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魅惑の精霊2
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ルーファスがレイの頭に手をかざすと、その手が淡く光った。
「……これで加護が付いたよ」
「ありがとうございます!」
レイがにこりと笑って礼を言った。
ルーファスもその笑顔を見て、淡い黄色の瞳を細めて優しく微笑んだ。
「ほれ、加護板で確認してみろ」
ウィルフレッドが宝物庫から借りてきた、黒いタブレットのような加護板を手渡してきた。
レイはそれを受け取ると、両端を持って魔力を流した。もう何回も使っているので、慣れたものだ。
——
加護:三大魔女リリスの加護、魔王ミーレイの加護、光竜ルーファスの加護
——
「ちょっと待って! 何でミーレイ様の加護が付いてるの!?」
ルーファスが加護板を覗き込んで、驚きの声をあげた。
「この前、ミーレイ様がユグドラにいらした時にいただきました。……そういえば、まだ確認してなかったです」
レイは「魔王ミーレイの加護」の文字をタップした。
——
魔王ミーレイによって施された加護。
効果:
・地属性適性アップ。
・丈夫な体になる。怪我や病気になりにくくなる。回復しやすくなる。
——
「おおっ!」
(地味にありがたい! 次にお会いしたら、お礼を言わなくちゃ!!)
レイは瞳をキラリと煌めかせた。非常に現実的で役立つ効果内容は、現実派なレイの心にクリーンヒットした。
「ミーレイ様の加護……あの方が、誰かに加護を与えるなんて……」
ルーファスは、俄には信じられないものを見たというように、加護板を覗き込んでいる。
次に、レイは「光竜ルーファスの加護」の文字をタップした。
——
光竜ルーファスによって施された加護。
効果:
・光属性適性アップ。
・光明が差す。ピンチの時に道が開ける。
——
「……『光明が差す』?」
レイは首を傾げた。
「……何だか、改めて加護板で見ると、『こういう加護をあげたんだ』って、ちょっと気恥ずかしくなるね。……ええとね、加護を与えるって、実は大変なことなんだよ。自分の能力以上のものは与えられないし、自分の能力を一部切り出すことでもあるから、誰にでもあげられるものでもないんだ。みんな本当に大事だと思える人にだけ加護を与えてるんだよ。……で、『光明が差す』なんだけど、レイがピンチの時に、手助けになるような人物が現れたり、インスピレーションが働いて解決策を思い付きやすくなるんだ。まあ、幸運がアップするって思ってもらえればいいかな。僕の加護の場合は、『ピンチの時に』って限定的に発動するんだけど、きっと兄さ……光竜王様なら、こういう限定条件が無い加護も付けられるんじゃないかな」
ルーファスは照れて、目線をレイから外しつつも、ぽつぽつと説明をしてくれた。
「そうなんですね。貴重な加護をありがとうございます! ルーファスが私を想って付けてくれた加護なんです。見知らぬ光竜王様から加護を与えられるよりも、私はこっちの方がずっと嬉しいです!」
レイは両手できゅっとルーファスの手を握った。
「レイ……」
ルーファスは淡い黄色の目を丸く見開いて、じーんと感動したように固まっている。
「いい加護をもらえて良かったな」
「はいっ!」
ウィルフレッドの言葉に、レイは元気よく返事をした。
***
ルーファスは、聖鳳教会本部のあるディアロバードへ転移魔術で帰って行った。
「さて、レイたちには帰って来て早々に悪いが、ウィーングラスト領に行ってもらう。ユグドラからは、エイドリアン、アイザック、ベン、モーリスがついて行く」
「分かりました」
ウィルフレッドの言葉に、レイはこくりと頷いた。
「僕もレイと同じパーティーに入れてもらおうかな」
アイザックが、いつもの学者のローブのような図書館司書の服装ではなく、冒険者の魔術師がよく着ている黒いケープ姿で現れた。ケープには金糸で、中級魔術師が好むような、魔術の発動をサポートする魔術陣風の刺繍がしてある。珍しい髪色は、変身魔術でレイと同じ黒髪にしていて、いつも以上にきりっとした麗俐な美貌になっている。
「アイザックも冒険者登録してたんですか?」
「一応ね。人間として行動する時の身分証代わりだよ」
アイザックは、ペンダントのように首から下げている冒険者証を掲げて見せた。
「ランクはどのくらいなんですか?」
「Bランクだよ。今回来れないルーファスの代わりにはなれるんじゃないかな」
「それなら、俺たちもレイのパーティーに入れてもらおうかな」
「やだよ! むさくなっちゃうよ!」
「……何でまだパーティーに入ってないアイザックが断るんだ」
エイドリアンが防御壁部隊員二名を引き連れてやって来た。
いつものきりりとした防御壁部隊の藍色の制服ではなく、冒険者の拳闘士のような身軽な服装だ。腕まで覆う拳闘士用のミスリルの小手をし、脛をしっかり覆うようにゲートルを巻いている。
「ああ、紹介するな。ベンとモーリスだ。二人ともAランク魔物だ」
ベンは藍色の短髪で、サイドに剃り込みが入っている。鮮やかなオレンジ色の瞳は切れ長だ。細身の長身だが、防御壁部隊員らしく、しっかりとした筋肉質だ。
革の胸当てと小手を身につけていて、腰に剣を佩いている。
モーリスは柔らかい栗色の短髪に、黒い瞳だ。丸顔でややぽっちゃりめの体型だが、腕を見ると、防御壁部隊員らしい、かなりしっかりした筋肉が付いている。
彼も革の胸当てと腰巻きを身につけていて、立派な戦斧を背負っている。
「よろしくお願いします!」
「よろしくな。おおっ! 人間の子供だ……小さくてかわいいな」
「よろしく。人間の子供は初めて触ったな」
レイは二人と握手しつつ、苦笑いだ。
ベンとモーリスは、ユグドラでは見かけない人間の子供に、壊れ物を扱うかのようにそっと握手した。
「ベン、モーリス、お久しぶりです」
「よお、久しぶり」
「しばらく見かけないと思ったら、外に出てたのか」
「レヴィはいつの間に仲良くなってたの?」
「ええ、花合戦の時に一緒のチームでした」
レヴィは、ベンとモーリスとはユグドラ花祭りの時に知り合っていたようだ。
バシバシと仲良く肩を叩き合う三人に、レイは目をぱちくりさせた。
***
ウィーングラスト領は、バルゼビス王国の辺境にあり、白の領域とも接している。
ウィーングラスト領の都市フェンは、現在最も件の盗賊団の被害に遭っている地域にある。隣国ドラゴニア王国との国境域も近く、交易路にもなっているため、ここを通る商人や旅人、冒険者が狙われるのだ。
「わぁ! 結構いっぱい人がいますね」
「ここは交易路だからね。フェンを出ると、領都に着くまであまり大きな街は無いんだ。だから、大抵はここで泊まったり、軽く商いをしてから次の街へ向かうみたいだよ」
「私が以前来た時よりは、兵士が多くて、少しギスギスした雰囲気がしてます」
「レヴィがここに来たのは、一体いつなのさ?」
「確か、二百年ほど前です」
「それだけ時間が空いていれば、街の雰囲気も変わるよ。……でも、まあ、兵士が多いのは盗賊対策なんじゃない?」
(……確かに、セルバに比べて街中に兵士が多いかも……)
フェンは、少しだけセルバの街に雰囲気が似ていて、煉瓦造りの家が多く、地面には石畳が敷かれている。
こちらは交易路のためか宿屋が多く、街を囲う城壁門の近くには、商隊が荷馬車ごと野営できるような大きな広場がある。
許可を取れば臨時で店を出せる場所もあるらしく、そこには、地面に敷物が敷かれ、ここら辺の地域ではあまり見かけない珍しいスパイスや民芸品、魔物素材や乾燥した薬草などが売られていて、活気に溢れている。
フェンの街のいたる所には、揃いの青い制服に身を包んだ見回り中の兵士を見かけた。
フェンの冒険者ギルドは、城壁の近くにあった。
ギルドの木戸を潜ると、レイとアイザックとレヴィは、真っ先に依頼ボードへと向かった。
「これですね」
「『フェン近辺に出没する盗賊団の討伐または団員の捕縛。賊は魅了魔術を使用する可能性が高い』……ランクAの依頼ですね。銀の不死鳥だけでは受けられないですね」
「僕が銀の不死鳥のパーティーメンバーに登録しても、Bランクだしね。……やっぱAランク冒険者のエイドリアンにも加入してもらわなきゃか……」
アイザックは、むさいパーティーは嫌なんだよね、とぼやいている。
「あんたたち、見かけない顔だね。その依頼、受けるのかい?」
背の高い女性が声を掛けてきた。濃い金髪を一つにまとめ、大刀を背負った女剣士のようだ。彼女もちょうど、依頼ボードを見ていたようだ。
「うん、そうだよ」
「へ~……悪いことは言わないからさ、その依頼だけはやめといた方がいいよ」
「どうして?」
アイザックが首を傾げた。
「依頼書には『盗賊団の討伐』みたいなことが書いてあるけど、盗賊団以上にある意味厄介な奴らがついてるのさ」
「厄介な奴ら? どんな奴らなの?」
「……それも知らないんじゃあ、この依頼には手を出さない方がいいよ。じゃあね」
女剣士はひらりと手を振って、彼女の冒険者パーティーの方へ戻って行った。
「……忠告でしょうか」
レヴィが彼女の背中を見ながら、ぽつりと呟いた。
「『厄介な奴ら』かぁ……調べないとだね」
アイザックは、めんどくさそうに両手を頭の後ろで組んで、唇を尖らせた。
ベンとモーリスは冒険者証を持っていなかったため、まずは登録からだった。人間の街に慣れてない彼らのために、エイドリアンが一緒に付き添っている。
冒険者ギルドの受付カウンター前には、冒険者登録のためにエイドリアン、ベン、モーリスが並んでいる。
(……三人が並ぶと何だか……)
「何だかあの三人が固まると、軍人崩れか、任務で冒険者に身を窶してる軍人っぽいよね。訳あり感がすごい」
アイザックの正直な感想に、レイは静かに頷いた。
明らかに軍人っぽい上長のエイドリアンと、その部下らしいベンとモーリス。指揮命令系統が、はたから見ててもハッキリと分かる。普段の防御壁部隊がキビキビと働いているせいか、ちょっとした仕草や醸し出している雰囲気が、軍人のそれだ。体格からも、鍛えていることがありありと分かり、三人が並ぶだけで筋肉の圧迫感がすごい。
あからさまに訳あり感のある三人に、ギルド内の他の冒険者たちも、遠巻きに様子を窺っているようだ。
「僕思うんだけど、彼らと同じパーティーになったら、僕らも怪しまれちゃうよね」
「……そうですね」
アイザックの尤もな意見に、レイもはっきりと頷いた。
結局、防御壁部隊とは別パーティーで登録して、「盗賊団の討伐依頼を、たまたま一緒になったパーティー同士で協力する」というスタンスをとることになった。
「僕は『銀の不死鳥』リーダーのアイザックだよ。君が『筋肉礼賛』の…………ぷっ、ぷははははっ! 何でそんなパーティー名にしたのっ!?」
アイザックは、はじめましての挨拶するように片手を出していたが、途中で堪えきれなくなって、おなかを抱えて笑い出した。
「……失礼なやつだな。どんなパーティー名だっていいだろう。俺たちは気に入ってるんだ」
エイドリアンが眉を顰めた。後ろに控えているベンとモーリスも怖い顔をしている——防御壁部隊員は、心から筋肉を愛しているのだ。
明らかに小馬鹿にしている銀の不死鳥のリーダーと、あからさまに軍人っぽいパーティーとのピリピリとした雰囲気に、他の冒険者たちは顔を青ざめさせて、その様子を遠巻きに見守っていた。
「……これで加護が付いたよ」
「ありがとうございます!」
レイがにこりと笑って礼を言った。
ルーファスもその笑顔を見て、淡い黄色の瞳を細めて優しく微笑んだ。
「ほれ、加護板で確認してみろ」
ウィルフレッドが宝物庫から借りてきた、黒いタブレットのような加護板を手渡してきた。
レイはそれを受け取ると、両端を持って魔力を流した。もう何回も使っているので、慣れたものだ。
——
加護:三大魔女リリスの加護、魔王ミーレイの加護、光竜ルーファスの加護
——
「ちょっと待って! 何でミーレイ様の加護が付いてるの!?」
ルーファスが加護板を覗き込んで、驚きの声をあげた。
「この前、ミーレイ様がユグドラにいらした時にいただきました。……そういえば、まだ確認してなかったです」
レイは「魔王ミーレイの加護」の文字をタップした。
——
魔王ミーレイによって施された加護。
効果:
・地属性適性アップ。
・丈夫な体になる。怪我や病気になりにくくなる。回復しやすくなる。
——
「おおっ!」
(地味にありがたい! 次にお会いしたら、お礼を言わなくちゃ!!)
レイは瞳をキラリと煌めかせた。非常に現実的で役立つ効果内容は、現実派なレイの心にクリーンヒットした。
「ミーレイ様の加護……あの方が、誰かに加護を与えるなんて……」
ルーファスは、俄には信じられないものを見たというように、加護板を覗き込んでいる。
次に、レイは「光竜ルーファスの加護」の文字をタップした。
——
光竜ルーファスによって施された加護。
効果:
・光属性適性アップ。
・光明が差す。ピンチの時に道が開ける。
——
「……『光明が差す』?」
レイは首を傾げた。
「……何だか、改めて加護板で見ると、『こういう加護をあげたんだ』って、ちょっと気恥ずかしくなるね。……ええとね、加護を与えるって、実は大変なことなんだよ。自分の能力以上のものは与えられないし、自分の能力を一部切り出すことでもあるから、誰にでもあげられるものでもないんだ。みんな本当に大事だと思える人にだけ加護を与えてるんだよ。……で、『光明が差す』なんだけど、レイがピンチの時に、手助けになるような人物が現れたり、インスピレーションが働いて解決策を思い付きやすくなるんだ。まあ、幸運がアップするって思ってもらえればいいかな。僕の加護の場合は、『ピンチの時に』って限定的に発動するんだけど、きっと兄さ……光竜王様なら、こういう限定条件が無い加護も付けられるんじゃないかな」
ルーファスは照れて、目線をレイから外しつつも、ぽつぽつと説明をしてくれた。
「そうなんですね。貴重な加護をありがとうございます! ルーファスが私を想って付けてくれた加護なんです。見知らぬ光竜王様から加護を与えられるよりも、私はこっちの方がずっと嬉しいです!」
レイは両手できゅっとルーファスの手を握った。
「レイ……」
ルーファスは淡い黄色の目を丸く見開いて、じーんと感動したように固まっている。
「いい加護をもらえて良かったな」
「はいっ!」
ウィルフレッドの言葉に、レイは元気よく返事をした。
***
ルーファスは、聖鳳教会本部のあるディアロバードへ転移魔術で帰って行った。
「さて、レイたちには帰って来て早々に悪いが、ウィーングラスト領に行ってもらう。ユグドラからは、エイドリアン、アイザック、ベン、モーリスがついて行く」
「分かりました」
ウィルフレッドの言葉に、レイはこくりと頷いた。
「僕もレイと同じパーティーに入れてもらおうかな」
アイザックが、いつもの学者のローブのような図書館司書の服装ではなく、冒険者の魔術師がよく着ている黒いケープ姿で現れた。ケープには金糸で、中級魔術師が好むような、魔術の発動をサポートする魔術陣風の刺繍がしてある。珍しい髪色は、変身魔術でレイと同じ黒髪にしていて、いつも以上にきりっとした麗俐な美貌になっている。
「アイザックも冒険者登録してたんですか?」
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アイザックは、ペンダントのように首から下げている冒険者証を掲げて見せた。
「ランクはどのくらいなんですか?」
「Bランクだよ。今回来れないルーファスの代わりにはなれるんじゃないかな」
「それなら、俺たちもレイのパーティーに入れてもらおうかな」
「やだよ! むさくなっちゃうよ!」
「……何でまだパーティーに入ってないアイザックが断るんだ」
エイドリアンが防御壁部隊員二名を引き連れてやって来た。
いつものきりりとした防御壁部隊の藍色の制服ではなく、冒険者の拳闘士のような身軽な服装だ。腕まで覆う拳闘士用のミスリルの小手をし、脛をしっかり覆うようにゲートルを巻いている。
「ああ、紹介するな。ベンとモーリスだ。二人ともAランク魔物だ」
ベンは藍色の短髪で、サイドに剃り込みが入っている。鮮やかなオレンジ色の瞳は切れ長だ。細身の長身だが、防御壁部隊員らしく、しっかりとした筋肉質だ。
革の胸当てと小手を身につけていて、腰に剣を佩いている。
モーリスは柔らかい栗色の短髪に、黒い瞳だ。丸顔でややぽっちゃりめの体型だが、腕を見ると、防御壁部隊員らしい、かなりしっかりした筋肉が付いている。
彼も革の胸当てと腰巻きを身につけていて、立派な戦斧を背負っている。
「よろしくお願いします!」
「よろしくな。おおっ! 人間の子供だ……小さくてかわいいな」
「よろしく。人間の子供は初めて触ったな」
レイは二人と握手しつつ、苦笑いだ。
ベンとモーリスは、ユグドラでは見かけない人間の子供に、壊れ物を扱うかのようにそっと握手した。
「ベン、モーリス、お久しぶりです」
「よお、久しぶり」
「しばらく見かけないと思ったら、外に出てたのか」
「レヴィはいつの間に仲良くなってたの?」
「ええ、花合戦の時に一緒のチームでした」
レヴィは、ベンとモーリスとはユグドラ花祭りの時に知り合っていたようだ。
バシバシと仲良く肩を叩き合う三人に、レイは目をぱちくりさせた。
***
ウィーングラスト領は、バルゼビス王国の辺境にあり、白の領域とも接している。
ウィーングラスト領の都市フェンは、現在最も件の盗賊団の被害に遭っている地域にある。隣国ドラゴニア王国との国境域も近く、交易路にもなっているため、ここを通る商人や旅人、冒険者が狙われるのだ。
「わぁ! 結構いっぱい人がいますね」
「ここは交易路だからね。フェンを出ると、領都に着くまであまり大きな街は無いんだ。だから、大抵はここで泊まったり、軽く商いをしてから次の街へ向かうみたいだよ」
「私が以前来た時よりは、兵士が多くて、少しギスギスした雰囲気がしてます」
「レヴィがここに来たのは、一体いつなのさ?」
「確か、二百年ほど前です」
「それだけ時間が空いていれば、街の雰囲気も変わるよ。……でも、まあ、兵士が多いのは盗賊対策なんじゃない?」
(……確かに、セルバに比べて街中に兵士が多いかも……)
フェンは、少しだけセルバの街に雰囲気が似ていて、煉瓦造りの家が多く、地面には石畳が敷かれている。
こちらは交易路のためか宿屋が多く、街を囲う城壁門の近くには、商隊が荷馬車ごと野営できるような大きな広場がある。
許可を取れば臨時で店を出せる場所もあるらしく、そこには、地面に敷物が敷かれ、ここら辺の地域ではあまり見かけない珍しいスパイスや民芸品、魔物素材や乾燥した薬草などが売られていて、活気に溢れている。
フェンの街のいたる所には、揃いの青い制服に身を包んだ見回り中の兵士を見かけた。
フェンの冒険者ギルドは、城壁の近くにあった。
ギルドの木戸を潜ると、レイとアイザックとレヴィは、真っ先に依頼ボードへと向かった。
「これですね」
「『フェン近辺に出没する盗賊団の討伐または団員の捕縛。賊は魅了魔術を使用する可能性が高い』……ランクAの依頼ですね。銀の不死鳥だけでは受けられないですね」
「僕が銀の不死鳥のパーティーメンバーに登録しても、Bランクだしね。……やっぱAランク冒険者のエイドリアンにも加入してもらわなきゃか……」
アイザックは、むさいパーティーは嫌なんだよね、とぼやいている。
「あんたたち、見かけない顔だね。その依頼、受けるのかい?」
背の高い女性が声を掛けてきた。濃い金髪を一つにまとめ、大刀を背負った女剣士のようだ。彼女もちょうど、依頼ボードを見ていたようだ。
「うん、そうだよ」
「へ~……悪いことは言わないからさ、その依頼だけはやめといた方がいいよ」
「どうして?」
アイザックが首を傾げた。
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「厄介な奴ら? どんな奴らなの?」
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女剣士はひらりと手を振って、彼女の冒険者パーティーの方へ戻って行った。
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レヴィが彼女の背中を見ながら、ぽつりと呟いた。
「『厄介な奴ら』かぁ……調べないとだね」
アイザックは、めんどくさそうに両手を頭の後ろで組んで、唇を尖らせた。
ベンとモーリスは冒険者証を持っていなかったため、まずは登録からだった。人間の街に慣れてない彼らのために、エイドリアンが一緒に付き添っている。
冒険者ギルドの受付カウンター前には、冒険者登録のためにエイドリアン、ベン、モーリスが並んでいる。
(……三人が並ぶと何だか……)
「何だかあの三人が固まると、軍人崩れか、任務で冒険者に身を窶してる軍人っぽいよね。訳あり感がすごい」
アイザックの正直な感想に、レイは静かに頷いた。
明らかに軍人っぽい上長のエイドリアンと、その部下らしいベンとモーリス。指揮命令系統が、はたから見ててもハッキリと分かる。普段の防御壁部隊がキビキビと働いているせいか、ちょっとした仕草や醸し出している雰囲気が、軍人のそれだ。体格からも、鍛えていることがありありと分かり、三人が並ぶだけで筋肉の圧迫感がすごい。
あからさまに訳あり感のある三人に、ギルド内の他の冒険者たちも、遠巻きに様子を窺っているようだ。
「僕思うんだけど、彼らと同じパーティーになったら、僕らも怪しまれちゃうよね」
「……そうですね」
アイザックの尤もな意見に、レイもはっきりと頷いた。
結局、防御壁部隊とは別パーティーで登録して、「盗賊団の討伐依頼を、たまたま一緒になったパーティー同士で協力する」というスタンスをとることになった。
「僕は『銀の不死鳥』リーダーのアイザックだよ。君が『筋肉礼賛』の…………ぷっ、ぷははははっ! 何でそんなパーティー名にしたのっ!?」
アイザックは、はじめましての挨拶するように片手を出していたが、途中で堪えきれなくなって、おなかを抱えて笑い出した。
「……失礼なやつだな。どんなパーティー名だっていいだろう。俺たちは気に入ってるんだ」
エイドリアンが眉を顰めた。後ろに控えているベンとモーリスも怖い顔をしている——防御壁部隊員は、心から筋肉を愛しているのだ。
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19
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