鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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剣聖剣舞3

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「レヴィ師匠、さすがです!!」
「あんなにすごい剣舞は初めて見ました!」
「レヴィ、すごい!!」

 レヴィが元の席に戻ってくると、兵士たちがあたたかい拍手で迎え入れた。
 アルメダも、他の兵士たちと一緒になって手放しで賞賛した。

「私もあんな風に剣舞ができたらなぁ~」

 アルメダが羨ましそうに呟くと、

「アルメダも口寄せすれば舞えますよ。十代目のご主人様は元々双剣使いで、この地方特有の双剣の舞もとても上手でした。私のご主人様になった後も、時々請われては、舞ってましたよ」

 レヴィがアルメダの耳元で囁いた。

「そうなの? 剣舞、ちょっと面白そう……」

(なんだか、今なら何でもできる気がする~)

 アルメダはお酒の影響で、思考がふわふわしていて、いつもよりも気分が大きくなっていた。

「アルメダ教官も、ステージで剣舞をされてみてはどうですか?」

 サディクが少し面白がって試すような瞳で、アルメダを見つめた。
 他の兵士たちも「アルメダ教官の舞は綺麗そうだ」とうんうんと頷いている。

「ふふふっ。それじゃあ、行ってきますね!」
「「「「「「「やった!!」」」」」」」

 アルメダが笑顔で軽く頷くと、兵士たちは歓声をあげた。
 アルメダがステージに向かいながらさりげなく口寄せ魔術を発動すると、それを見ていたレヴィが「おや?」と目を瞬かせた。


 アルメダは、ステージに登ると「シャムシール!」と一声叫んだ。アルメダはなんだかふわふわと夢見心地で、誰かが彼女の代わりに叫んでくれたような感覚だった。

 店員の女性が、演舞用の双剣をアルメダの方へと投げて寄越した。
 アルメダがくるりと舞うように回転して、器用に双剣をパシッと受け取ると、「おおっ!」と酔っ払いの観客たちからどよめきが起こった。

 双剣は刃が潰されていて、演舞用に軽く、刀身にまでこまやかな彫り込みがあった。柄頭つかがしらには長めのタッセルが結ばれていて、細身の綺麗な曲剣だ。


 ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 アルメダはステージの真ん中で、力強く足踏みを鳴らしてリズムをとり始めた。
 楽隊も心得たもので、そのリズムに合わせて楽器をかき鳴らし始めた。力強いリズムと少し速めのエキゾチックな旋律……この地方で昔ながらに愛されてきた演舞の曲だ。

 リズムに合わせた力強いステップ、曲調に合わせたしなやかで、かつ、華麗な舞に、酒場にいた人全員がアルメダの舞に虜になった。
 ヒュンヒュンと剣が空を斬る音もまた、演舞のリズムをとっていく。
 楽士たちものめり込むように楽器をかき鳴らし、誰からともなく客席から手拍子が始まり、酒場は異様な熱気に包まれた。

 アルメダをけしかけた張本人であるサディクも、息をすることも忘れたかのようにアルメダの舞に見惚れていた。

 最後にくるくると剣を中空に放り投げ、流れるように回転しながらそれらをキャッチし、アルメダは地面に沈むようにふわりと優雅にお辞儀をした。

 そこでピタリと音楽も終いになり、酒場の誰も彼もの時が、一瞬、止まった。

 アルメダがふいっと頭を上げると、拍手喝采の嵐が巻き起こった。誰もが手を叩いて称賛し、調子者は口笛をピュイッと吹いた。


「アルメダ、君、すごいじゃないか! こんなこともできるんだな! とても美しかったよ!」

 席に戻って来たアルメダに、サディクが想定以上だと、藍色の目を大きく見開いて賞賛した。思わず言葉遣いも元に戻っている。

「アハハ、できちゃいましたぁ~」
「君、かなり酔っ払っているな……」

 アルメダが照れながら笑っていると、「しょうがない奴」と言いたげな表情で、サディクがほろ苦く微笑んだ。


 先程の剣舞で、レヴィは兵士たちに質問攻めにあっていた。
「どこで習ったのか!?」「教えてくれ!」「あれができるようになればモテるんじゃないか!?」など、兵士たちはここぞとばかりに尋ねていた。酒の勢いもあり、鬼教官も今は怖くはないのだ。

 ダズは「さすがに訓練中に教えるのは止めてくれ」と苦笑いをして、彼らの話を聞いていた。

 モテるか問題については、レヴィの「剣舞だと、剣士の男性ばかりに声をかけられる」の一言で、サーッと潮が引くように質問がピタリと止まった。

「おや? 質問はもういいのですか?」
「……野郎にモテてもしょうがねぇ……」

 兵士たちはみな遠い目をしていた。夢破れた瞬間であった。


 アルメダはサディクと楽しくおしゃべりをしていた。
 先程のアルメダの舞に感銘を受けたためか、それとも酒が入っているためか、サディクはとても饒舌だった。

 サディクはとても話し上手で、話題も豊富だ。アルメダに、王都ガザルの見どころや有名な食べ物など、いろいろと話してくれた。
 代わりにアルメダは、冒険者生活の話やサハリアまでの旅の話をした。

「君は、旅や冒険者の生活が好きなんだね」
「はいっ! とっても楽しいですよ!」

 アルメダは、エメラルド色の瞳をキラキラと輝かせて答えた。

「……いいね。自由だ……」

 サディクが自嘲気味に、ぽつりと小さく呟く。その言葉は、酒場の笑い声や話し声に紛れて消えていった。

「えっ? 今、何か仰いました??」
「いいや、何でもない」

 アルメダが聞き取れなくて訊き返すと、サディクはにこりと微笑んだ。


 そろそろ宴もたけなわという時、酒場の木戸をバッと開けて、アルメダの方へズンズンと向かって来る人物が現れた。
 淡い金髪に、淡い黄色の瞳の白皙の美貌——ルーファスだ。
 青いマントを羽織って、一般市民の服装をしている。

 テーブルに近寄って来る見知らぬ男性の登場に、サディクは警戒して表情を翳らせた。

「ああもう、お酒なんか飲んで!」
「るーふぁす!」

 ルーファスが腰に手を当ててお小言の態勢に入ると、アルメダは、にへらと無防備に彼に微笑みかけた。

 サディクはその様子を見て、顔を強ばらせた。

「お酒飲んじゃいけないって、言われてなかったっけ?」
「ふふふふふ。たまには良いじゃないですか」
「……完全に酔ってるな……レヴィ、そろそろ歓迎会は終わりかな? 拠点に戻るよ。アルメダは女の子なんだから、こういう所ではちゃんとみてあげないと危ないよ」
「『ちゃんとみる』、ですか? 私はずっとアルメダを見てましたよ?」
「ああ、もう! 後で意味を教えるよ!」
「是非お願いします」
「もうっ!」

 苦労人そうに眉を下げてルーファスはそう言い放つと、兵士たちに向き直って「彼女もこんな状態ですし、本日は失礼します」と断りを入れて、アルメダを支えて酒場を出ようとした。
 数歩、歩いたかと思うと、何かを思い出したかのように、急に歓迎会のテーブルの方を振り返った。

「……ダズ殿下? アッバス? 後でお訊きしたいことがあります」
「「はいぃ!!」」

 ルーファスのいろいろと含みを持った恐ろしく美しい笑顔に、ダズとアッバスはただただ背筋を伸ばして、そう返事だけをした。

「おんぶ~!」

 果敢にも、ルーファスにおんぶしてもらおうと、アルメダは彼の背中によじ登ろうとした。

「自分の足で歩きなさい」

 ルーファスはピシャリと告げると、そんなアルメダを抑えつつ支えて、レヴィと共に酒場を後にした。


 ステージでは次の演舞が始まっていて、酔っ払い客たちは酒を酌み交わしつつ、やんややんやとヤジを飛ばしていた。

 話し声と笑い声が飛び交う賑やかな酒場の中で、サディクは三人が出て行った出入り口を、ただぼんやりと眺めていた。


***


 カタカタカタカタ……

 酒場の二階では、腰に立派な双剣を佩いている男性が、アルメダたちが酒場から出て行くのを眺めていた。
 その無骨な手は、双剣を抑え込むように柄頭を押さえていた。

 不思議なことに、双剣自体が自ら動いているようで、カタカタと小さく音を立てていた。

「……お前たちがこんなに震えるのも初めてだな。そんなにすごいのか? あいつは」

 彼は鳶色の瞳を丸くして、感心するように口ずさんだ。

「……ルーファス大司教も、お知り合いのようですが……」

 同じテーブル席に着いている男性が、双剣の剣士の方をこわごわと窺った。

「念のために調べておくか。あの席にいたってことは、王宮関係者だろ? 護衛対象者にどんな人脈があるかを知っておくのも大事だ」

 剣士はさらりと王宮兵たちの席を見やった。
 ルーファスに何を言われたのかは彼の位置からは分からなかったが、冒険者として有名な第七王子が石像のように固まっているのが見えた。そして、どこかで見たような顔——おそらく、この国の第一王子もお忍びで紛れ込んでいるようだった。

「……面倒なことにならなければいいな……」

 双剣の剣士は、言葉も一緒に飲み込むように、グラスの酒をあおいだ。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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