鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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魅惑の精霊3

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「おい、ギルド内で喧嘩は止せ。討伐依頼を受けるなら、小会議室に来い」

 砂色の髪をした強面の大男が手招きをした。フェンの冒険者ギルドのギルドマスターのヨーゼフだ。

「ああ、分かった」
「了解~」

 エイドリアンは淡々と頷き、アイザックは軽々しく答えた。

 ヨーゼフは一瞬顔を顰めたが、さっさと方向転換をして小会議室へと向かった。


 小会議室内には、横長のデスクがロの字型に組まれて置かれており、銀の不死鳥と筋肉礼賛きんにくらいさんのメンバーは向かい合うように席に着いた。

「いいか、この依頼はチームワークが重要だ。盗賊団には、魅了魔術を扱う魅惑の精霊がいる。互いに協力できないなら、すぐにその隙を突かれて、奴らの餌食になるだろう……それでも、この依頼を受けるか?」

 ヨーゼフが開口一番、注意するように尋ねた。

「ああ、大丈夫だ」
「もちろん、受けるよ」

 エイドリアンもアイザックも、こともなげに了承した。

「せめて依頼遂行中は、協力し合えよ」

 ヨーゼフは嫌そうな顔をして、再三注意をした。


「じゃあ、今回の依頼内容を説明するぞ。盗賊団は大体二十人ぐらいだ。フェン近辺を通りがかった商隊をメインに、旅人や冒険者なんかも襲っている。手口は、玉型の魅惑の精霊が魅了魔術をかけて、金や積荷を貢がせているんだ。……お前ら、魅了耐性スキルか魅了耐性アイテムを持ってるか? 無いなら入手するか、この依頼を諦めるかどっちかだ」

 ヨーゼフは疑り深い視線でじろりと二つのパーティーメンバーを見まわした。

「問題ない。対策してある」
「うちも大丈夫だよ」

 軽々しく答える二つのパーティーリーダーを、ヨーゼフは訝しげな表情で見つめた後、大きな溜め息をついた。

「……そこまで言うなら分かった。撤退するなら、早めにしろよ。この盗賊団には、領軍も手を焼いてるんだ。撤退は恥じゃない。……で、この魅惑の精霊が厄介だ。控えめに言っても、絶世の美貌だ。こいつの手配書や人相書きは張り出す度に、軒並み盗難にあってるんだ」

 ヨーゼフは、魅惑の精霊の手配書をぴらりと掲げて見せてきた。

(……相変わらず丸しか描かれてないけど……)

 レイはじと目で手配書を見つめた。

「さらに面倒なことに、一般市民からこいつの信者が出てきちまった」
「信者……?」
「そうだ。魅惑の精霊に魅入られて、この盗賊団の面倒を見ちまってるんだ。場合によっては、盾代わりにも使われてる」
「なっ……」

 レイは目を丸くして、両手で口を押さえた。
 魔物たちは、ふ~ん、といった冷めた表情だ。
 レヴィも「そうなんですね」と淡々と頷いている。

「一般市民は傷つけずに保護する必要がある。それだけは気をつけてくれ。あと、ウィーングラスト領としては、可能なら討伐よりも出来るだけ捕縛を希望だ」
「なぜだ?」

 エイドリアンが、黒い瞳で真っ直にぐヨーゼフを見つめて尋ねた。

「主に盗品の行方の捜索のためだな。後はこれだけ世間を騒がせたんだ。領としては、相応に重い罪を課したいんだろうな」

 ヨーゼフは怒りで目をつり上げて、低い声で口にした。
 フェンは盗賊団からの被害が最も多い都市だ。これまでもいろいろと煮え湯を飲まされてきたのだろう。

「……何か質問はあるか?」

 ヨーゼフはじろりと小会議室内にいるメンバーを見まわした。

「盗賊団のアジトの場所は分かってるのか? 盗賊団の襲撃の頻度や場所なんかも知りたい」
「アジトはフェンから東南、隣街との間にあると目されてる……魅了魔術があって、下手に近づけないから正確な位置は分からないんだ。襲撃については、俺よりも詳しい奴がいる。後で知り合いを紹介するから、そいつに訊いてくれ」

「分かった。すまないが、よろしく頼む。あと、信者の数がどのくらいいるかも知りたい」
「信者については、フェンだけでも、ここ数ヶ月で行方不明者が二十名ほど出ていて、おそらく、そのほとんどが信者になっちまったと思われている。他の街からも行方不明者が出ていることも考えると、その倍ぐらいは信者がいると考えてもらっていい」

「……なるほど。それだけ人数がいると厄介だな……盗賊団は魅了魔術以外に、何か特殊な魔術やスキルの使い手はいるのか?」
「討伐隊のほとんどが魅了魔術にやられて、ほとんど何も覚えてないんだ。逃げ出せた奴らも、魅了魔術以外は見ていないらしい……」
「そうか、ありがとう」

 その後もいくつか、ヨーゼフとエイドリアンの間で質疑応答が続いた。


***


「琥珀、かわいいです!」
「にゃにゃ」

 レイは琥珀を抱っこして、くるくると回った。琥珀も褒められて、上機嫌だ。ゴロゴロと甘えた声を出している。
 重苦しい会議が終わって、レイは息抜きに琥珀に癒しを求めたのだ。

「あれ? この指輪……」
「義父さんにもらった指輪です。魅了を防ぐ効果もあるので、今回の任務の時だけ、シェリーにお願いして、琥珀のリボンに縫い付けてもらいました!」

 琥珀の赤いリボンの結び目部分には、レイがいつも小指にはめている指輪が縫い付けられていた。フェニックスの炎石と、ダイヤモンドのような聖属性の魔石がキラキラと輝いている。

「これなら、うちのパーティーは全員、魅了魔術は大丈夫かな」

 アイザックはうんうんと頷いた。

「で、君たちは何なの? 気持ち悪い」

 アイザックはじと目で筋肉礼賛パーティーを見つめた。

 筋肉たちは、子供が小動物と戯れている愛らしい姿に、微笑ましそうに目尻を下げている。

 ギルド内では他の冒険者の目があるため、銀の不死鳥と筋肉礼賛のメンバーは、ギルドの外に出て来ていた。

「全く、ギルドでもそうだが、随分な言いようだな」

 エイドリアンが腰に手を当てて小言をこぼしたが、声のトーンからは、そこまで怒っているわけではなさそうだ。

「だって、あからさまに軍人っぽい君たちと関係者だと思われたら、今後、銀の不死鳥が活動しづらくなっちゃうでしょ。噂なんてすぐ広まっちゃうし。ちょっと予防線張っただけだよ」

 アイザックはぺろっと舌を出した。

「ちっ、食えないやつだ……」
「まあ、本音もあるけどね」
「「「おいっ!!」」」

 飄々と言ってのけるアイザックに、筋肉礼賛の三人は大声でツッコミを入れた。

「で、盗賊団の討伐はどうしようか?」
「俺は銀の不死鳥と行動を共にするが、ベンとモーリスには魅了魔術にかからないように、離れたところからサポートしてもらう。ベンは空から、モーリスには地中からだ」

 エイドリアンが説明し、ベンとモーリスも頷いている。

「信者の存在が面倒だな。一般市民だから傷つけられんし……」
「それなら、私が結界で信者だけ隔離しましょうか? 外からの攻撃からも守れますし、内側から出られないようにすれば、操られて何か命令されても、何もできないでしょう?」
「それはいいかもな……ベン!」
「はいっ!」
「夜の闇に紛れて、盗賊団のアジトを探索できないか? 信者がどこにいるか、何人ぐらいいるのかも把握しておきたい」
「はっ!」

「モーリス!」
「はっ!」
「モーリスはフェンの街で情報収集だ。地中からの聞き耳は得意だろう?」
「はっ!」

 ベンとモーリスはキリッと返事をすると、一瞬のうちに消えていた。

「……相変わらず、すごいね」
「うちは一人一人が特殊スキル持ちだからな。俺たちは宿の確保と、ギルマスの紹介者に会って情報収集だな」
「銀の不死鳥と筋肉礼賛は別々に宿を取ろうか」
「なぜだ?」

 アイザックの提案に、エイドリアンは眉を顰めた。

「念のためにね。せっかく一芝居打ったのに、君たちと同じ宿だと怪しまれちゃうでしょ。……で、レイは僕と一緒の部屋ね! 何があっても僕が守るよ!」
「アイザックはレヴィと同じ部屋です! 私は琥珀と一緒の部屋にします。男子禁制です!!」
「そんな~!」

 レイにきっぱりと断られ、アイザックは絶望的な表情になった。

「パジャマパーティー……」
「絶対にやらないからね」

 レヴィの小さな呟きを拾ったアイザックは、低い声で断言した。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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