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冒険者ギルド
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巨大な水竜湖を囲むラングフォード領の領都アクアブリッジは、東西南北の地区ごとに街の様子がガラリと変わる。
領主の館がある北岸は、行政と商業の街だ。
水竜湖北部の山の麓には、領主館とアクアブリッジの役所があり、領の騎士団やその宿舎もある。
水竜湖の北岸周りには、商業ギルドのほか、さまざまな店を抱える大きな百貨店や、貴族たちが出資している商館、バレット商会のような大店の支店などがある。
全体的に大きくて立派な煉瓦積みの建物が多く、荘厳かつ華やかで、アクアブリッジの中心地だ。
水竜湖の西と南側は、ラングフォード領の食糧庫だ。
民家が多く、特に湖岸近くは漁村が多い。湖から離れれば離れるほど、畑や酪農を営んでいる家が多く、素朴で長閑な田園地帯が広がっている。
東岸側は庶民の街だ。
個人で営んでいるようなパン屋や宿屋、魔術薬屋のような小規模なお店や工房が集まっている。冒険者ギルドもここにある。
水竜湖東岸にあるアクアブリッジの冒険者ギルドに着くと、レイたち銀の不死鳥メンバーは、早速、魔物の買取カウンターに向かった。
「こんにちは! 買い取りをお願いします!」
レイは元気よく挨拶すると、空間収納から、討伐した小型の魔物六体とスライムの魔石十個を取り出した。冒険者証もカウンターの上に置く。
受付の女性は、ルーファスを見て警戒するように一瞬表情を翳らせたが、何事もなかったかのように手続きを始めた。
「……魔石十個と三つ目イタチが三体、一角うさぎが二体、小型のマッドボアが一体ですね……もしこれ以上持ち込みの魔物の量が増えたり、大物を討伐された場合は、ギルド裏手の解体工房の方でも買い取りできますので、そちらにお願いしますね」
「分かりました」
受付の女性の説明に、レイはこくりと頷いた。
「レイ、依頼ボードの方も確認しようか?」
「はいっ!」
代金と買取証を受け取った後、ルーファスに促され、レイたちは依頼ボードの方へと向かった。
レイたちの移動と共に、彼らをチラチラと観察するような視線も移動していく。
(……ものすっごい見られてる。初めてのギルドは大体こんな感じだけど、ここのはちょっと異質かも……)
レイは隣を歩くルーファスを、こっそり見上げた。
ルーファスの淡い黄色の瞳は、真っ直ぐに目的地の依頼ボードを見つめていて、歩く度にサラリと淡い金色の髪が揺れている——王子様のように整った白皙の美貌だ。
ルーファスは、どこへ行っても女性から憧れや好意の視線を受けることが多いのだが、このギルドでは、男女問わずかなり警戒するような視線を向けられている。
ルーファスは平然としているようだが、レイは、どこか彼がイライラしているような印象を受けた。
レヴィは、周囲からの視線を遮るように、レイのすぐ後ろを歩いていた。
「王都へ向かう護衛の依頼は無いですね」
レヴィが依頼票をざっとチェックして、淡々と言った。
「これから水竜王祭があるからね。ここから離れるよりも、訪れる人の方が多いのかもね」
ルーファスが考え込むように顎に指を載せ、う~んと唸った。
「そうなると、帰りはどうしましょうか?」
レイは、ルーファスとレヴィを交互に見上げた。
「功績ポイントを稼ぐなら、帰りも護衛依頼を受けた方が効率いいよね。でも、そうなると水竜王祭が終わってからの方が、依頼が多いかもね……」
「ニールに相談しましょうか? いつまで商会の宿舎に泊まっていいのか分からないですし」
「それもそうだね」
ルーファスは、レイの頭をぽんっと撫でると、彼女の手を引いてギルドの出口まで向かった。
相変わらず、ギルド内の視線は厳しかった。
***
銀の不死鳥メンバーは、冒険者ギルドから出た後、すぐに近くのカフェに入った。
それぞれ飲み物を注文してテーブル席に着くと、ルーファスが瞬時に防音結界を展開した。
「……ふぅ。結構、ギルドに水竜が多かったね」
ルーファスが、肩から力を抜くように溜め息を吐いた。
「そうだったんですね!? 確かに、なんだか異様な視線を感じました」
レイは、甘酸っぱいレモネードで喉を潤すと、目を丸くして、ルーファスの方を見た。
「……僕はともかく、レイの方が危なかったんだよ。僕は『高位の魔物が現れた』みたいな警戒のされ方だったけど、レイの方は明らかに獲物を狙う目だったからね」
「えぇっ!?」
ルーファスがじと目でレイを見ると、彼女はさらにびっくりして大声をあげた。
「そうですね。壁際に立っていた男性、カウンターの奥にいた女性、それから、窓際の席にいた女性がそんな視線でレイを見てましたよ」
「……えぇぇ……」
(こわっ! 私、そんなに見られてたの!?)
レヴィに淡々と報告され、レイは却って背筋にゾゾゾッと悪寒が走った。
「レイ、僕がピクニックの時に言ったこと、覚えてる?」
「……魔物に好かれやすいってことですか?」
ルーファスの問いかけに、レイは小首を傾げた。
「そう。ここは水属性の魔物が多いし、レイは特に好かれやすい……低ランクの魔物はレイの使い魔になりたがるけど、高ランクの魔物は逆にレイを従属させたがる者も多いからね。祝福や加護を与えて愛でたいっていうタイプも多いけど、こればっかりはその魔物の性格と好みによるからね……」
ルーファスは、困ったように眉を下げてレイを見つめた。
「ニール様の森の時は低ランク魔物が多かったし、ニール様もいるから、手出しはされなかったけど、水竜はBランク以上だからね。レイに無理強いしようとする者も出てくるかもね……」
「うぅっ……それじゃあ、ちょっとした観光もマズいですか……? せめて湖水地方のおいしいご飯だけでも楽しみたいです……」
ルーファスの言葉に、レイはうるうると悲しげに彼を見上げた。
水竜王祭に参加はできなくても、この地方の料理だけでも楽しんでおきたかったのだ。
「……レイは、そこはブレないね……僕から離れなければ大丈夫だよ。僕よりランクの高い竜はほとんどいないから」
ルーファスは苦笑して、彼女を安心させるように言った。
「……ルーファス!」
レイは両手を組んで、救いの神を見るように彼を見上げた。
「だから、絶対に一人では行動しないこと!」
「……はい……」
過保護なルーファスに念を押され、レイは渋々頷いた。
***
銀の不死鳥メンバーは、夜にルーファスの部屋に集まった。
ニールと連絡を取るためだ。
「そういえば、ニールに推薦状のことも伝えないと!」
レイは思い出したようにパンッと両手を打った。そそくさと黒い封筒を空間収納から取り出す。
「ああ、黒の塔の推薦状の件だね。ライデッカー魔術伯爵には、僕の方から断りを入れておこうか?」
ルーファスがレイに尋ねた。
「え、いいんですか?」
レイは目をぱちくりさせて、ルーファスの方を振り向いた。
せっかくライデッカーに紹介状を書いてもらったのに、どうお断りしようかと少し悩んでいたのだ。
「僕の方が彼よりランクは上だし、レイが僕の庇護下にいるのは彼も知っていることだから、大丈夫だよ」
「ありがとうございます。ラングフォード魔術伯爵は、ニールのお得意様みたいなんです。推薦状をもらうなら同席するってニールに言われてたんですが、ラングフォード魔術伯爵に推薦状をお願いしないなら、ニールにも伝えておかないと」
「そうだね、その方がいいね」
ルーファスは、テーブルの上に置いてあった青い通信の魔道具に魔力を流した。
『ルーファス殿? どうされました?』
しばらくすると、魔道具を通して、不思議そうなニールの声が聞こえてきた。
「私、レイです」
『レイ? 急にどうしたんだ?』
「アクアブリッジの宿舎を手配してくれて、ありがとうございます!」
『うん、いいんだよ。レイはもう俺の妹だし。それに、好きなように使ってくれていいよ』
魔道具越しでも分かるほど、あたたかいトーンのニールの声がした。
「ふふっ。ありがとうございます。ここって、いつまで滞在しても大丈夫なんですか?」
『いつまでそっちにいる予定かな?』
「冒険者ギルドで依頼票を見たら、王都へ向かう護衛の依頼が無かったんです。たぶん、今の時期は水竜王祭があるから、それが終わるまではあまり護衛の依頼は出てこないだろうって……」
レイはしょんぼりと状況を説明した。
『水竜王祭が終わるまでアクアブリッジに滞在する予定か。構わないよ。それから、ルーファス殿のことは、水の王に伝えておくよ。光竜が水竜の縄張りに長居するのはあまり好ましくないからね』
ニールはあっさりと許可を出した。
「ありがとうございます」
ルーファスも卒なくお礼を言う。
「それからラングフォード魔術伯爵についてですが、ルーファスとも話し合って、今回は会わないようにしようってことになりました。ラングフォード魔術伯爵は水竜王様と関係してるんですよね? 私、師匠や他のユグドラの人たちから、水竜王様には会わない方がいいって言われてるんです……」
レイは申し訳なさそうに、ニールに伝えた。
『それなら仕方ないね。確かに、ハムレットは女好きだし、レイの強い水属性の魔力は、彼の好みだからね』
「ハムレット?」
レイは小首を傾げた。
『ああ。当代の水竜王の名前だよ。フェリクス様には、俺がコントロールするよう頼まれていたけど、ウィルが会うことを反対してるなら、会うのは止めておいた方がいいね』
「でも、そうなると、黒の塔に入るのに、別の方から推薦状をもらわないと……」
『……確か、魔術伯爵の推薦状が必要なんだよね? 俺の方でも他に伝手がないか確認してみるよ。他にも取引のある魔術伯爵はいるからね』
「ありがとうございます」
レイはほっと息を吐いてお礼を言った。
「それじゃあ、ニール、おやすみなさい」
『ああ。レイもアクアブリッジを楽しんでおいで。ルーファス殿もレヴィも、レイのことをよろしくお願いします。では、おやすみ』
その後、二、三近況報告をした後、レイとニールは、朗らかにおやすみの挨拶を交わして通信の魔道具のスイッチを切った。
「ふふふっ! これで少しは気兼ねなくこの地方で観光ができますね!」
レイはにっこりと笑った。
「そうだね。水竜湖や水竜王祭は避けた方がいいかもしれないけど、それ以外は楽しめそうだね。明日は、湖水料理だっけ? 有名な店に行こうか?」
ルーファスも優しく微笑んだ。
「「やった!!」」
レイとレヴィが両手を挙げて、はしゃいだ。
「……だんだん、レヴィもレイに似てきたな……」
ルーファスは呆れるように、苦笑するように呟いた。
領主の館がある北岸は、行政と商業の街だ。
水竜湖北部の山の麓には、領主館とアクアブリッジの役所があり、領の騎士団やその宿舎もある。
水竜湖の北岸周りには、商業ギルドのほか、さまざまな店を抱える大きな百貨店や、貴族たちが出資している商館、バレット商会のような大店の支店などがある。
全体的に大きくて立派な煉瓦積みの建物が多く、荘厳かつ華やかで、アクアブリッジの中心地だ。
水竜湖の西と南側は、ラングフォード領の食糧庫だ。
民家が多く、特に湖岸近くは漁村が多い。湖から離れれば離れるほど、畑や酪農を営んでいる家が多く、素朴で長閑な田園地帯が広がっている。
東岸側は庶民の街だ。
個人で営んでいるようなパン屋や宿屋、魔術薬屋のような小規模なお店や工房が集まっている。冒険者ギルドもここにある。
水竜湖東岸にあるアクアブリッジの冒険者ギルドに着くと、レイたち銀の不死鳥メンバーは、早速、魔物の買取カウンターに向かった。
「こんにちは! 買い取りをお願いします!」
レイは元気よく挨拶すると、空間収納から、討伐した小型の魔物六体とスライムの魔石十個を取り出した。冒険者証もカウンターの上に置く。
受付の女性は、ルーファスを見て警戒するように一瞬表情を翳らせたが、何事もなかったかのように手続きを始めた。
「……魔石十個と三つ目イタチが三体、一角うさぎが二体、小型のマッドボアが一体ですね……もしこれ以上持ち込みの魔物の量が増えたり、大物を討伐された場合は、ギルド裏手の解体工房の方でも買い取りできますので、そちらにお願いしますね」
「分かりました」
受付の女性の説明に、レイはこくりと頷いた。
「レイ、依頼ボードの方も確認しようか?」
「はいっ!」
代金と買取証を受け取った後、ルーファスに促され、レイたちは依頼ボードの方へと向かった。
レイたちの移動と共に、彼らをチラチラと観察するような視線も移動していく。
(……ものすっごい見られてる。初めてのギルドは大体こんな感じだけど、ここのはちょっと異質かも……)
レイは隣を歩くルーファスを、こっそり見上げた。
ルーファスの淡い黄色の瞳は、真っ直ぐに目的地の依頼ボードを見つめていて、歩く度にサラリと淡い金色の髪が揺れている——王子様のように整った白皙の美貌だ。
ルーファスは、どこへ行っても女性から憧れや好意の視線を受けることが多いのだが、このギルドでは、男女問わずかなり警戒するような視線を向けられている。
ルーファスは平然としているようだが、レイは、どこか彼がイライラしているような印象を受けた。
レヴィは、周囲からの視線を遮るように、レイのすぐ後ろを歩いていた。
「王都へ向かう護衛の依頼は無いですね」
レヴィが依頼票をざっとチェックして、淡々と言った。
「これから水竜王祭があるからね。ここから離れるよりも、訪れる人の方が多いのかもね」
ルーファスが考え込むように顎に指を載せ、う~んと唸った。
「そうなると、帰りはどうしましょうか?」
レイは、ルーファスとレヴィを交互に見上げた。
「功績ポイントを稼ぐなら、帰りも護衛依頼を受けた方が効率いいよね。でも、そうなると水竜王祭が終わってからの方が、依頼が多いかもね……」
「ニールに相談しましょうか? いつまで商会の宿舎に泊まっていいのか分からないですし」
「それもそうだね」
ルーファスは、レイの頭をぽんっと撫でると、彼女の手を引いてギルドの出口まで向かった。
相変わらず、ギルド内の視線は厳しかった。
***
銀の不死鳥メンバーは、冒険者ギルドから出た後、すぐに近くのカフェに入った。
それぞれ飲み物を注文してテーブル席に着くと、ルーファスが瞬時に防音結界を展開した。
「……ふぅ。結構、ギルドに水竜が多かったね」
ルーファスが、肩から力を抜くように溜め息を吐いた。
「そうだったんですね!? 確かに、なんだか異様な視線を感じました」
レイは、甘酸っぱいレモネードで喉を潤すと、目を丸くして、ルーファスの方を見た。
「……僕はともかく、レイの方が危なかったんだよ。僕は『高位の魔物が現れた』みたいな警戒のされ方だったけど、レイの方は明らかに獲物を狙う目だったからね」
「えぇっ!?」
ルーファスがじと目でレイを見ると、彼女はさらにびっくりして大声をあげた。
「そうですね。壁際に立っていた男性、カウンターの奥にいた女性、それから、窓際の席にいた女性がそんな視線でレイを見てましたよ」
「……えぇぇ……」
(こわっ! 私、そんなに見られてたの!?)
レヴィに淡々と報告され、レイは却って背筋にゾゾゾッと悪寒が走った。
「レイ、僕がピクニックの時に言ったこと、覚えてる?」
「……魔物に好かれやすいってことですか?」
ルーファスの問いかけに、レイは小首を傾げた。
「そう。ここは水属性の魔物が多いし、レイは特に好かれやすい……低ランクの魔物はレイの使い魔になりたがるけど、高ランクの魔物は逆にレイを従属させたがる者も多いからね。祝福や加護を与えて愛でたいっていうタイプも多いけど、こればっかりはその魔物の性格と好みによるからね……」
ルーファスは、困ったように眉を下げてレイを見つめた。
「ニール様の森の時は低ランク魔物が多かったし、ニール様もいるから、手出しはされなかったけど、水竜はBランク以上だからね。レイに無理強いしようとする者も出てくるかもね……」
「うぅっ……それじゃあ、ちょっとした観光もマズいですか……? せめて湖水地方のおいしいご飯だけでも楽しみたいです……」
ルーファスの言葉に、レイはうるうると悲しげに彼を見上げた。
水竜王祭に参加はできなくても、この地方の料理だけでも楽しんでおきたかったのだ。
「……レイは、そこはブレないね……僕から離れなければ大丈夫だよ。僕よりランクの高い竜はほとんどいないから」
ルーファスは苦笑して、彼女を安心させるように言った。
「……ルーファス!」
レイは両手を組んで、救いの神を見るように彼を見上げた。
「だから、絶対に一人では行動しないこと!」
「……はい……」
過保護なルーファスに念を押され、レイは渋々頷いた。
***
銀の不死鳥メンバーは、夜にルーファスの部屋に集まった。
ニールと連絡を取るためだ。
「そういえば、ニールに推薦状のことも伝えないと!」
レイは思い出したようにパンッと両手を打った。そそくさと黒い封筒を空間収納から取り出す。
「ああ、黒の塔の推薦状の件だね。ライデッカー魔術伯爵には、僕の方から断りを入れておこうか?」
ルーファスがレイに尋ねた。
「え、いいんですか?」
レイは目をぱちくりさせて、ルーファスの方を振り向いた。
せっかくライデッカーに紹介状を書いてもらったのに、どうお断りしようかと少し悩んでいたのだ。
「僕の方が彼よりランクは上だし、レイが僕の庇護下にいるのは彼も知っていることだから、大丈夫だよ」
「ありがとうございます。ラングフォード魔術伯爵は、ニールのお得意様みたいなんです。推薦状をもらうなら同席するってニールに言われてたんですが、ラングフォード魔術伯爵に推薦状をお願いしないなら、ニールにも伝えておかないと」
「そうだね、その方がいいね」
ルーファスは、テーブルの上に置いてあった青い通信の魔道具に魔力を流した。
『ルーファス殿? どうされました?』
しばらくすると、魔道具を通して、不思議そうなニールの声が聞こえてきた。
「私、レイです」
『レイ? 急にどうしたんだ?』
「アクアブリッジの宿舎を手配してくれて、ありがとうございます!」
『うん、いいんだよ。レイはもう俺の妹だし。それに、好きなように使ってくれていいよ』
魔道具越しでも分かるほど、あたたかいトーンのニールの声がした。
「ふふっ。ありがとうございます。ここって、いつまで滞在しても大丈夫なんですか?」
『いつまでそっちにいる予定かな?』
「冒険者ギルドで依頼票を見たら、王都へ向かう護衛の依頼が無かったんです。たぶん、今の時期は水竜王祭があるから、それが終わるまではあまり護衛の依頼は出てこないだろうって……」
レイはしょんぼりと状況を説明した。
『水竜王祭が終わるまでアクアブリッジに滞在する予定か。構わないよ。それから、ルーファス殿のことは、水の王に伝えておくよ。光竜が水竜の縄張りに長居するのはあまり好ましくないからね』
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「ありがとうございます」
ルーファスも卒なくお礼を言う。
「それからラングフォード魔術伯爵についてですが、ルーファスとも話し合って、今回は会わないようにしようってことになりました。ラングフォード魔術伯爵は水竜王様と関係してるんですよね? 私、師匠や他のユグドラの人たちから、水竜王様には会わない方がいいって言われてるんです……」
レイは申し訳なさそうに、ニールに伝えた。
『それなら仕方ないね。確かに、ハムレットは女好きだし、レイの強い水属性の魔力は、彼の好みだからね』
「ハムレット?」
レイは小首を傾げた。
『ああ。当代の水竜王の名前だよ。フェリクス様には、俺がコントロールするよう頼まれていたけど、ウィルが会うことを反対してるなら、会うのは止めておいた方がいいね』
「でも、そうなると、黒の塔に入るのに、別の方から推薦状をもらわないと……」
『……確か、魔術伯爵の推薦状が必要なんだよね? 俺の方でも他に伝手がないか確認してみるよ。他にも取引のある魔術伯爵はいるからね』
「ありがとうございます」
レイはほっと息を吐いてお礼を言った。
「それじゃあ、ニール、おやすみなさい」
『ああ。レイもアクアブリッジを楽しんでおいで。ルーファス殿もレヴィも、レイのことをよろしくお願いします。では、おやすみ』
その後、二、三近況報告をした後、レイとニールは、朗らかにおやすみの挨拶を交わして通信の魔道具のスイッチを切った。
「ふふふっ! これで少しは気兼ねなくこの地方で観光ができますね!」
レイはにっこりと笑った。
「そうだね。水竜湖や水竜王祭は避けた方がいいかもしれないけど、それ以外は楽しめそうだね。明日は、湖水料理だっけ? 有名な店に行こうか?」
ルーファスも優しく微笑んだ。
「「やった!!」」
レイとレヴィが両手を挙げて、はしゃいだ。
「……だんだん、レヴィもレイに似てきたな……」
ルーファスは呆れるように、苦笑するように呟いた。
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