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剣聖捜索5
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「……だったら、僕たちは彼らから逃げないとだね。当代剣聖は最強だって言われてるから、他の国には絶対に渡したくないだろうし、諦めないと思うよ」
ルーファスは、さりげなくレイにハンカチを手渡すと、困ったように眉を下げて話し出した。
現実問題、レヴィたちに拒否権は無い。
調査の結果、剣聖候補となった者は、この後に王都へ向かい、真実を見抜くという女神の瞳を持つ騎士団長と面談をするのだ。
セルバのギルドからは三人、剣術道場からは二人、他の街や村からも二人、剣聖候補として王都へ向かう予定だ。
「……だからと言って、ここで逃げ出せば、それはそれで怪しいですよね」
レイはハンカチで軽く目元を押さえながら、呟いた。
「その騎士団長が真実を見抜けるというのであれば、私が剣聖でないことも分かるはずです。そうすれば、解放されるのでは?」
「でも、それってレヴィが聖剣だってバレるってことだよね? それはそれで問題なんじゃ……」
「あ、確かにそうですね」
レイの指摘に、レヴィは、それもそうだと一拍遅れて頷いた。
「女神の瞳は滅多に無いスキルなんだ。そのスキルでどの範囲まで真偽を見抜くことができるかは、よく分かってないんだ。スキルが強力でも、スキルを使う対象が強すぎれば、反動が出たり、スキルが発動しないことはよくあることだしね」
「えっ!? そうなんですか!?」
「今回の遠見の巫女は、剣聖の似姿を出してないんだよね。いつもは出してたのに。……たぶん、レイの魔力が強すぎて、遠見のスキルを跳ね返したんだと思う。そうじゃなくても、フェリクス様やミーレイ様から魔術契約や加護を受けてるからね。レイに何かしらああいうスキルを仕掛けようとするなら、それなりの魔力量や練度や覚悟が必要になってくるから……だから、剣聖の顔は遠見のスキルで見れなかったんだと思う」
「魔術契約や加護にそんな効果があったんですね……って、覚悟も必要なんですか!?」
「魔王の庇護下の者に手を出すことになるからね……遠見の巫女様も、最後に当代剣聖を遠見して引退になったから、何かしら反動があったんだと思うよ」
ルーファスの説明を、レイはびっくりして聞いていた。
「……そうなると、女神の瞳のスキルでも、剣聖かどうかが分からない可能性も……」
「だと思う。だからと言って、聖剣だとバレないとは限らないし……困ったね……」
「「う~ん……」」
二人は揃って腕組みをすると、難しい顔をして唸った。
レヴィも、珍しく考え込むように目線を下げている。
その時、コンコンコンッと男部屋のドアを叩く音がした。
三人とも瞬時に扉の方を振り向く。
「……どうぞ」
ルーファスが躊躇いがちに返事をした。
バーーーンッ!!
いきなり背の高い女剣士が、勢いよく男部屋の扉を開けて中に入って来た。
「久しぶり、ルーファス。フェリクス様から、あんたたちが困ってるから旅に誘えって!」
「カタリーナ様!? お久しぶりです……フェリクス様が……?」
「そう! あのおっさんが急に現れてさ、借りを返せって。で、あんたのパーティーを指名して、サハリアに連れてけって」
「「「!?」」」
カタリーナと呼ばれた女性はズンズンと部屋の中に入っていくと、レイの前に堂々と立って自己紹介を始めた。
「あんたが鈴蘭の後継で、今代の剣聖かい? はじめまして。あたしはカタリーナ・バンデラス。Sランクパーティー『鉄竜の鱗』のリーダーをやってるんだ。カタリーナって呼んで。よろしく」
「はじめまして、レイです。レイって呼んでください。こっちは私の剣で、レヴィと呼んでます。よろしくお願いします!」
レイは目を丸くしつつも、カタリーナとがっしり握手をした。
カタリーナは背が高く、がっしりとしていて、惚れ惚れするほどの逆三角形体型だ。
アッシュグレーの髪は、力強いウェーブのかかったショートヘアで、一粒玉のゴールドのピアスがよく似合っている。日に焼けた健康的な肌をしていて、二重の瞳は、黄色味の強い色鮮やかな黄金眼をして、目力が強い。
全体的な存在圧……インパクトが強いが、その顔立ちをよく見ると、綺麗に整っている。
立派な曲刀を腰から下げ、ミスリルの部分鎧をまとう姿は、歴戦の女戦士らしく、女性から見てもかっこいい。
「剣を魔力で人型化ね。初めて見たよ。まぁ、魔力量的に三大魔女以外は無理だろうね。昔、戦場でレーヴァテインを見たことがあったんだけどさ、もっと禍々しかったような気がするんだよね」
「今は浄化されて、聖剣になってます」
「えっ!? 魔剣から聖剣になってんの!? しかも喋れるんだね。へー」
カタリーナはじろじろと、レヴィを見つめた。
こんなことってあるんだー、と彼女は呟いている。
「レイからフェリクス様の気配を感じるけど、加護でも貰ってんの?」
「加護ではなくて、親子契約してます」
「えっ!? 契約!? しかも、よりにもよって親子!? 何で!? ……まぁ、あの魔剣を聖剣に変えるほどの浄化をやるなら、あのおっさんとの契約ぐらい必要だよね」
レイが答えると、カタリーナが目を丸くして驚いた。
「僕も、何かの式典で先代剣聖と魔剣を遠目から見たことがありましたけど、かなり禍々しいと感じましたからね。ここまで浄化されてて、本当にびっくりしましたよ」
ルーファスもうんうんと頷いている。
「今、レヴィは国外に出せないんだろ。でも国外の、サハリア国指定のSランクパーティーからのお誘いじゃあ断れないよね。冒険者ギルドもこっちの味方だし。ほら、ギルドで指名登録して、さっさとこの国出るよ」
カタリーナは悪戯っぽく楽しそうに、にこりと笑った。
***
カタリーナが、セルバの冒険者ギルドに指名登録に行っている間、ルーファスとレヴィは出立の準備をしていた。
「カタリーナ様は竜の中で最も強い竜、竜族の第一席だよ。ランクは確か、SSSだよ。レイが彼女に嫌われたらどうしようかと思ってたけど、問題なさそうだったね。そんな大物に目をつけられたら大変だし、カタリーナ様は鉄竜王だから。彼女に目をつけられるってことは、鉄竜族全体にも目をつけられることだよ……他の竜王にも出会ったら気をつけて」
「こわっ! もし、次にそういう方に会いそうになったら、教えてください」
「うん、いいよ。レイは管理者だからね。そういう方々にお会いする機会は、結構多いと思う」
ぶるりと震えるレイに、ルーファスは優しく微笑んで頷いた。
準備が終わって宿の一階に降りると、ルーファスは、亭主のゴードンに出立の挨拶をした。
「ゴードンさん、すまないんですが、急遽、Sランクパーティーについて旅に出ることになってしまい……」
「ああ、分かってるよ。Sランクパーティーから指名されたんだろ? 名誉なことだ。行ってこい。チャンスは来た時に掴むべきだ。だが、セルバに戻って来たら、また空色の戦斧亭をよろしくな」
今回の空色の戦斧亭での滞在期間は一ヶ月に満たなかった。一ヶ月宿泊するからと少し宿代を値引きしてもらっていたのにも関わらず、亭主のゴードンは、その分は請求してこなかった。
ルーファスは眉を下げて申し訳なさそうに伝えたが、ゴードンは笑顔で銀の不死鳥メンバーを送り出してくれた。
***
「準備はいいかい?」
「大丈夫です!」
カタリーナの問いかけに、レイは元気よく返事をした。
「ああ、そうだ。うちのメンバーを紹介するよ。こいつはダズ。サハリア王国の第七王子だ。ポジションは前衛の剣士、人間だ」
ダズと呼ばれた男性は、色黒の肌に、白に近い淡いグレー色の短髪、鮮やかな赤い瞳をしている、筋肉質で大柄な男性だ。男らしい精悍な顔つきをしていて、頬や腕には薄っすらと、古傷が付いている。
サハリア国の第七王子と紹介されたが、かなり冒険者の風格が板に付いていて、言われなければ分からないほどだ。
「こいつはクリフだ。ポジションは後衛で、魔術師だ。魔術書の妖精なんだ。珍しいだろう?」
クリフと紹介された男性は、藤色の短髪で、前髪は長めで斜めに流し、サイドは刈り上げている。透けるような白い肌で、つり目のグレー色の瞳をしていて、銀縁の眼鏡をかけている。男性にしてはやや華奢な体型だ。
「「「よろしくお願いします」」」
(妖精の羽が、無い……?)
レイは挨拶をしつつ、心の中で小首を傾げた。
「よろしくお願いします。羽は変身魔術で隠してますよ」
「そうなんですね……何で羽について疑問に思ってたのが分かったんですか?」
「ええ、魔力に出てましたから」
「……えぇっ!?」
レイの素朴な疑問に、クリフはしれっと答えた。
思わぬ回答に、レイは目を丸くしてたじろいだ。
「銀の不死鳥メンバーは、そっちの金髪の色男がルーファス、光竜だ。茶髪のがっしりしたのがレヴィ、聖剣だ。一応、剣士扱いだ。黒髪の女の子がレイだ。鈴蘭の三大魔女で当代剣聖だ……で、この子が???」
「私の使い魔の琥珀です」
「な~ん」
レイは小さな琥珀を抱っこして紹介し、琥珀も良いお返事をした。
「ん? どうした?」
カタリーナが不思議そうに、鉄竜の鱗メンバーを振り返った。
ダズが大きな手で、頭痛がするかのように顔を覆っている。
「あのなぁ、カタリーナ……」
「……もう、どこから突っ込めばいいか、分からないな」
クリフも両方の手のひらを上にして、肩をすくめていた。
こうして、鉄竜の鱗パーティーとの前途多難なサハリア王国への旅が始まった。
ルーファスは、さりげなくレイにハンカチを手渡すと、困ったように眉を下げて話し出した。
現実問題、レヴィたちに拒否権は無い。
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セルバのギルドからは三人、剣術道場からは二人、他の街や村からも二人、剣聖候補として王都へ向かう予定だ。
「……だからと言って、ここで逃げ出せば、それはそれで怪しいですよね」
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「その騎士団長が真実を見抜けるというのであれば、私が剣聖でないことも分かるはずです。そうすれば、解放されるのでは?」
「でも、それってレヴィが聖剣だってバレるってことだよね? それはそれで問題なんじゃ……」
「あ、確かにそうですね」
レイの指摘に、レヴィは、それもそうだと一拍遅れて頷いた。
「女神の瞳は滅多に無いスキルなんだ。そのスキルでどの範囲まで真偽を見抜くことができるかは、よく分かってないんだ。スキルが強力でも、スキルを使う対象が強すぎれば、反動が出たり、スキルが発動しないことはよくあることだしね」
「えっ!? そうなんですか!?」
「今回の遠見の巫女は、剣聖の似姿を出してないんだよね。いつもは出してたのに。……たぶん、レイの魔力が強すぎて、遠見のスキルを跳ね返したんだと思う。そうじゃなくても、フェリクス様やミーレイ様から魔術契約や加護を受けてるからね。レイに何かしらああいうスキルを仕掛けようとするなら、それなりの魔力量や練度や覚悟が必要になってくるから……だから、剣聖の顔は遠見のスキルで見れなかったんだと思う」
「魔術契約や加護にそんな効果があったんですね……って、覚悟も必要なんですか!?」
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ルーファスの説明を、レイはびっくりして聞いていた。
「……そうなると、女神の瞳のスキルでも、剣聖かどうかが分からない可能性も……」
「だと思う。だからと言って、聖剣だとバレないとは限らないし……困ったね……」
「「う~ん……」」
二人は揃って腕組みをすると、難しい顔をして唸った。
レヴィも、珍しく考え込むように目線を下げている。
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「……どうぞ」
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バーーーンッ!!
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「カタリーナ様!? お久しぶりです……フェリクス様が……?」
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「はじめまして、レイです。レイって呼んでください。こっちは私の剣で、レヴィと呼んでます。よろしくお願いします!」
レイは目を丸くしつつも、カタリーナとがっしり握手をした。
カタリーナは背が高く、がっしりとしていて、惚れ惚れするほどの逆三角形体型だ。
アッシュグレーの髪は、力強いウェーブのかかったショートヘアで、一粒玉のゴールドのピアスがよく似合っている。日に焼けた健康的な肌をしていて、二重の瞳は、黄色味の強い色鮮やかな黄金眼をして、目力が強い。
全体的な存在圧……インパクトが強いが、その顔立ちをよく見ると、綺麗に整っている。
立派な曲刀を腰から下げ、ミスリルの部分鎧をまとう姿は、歴戦の女戦士らしく、女性から見てもかっこいい。
「剣を魔力で人型化ね。初めて見たよ。まぁ、魔力量的に三大魔女以外は無理だろうね。昔、戦場でレーヴァテインを見たことがあったんだけどさ、もっと禍々しかったような気がするんだよね」
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「えっ!? 魔剣から聖剣になってんの!? しかも喋れるんだね。へー」
カタリーナはじろじろと、レヴィを見つめた。
こんなことってあるんだー、と彼女は呟いている。
「レイからフェリクス様の気配を感じるけど、加護でも貰ってんの?」
「加護ではなくて、親子契約してます」
「えっ!? 契約!? しかも、よりにもよって親子!? 何で!? ……まぁ、あの魔剣を聖剣に変えるほどの浄化をやるなら、あのおっさんとの契約ぐらい必要だよね」
レイが答えると、カタリーナが目を丸くして驚いた。
「僕も、何かの式典で先代剣聖と魔剣を遠目から見たことがありましたけど、かなり禍々しいと感じましたからね。ここまで浄化されてて、本当にびっくりしましたよ」
ルーファスもうんうんと頷いている。
「今、レヴィは国外に出せないんだろ。でも国外の、サハリア国指定のSランクパーティーからのお誘いじゃあ断れないよね。冒険者ギルドもこっちの味方だし。ほら、ギルドで指名登録して、さっさとこの国出るよ」
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「こいつはクリフだ。ポジションは後衛で、魔術師だ。魔術書の妖精なんだ。珍しいだろう?」
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「「「よろしくお願いします」」」
(妖精の羽が、無い……?)
レイは挨拶をしつつ、心の中で小首を傾げた。
「よろしくお願いします。羽は変身魔術で隠してますよ」
「そうなんですね……何で羽について疑問に思ってたのが分かったんですか?」
「ええ、魔力に出てましたから」
「……えぇっ!?」
レイの素朴な疑問に、クリフはしれっと答えた。
思わぬ回答に、レイは目を丸くしてたじろいだ。
「銀の不死鳥メンバーは、そっちの金髪の色男がルーファス、光竜だ。茶髪のがっしりしたのがレヴィ、聖剣だ。一応、剣士扱いだ。黒髪の女の子がレイだ。鈴蘭の三大魔女で当代剣聖だ……で、この子が???」
「私の使い魔の琥珀です」
「な~ん」
レイは小さな琥珀を抱っこして紹介し、琥珀も良いお返事をした。
「ん? どうした?」
カタリーナが不思議そうに、鉄竜の鱗メンバーを振り返った。
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