鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

文字の大きさ
上 下
210 / 347

黒竜討伐5

しおりを挟む
「こちらF班。黒竜の討伐完了。負傷者なし。今から帰還します」

 ドレイクは通信の魔道具で、作戦本部に連絡をしていた。

 その間に、ライデッカーは黒竜の死体に近づくと、空間収納にパッと収納した。

「なぜ、ライデッカーが……」
「ジャスティンがしまうと、そのまま全部自分の研究資材にするだろ。内臓は魔術薬用に王宮の医局がご所望だし、鎧鱗なんかは武器防具の製作に回される可能性が高い」
「…………」

 ライデッカーの言葉に、ジャスティンは恨めしそうに彼を見つめるだけだった。

 ライデッカーはジャスティンの視線は無視して、くるりと銀の不死鳥の方を振り向いた。
 ズンズンと、レイの方に近づいて来る。

「レイちゃんだっけ? どう? 黒の塔の魔術師にならない?」
「えっ……?」

 ライデッカーは中腰に屈んで、レイと真っ直ぐに目を合わせて尋ねた。
 レイは思わぬ申し出に目を丸くして、言葉を詰まらせた。

「魔力量、魔力コントロール、魔術の展開速度、威力、精度、どれをとっても魔術師団の上級魔術師以上だ。塔の魔術師として申し分ない」

 ジャスティンも相槌を打った。

 ライデッカーは隣を振り向いて「ジャスティンがそこまで褒めるのも珍しいな」と呟いた。

「……ちょっと、すぐには決められないです。それに、今はBランク冒険者を目指しているので、まずはそちらが先です」

(評価してもらえたことは嬉しいんだけど、三大魔女のお仕事もあるし……何より、黒の塔って確か……)

 レイは困った表情で、二人を見上げた。

「ああ、構わない。こちらもその方が推薦しやすいしな。Bランクなら、最低限の力量はあるとの証明になる」
「Bランクで最低限……」

 レイは目を瞬かせた。思いの外シビアだ。

 ジャスティンとライデッカーはその場で簡単に推薦状をしたためた。空間収納から黒い封筒を取り出すと、丁寧に封をする。

「この封筒には俺たちの魔力がこもっていて、黒の塔の所長でなければ開けないようになっている。必要になったら使ってくれ」

 ライデッカーが二人分をまとめて、レイに黒い封筒を手渡した。

 レイが受け取った封筒を、魔力を目に込めて見ると、特殊な魔術が複雑に仕掛けられていた。

 ライデッカーは、レイのそんな当たり前の仕草を見て、「魔術師としての基礎は十分だな」と満足そうに呟いた。

「塔で一緒に働けるのを楽しみにしている」

 ジャスティンは淡々と言い放った。だが、先ほどまでの硬い表情は、今は幾分柔らかくなっていた。

 ジャスティンとライデッカーは、そのままフッと転移して行ってしまった。


***


「ニール、ただいま!」
「レイ! 無事で良かった!」

 レイたちが、借りている領主の別荘に戻ると、ニールがあたたかく迎え入れてくれた。
 両手を広げて駆け込んで来たレイを、ふわりとニールが抱き上げた。

「ルーファス殿が守ってくれるとは分かっていたけど、心配したよ。どこにも怪我はないね?」

 ニールは片腕でレイを抱き上げながら、もう片方の手で優しく彼女の頭を撫でた。
 ほっと安堵の息が漏れる。

「はいっ! いっぱい結界を張ってみなさんを守りました!」
「うん。大事なことだね」
「それから、黒の塔の魔術師から推薦状を貰いました」
「……それは、どういうことかな?」

 ニールの朗らかな笑顔が一瞬で引っ込み、ルーファスの方を、全く笑っていない色鮮やかな黄金眼で見やった。
 ルーファスは気まずそうにぴくりと身じろぎをした。

「それについては、まずは中に入ってからお話ししましょうか?」

 ルーファスは愛想笑いの口角をひくつかせて、提案した。

「……それもそうですね」

 ニールに促され、レイたちは応接室へと向かった。


 ユグドラの方の確認も取りたいというレイの要望もあり、急遽、通信の魔道具で、ウィルフレッドも呼ばれることになった。

 応接室の丸テーブルの上には青く平べったい通信の魔道具が置かれ、ニールと銀の不死鳥のメンバーはそれぞれ席に着いた。

 ウィルフレッドに通信が繋がると、レイは早速、黒っぽい竜を討伐したことと、「黒の塔の魔術師にならないか」と勧誘を受けたことを順を追って報告した。

『そうか。大変だったな。黒の塔についてだが、実は、今までも何度か人を送り込もうとしたんだ。だが、伝手がなくて、結局できてなかったんだ』

 ウィルフレッドが通信の魔道具を通して、話し始めた。

『ちょうどいいから、レイ、Bランクになったら黒の塔に入れ』
「えぇーーーっ!? 私が呪いの塔に!?」
『呪いの塔って……』

 呆れたようなウィルフレッドの声が、通信の魔道具から聞こえてきた。

「だって、挨拶がわりに塔の魔術師同士で呪い合ってるって聞いたことありますよ……?」
『そういう噂もあるな。だが、レイならフェリクスの指輪もあるし、解呪も呪い返しも学べば使えるようになるだろう? 適任だな』
「そんなぁ……」

 レイががっくりと打ちひしがれていると、その隙にニールが話し始めた。

「レイが黒の塔に入るなら、準備が必要だな。王都にいることも増えるだろうから、王都の俺の屋敷に部屋を用意しようか?」
『……バレット邸か。確かに、一番安全だな……だが、フェリクスにも確認させてくれ。念のためだ』
「ああ、構わないよ」

 レイ本人を置き去りに、ニールとウィルフレッドは話を進めていた。

「うぅっ……ニールは私が呪われてしまってもいいんですか?」

 レイは恨めし気に、隣に座るニールを見上げた。

「レイはフェリクス様や俺との契約があるからな。滅多なことでは呪いはかからないし、弱いものであれば、自動で呪い返しされるだろう。それに、レイが実際に会った塔の魔術師はどうだった?」
「……どうって……二人とも、呪いがかかっているような感じはしませんでした」
「なら、そういうことだろう。あくまでも噂は噂でしかないからな」
「…………確かに」

 ニールに指摘され、むむむ、とレイは考え込んだ。

(……同じ組織内で呪いをかけ合うなんて、確かにありえないよね。噂だって、真実だとは限らないし……)

「レイがBランクに上がるまでに、俺の方でも黒の塔については調べておくよ。主人が所属するかもしれないからね」
『ああ、よろしく頼む』

 ニールの提案に、通信の魔道具の向こう側で、ウィルフレッドががばりと頭を下げる気配がした。師匠であるウィルフレッドも、弟子のレイのことはなんだかんだいっても心配なのだ。

「解呪なら僕が得意だから、練習しようか、レイ?」
「……はい、よろしくお願いします……」

 ルーファスに優しく気遣われ、レイは覚悟を決めて頭を下げたのだった。


しおりを挟む
◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!

家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……? 多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...