないのー?」
アイザックがぶっきらぼうにそう言って、レヴィを小突くと、
「『気を遣う』とはどういった場合に、どのように行うのでしょうか!? 人間の『気を遣う』は複雑ですよね!?」
レヴィは新しく人間の機微を知れるチャンスに瞳を輝かせ、ぐいぐいとアイザックに質問していった。
「え。そこから説明するの?」
アイザックは急な質問攻めにあい、たじろいで一歩後ろにさがった。
(ルーファスの言った通り、アイザックはレヴィにちょっと弱いみたい……)
レイは、あまり彼らとは接していないはずのルーファスの観察眼の鋭さに、目をぱちくりさせて、二人のやりとりを眺めていた。
「だーかーらー! 僕とレイみたいに、いい雰囲気になった時は、気を遣って二人きりにするものなの!」
「それはニールから断固邪魔するように言われてます。護衛の仕事の中でも最重要だそうです」
「ムキーッ! ニール様がやり手すぎる! 先手を打たれた!!」
アイザックは悔しそうに奇声をあげて、頭を抱え込んだ。
(……えっ? ニールはレヴィに何を教えたの……?)
レイは、自らの剣が、いつの間にか兄ニールの手によって、思ってもみなかった方向に躾けられていることに戦々恐々とした。
***
アイザックたちは、水竜湖北岸にある船着場に向かった。
船着場には、小型~大型までさまざまなサイズの船があった。
釣りに出るための個人用ボートから、庶民の足として使われる船渡し用のゴンドラのような船、観光客用に綺麗に飾り立てられた大型の船などが、水竜湖にちゃぷちゃぷと浮かんでいた。
アイザックが選んだのは、客が十人くらいまで乗れる遊覧船だ。いくつか有名な島を経由し、水竜の神殿があるトリトン島に向かう観光客向けの船だ。
船尾に魔道具がついていて、プロペラが回って進むそうだ。
アイザックたちが船に乗り込むと、ちょうど満員になり、すぐに出発することになった。
船頭さんが船尾に付いている魔道具に魔力を流すと、初めはゆっくり、そして徐々にスピードを上げて船が走り出した。
ザンッと冷たい水飛沫を上げながら、ぐんぐんと進んでいく。
キュイ!
キュッ!
キュウ!
「わぁ! イルカです!」
レイが指差した方向に、三頭のイルカが現れた。
他の観光客たちからも、賑やかな歓声があがる。
イルカたちは船に近づくと、ジャンプをしてアピールしたり、船の真横に付いて一緒に泳いだりして、観光客たちを楽しませた。
(この子たちも、水竜の子供が変身してる姿なのかな?)
レイがわくわくとイルカに見惚れていると、
「お嬢ちゃん、イルカは初めてかい? 普段はほとんど見かけないんだけど、船を出すと時々遊びに来るんだよ」
船頭のおじさんが船を操作しつつ、朗らかに教えてくれた。
「かわいいですよね!」
レイもにっこりと返事をする。
「レイ、この子たちは水竜だから、手を出さないようにね! うっかり手を出すと、マーキングとかされちゃうから!」
アイザックが、こっそりとレイに耳打ちした。
「やっぱり、そうだったんですね」
「水竜湖にイルカはいないからね」
レイとアイザックは、こそこそと話し合った。
「以前のご主人様たちも、水竜湖のイルカにはしゃいでましたね」
レヴィは、イルカたちの動きを目で追いながら、しみじみと語った。
「本物ではないけどね。水竜の子供たちの伝統の遊びなんだって。ハムレットが言ってたよ」
アイザックは、レイがイルカに手を出さないように、しっかりと彼女の両手を握っていた。
遊覧船は、ゴツゴツと大きな岩だけの島、すっぽりと木々に覆われた小島や、水中洞窟の入り口が見えている島、魔鳥が棲みついている島、いくつか民家が建てられている島など、大小さまざまな島々をぐるりと巡っていった。
「いろんな島がありますね! 見てるだけでも面白いです!」
レイがはしゃいだ声をあげると、
「島のほとんどは魔物の領域なので、残念ながら人間は上陸できないんです。でも、これから行く一番大きなトリトン島は、上陸できますよ……ほら、見えてきた!」
水竜湖にある島のことを、船頭さんがにこにこと説明した。
船の先には、大きな島の上に青い神殿が見え始めた。
「わぁ! 青い建物!?」
「水大理石だよ。ラングフォードとごく一部の地域でしか採れないんだ。特にラングフォードのものは青色が深いんだよ」
レイがびっくりしていると、アイザックが横から解説してくれた。
トリトン島の船着場に到着すると、次々と観光客たちは遊覧船から降りて行った。
レイもアイザックに手を貸してもらって、遊覧船から降りた。
水竜の神殿は、瑠璃紺色の艶やかな大理石の塀に囲まれた荘厳な建物だ。
ところどころに水竜を象った石像が置かれ、浅い水路が巡っている。
神殿内にある中庭では、等間隔にレモンの木が植えられ、緑色の実がなっていた。
中庭の真ん中の芝生の上では、年若い女の子たちが二十人ほど踊りの練習をしていた。
その脇の木陰では、ハムレットが眩しそうに練習風景を眺めていた。
「リハーサルでしょうか? すごいですね」
「水竜王祭の踊りだね。ハムレットもいるみたい」
「綺麗ですね。あ、楽隊も来てますね」
レイたちがなんとなく練習風景を眺めていると、こちらに気付いたハムレットが、非常に爽やかな笑顔を浮かべて近づいて来た。
「君も踊り子になりたいのか……な……そういえば、レイは男の子だったね…………」
ハムレットは、急にレイに声をかけてきたかと思うと、途中で気づいて深々と項垂れた。
「ラングフォード魔術伯爵……」
レイは思わずじと目でハムレットを見返していた。
(……今ナンパしようとしてたよね、絶対……)
「まだターニャの祝福がついてるんだね……とんでもなくかわいい子が来たって、心臓が止まるかと思ったよ……こんな子がいたら、すぐに契約でも何でもしたのに……」
ハムレットは、苦悶するように両手で顔を覆った。ごにょごにょと、くぐもった声で呟いている。
「相変わらずだね、ハムレット」
アイザックが両腰に腕を当て、むすっと不機嫌そうに声をかけた。
「ああ。アイザックもいたのか。レヴィも……」
「こんにちは」
ハムレットは今気が付いたようで、二人に視線を向けた。
レヴィは特に気にしていないようで、淡々と挨拶をしている。
「女の子以外は、本当に視界に入らなくなるね」
「仕方ないよ。本当に男は視界に入らないんだ」
「あ。振っ切れた」
ハムレットの言い分に、アイザックは唇を尖らせた。
「ああ、そうだ。君には特別だよ?」
ハムレットはレイの手を取ると、その上に瑠璃色の容器を置いた。
「これは何でしょうか……?」
レイはきょとんとして、尋ね返した。
「水竜の水クリームだよ。君にはなんだか、これをあげた方がいい気がしたんだ。もちろん女の子たちの肌にぴったりなんだけど、ちょっとした手荒れなんかにも効くからね」
ハムレットは容器の蓋を開けると、淡い水色のクリームを少しだけ指先にとって、レイの手に塗り込んだ。
ひんやりとしたジェルクリームのような質感で、藤の優しい香りと落ち着いたハーブのような香りがふわりと立った。
レイはボンッと顔を真っ赤にして、冒険者生活で荒れた手を引っ込めようとした。ハムレットが反射的にその手を握り締める。
(ちょっ……そういえば、全然ケアをサボってた……すっごく恥ずかしい……)
「むむむっ! ハムレット、君って奴は!」
アイザックがレイの手を包み込むようにして、二人の間に割って入った。
「もちろん、アイザックの邪魔はしないよ? 私は男の子は守備範囲外だからね」
ハムレットは困ったように眉を下げ、もう手は出さないよと、両手のひらをアイザックにひらひらと見せた。
「ああ。踊りの方が休憩時間に入ったね。それでは、私はここで」
ハムレットは、休憩に入って木陰で涼んでいる踊り子の女の子たちの方に視線を向けた。微笑ましげに、ふわりと目を細める。
「あの! ……水クリームをありがとうございました!」
「うん。いいよ」
レイがハムレットの去り際にお礼を言うと、彼は片手を上げて、女の子たちの方へとルンルンと去って行った。
***
帰りの遊覧船で、始終アイザックは物思いに耽っていた。
「……ハムレットはたぶん、レイが本当は女の子だって、本能的に気づいてる」
「えっ!? そうなんですか!?」
アイザックの呟きに、隣の席のレイがすぐさま反応した。
「たぶん、ね。……でも、なんでこうも見た目に騙されるのかなぁ……」
アイザックは、珍しく遠い目をしていた。
レイとレヴィがバレット商会の宿舎の門の外に出ると、アイザックが満面の笑みで声をかけてきた。
「おはようございます、アイザック!」
「おはようございます」
レイとレヴィも元気よく朝の挨拶を返す。
今日はアイザックの案内で、水竜湖の中央にある水竜の神殿に観光に行く予定だ。
SSランクのサーペントで、水竜王とも友人であるアイザックがいれば、水魔物にすぐに好かれてしまうレイでも安全に観光できるだろう、と彼が案内役を買って出たのだ。
なお、光竜のルーファスは、あまり水竜の聖地に近寄りすぎてしまうと、トラブルになる可能性があるため、本日はお休みだ。
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「むっ……やっぱりレヴィも来るの?」
「ええ。水竜の神殿は、人型では初めて訪れますから」
アイザックが少し嫌そうに確認すると、レヴィは少しはしゃいだ声で返した。
「少しぐらい気を遣ってくれてもいいんじゃないのー?」
アイザックがぶっきらぼうにそう言って、レヴィを小突くと、
「『気を遣う』とはどういった場合に、どのように行うのでしょうか!? 人間の『気を遣う』は複雑ですよね!?」
レヴィは新しく人間の機微を知れるチャンスに瞳を輝かせ、ぐいぐいとアイザックに質問していった。
「え。そこから説明するの?」
アイザックは急な質問攻めにあい、たじろいで一歩後ろにさがった。
(ルーファスの言った通り、アイザックはレヴィにちょっと弱いみたい……)
レイは、あまり彼らとは接していないはずのルーファスの観察眼の鋭さに、目をぱちくりさせて、二人のやりとりを眺めていた。
「だーかーらー! 僕とレイみたいに、いい雰囲気になった時は、気を遣って二人きりにするものなの!」
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アイザックは悔しそうに奇声をあげて、頭を抱え込んだ。
(……えっ? ニールはレヴィに何を教えたの……?)
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アイザックたちが船に乗り込むと、ちょうど満員になり、すぐに出発することになった。
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ザンッと冷たい水飛沫を上げながら、ぐんぐんと進んでいく。
キュイ!
キュッ!
キュウ!
「わぁ! イルカです!」
レイが指差した方向に、三頭のイルカが現れた。
他の観光客たちからも、賑やかな歓声があがる。
イルカたちは船に近づくと、ジャンプをしてアピールしたり、船の真横に付いて一緒に泳いだりして、観光客たちを楽しませた。
(この子たちも、水竜の子供が変身してる姿なのかな?)
レイがわくわくとイルカに見惚れていると、
「お嬢ちゃん、イルカは初めてかい? 普段はほとんど見かけないんだけど、船を出すと時々遊びに来るんだよ」
船頭のおじさんが船を操作しつつ、朗らかに教えてくれた。
「かわいいですよね!」
レイもにっこりと返事をする。
「レイ、この子たちは水竜だから、手を出さないようにね! うっかり手を出すと、マーキングとかされちゃうから!」
アイザックが、こっそりとレイに耳打ちした。
「やっぱり、そうだったんですね」
「水竜湖にイルカはいないからね」
レイとアイザックは、こそこそと話し合った。
「以前のご主人様たちも、水竜湖のイルカにはしゃいでましたね」
レヴィは、イルカたちの動きを目で追いながら、しみじみと語った。
「本物ではないけどね。水竜の子供たちの伝統の遊びなんだって。ハムレットが言ってたよ」
アイザックは、レイがイルカに手を出さないように、しっかりと彼女の両手を握っていた。
遊覧船は、ゴツゴツと大きな岩だけの島、すっぽりと木々に覆われた小島や、水中洞窟の入り口が見えている島、魔鳥が棲みついている島、いくつか民家が建てられている島など、大小さまざまな島々をぐるりと巡っていった。
「いろんな島がありますね! 見てるだけでも面白いです!」
レイがはしゃいだ声をあげると、
「島のほとんどは魔物の領域なので、残念ながら人間は上陸できないんです。でも、これから行く一番大きなトリトン島は、上陸できますよ……ほら、見えてきた!」
水竜湖にある島のことを、船頭さんがにこにこと説明した。
船の先には、大きな島の上に青い神殿が見え始めた。
「わぁ! 青い建物!?」
「水大理石だよ。ラングフォードとごく一部の地域でしか採れないんだ。特にラングフォードのものは青色が深いんだよ」
レイがびっくりしていると、アイザックが横から解説してくれた。
トリトン島の船着場に到着すると、次々と観光客たちは遊覧船から降りて行った。
レイもアイザックに手を貸してもらって、遊覧船から降りた。
水竜の神殿は、瑠璃紺色の艶やかな大理石の塀に囲まれた荘厳な建物だ。
ところどころに水竜を象った石像が置かれ、浅い水路が巡っている。
神殿内にある中庭では、等間隔にレモンの木が植えられ、緑色の実がなっていた。
中庭の真ん中の芝生の上では、年若い女の子たちが二十人ほど踊りの練習をしていた。
その脇の木陰では、ハムレットが眩しそうに練習風景を眺めていた。
「リハーサルでしょうか? すごいですね」
「水竜王祭の踊りだね。ハムレットもいるみたい」
「綺麗ですね。あ、楽隊も来てますね」
レイたちがなんとなく練習風景を眺めていると、こちらに気付いたハムレットが、非常に爽やかな笑顔を浮かべて近づいて来た。
「君も踊り子になりたいのか……な……そういえば、レイは男の子だったね…………」
ハムレットは、急にレイに声をかけてきたかと思うと、途中で気づいて深々と項垂れた。
「ラングフォード魔術伯爵……」
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ハムレットは、苦悶するように両手で顔を覆った。ごにょごにょと、くぐもった声で呟いている。
「相変わらずだね、ハムレット」
アイザックが両腰に腕を当て、むすっと不機嫌そうに声をかけた。
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「こんにちは」
ハムレットは今気が付いたようで、二人に視線を向けた。
レヴィは特に気にしていないようで、淡々と挨拶をしている。
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「仕方ないよ。本当に男は視界に入らないんだ」
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「ああ、そうだ。君には特別だよ?」
ハムレットはレイの手を取ると、その上に瑠璃色の容器を置いた。
「これは何でしょうか……?」
レイはきょとんとして、尋ね返した。
「水竜の水クリームだよ。君にはなんだか、これをあげた方がいい気がしたんだ。もちろん女の子たちの肌にぴったりなんだけど、ちょっとした手荒れなんかにも効くからね」
ハムレットは容器の蓋を開けると、淡い水色のクリームを少しだけ指先にとって、レイの手に塗り込んだ。
ひんやりとしたジェルクリームのような質感で、藤の優しい香りと落ち着いたハーブのような香りがふわりと立った。
レイはボンッと顔を真っ赤にして、冒険者生活で荒れた手を引っ込めようとした。ハムレットが反射的にその手を握り締める。
(ちょっ……そういえば、全然ケアをサボってた……すっごく恥ずかしい……)
「むむむっ! ハムレット、君って奴は!」
アイザックがレイの手を包み込むようにして、二人の間に割って入った。
「もちろん、アイザックの邪魔はしないよ? 私は男の子は守備範囲外だからね」
ハムレットは困ったように眉を下げ、もう手は出さないよと、両手のひらをアイザックにひらひらと見せた。
「ああ。踊りの方が休憩時間に入ったね。それでは、私はここで」
ハムレットは、休憩に入って木陰で涼んでいる踊り子の女の子たちの方に視線を向けた。微笑ましげに、ふわりと目を細める。
「あの! ……水クリームをありがとうございました!」
「うん。いいよ」
レイがハムレットの去り際にお礼を言うと、彼は片手を上げて、女の子たちの方へとルンルンと去って行った。
***
帰りの遊覧船で、始終アイザックは物思いに耽っていた。
「……ハムレットはたぶん、レイが本当は女の子だって、本能的に気づいてる」
「えっ!? そうなんですか!?」
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