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閑話 聖騎士見習い(アレクシス視点)
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聖鳳教会では、毎年12月にフェニックスの祝祭が行われる。
教会に縁深い家の子は、その祝祭期間中に、神官や聖騎士見習いをすることができる——教会に覚えの良い見習いの子は、この期間中に教会から声がかかることも多くて、神官や聖騎士として身を立てたい者たちにとっては、一大イベントだ。
去年一昨年は、兄二人が神官見習いをしていた。今年は俺と弟のマシューの番だ。
俺は聖属性の聖騎士見習いに、マシューは癒し属性の神官見習いをやる予定だ。
「兄様は、ランディとケイと一緒に聖騎士見習いでしょう? いいなぁ。僕は一人だからな」
「でも、マシューは癒し属性の神官になりたいんだろう? 魔力コントロールは上手いし、治癒魔術も上手いから、きっと、ユリシーズ様の目に止まるよ」
「そうかなぁ……そうだといいなぁ」
二つ年下のマシューは、おっとりしているけど、頭が良い。治癒魔術が得意だから、将来は癒し属性の神官になりたいらしい。癒し属性の大司教ユリシーズ様に憧れている。
「兄様は聖属性の聖騎士見習いで良かったの? 父様や母様が心配してたよ」
「うん。聖剣の騎士は聖属性が多いし、少しでもなれる可能性が高い方がいいだろ? 遠征や討伐も多いから、実力も早く上がるみたいだし」
「それじゃあ、兄様が怪我をしたら、僕が治すね」
「マシューは腕がいいからな。頼んだぞ」
教会本部があるディアロバードへ向かう馬車に揺られながら、俺たちはそんな話をしていた。
***
聖騎士見習いの仕事は、どんな属性でも一緒のようだった。聖騎士に混じって鍛錬をすることと、交代で教会内の見回りをすることみたいだ。
「アレク、あの聖騎士すごいよ」
聖騎士の訓練場で、幼馴染のケイに肩を叩かれた。こいつは大柄で、結構力が強いくせに加減ができないから、ちょっと肩が痛い。
「どの人?」
「あの茶髪の、真面目そうな人。動きに全然無駄が無いんだ。他の聖騎士もアドバイスをもらってるみたいだし、俺たちも行こう!」
「あっ! 待てよ!!」
ケイはカンが良いのか、すぐに目ざとく良いものを見抜いたりする。しかも、めちゃくちゃ行動が早い……あ、もう話しかけてる。
「ケイも相変わらずだな」
「ランディ」
もう一人の幼馴染のランディだ。
「ケイがすごいって言ったんだから、すごいんだろ。俺たちも行って教えてもらおうぜ!」
ランディのいつもの悪ノリかな……こいつは器用で要領がいいからか、美味しいところを持っていくのが上手いし、一緒にいたずらしててもなぜかバレてなかったりする……でも、友達想いで、俺たちを助けようとして、結局バレて一緒に怒られる——憎めない奴だ。
「ケーイ! 俺たちも混ぜてくれよー!」
ランディと一緒に、そのすごい聖騎士の所に行くと、人だかりができていた。
「おや? 見習いの子ですね。いいですよ」
その茶髪の聖騎士が振り向いた瞬間、俺はピシリと固まって動けなくなった——妖精の直感だ。
「あれ? アレク、いつもの?」
「……うん……」
「悪いやつ?」
「……いや、違う。でも、よく分からない……」
「そっか。悪くないならいいんじゃない?」
「……うん」
妖精の直感は、祖先に妖精を持つ、うちの家系で時々現れるスキルだ。相手の本性を感覚的に見破るもので、高位の存在が人間に化けていたり、魔力圧を隠していても何となく分かったりする能力だ。
茶髪の聖騎士——レヴィ騎士は、何というか生き物ではないような感じだった。そんなのは今まで感じたことがなくて、不気味だった。ただ、すごく清浄な空気感があったから、悪い物ではないとは思う……
結局、レヴィ騎士の指摘は、すごく的確で分かりやすかった。……実害はなさそうだし、他の聖騎士たちも、彼を頼ってるようだし、大丈夫、かな?
***
祝祭期間本番に入ると、交代で聖堂や教会敷地内の見回りをすることになった。
「アレク、今年はフェリクス大司教のお嬢様が見習い神官で来てるらしいぞ」
「そうか」
「相変わらずだな~。もしかしたら、逆玉の輿があるかもよ」
「俺は、いい」
「聖剣の騎士に選ばれやすくなるかもよ」
「……それは、気になる……」
ケイは伯爵家の三男だから、婿入り先候補探しも、見習い期間中の大事な目的の一つだ。
教会内で出会う貴族は教会派や中立派が多くて、家同士の仲が悪くて反対される、ということはあまり無い——婿入り先を探す絶好のチャンスだ。
俺にはどうしても忘れられない子がいる。妖精の訪いで見たレイって子だ。その後、魔力性の異常気象の日にも偶然会えたけど、それっきりだ。
でも、なぜか彼女じゃないとダメなんだ——妖精の血がそう囁いているのかもしれない。
とにかく、そっち方面は俺はまだいい。今のところ、他の子に興味が湧かないんだ。
「神官の方の見習いで、それっぽい子いたか?」
ランディが、神官見習いの控え室を覗き込みながら言ってきた。
「あれ? みんな無属性だな。たぶん、見習いやるなら聖属性だろ? それともお嬢様だから、別室にいるのかな?」
ケイも首を傾げてる。
「ほら、お前たち。次の見回りの番だぞ」
見習い指導係のヘンリー騎士から声がかかった。
「「「はいっ!」」」
俺たちは姿勢を正して、片手を胸に当て、教会式の礼をとった。
「今日は特別だ。浄化の儀を見せてやる」
「おおっ! タダで見れるなんてラッキーだな!」
「しかも、フェリクス様の浄化付きだ!」
「ただし、聖堂内では静かにしろよ」
「「「はいっ!」」」
ヘンリー騎士に先導されて、聖堂内に入ると、中は既にたくさんの人でいっぱいだった。
フェリクス大司教が浄化の儀を執り行うようになってから、年々、浄化希望者が増えて、今では予約を取るのも大変みたいだ。父様も嘆いていたな。
浄化を受けるには寄付が必要みたいだし、見習いの仕事でタダで受けられるなんてラッキーだ。
「フェリクス大司教の隣、あの神官、やけに小さくないか?」
「ドワーフ族か?」
「それにしては細っこいぞ」
「しっ、静かに。始まるぞ」
ヘンリー騎士に小声で嗜められた。
その小さな神官は、フードを目深に被っていて顔は分からなかったが、やけに目を引いた。
浄化の儀が始まると、聖堂内が魔力の渦に包まれた。
あの小さな神官の詠唱が、質・魔力量共に飛び抜けているのが、はたから見ても分かった。しかも、まるで、この詠唱自体を楽しんでいるようだった。
「今年の浄化の儀は特にすごいな!」
「これで来年も安心して迎えられるね」
浄化の儀が終わると、信徒たちがスッキリした顔で、口々にそんなことをお喋りしながら、出口に向かって行くのが見えた。
「フェリクス様の浄化の儀はすごいな。今回は詠唱役も当たりだ。上手い神官に当たったな」
ヘンリー騎士がスッキリとした表情でそう呟いていた。
俺は妖精の直感があるから、結構、イヤな感じがするものはその都度避けてきた。そのおかげか、毎年、黒い靄は少なめだ。それでもやっぱり、浄化の儀を受けると肩が軽くなって、すごく清々しい気分になる。
何にでも首を突っ込むケイは靄が多めで、ランディも器用な分、案外恨みも買うのか少し多めだった。
彼らもとてもスッキリした顔をしていた。
***
祝祭期間三日目——祝祭日に事件が起こった。
ドッシーーーンッ!!!
その時、聖堂が揺れた。
「キャーーッ!」
「何だっ!?」
祝祭パーティーの準備をしていた神官や、まだ聖堂内に残っていた一般の信徒に、ざわめきが広がった。
聖騎士たちが慌ただしく聖堂の外へ出て行くのが見えた。
「アレク、行ってみようぜ!」
「あ、待てよ!」
ケイがすぐさま反応して、聖堂を飛び出して行った。俺とランディも後を追う。
「あれは……!?」
聖堂から少し離れた廊下で人だかりができていた。
「怖いな、襲撃だって」
「祝祭の日に、教会を襲うだなんて……」
「あの聖騎士、すごいな。一人で三人も襲撃者を倒したんだって」
「鍛錬の時にすごかった人だろ。聖属性の聖騎士だ。何となく覚えてる」
真っ先に目に入ったのは、血溜まりの中にしゃがみ込んでいる黒髪黒目の少女——レイだ。
怪我をした神官を気遣っているようで、不安げな表情をしていた。
「フードを被れ」
「わっ!」
怪我をした神官が、血がベッタリと付いた手で、レイにフードを被せていた。
一瞬で彼女の存在感が希薄になる——どうやら、その手の魔術がかかってるみたいだ。
「アルバンさん!!」
レイが叫んだので、彼女が向いている方を見ると、人垣を掻き分けてアルバン騎士が現れた。フェリクス大司教の護衛騎士で有名な方だ。
「……アルバン騎士だ」
「フェリクス大司教の護衛騎士だね。あの神官たちも聖属性みたいだよ」
ランディが俺の耳元で呟いた。
聖属性……レイはそこに所属しているのか……?
「あんなに小さいのに、聖属性の神官……?」
「お前たち、こんな所にいたのか。ああ、あの子は凄腕の神官だからな。浄化の儀に詠唱役で毎回参加しているのは、あの子だけだそうだ」
ヘンリー騎士が、息を切らしながら駆けつけて来た。
「それは凄いですね。どんな子なんですか?」
「ここだけの話、なんでも、フェリクス大司教のお嬢様らしい……あの方は人を見る目があるからな。そんな方に選ばれたのであれば、相当優秀な子なんだろう……なんだ、逆玉の輿狙いか?」
「そうではありません。優秀だというので、気になっただけです」
「……まぁ、大分歳の差はあるが、ルーファス大司教のお相手とも噂されてるからな」
「えっ?」
瞬間的に、指の先から冷たくなっていくような感じがした。
「まぁ、単なる噂だ、噂」と茶化すヘンリー騎士の声がとても遠くに聞こえた気がした。
ルーファス大司教は、光属性の大司教様だ。大司教の中では一番若くて、豊富な魔力を持ち、強力な光魔術を扱うことができる優秀な方なのだそうだ。さらに、人当たりが良くて優しいから、評判もいい。女性と見間違うかと思うほどの白皙の美貌からも、彼のファンはとても多い。
レイも、ああいうお方の方が良いのだろうか……? でも、俺には妖精の縁があるはずなんだけどな……ツキリと少しだけ胸が痛んだ気がした。
***
襲撃の次の日は、浄化の儀にあの子は出て来なかった。心労で臥せってしまったって噂だ。
神官見習いの宿舎にそれっぽい子はいなかったし、医務室を覗いてもいなかった。
もしフェリクス様の宿舎にいるとしても、聖騎士見習いが近づけるような場所ではなかった。
どうしているか心配だったけど、どうしようもなくて、モヤモヤしたまま一日を過ごした。
祝祭期間最終日に、マシューが宿舎の俺の部屋を訪ねて来た。
「兄様」
「どうした? マシュー?」
「今朝、ユリシーズ様のお薬持ちの手伝いしたよ」
「そうか。良かったな! ユリシーズ様は、マシューの憧れだもんな!」
「うん。その時、兄様の、妖精の縁っぽい子の所にも行ったよ。黒髪黒目の子でしょ?」
「えっ?」
「フェリクス様の離宮で、診察受けてたよ。ユリシーズ様から許可が出てたから、今日の浄化には出て来るかも」
「そっか。ありがとな」
俺はマシューの頭を撫でた。
運が良いことに、浄化の儀最終回に聖堂内の見回りになった。
フェリクス大司教と詠唱の神官たちが聖堂内に入ってきた。フードを目深に被った小さな神官の姿も見えた——おそらく、レイだろう。
詠唱ができるまで回復したようで、思わずホッと安心した。
レイの詠唱は調子が良いみたいで、伸びやかに魔力が放たれていた。
「わぁぁ!」
「今年はすごいな!」
「見て、見て! お花だよ!!」
聖堂内の人たちがざわざわと騒いでいたので、見てみると、天井から聖属性の魔力の花びらがはらはらと舞い落ちてきていた。
「初めて見た……浄化の花だ!」
「……浄化の、花?」
「聖属性の適性が極の者だけが降らせられる、最上位魔術の一つだ。……聖属性に極の神官なんかいたかな?」
ヘンリー騎士が首を捻っていた。
はらりと舞い降りてきた純白の花びらを手に取ると、しゅわりと音を立てて消えていった。
清廉な鈴蘭の香りがしたような気がした。
とにかく、新しい目標ができた。聖属性の聖騎士を目指す……きっとフェリクス大司教の近くにいれば、あの子に会う機会が増えるはずだ。
教会に縁深い家の子は、その祝祭期間中に、神官や聖騎士見習いをすることができる——教会に覚えの良い見習いの子は、この期間中に教会から声がかかることも多くて、神官や聖騎士として身を立てたい者たちにとっては、一大イベントだ。
去年一昨年は、兄二人が神官見習いをしていた。今年は俺と弟のマシューの番だ。
俺は聖属性の聖騎士見習いに、マシューは癒し属性の神官見習いをやる予定だ。
「兄様は、ランディとケイと一緒に聖騎士見習いでしょう? いいなぁ。僕は一人だからな」
「でも、マシューは癒し属性の神官になりたいんだろう? 魔力コントロールは上手いし、治癒魔術も上手いから、きっと、ユリシーズ様の目に止まるよ」
「そうかなぁ……そうだといいなぁ」
二つ年下のマシューは、おっとりしているけど、頭が良い。治癒魔術が得意だから、将来は癒し属性の神官になりたいらしい。癒し属性の大司教ユリシーズ様に憧れている。
「兄様は聖属性の聖騎士見習いで良かったの? 父様や母様が心配してたよ」
「うん。聖剣の騎士は聖属性が多いし、少しでもなれる可能性が高い方がいいだろ? 遠征や討伐も多いから、実力も早く上がるみたいだし」
「それじゃあ、兄様が怪我をしたら、僕が治すね」
「マシューは腕がいいからな。頼んだぞ」
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「どの人?」
「あの茶髪の、真面目そうな人。動きに全然無駄が無いんだ。他の聖騎士もアドバイスをもらってるみたいだし、俺たちも行こう!」
「あっ! 待てよ!!」
ケイはカンが良いのか、すぐに目ざとく良いものを見抜いたりする。しかも、めちゃくちゃ行動が早い……あ、もう話しかけてる。
「ケイも相変わらずだな」
「ランディ」
もう一人の幼馴染のランディだ。
「ケイがすごいって言ったんだから、すごいんだろ。俺たちも行って教えてもらおうぜ!」
ランディのいつもの悪ノリかな……こいつは器用で要領がいいからか、美味しいところを持っていくのが上手いし、一緒にいたずらしててもなぜかバレてなかったりする……でも、友達想いで、俺たちを助けようとして、結局バレて一緒に怒られる——憎めない奴だ。
「ケーイ! 俺たちも混ぜてくれよー!」
ランディと一緒に、そのすごい聖騎士の所に行くと、人だかりができていた。
「おや? 見習いの子ですね。いいですよ」
その茶髪の聖騎士が振り向いた瞬間、俺はピシリと固まって動けなくなった——妖精の直感だ。
「あれ? アレク、いつもの?」
「……うん……」
「悪いやつ?」
「……いや、違う。でも、よく分からない……」
「そっか。悪くないならいいんじゃない?」
「……うん」
妖精の直感は、祖先に妖精を持つ、うちの家系で時々現れるスキルだ。相手の本性を感覚的に見破るもので、高位の存在が人間に化けていたり、魔力圧を隠していても何となく分かったりする能力だ。
茶髪の聖騎士——レヴィ騎士は、何というか生き物ではないような感じだった。そんなのは今まで感じたことがなくて、不気味だった。ただ、すごく清浄な空気感があったから、悪い物ではないとは思う……
結局、レヴィ騎士の指摘は、すごく的確で分かりやすかった。……実害はなさそうだし、他の聖騎士たちも、彼を頼ってるようだし、大丈夫、かな?
***
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「アレク、今年はフェリクス大司教のお嬢様が見習い神官で来てるらしいぞ」
「そうか」
「相変わらずだな~。もしかしたら、逆玉の輿があるかもよ」
「俺は、いい」
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「……それは、気になる……」
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「ドワーフ族か?」
「それにしては細っこいぞ」
「しっ、静かに。始まるぞ」
ヘンリー騎士に小声で嗜められた。
その小さな神官は、フードを目深に被っていて顔は分からなかったが、やけに目を引いた。
浄化の儀が始まると、聖堂内が魔力の渦に包まれた。
あの小さな神官の詠唱が、質・魔力量共に飛び抜けているのが、はたから見ても分かった。しかも、まるで、この詠唱自体を楽しんでいるようだった。
「今年の浄化の儀は特にすごいな!」
「これで来年も安心して迎えられるね」
浄化の儀が終わると、信徒たちがスッキリした顔で、口々にそんなことをお喋りしながら、出口に向かって行くのが見えた。
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ヘンリー騎士がスッキリとした表情でそう呟いていた。
俺は妖精の直感があるから、結構、イヤな感じがするものはその都度避けてきた。そのおかげか、毎年、黒い靄は少なめだ。それでもやっぱり、浄化の儀を受けると肩が軽くなって、すごく清々しい気分になる。
何にでも首を突っ込むケイは靄が多めで、ランディも器用な分、案外恨みも買うのか少し多めだった。
彼らもとてもスッキリした顔をしていた。
***
祝祭期間三日目——祝祭日に事件が起こった。
ドッシーーーンッ!!!
その時、聖堂が揺れた。
「キャーーッ!」
「何だっ!?」
祝祭パーティーの準備をしていた神官や、まだ聖堂内に残っていた一般の信徒に、ざわめきが広がった。
聖騎士たちが慌ただしく聖堂の外へ出て行くのが見えた。
「アレク、行ってみようぜ!」
「あ、待てよ!」
ケイがすぐさま反応して、聖堂を飛び出して行った。俺とランディも後を追う。
「あれは……!?」
聖堂から少し離れた廊下で人だかりができていた。
「怖いな、襲撃だって」
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「あの聖騎士、すごいな。一人で三人も襲撃者を倒したんだって」
「鍛錬の時にすごかった人だろ。聖属性の聖騎士だ。何となく覚えてる」
真っ先に目に入ったのは、血溜まりの中にしゃがみ込んでいる黒髪黒目の少女——レイだ。
怪我をした神官を気遣っているようで、不安げな表情をしていた。
「フードを被れ」
「わっ!」
怪我をした神官が、血がベッタリと付いた手で、レイにフードを被せていた。
一瞬で彼女の存在感が希薄になる——どうやら、その手の魔術がかかってるみたいだ。
「アルバンさん!!」
レイが叫んだので、彼女が向いている方を見ると、人垣を掻き分けてアルバン騎士が現れた。フェリクス大司教の護衛騎士で有名な方だ。
「……アルバン騎士だ」
「フェリクス大司教の護衛騎士だね。あの神官たちも聖属性みたいだよ」
ランディが俺の耳元で呟いた。
聖属性……レイはそこに所属しているのか……?
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「お前たち、こんな所にいたのか。ああ、あの子は凄腕の神官だからな。浄化の儀に詠唱役で毎回参加しているのは、あの子だけだそうだ」
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「それは凄いですね。どんな子なんですか?」
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「そうではありません。優秀だというので、気になっただけです」
「……まぁ、大分歳の差はあるが、ルーファス大司教のお相手とも噂されてるからな」
「えっ?」
瞬間的に、指の先から冷たくなっていくような感じがした。
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「うん。その時、兄様の、妖精の縁っぽい子の所にも行ったよ。黒髪黒目の子でしょ?」
「えっ?」
「フェリクス様の離宮で、診察受けてたよ。ユリシーズ様から許可が出てたから、今日の浄化には出て来るかも」
「そっか。ありがとな」
俺はマシューの頭を撫でた。
運が良いことに、浄化の儀最終回に聖堂内の見回りになった。
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「わぁぁ!」
「今年はすごいな!」
「見て、見て! お花だよ!!」
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「……浄化の、花?」
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17
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