鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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ピクニック2

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「いっただきま~す!」

 レイは早速、バスケットの中にあるサンドイッチに手を伸ばした。

 サンドイッチには、ベーコン、卵、レタス、キュウリ、トマト、チーズなど色とりどりの具材が挟まっていて、食欲をそそる。

 バスケットの半分には、おやつ用のフルーツケーキとクッキーが入っていた。

 フルーツケーキには、ラムレーズンやアプリコット、クランベリーやくるみなどがゴロゴロ入っていて、ふわりと甘い洋酒の香りが鼻をくすぐった。

 眷属にもあげられる一口サイズのクッキーは、サクッと軽い食感のラングドシャだ。プレーンとチョコタイプの二種類があった。

「う~ん、おいしい!」

 レイはほっぺたを押さえて、卵とレタスのサンドイッチを頬張った。
 綺麗な風景を眺めながらみんなと食べるお弁当の味は、格別だ。

 お弁当の匂いを嗅ぎつけたのか、影属性の小さな魔物たちが、森の茂みから出て、ちょこちょこと近づいて来た。

 影属性の魔物の長である影竜王ニールの様子をおそるおそる伺いながら、レイの前にクッキー待ちの行列を作り始めた。

「……か、かわいい!!!」

 リス、うさぎ、モモンガ、オコジョ、梟などなど……みんな全身真っ黒だが、ふわふわの毛並みの小動物たちだ。

「クッキーは一匹につき一つまでだ。レイとの契約は許さない」
「「「「「ピィ!」」」」」

 ニールがレイの隣で腕を組んでギロリと睨みつけると、行列に並んだ小さな魔物たちはカチンコチンに固まった。
 どの魔物も小さな手でレイからおやつを受け取ると、口に咥えて、逃げ去るように森の中に駆け込んで行った。

「……ニール。あんまり睨むと可哀想ですよ……」
「はぁ……早々に影魔力を引き上げよう……このままでは、目を離した隙に変なのと契約されてしまいそうだ……」

 ニールはレイの手を取ると、サッと彼の影属性の魔力を引き上げた。

「わ、わっ!?」

(魔力が吸われる……!?)

 ニールがレイの手を放すと、今まで行列に並んでいた小さな魔物たちは目をぱちくりさせ、正気に戻ったかのように慌てて森の中へと去って行った。

「……あぁ……かわいかったのに……」
「ふんっ。これでもう煩わされないだろう」

 レイが、がっくりと肩を落とすと、ニールはにやりと笑った。

「こんなにあからさまに変わるものなんですね……儚すぎる……」

 レイがしょんぼりと呟くと、

「ああいう小さくて弱い魔物たちは、魔力の属性で惹かれてくる子が多いからね」

 ルーファスが、レイを宥めるように優しくフォローした。

 レイがふと、誰かに見られているような視線を感じて、そちらの方を振り向くと、泉から水鳥の魔物たちが熱心に彼女を見つめていた。

「わぁ。あの子たちも可愛いです。鴨さんでしょうか? 羽毛がふわふわですね」

 レイがほっこりと頬を緩めていると、

「今度は水属性かっ!?」

 ニールがムッとした表情で水鳥の魔物たちを睨みつけた。

 レイは元々、質の良い水属性の魔力が強いのだ。それはもう、水属性の魔物たちにとっては魅力的に映るのだ。

「結界を張りましょう」

 気の利くルーファスが、サッと幻影結界を張った。

 水鳥の魔物たちは、しばらく「あれ?」と不思議そうな顔をしていたが、どこか別の場所へ泳いで行った。


「これで、少しはゆっくりできるな……」

 ニールは「はぁ……」と深い溜め息を吐くと、ぐったりとしていた。気怠い感じがやけに艶っぽくて、目に毒だ。

「レイは魔物に人気ですね」
「……そうだね。でも、何でだろうね?」

 レヴィの疑問に、レイも首を捻った。

「いくつか要因があるだろう。フェリクス様や俺との契約、ミーレイ様やルーファス殿の加護、無限の魔力、人間という種族で、さらには子供だ……弱小魔物からしたら、取り入りやすいうえ、魔力は食べ放題。さらには最上位魔物からの加護も期待できる……使い魔になれれば安泰だな」

 ニールが指折り数えて教えてくれた。

「あと、魔力の属性に偏りがある方が、魔物には好まれるかな。やっぱり、自分と同じ属性の人と一緒にいるのは心地がいいからね」

 ルーファスもお茶を飲みながら、優しく補足説明をしてくれた。

「そうだったんですね……でも、ニールもルーファスも水属性じゃないですよね?」
「何も魔力属性だけで判断するわけじゃないからな。単純にその人物が気に入ったから、契約したり加護を与えたりするんだ」

 レイの素朴な疑問には、ニールが答えた。
 ポンッとレイの頭の上に手を置く。

(ちゃんと私を選んでくれたのなら、なんだか嬉しいかも)

 レイは、にまにまと頬が緩んだ。

「そういえば、レヴィは剣聖の判定はどうだったの? 『女神の瞳』スキルってどんな感じだった?」

 レイは、ちょっぴりこそばゆい思いを誤魔化すために、話題を変えた。

「王宮の訓練場で三試合ほど王国騎士と模擬戦をやって、最後に女神の瞳で判定を受けました。マァト様の加護が効いたようで、スキルでの判定はできなかったようです」

 レヴィが淡々と報告をした。

「それなら良かった……」

 レイは安心して、ほっと息を吐いた。

「それから、見学に騎士や貴族だけでなく、国王と王妃、それから第一王女も来てましたよ。第一王女は判定の前日にも私の部屋に来ました」
「えっ!? 大丈夫だったの!?」

 レヴィの追加報告に、レイはびくりとした。

「ええ。みなさんと相談した通り、失礼のない程度に最小限の会話におさめましたよ?」

 レヴィがこてんと首を傾げた。

「何か言われたか?」

 ニールが色鮮やかな黄金眼を煌めかせて、レヴィを見つめた。

「特には……剣聖候補の調査は誰が模擬戦を担当したのかとか、黒っぽい竜の討伐はどうだったかとか、冒険者の話を少しだけして終わりました」
「ふむ。ただの様子見か?」
「私が『剣聖ではない』と判定されてすぐに席を立って退出されたので、特に興味はなさそうでした」
「そうか。それならいいが……」

 レヴィの回答に、ニールは相槌を打った。

「そういえば、ルーファスは教会のお仕事はどうですか? ノアさんはあの後、新しいお仕事に馴染めてそうですか?」

 レイはふと気になったので、ルーファスに尋ねた。

「ノア君は、いきなり中級神官として採用されたみたいだよ。ユリシーズがいい指南役を付けたみたいだし、すごく頑張ってるって聞いたよ」
「ふふっ。それなら良かったです。辛いことがあった分、ノアさんには幸せになって欲しいですね」

 ルーファスの話に、レイはふわりと微笑んだ。

「それから、ごめんね。しばらくは教会の仕事から離れられそうにないんだ。かなり仕事が溜まっちゃってたみたいで……」

 ルーファスが、少しバツが悪そうな顔で話した。

「それなら、私とレヴィだけでできそうな依頼をしますね! ルーファスは教会のお仕事に集中してください!」

 レイは慌てて、胸の前で両手を振った。

「まずは、明日にでも王都のギルドに行きましょうか? どんな依頼があるか見てみましょう」
「そうだね!」

 レヴィの提案に、レイは力強く頷いた。


 帰りは、レイはニールと手を繋いで屋敷に戻った。
 空いている手の側には、ライオンサイズの琥珀が、レイの横についてのしのしと歩いている。

「レイはいつまで王都にいるの?」

 ニールがふと尋ねた。

「ルーファスのお仕事が落ち着くまでは、しばらくは王都を中心に活動しようかと思ってます」
「そうか……まだ少し先だけど、そのうち湖水地方にまとめて荷を送るんだ。銀の不死鳥でまた護衛してくれるかな?」
「いいんですか?」

 レイは目をぱちくりさせて、隣のニールを見上げた。

 サハリア王国からドラゴニア王国への護衛依頼は、バレット商会に元からいる商隊兵のおかげでかなりラクな任務だったのだ。

「黒っぽい竜のおかげで、何人か怪我を負って休んでいてな。商隊兵が人手不足なんだ。次は前回よりもしっかり護衛してもらうことになるよ」

 ニールは憂いのある表情で、レイを見下ろした。

「分かりました! ルーファスの都合が合ったら、是非、お願いします!」

(今度こそ、ちゃんと護衛任務を頑張ろう!)

 レイはやる気に燃えていた。

「……それなら、僕はもう少し仕事を頑張らないとかな……」

 後ろでニールとレイの話を聞いていた苦労人ルーファスは、げっそりと遠い目をしていた。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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