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剣聖剣舞1
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「歓迎会、ですか?」
「レヴィ師匠とアルメダ教官の歓迎会なので、是非!」
訓練の小休憩中に、新兵たちがアルメダとレヴィの所に誘いに来たのだ。
たったの十日間で王宮に勤める全ての上級兵や士官を剣術で下した鬼教官レヴィは、兵たちからは「レヴィ師匠」と呼ばれていた。淡々とした涼やかな態度も「鬼教官」っぷりに拍車をかけていて、余計に恐れられる原因だ。
アルメダは、エメラルド色の目を丸くして驚いた。
(歓迎会って、お酒は出るのかな? こっちのお酒だから、ドワーフ酒みたいに魔力はそんなに含まれていないとは思うけど……)
今のアルメダは大人の女性に見えるが、実際はまだ子供のレイが変身魔術で姿を変えているのだ——アルコールはよろしくない。
さらに、こちらの世界のお酒は魔力を含んでいる。含まれている魔力量にもよるが、魔力が安定しない子供では、酒の匂いだけで魔力酔いを起こしてしまうこともある。
「私は大丈夫ですよ」
レヴィはにっこり微笑んで答えた。
作られて初めて人型になった聖剣レヴィは、人型でなければできないような経験は何でも体験したいと考えている。存外、飲み会なども付き合いが良い。
「レヴィ師匠は出席ですね! アルメダ教官はどうしますか?」
「……私はお酒が苦手で……」
アルメダが言い出しづらくて、頬を赤らめてモゴモゴと喋っていると、
「えぇえっ!? アルメダ教官はお酒に弱いんですか!?」
新兵たちは驚いて、大声を出した。彼らは、何やらこっそりガッツポーズをとっているが、自分のことでいっぱいいっぱいなアルメダは気づいていなかった。
「お酒は飲まれなくても大丈夫です! せっかくアルメダ教官の歓迎会でもあるので、是非、いらして欲しいです!!」
一人の新兵がちゃっかりアルメダの両手を取って、熱心に勧誘した。他の新兵二人が、何やら剣呑な表情で「テメェ!」「どさくさに紛れやがって!」と彼の後ろで小声で叫んでいた。
(……せっかく私たちのために歓迎会を開いてくれるんだし、お酒を飲まなければ、少しだけ顔を出しても大丈夫かな……?)
「……じゃあ、私も少しだけでいいなら出席しようかな」
アルメダは少しだけ不安に思いつつも、微笑んでみせた。
「アルメダ教官も出席ですね!?」
「「「「「「「よっしゃあ!!」」」」」」」
確認しに来た新兵だけでなく、聞き耳を立てていた他の兵士たちも騒ぎ出した。
「……おい、何を騒いでるんだ?」
ダズとアッバスが訓練場にやって来た。
今日はもう一人、細身の男性を連れて来ている。
(……あれ? あの人、どこかで見たことがあるような??)
アルメダは、薄らと見覚えがあるような男性に、目を瞬かせた。
ダズたちが連れていた男性は、ダズのように色黒で、淡いグレー色の長い髪は綺麗に編まれて、背中に流されていた。藍色の相貌は理知的で、体の線は細くて、全体的に優しい雰囲気だ。
「王太子殿下!? ダズ殿下!?」
誰かがそう叫び、ザッと一斉に王族に対する礼の姿勢を取る音が、訓練場に響いた。
「みんな、楽にしてくれていいよ」
柔らかい、落ち着いた声がした。
それを合図に、少しずつ姿勢を崩す衣擦れの音がした。
「アルメダ、何かあったか?」
ダズが早速、小声で尋ねてきた。もし、アルメダに不埒なことをしようとする輩がいたならば、厳密に処罰しなければいけないからだ。
「レヴィと一緒に歓迎会に誘われたんです」
「えっ……その、酒は大丈夫なのか?」
ダズは赤い瞳を丸く見開いた。アルメダが本当は子供のレイだと知っているのだ。
「お酒は飲まなくても大丈夫みたいです。レヴィと私の歓迎会なので、飲まなくてもいいから出席して欲しいって」
「……それなら、大丈夫か? 一応、ルーファスにも伝えとけよ。いざとなったら、迎えに来てもらえ」
「はい。後で伝えときますね」
アルメダはにこりと微笑んだ。
「ダズ、そろそろ先生方を紹介してくれないか?」
「ハイッ、兄上!」
ダズがパッと顔を上げて、王太子の方を振り向いた。
「旅で知り合った手練れの剣士たちです。ガザル滞在中に、我が国の兵に剣術の指南を依頼してます。レヴィは上級兵や士官を、アルメダは新兵を主に担当してます」
ダズが二人を紹介し、レヴィとアルメダは丁寧な礼をした。
「サディクだ。今日は剣術指南を頼みたい」
「……レヴィの方はその……」
「噂は聞いているよ。王宮内の上級兵や士官をたった十日間で全員下したそうだね。相当な腕前だ。——ただ、私は見た通り、あまり兵士向けの体格ではなくてね」
サディクは曖昧な笑みを浮かべ、小さく肩をすくめた。
ダズとアルメダは目線で合図し合った。
「それならば、僭越ながら、私がご指南させていただきます」
アルメダが一歩前へ出ると、礼をして答えた。
「よろしく頼むよ」
サディクはにこりと微笑んだ。
「それでは、始め!」
レヴィの合図と共に、ダッとサディクが駆け出した。
ガキンッと、アルメダは危なげなく初撃を受けると、次々と攻撃を繰り出していった。
ガキンガキン、とぶつかり合う練習用の模造刀の音が訓練場に響き渡る。
第一王子である王太子とアルメダという珍しい組み合わせに、他の兵士たちもじっと試合の行方を眺めていた。
「そこまでっ!」
数分間打ち合った後、レヴィの声が訓練場に響いた。
「……はじめから中々容赦ないな」
「剣の訓練ですからね。殿下のためです」
サディクとアルメダは、息を弾ませながら握手を交わした。
「……それで、殿下の剣についてですが……」
アルメダは徐に口を開くと、他の兵士たちと同様に、丁寧に指導をしていった。
サディクは王太子教育で一通り剣術も習っていたためか、模範的で綺麗な剣筋だった。ただ、普段政務ばかりで、体格的にも男性にしては線が細いためか、他の兵士たちのような力強さやスピードはなかった。
アルメダは見本の型を見せたり、実際にサディクにも素振りをさせたりもした。
サディクも良き生徒で、アルメダの説明に真面目に頷き、質疑応答を重ねていった。
「殿下、そろそろお時間です」
サディクの側近が、訓練場に降りて来て進言をした。どうやら次の予定が入っているようだ。
「……もうそんな時間か? 分かった、すぐ行く。……また頼む、アルメダ」
サディクは去り際にアルメダの方を振り返ると、微笑んでそう告げた。
「かしこまりました」
アルメダは、王族に対する礼の姿勢を取った。
(ふぅっ……緊張した~)
サディクと彼の側近の足音が去った後、アルメダは頭を上げて、ほっと一息ついた。
「アルメダ、お疲れ。どうだった?」
「お疲れさまです」
ダズとレヴィが、アルメダの元へ駆け寄って来た。
「ふふふっ。王太子殿下のお相手ですよ、緊張してしまいました」
「いや、俺も一応、王子なんだが……」
「そういえば、そうです!!」
アルメダはエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いてびっくりした。
「おいおい、それはないだろう……まぁ、いっか。それで、歓迎会とやらはいつやるんだ?」
ダズは呆れてがっくりと肩を落としたが、それだけアルメダが彼に親しみを持ってくれているということだ。軽く流すことにした。
「今日の訓練の後、夕方からみたいです。王都にあるお店みたいで、レヴィと一緒に向かう予定です」
「それなら、少し遅れるかもしれないが、俺とアッバスも向かう。……レヴィ、ちゃんとアルメダの様子を見張っておくんだぞ! 変な男たちが寄って来たら、捻り上げて守ってやれ!!」
「分かりました」
ダズはがしりとレヴィの両肩を掴むと、しっかりと彼と目線を合わせて、念を込めて伝えた。
ダズとアッバスは、先日、アルメダとの関係性について、ルーファスからいろいろと質問攻めにあい、大変な思いをしたばかりだ——レイ、ことアルメダにもしも変な虫が付いたら大変だ——もうあんな尋問は経験したくないのだ。
淡々と頷くレヴィに、「こいつ、本当に大丈夫か?」と不安に思いながらも、ダズはとりあえずレヴィに任せることにした。
「レヴィ師匠とアルメダ教官の歓迎会なので、是非!」
訓練の小休憩中に、新兵たちがアルメダとレヴィの所に誘いに来たのだ。
たったの十日間で王宮に勤める全ての上級兵や士官を剣術で下した鬼教官レヴィは、兵たちからは「レヴィ師匠」と呼ばれていた。淡々とした涼やかな態度も「鬼教官」っぷりに拍車をかけていて、余計に恐れられる原因だ。
アルメダは、エメラルド色の目を丸くして驚いた。
(歓迎会って、お酒は出るのかな? こっちのお酒だから、ドワーフ酒みたいに魔力はそんなに含まれていないとは思うけど……)
今のアルメダは大人の女性に見えるが、実際はまだ子供のレイが変身魔術で姿を変えているのだ——アルコールはよろしくない。
さらに、こちらの世界のお酒は魔力を含んでいる。含まれている魔力量にもよるが、魔力が安定しない子供では、酒の匂いだけで魔力酔いを起こしてしまうこともある。
「私は大丈夫ですよ」
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新兵たちは驚いて、大声を出した。彼らは、何やらこっそりガッツポーズをとっているが、自分のことでいっぱいいっぱいなアルメダは気づいていなかった。
「お酒は飲まれなくても大丈夫です! せっかくアルメダ教官の歓迎会でもあるので、是非、いらして欲しいです!!」
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(……せっかく私たちのために歓迎会を開いてくれるんだし、お酒を飲まなければ、少しだけ顔を出しても大丈夫かな……?)
「……じゃあ、私も少しだけでいいなら出席しようかな」
アルメダは少しだけ不安に思いつつも、微笑んでみせた。
「アルメダ教官も出席ですね!?」
「「「「「「「よっしゃあ!!」」」」」」」
確認しに来た新兵だけでなく、聞き耳を立てていた他の兵士たちも騒ぎ出した。
「……おい、何を騒いでるんだ?」
ダズとアッバスが訓練場にやって来た。
今日はもう一人、細身の男性を連れて来ている。
(……あれ? あの人、どこかで見たことがあるような??)
アルメダは、薄らと見覚えがあるような男性に、目を瞬かせた。
ダズたちが連れていた男性は、ダズのように色黒で、淡いグレー色の長い髪は綺麗に編まれて、背中に流されていた。藍色の相貌は理知的で、体の線は細くて、全体的に優しい雰囲気だ。
「王太子殿下!? ダズ殿下!?」
誰かがそう叫び、ザッと一斉に王族に対する礼の姿勢を取る音が、訓練場に響いた。
「みんな、楽にしてくれていいよ」
柔らかい、落ち着いた声がした。
それを合図に、少しずつ姿勢を崩す衣擦れの音がした。
「アルメダ、何かあったか?」
ダズが早速、小声で尋ねてきた。もし、アルメダに不埒なことをしようとする輩がいたならば、厳密に処罰しなければいけないからだ。
「レヴィと一緒に歓迎会に誘われたんです」
「えっ……その、酒は大丈夫なのか?」
ダズは赤い瞳を丸く見開いた。アルメダが本当は子供のレイだと知っているのだ。
「お酒は飲まなくても大丈夫みたいです。レヴィと私の歓迎会なので、飲まなくてもいいから出席して欲しいって」
「……それなら、大丈夫か? 一応、ルーファスにも伝えとけよ。いざとなったら、迎えに来てもらえ」
「はい。後で伝えときますね」
アルメダはにこりと微笑んだ。
「ダズ、そろそろ先生方を紹介してくれないか?」
「ハイッ、兄上!」
ダズがパッと顔を上げて、王太子の方を振り向いた。
「旅で知り合った手練れの剣士たちです。ガザル滞在中に、我が国の兵に剣術の指南を依頼してます。レヴィは上級兵や士官を、アルメダは新兵を主に担当してます」
ダズが二人を紹介し、レヴィとアルメダは丁寧な礼をした。
「サディクだ。今日は剣術指南を頼みたい」
「……レヴィの方はその……」
「噂は聞いているよ。王宮内の上級兵や士官をたった十日間で全員下したそうだね。相当な腕前だ。——ただ、私は見た通り、あまり兵士向けの体格ではなくてね」
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ダズとアルメダは目線で合図し合った。
「それならば、僭越ながら、私がご指南させていただきます」
アルメダが一歩前へ出ると、礼をして答えた。
「よろしく頼むよ」
サディクはにこりと微笑んだ。
「それでは、始め!」
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ガキンッと、アルメダは危なげなく初撃を受けると、次々と攻撃を繰り出していった。
ガキンガキン、とぶつかり合う練習用の模造刀の音が訓練場に響き渡る。
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「……はじめから中々容赦ないな」
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サディクとアルメダは、息を弾ませながら握手を交わした。
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「殿下、そろそろお時間です」
サディクの側近が、訓練場に降りて来て進言をした。どうやら次の予定が入っているようだ。
「……もうそんな時間か? 分かった、すぐ行く。……また頼む、アルメダ」
サディクは去り際にアルメダの方を振り返ると、微笑んでそう告げた。
「かしこまりました」
アルメダは、王族に対する礼の姿勢を取った。
(ふぅっ……緊張した~)
サディクと彼の側近の足音が去った後、アルメダは頭を上げて、ほっと一息ついた。
「アルメダ、お疲れ。どうだった?」
「お疲れさまです」
ダズとレヴィが、アルメダの元へ駆け寄って来た。
「ふふふっ。王太子殿下のお相手ですよ、緊張してしまいました」
「いや、俺も一応、王子なんだが……」
「そういえば、そうです!!」
アルメダはエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いてびっくりした。
「おいおい、それはないだろう……まぁ、いっか。それで、歓迎会とやらはいつやるんだ?」
ダズは呆れてがっくりと肩を落としたが、それだけアルメダが彼に親しみを持ってくれているということだ。軽く流すことにした。
「今日の訓練の後、夕方からみたいです。王都にあるお店みたいで、レヴィと一緒に向かう予定です」
「それなら、少し遅れるかもしれないが、俺とアッバスも向かう。……レヴィ、ちゃんとアルメダの様子を見張っておくんだぞ! 変な男たちが寄って来たら、捻り上げて守ってやれ!!」
「分かりました」
ダズはがしりとレヴィの両肩を掴むと、しっかりと彼と目線を合わせて、念を込めて伝えた。
ダズとアッバスは、先日、アルメダとの関係性について、ルーファスからいろいろと質問攻めにあい、大変な思いをしたばかりだ——レイ、ことアルメダにもしも変な虫が付いたら大変だ——もうあんな尋問は経験したくないのだ。
淡々と頷くレヴィに、「こいつ、本当に大丈夫か?」と不安に思いながらも、ダズはとりあえずレヴィに任せることにした。
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