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報告会
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「ダズ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「サハリアの太陽に拝謁いたします。陛下におかれましては……」
「堅苦しいことはいい。お前もそうだろ?」
「ははっ。俺も苦手です」
ダズが苦笑いを浮かべると、サハリア国王アリが片手を上げた。
それまで控えていた側近たちは、次々と退出して行った。
ダズとクリフはサハリア王宮の謁見の間で跪いて、国王に拝謁していた——今回の旅の報告のためだ。
ダズは王子らしくゆったりとした藍色の衣装に身を包み、その帯には王族だけが許された黄色と赤のバラの花の紋章が刺繍されている。
クリフは最高位の国家魔術師らしく、黒地に紫色のラインが入ったローブをまとっている。
アリ国王は、公務用の豪奢な衣装に身を包み、その帯には国王だけが許された砂竜の意匠が刺繍されている。頭には冠を載せ、ダズによく似た淡いグレー色の長い髪を編んで、左前の方へ流している。
大柄で男らしいダズとは対照的で、やや細身で、藍色の優しげな双眸は、繊細な感じさえする。
「それで、今回の旅はどうだった?」
アリは自ら玉座を降りると、ダズたちの前に歩み寄って、真っ赤な絨毯の上に胡座をかいて座った。
ダズとクリフも国王にならって姿勢を崩し、その場に胡座をかいた。
「ああ、今回の旅はいろいろありすぎて……まとめて話すのは難しいな」
「お前がそう言うのは珍しいな」
アリは片眉を上げた。藍色の瞳が興味深そうに光る。
些か直感的に行動しすぎるきらいがあるが、ダズの地頭の良さは認めているのだ。
「まずは、一番大事なことだな……当代剣聖が見つかった」
「本当か!? 今、剣聖はどこに?」
「鉄竜の鱗の拠点だ。だが、招致は無理だ」
「剣聖に何か望みはないのか? 富でも地位でも美女でも、用意できるものなら何でも用意するぞ」
ダズとクリフは、気まずそうに顔を見合わせあった。
不穏な雰囲気を感じて、アリは訝しがった。
「それについては、私から。当代剣聖の背後には、先代魔王がいます。さらに、当代剣聖自体が三大魔女のため、どこかの国に属するのは難しいかと……」
「まさか管理者か!? 先代魔王も背後に……手が出せぬということか……せめて、協力を願うことは……?」
「剣聖には、王都滞在中に兵たちの剣術指南を依頼してます。また、私の研究の助手も依頼してます」
「なるほどな」
アリは肩から大きく息を吐いた。
彼は顎先に細く長い指を載せると、う~む、と思考を巡らし始めた。
「……鉄竜の鱗の拠点にいるなら、何人かうちの姫を向かわせるか……そのうちの誰かを気に入れば、万々歳なんだが……どうした?」
アリは、また気まずそうに顔を見合わせている二人を、不思議に思って尋ねた。
「今回の剣聖は幼い少女だ。しかも、まだお嬢ちゃんは恋愛には興味無いっぽいぞ」
ダズが苦笑いで報告した。
「ユークラストの水災が、彼女を相当気に入っています。バレット商会長も彼女と契約をしているようですし、光竜からの加護もあるようです」
クリフが銀縁眼鏡をクイッと上げて、補足した。
「……所謂『愛し子』の類いだな……魔物の愛し子が一番タチが悪い。魔物は、敵に対しては容赦なく攻撃してくるからな。下手に手を出せば、水害、経済封鎖、教会の離反か……よしっ、手を引くぞ!」
アリは無理な理由を指折り数えると、胡座をかいた両膝をバチンッと叩き、即決した。
高ランク魔物との付き合いは、国にとって重大かつ頭の痛い問題だ。他の種族と違って、基本的に好戦的なのだ。
人に紛れて暮らしている魔物たちは比較的温厚な者が多く、交渉もしやすいが、それでも魔物のランクが高ければ高いほど、交渉は人間側にとって不利であるし、命懸けだ。交渉の場で魔物の機嫌を損ねて、交渉役の人間が消されるのはよくある話だ。
カタリーナのような協力的な魔物の方が珍しいのだ。
さらに、人に紛れて生きる魔物は、大抵はその能力の高さから、いつの間にか要職についていたり、社会的に高い地位についていたりする。知らずに、宮中にも出入りしていることもある。しかも、周囲に全く魔物だと悟られないよう人間の振りをしているのだ。
彼らが国に叛意を持てば、いや、ただその気になりさえすれば、簡単に人間の生活など崩壊してしまうのだ。
「判断早えな、親父」
「なら、お前だったら、それでも手に入れようとするか? 剣聖がそれほど高ランクの魔物たちに守られているなら、こちらが何か一つかけ間違えれば、国が滅ぶぞ」
「まず先代魔王の義娘ってだけで、手を引くよ。カタリーナが命令されて、ただ頷くだけの相手だ。人間がどうこうできるような相手じゃない」
「カタリーナ様でもご無理だというのか……先代魔王とは、それほどのものなのだな……」
アリは、ふぅっと溜め息を吐くように深く項垂れた。
「そういえば、ユークラストの水災は復活したのか? 英雄に討伐されたのではないのか?」
「人間側で『英雄に討伐された』って言われてるだけで、本当はユグドラに引っ越してたらしい」
「サーペントといえば、グランド・フォールズの守り人にも彼女は好かれていました」
「よりにもよって、なぜ、そんな大物ばかりに好かれるのだ……」
「……彼女は非常に強い水属性の魔力を持ってます。魔力の質も良いようで、ユークラストの水災も言及していました」
アリが渋い顔をして尋ねると、クリフは少し考え込んで、そう答えた。
「……質の良い水魔力……ますます惜しいな……」
アリは眉根をぎゅっと寄せて、ますます渋い顔をした。水は砂漠の国では貴重なのだ。背後にいる高ランクの魔物たちという爆弾のような脅威がなければ、是非とも王宮に迎え入れたい人材だ。
「他国では、剣聖捜索はどうなっているのだ?」
アリは気を取り直して、別の質問を始めた。
「ドラゴニアについては、先に報告を飛ばした通りだ。今回、遠見の巫女の告げがあった地域で、剣聖の調査が行われた。聖剣が剣聖候補に選ばれたんで、ほとぼりが冷めるまで、サハリアで剣聖と聖剣をしばらく預かることになった」
ダズは淡々と報告した。
「聖剣が剣聖候補に???」
アリは、ありえない言葉に首を捻った。
「今回の剣聖は、三大魔女です。その膨大な魔力で聖剣レーヴァテインを人型化して、連れ歩いています」
「あっ! そういや、魔剣レーヴァテインは、浄化されて聖剣になったらしいんだ。先代剣聖のような事故は起こらないみたいだぜ」
「三大魔女が、魔剣を浄化……さらには、聖剣の人型化……初めて聞いたな」
クリフとダズの説明に、アリは藍色の目をぱちくりさせた。
「私も初めは耳を疑いましたが、実際に目にしましたから……瘴気はなく、むしろ、聖属性に転属したようでした。ただ、人型化は、無限の魔力を持つという三大魔女でなければできないかと思われます。そうでなければ、すぐに魔力切れになってしまうでしょう」
クリフは自らの考察も含めて、アリに報告した。
「聖剣も、言われなければ、人じゃないと分からなかったな……というより、聖剣は歴代の剣聖の姿をとれるらしいぞ。今は十七代目剣聖の姿をとってる」
「さらに、聖剣は歴代剣聖の剣技も扱えるようです。本体は剣なので、肉体的な制限も無いと言っていました」
「はっ?」
アリは驚愕の表情で、ダズとクリフを交互に見つめ、しばし固まった。
ダズは「やっぱ、親父でもびっくりするよな」と呟き、クリフは「当たり前だろう」と小声で言って、彼を肘で小突いた。
「……その、剣聖は、聖剣を連れ歩いていると言ったな? 剣聖は、聖剣をコントロールできているのか?」
アリは思考を整理するように、眉間を親指と人差し指で揉みながら尋ねた。
聖剣を人型化させているのであれば、もし聖剣が暴れ出せば、誰も止めようが無い。——体力無限で、制限無しに歴代剣聖の剣技を使えるのだ。甚大な被害が予想された。
「ええ。聖剣は、彼女によく懐いています」
「……聖剣が懐く……」
「お嬢ちゃんも、聖剣には弟のように接してて、いろいろ教えたり、躾けたりしてるぞ」
「……聖剣の躾……」
アリは、くらりとその場で揺れた。もはや理解の範疇を越えてしまったのだ。
「親父っ!?」
ダズが慌てて、その細い背中を支えに入る。
「……剣聖は、しばらく王都にいると言ったな? 剣の指南役と、クリフの助手をやるのだったか……聖剣はどうするのだ?」
「聖剣には、古参や手練れの兵士の訓練を、剣聖には新兵の剣術指南を、お願いしてます」
「逆ではないのか?」
「剣聖は元々、魔術師の少女です。剣はそこまで得意ではないようです」
「それでよく剣聖になれたな……」
「『レーヴァテインは、剣の腕が最も強い者を選ぶ』と言われてますが、どうやら正しくは『その時代で、最も上手くレーヴァテインを扱える者』を選んでいるそうです」
「何だとっ!? ……そうなると、その少女は、聖剣を人型化して維持できることで、『最も上手くレーヴァテインを扱える者』になったわけだな?」
「そのようです」
クリフがしかりと頷くと、アリは難しい顔で「そもそもの条件を履き違えていた、ということか……」と呟いた。
「ああ、そうだ。念のため、王子はできるだけ当代剣聖には会わせるなよ。間違いがあっては困る。爆弾を抱える余裕は、うちの国には無い……お前は惚れとらんよな?」
「お嬢ちゃんは、年齢的にも守備範囲外だ。何よりも、世話役の光竜がおっかない。ついでに、使い魔のキラーベンガルもだ」
アリの問いに、ダズは肩をすくめて、からりと答えた。
「……キラーベンガルを使い魔に……『当代剣聖は、歴代最強』は偽りではないのだな……」
今度は、ダズとクリフが目をぱちくりさせ、顔を見合わせあった。
「そう言われれば、そうか?」
「パッと見では、そうは思えないが……」
美味しいものが大好きで、かわいいものも大好きで、新しいものを見つけては、いちいちキラキラと瞳を輝かせて喜んではしゃぐ、普通の女の子だ。
困惑顔の二人を見て、アリは渋い顔で「当代の剣聖は、相当な食わせ者だな」と呟いた。
「サハリアの太陽に拝謁いたします。陛下におかれましては……」
「堅苦しいことはいい。お前もそうだろ?」
「ははっ。俺も苦手です」
ダズが苦笑いを浮かべると、サハリア国王アリが片手を上げた。
それまで控えていた側近たちは、次々と退出して行った。
ダズとクリフはサハリア王宮の謁見の間で跪いて、国王に拝謁していた——今回の旅の報告のためだ。
ダズは王子らしくゆったりとした藍色の衣装に身を包み、その帯には王族だけが許された黄色と赤のバラの花の紋章が刺繍されている。
クリフは最高位の国家魔術師らしく、黒地に紫色のラインが入ったローブをまとっている。
アリ国王は、公務用の豪奢な衣装に身を包み、その帯には国王だけが許された砂竜の意匠が刺繍されている。頭には冠を載せ、ダズによく似た淡いグレー色の長い髪を編んで、左前の方へ流している。
大柄で男らしいダズとは対照的で、やや細身で、藍色の優しげな双眸は、繊細な感じさえする。
「それで、今回の旅はどうだった?」
アリは自ら玉座を降りると、ダズたちの前に歩み寄って、真っ赤な絨毯の上に胡座をかいて座った。
ダズとクリフも国王にならって姿勢を崩し、その場に胡座をかいた。
「ああ、今回の旅はいろいろありすぎて……まとめて話すのは難しいな」
「お前がそう言うのは珍しいな」
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些か直感的に行動しすぎるきらいがあるが、ダズの地頭の良さは認めているのだ。
「まずは、一番大事なことだな……当代剣聖が見つかった」
「本当か!? 今、剣聖はどこに?」
「鉄竜の鱗の拠点だ。だが、招致は無理だ」
「剣聖に何か望みはないのか? 富でも地位でも美女でも、用意できるものなら何でも用意するぞ」
ダズとクリフは、気まずそうに顔を見合わせあった。
不穏な雰囲気を感じて、アリは訝しがった。
「それについては、私から。当代剣聖の背後には、先代魔王がいます。さらに、当代剣聖自体が三大魔女のため、どこかの国に属するのは難しいかと……」
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「剣聖には、王都滞在中に兵たちの剣術指南を依頼してます。また、私の研究の助手も依頼してます」
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「……鉄竜の鱗の拠点にいるなら、何人かうちの姫を向かわせるか……そのうちの誰かを気に入れば、万々歳なんだが……どうした?」
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「今回の剣聖は幼い少女だ。しかも、まだお嬢ちゃんは恋愛には興味無いっぽいぞ」
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クリフが銀縁眼鏡をクイッと上げて、補足した。
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アリは無理な理由を指折り数えると、胡座をかいた両膝をバチンッと叩き、即決した。
高ランク魔物との付き合いは、国にとって重大かつ頭の痛い問題だ。他の種族と違って、基本的に好戦的なのだ。
人に紛れて暮らしている魔物たちは比較的温厚な者が多く、交渉もしやすいが、それでも魔物のランクが高ければ高いほど、交渉は人間側にとって不利であるし、命懸けだ。交渉の場で魔物の機嫌を損ねて、交渉役の人間が消されるのはよくある話だ。
カタリーナのような協力的な魔物の方が珍しいのだ。
さらに、人に紛れて生きる魔物は、大抵はその能力の高さから、いつの間にか要職についていたり、社会的に高い地位についていたりする。知らずに、宮中にも出入りしていることもある。しかも、周囲に全く魔物だと悟られないよう人間の振りをしているのだ。
彼らが国に叛意を持てば、いや、ただその気になりさえすれば、簡単に人間の生活など崩壊してしまうのだ。
「判断早えな、親父」
「なら、お前だったら、それでも手に入れようとするか? 剣聖がそれほど高ランクの魔物たちに守られているなら、こちらが何か一つかけ間違えれば、国が滅ぶぞ」
「まず先代魔王の義娘ってだけで、手を引くよ。カタリーナが命令されて、ただ頷くだけの相手だ。人間がどうこうできるような相手じゃない」
「カタリーナ様でもご無理だというのか……先代魔王とは、それほどのものなのだな……」
アリは、ふぅっと溜め息を吐くように深く項垂れた。
「そういえば、ユークラストの水災は復活したのか? 英雄に討伐されたのではないのか?」
「人間側で『英雄に討伐された』って言われてるだけで、本当はユグドラに引っ越してたらしい」
「サーペントといえば、グランド・フォールズの守り人にも彼女は好かれていました」
「よりにもよって、なぜ、そんな大物ばかりに好かれるのだ……」
「……彼女は非常に強い水属性の魔力を持ってます。魔力の質も良いようで、ユークラストの水災も言及していました」
アリが渋い顔をして尋ねると、クリフは少し考え込んで、そう答えた。
「……質の良い水魔力……ますます惜しいな……」
アリは眉根をぎゅっと寄せて、ますます渋い顔をした。水は砂漠の国では貴重なのだ。背後にいる高ランクの魔物たちという爆弾のような脅威がなければ、是非とも王宮に迎え入れたい人材だ。
「他国では、剣聖捜索はどうなっているのだ?」
アリは気を取り直して、別の質問を始めた。
「ドラゴニアについては、先に報告を飛ばした通りだ。今回、遠見の巫女の告げがあった地域で、剣聖の調査が行われた。聖剣が剣聖候補に選ばれたんで、ほとぼりが冷めるまで、サハリアで剣聖と聖剣をしばらく預かることになった」
ダズは淡々と報告した。
「聖剣が剣聖候補に???」
アリは、ありえない言葉に首を捻った。
「今回の剣聖は、三大魔女です。その膨大な魔力で聖剣レーヴァテインを人型化して、連れ歩いています」
「あっ! そういや、魔剣レーヴァテインは、浄化されて聖剣になったらしいんだ。先代剣聖のような事故は起こらないみたいだぜ」
「三大魔女が、魔剣を浄化……さらには、聖剣の人型化……初めて聞いたな」
クリフとダズの説明に、アリは藍色の目をぱちくりさせた。
「私も初めは耳を疑いましたが、実際に目にしましたから……瘴気はなく、むしろ、聖属性に転属したようでした。ただ、人型化は、無限の魔力を持つという三大魔女でなければできないかと思われます。そうでなければ、すぐに魔力切れになってしまうでしょう」
クリフは自らの考察も含めて、アリに報告した。
「聖剣も、言われなければ、人じゃないと分からなかったな……というより、聖剣は歴代の剣聖の姿をとれるらしいぞ。今は十七代目剣聖の姿をとってる」
「さらに、聖剣は歴代剣聖の剣技も扱えるようです。本体は剣なので、肉体的な制限も無いと言っていました」
「はっ?」
アリは驚愕の表情で、ダズとクリフを交互に見つめ、しばし固まった。
ダズは「やっぱ、親父でもびっくりするよな」と呟き、クリフは「当たり前だろう」と小声で言って、彼を肘で小突いた。
「……その、剣聖は、聖剣を連れ歩いていると言ったな? 剣聖は、聖剣をコントロールできているのか?」
アリは思考を整理するように、眉間を親指と人差し指で揉みながら尋ねた。
聖剣を人型化させているのであれば、もし聖剣が暴れ出せば、誰も止めようが無い。——体力無限で、制限無しに歴代剣聖の剣技を使えるのだ。甚大な被害が予想された。
「ええ。聖剣は、彼女によく懐いています」
「……聖剣が懐く……」
「お嬢ちゃんも、聖剣には弟のように接してて、いろいろ教えたり、躾けたりしてるぞ」
「……聖剣の躾……」
アリは、くらりとその場で揺れた。もはや理解の範疇を越えてしまったのだ。
「親父っ!?」
ダズが慌てて、その細い背中を支えに入る。
「……剣聖は、しばらく王都にいると言ったな? 剣の指南役と、クリフの助手をやるのだったか……聖剣はどうするのだ?」
「聖剣には、古参や手練れの兵士の訓練を、剣聖には新兵の剣術指南を、お願いしてます」
「逆ではないのか?」
「剣聖は元々、魔術師の少女です。剣はそこまで得意ではないようです」
「それでよく剣聖になれたな……」
「『レーヴァテインは、剣の腕が最も強い者を選ぶ』と言われてますが、どうやら正しくは『その時代で、最も上手くレーヴァテインを扱える者』を選んでいるそうです」
「何だとっ!? ……そうなると、その少女は、聖剣を人型化して維持できることで、『最も上手くレーヴァテインを扱える者』になったわけだな?」
「そのようです」
クリフがしかりと頷くと、アリは難しい顔で「そもそもの条件を履き違えていた、ということか……」と呟いた。
「ああ、そうだ。念のため、王子はできるだけ当代剣聖には会わせるなよ。間違いがあっては困る。爆弾を抱える余裕は、うちの国には無い……お前は惚れとらんよな?」
「お嬢ちゃんは、年齢的にも守備範囲外だ。何よりも、世話役の光竜がおっかない。ついでに、使い魔のキラーベンガルもだ」
アリの問いに、ダズは肩をすくめて、からりと答えた。
「……キラーベンガルを使い魔に……『当代剣聖は、歴代最強』は偽りではないのだな……」
今度は、ダズとクリフが目をぱちくりさせ、顔を見合わせあった。
「そう言われれば、そうか?」
「パッと見では、そうは思えないが……」
美味しいものが大好きで、かわいいものも大好きで、新しいものを見つけては、いちいちキラキラと瞳を輝かせて喜んではしゃぐ、普通の女の子だ。
困惑顔の二人を見て、アリは渋い顔で「当代の剣聖は、相当な食わせ者だな」と呟いた。
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