鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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鉄竜の鱗1

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「ここが、鉄竜の鱗の拠点さ。一軒家を丸々買って、メンバーでシェアしてるのさ」
「おおっ! 立派なお屋敷ですね!!」
「とても住みやすそうですね」

 カタリーナに連れられて、レイとレヴィは、王都にある鉄竜の鱗の拠点に来ていた。

 日干しレンガ造りの大きな家は、背の高い壁は真っ白く塗装されていて、出入り口には、大きなサボテンの植木鉢が置かれていた。
 拠点の中に足を踏み入れると、窓が小さくて、砂漠の厳しい日差しがあまり入らないようになっているため、屋敷の中は少しひんやりとしていた。

「カタリーナ、お帰り! あれ? 新メンバー?」

 緑色の髪の女性が、ひょっこりと奥から顔を出してきた。

「いや、しばらくうちで預かることになった、レイとレヴィだ」

「レイちゃんと、レヴィさんだね。あたしはシャマラ。王都で薬屋をやってる薬師なんだ。王都にいることが多いし、ここの管理人もやってるんだ。よろしくね!」

 シャマラは、日に焼けた琥珀色の肌と、にっこりと太陽のような明るい笑顔が素敵な女性だ。 

「レイです。しばらくお世話になります。よろしくお願いします!」
「レヴィです。よろしくお願いします」

 レイとレヴィはにこやかに挨拶をして、彼女と握手を交わした。

「他のメンバーはどうしてる?」
「双子とファルークは、三人で依頼を受けていて、しばらくは王都の外に出てるよ。ラハトは里帰り中。今、王都にいるのは、アッバスぐらいかな」

 カタリーナの問いに、シャマラは、顎に指先を当て、思い返すように斜め上を見上げて答えた。

「そうか……まぁ、そいつらは、帰って来てから紹介するか。空いてる部屋はあったよね?」
「あるよ! 案内するね!」


 シャマラに案内された部屋は、ベッドとテーブルと椅子が、それぞれ一つずつ置かれたシンプルな部屋だった。部屋の隅には、木製のチェストが置いてある。

「あんまり物が無くてごめんね。でも、好きに使ってもらって大丈夫だよ」
「ありがとうございます!」
「少し落ち着いたら、みんなでお茶にしよっか。中庭に集合ね!」
「はいっ!」

(良い人そうで良かった~)

 レイは、しーんと静まりかえった部屋の中を見まわした。あまり物が無いとは言われたが、丁寧に手入れされているようで、埃一つ無く、綺麗に整えられた部屋だ。

(ここがしばらく、私の部屋かぁ……砂漠の国サハリア、楽しみ!)

 遥々サハリア王国まで来たのだ。レイはこの国を精一杯、満喫するつもりだ。


***


 中庭は、この拠点のちょうど真ん中にあり、屋敷の背の高い壁のおかげで、一日中、庭のどこかに日陰ができるそうだ。——日差しの厳しい砂漠で、涼しく暮らすための知恵だ。

 その日陰部分に、バサリと大きな絨毯を敷いて、ローテーブルと、綺麗な刺繍が施されたターコイズブルー色のクッションが置かれていた。ローテーブルには、クッションと同色同柄のクロスが掛けられている。

「わぁ! おしゃれですね! すごく砂漠の国っぽいです!」
「砂漠の国だよ~、ここは」

 シャマラがくすりと笑って、テーブルの上に人数分のグラスを並べた。錫製の大きな水差しには、氷入りのアイスティーが入っていて、カラリと涼しげな音を鳴らしている。
 お茶請けに、アーモンドが載った一口大のケーキも出されていた。

 カタリーナ、シャマラ、レイ、レヴィが、ローテーブルを囲んで、席に着いた。


「さぁ、ちゃんと説明して、カタリーナ? うちが預かる子なんて、みんなワケアリでしょ?」

 シャマラがあたたかなオレンジ色の瞳をキラキラと煌めかせて、カタリーナを見つめた。非常に興味津々なようで、ワケアリであるはずのレイたちを預かることについては、反対していないようだ。

「シャマラには、敵わないな……この子に話しても構わないかい?」
「しばらくお世話になりますし、他の人に口外しないのであれば……」

 カタリーナの問いかけに、レイは真摯な表情で頷いた。

「レイは当代剣聖で、レヴィは聖剣レーヴァテインなんだ。ドラゴニアで、レヴィが剣聖候補に引っ掛かってね、ほとぼりが冷めるまで、うちで預かることになったんだ」
「えっ!? レイちゃんが剣聖なの!? レヴィさんじゃなくて!?」

 シャマラは驚愕の表情で、レイとレヴィを交互に見比べた。

「レヴィ」
「はい」

 レイがレヴィの手を取ると、レヴィは人型ではなく、元の剣の姿に戻った。

 一振りの見事なロングソードが、レイの手の中にはあった。刀身は、強く清廉な聖属性の魔力を帯びて、淡く白銀色に輝いている。

「……すっごい剣ね! あの剣バカたちが見たら、大騒ぎよ! 絶対、見せちゃダメよ!」

 シャマラはレヴィの正体に目を丸くした後、力強く、そう言い放った。

「レイは、三大魔女でもあるんだ。強力な水魔術が撃てるし、このことは秘密にしておいて欲しい」
「了解! 三大魔女って、本当にいるんだね~。水魔術が使えるなら、秘密にしておかないと、レイちゃんなら、攫われちゃいそうだね」
「本当に、水魔術師の誘拐ってあるんですね……」
「あるよー! この前も近くの村で、子供が攫われたばかりだし。水はこの国では、貴重だからね」
「うぅっ……気をつけます」

 レイはぶるりと震えると、ケーキに手を伸ばした。甘いシロップがたっぷりと染み込んでいて、ホッと安心できる味がした。

「レイ、私もケーキを食べてみたいです」
「わっ! 剣が喋った!?」

 シャマラは、ギョッとして、剣型のレヴィの方を振り向いた。

「ごめん、ごめん! 元に戻っていいよ!」

 レイが慌てて言うと、レヴィはポンッと元の人型に戻った。早速、ケーキにも手を伸ばして、もぐもぐと頬張っている。

 シャマラは目を思いっきり丸くして、「本当に人型になった……」と呆然と呟いていた。


「そういえば、サハリア砂漠は、かなり大きいですよね。砂竜王様はいたりするんですか?」
「おや? 気になるかい?」
「う~~ん。もし気づかないうちにお会いして、失礼なことをしてたら嫌だな、って……」
「あはは、大丈夫だよ。砂竜王は永久欠番なんだ」
「へっ? そんなことがあるんですか?」
「そうさ」
「???」

 カタリーナは珍しく目を細めて、どこか遠くを見ていた。
 レイは、彼女の珍しくぼうっとした雰囲気に、なぜだか理由を訊きづらくて、それ以上尋ねることは止めることにした。


***


「よう、レイ、レヴィ! どうだ? うちの拠点は? なかなかいいだろう?」
「住みやすそうで、いい所ですね! みんなもいて、賑やかでとても楽しそうです!」
「そうだろう?」

 サハリアに日が沈むと、ダズとクリフが、もう一人、王宮兵の制服を着た大柄な男性を連れて来ていた。
 拠点の中庭で、みんなで夕食の準備を進めていた時だった。

「鉄竜の鱗メンバーで、王宮の近衛兵のアッバスだ。俺の従兄弟で、幼馴染でもあるんだ」
「アッバスだ。よろしく」

 ダズに紹介され、アッバスは大きな右手を差し出して、挨拶をした。

 アッバスは、ダズと同じぐらい大柄で、兵士らしくがっしりと鍛えられている。砂漠の民らしい色黒の肌に、燃えるような長い赤髪と、赤い瞳をしている。

「レイです。よろしくお願いします」
「レヴィです。よろしくお願いします」

 レイとレヴィは、順番に彼とがっしり握手をした。

「鉄竜の鱗メンバーは、全部で九人で、ほとんどがAランク冒険者さ。クリフとアッバスは、王宮に勤めてて、ダズのお目付け役でもあるんだ」
「そうなんですね」

 カタリーナは、大皿料理を運びながら、横から口を挟んだ。

「俺は別にいらないって言ったんだけどよ、親父が無理矢理つけてきたんだ」
「当たり前だろう! 一応、お前は王子なんだぞ」
「『一応』って何だよ!?」

 ダズとアッバスの気安いやり取りを見ていると、本当に幼馴染のようだ。

「そうだ、レイ、レヴィ。 王宮勤めの話なんだが……長くなるし、飯食いながらでもいいか?」

 ダズはにかっと笑って、自身も夕食の手伝いに加わった。

「あいつ、全然、王子らしくないだろ」

 アッバスはやれやれと肩を窄めて、軽口を叩いた。
 レイとレヴィは、ただこくりと頷いた。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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