鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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ガラテア6

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 全てを洗い流して怒りをおさめたガラテアは、山の上に人型に戻って舞い降りた。

「坊や!」
「ママ!!」

 ガラテアの子はよちよちと飛んでいき、ガラテアの胸に飛び込んだ。
 ガラテアも泣きながら我が子をギュっと抱きしめている。

 大嵐はすっかり止んで、晴れ間が覗いていた。


 大雨で濡れそぼった銀の不死鳥メンバーは、魔術で服や髪を乾かし、ぐったりとその様子を見つめていた。

 山の上からは周囲の景色が見渡せて、さっきまであった森や山肌は、抉るように削られ、新たに湖ができていた。濁流色の水面には、大技で削り取られた木々や草が、ぷかぷかと大量に浮かんでいる。

 ルーファスは周辺一帯に探索魔術をかけていたが、首を横に振った。


「このご恩は決して忘れません。何かありましたら、私が力になりましょう」

 落ち着きを取り戻したガラテアは、笑顔を綻ばせて礼を言った。腕にはしっかりと子竜を抱きしめていた。

「おねえちゃんたち、ありがとう。ばいばい」

 子竜も乳白色のしらすのような尾をビタビタと振って、さよならの挨拶をした。

 ガラテアたちは、転移でナイアド湖へと帰って行った。


***


「あんたたちが、無事で良かった……」

 レイたちは、ライの転移魔術でタラッサ村に戻って来た。
 タラッサ村の村長に報告に行くと、はぁっ、と大きなため息を吐かれ、安堵の表情を浮かべられた。相当、心配をかけていたらしい。

 村長の話によると、大嵐の後に、戻らないライたちを心配して、村人が何人か湖に確認しに行ったそうだ。そして、ナイアド湖の霧がすっかり晴れていたそうだ。
 湖の霧が晴れていたのは良かったものの、捜索を続けると、ミイラ化した死体が五人分見つかって大騒ぎになっていたらしい。

「……心配をかけてしまい、申し訳ない。急遽、犯人を追うことになったので、連絡できず……」
「いや、そういうことであれば、仕方がない。それよりも、無事で良かったよ」

 人の良い村長の言葉に、ライは眉を八の字に下げて、申し訳なさそうにポリポリと頬を掻いた。

「今回の騒ぎは、あの湖に住む水竜の子供が誘拐されたのが原因です。子竜は取り戻されたので、もう大丈夫だと思います。ですが、また同じことがあると困ると思いますし、子竜が小さいうちは、またそういう輩が現れないよう見張っていただけないでしょうか」
「ああ、そうしよう。また、湖で漁ができなくなるのは困りますからね」

 タラッサ村は長年、湖に住む水竜と共存してきた。
 こちらから何も危害を加えなければ、水竜も村人には何もしてこないのを知っていた。むしろ、強力な水竜がいることで、ここら辺一帯の地域には、あまり凶暴な魔物が生息していなかった。

 普段の生活の中で水竜のありがたみを知っていた村長は、快く約束してくれた。


***


 セルバの街に戻ると、レイたちはすぐに冒険者ギルドに報告しに行った。
 銀の不死鳥メンバーがギルド内に入ると、ギルドの女性職員がギルドマスターのオーガストを呼びに行き、応接室に通された。

 オーガストは応接室の奥の大きなソファに一人で座り、出入口側のソファに、ライ、レイ、ルーファスが座った。レヴィは、丸椅子を持って来て腰を落ち着けた。

「随分、早かったな。ナイアド湖は高位の水竜の縄張りだが、全員、無事に戻れたようで良かった……それで、どうだった?」
「今回の依頼は調査だったが……解決済みだ。タラッサ村の村長にも報告してある」
「はっ!?」

 オーガストは目を剥いてライを見つめた。

「今回の霧は、湖に住む水竜の子供が誘拐されたのが原因だった。ヒュドラの毒爪が子竜を狙ったんだ」
「ヒュドラの毒爪……裏で魔物や呪物を売買している組織だな。あまり関わりたくない奴らだ……それで、大丈夫だったのか?」
「ああ、水竜が怒って、ヒュドラの毒爪をアジトごと流したんだ。一応、探索魔術もかけたんだが、構成員の生存者は0だ」
「はっ!?」
「地図はあるか? 新しく湖ができたんだ」
「……水竜の怒りか、恐ろしいな。タラッサ村の方は、被害は大丈夫か?」
「ちょうど、山をいくつか挟んで反対側の方にヒュドラの毒爪のアジトがあった。村の方に被害はない」

 地図を挟んで、ライはオーガストに説明をした。

 一通り話が終わると、オーガストは両手で顔を覆って呻いた。

「なるほど。……Bランクどころか危険度や難易度は十分Aランクの依頼だな……報酬については、村長と話し合って決める。調査だけの依頼だったが、問題解決までしたんだ。危険な水竜まで出てきたんだし、少し上乗せできないか、確認してみよう……とにかく、ご苦労だった」

 銀の不死鳥のメンバーが応接室からぞろぞろと出て行くと、背後から「あ”ーーーっ!! 本部にも報告だ!!」とオーガストが嘆く声が聞こえてきた。

 高位の竜は、その影響力の大きさから、何かあれば国や冒険者ギルド本部に逐一報告する必要がある——今回のように、その怒り一つで、村や街、下手をしたら国ごと沈められてしまうからだ。


***


 数日後、銀の不死鳥メンバーがギルドに確認しに行くと、今回の指名依頼の報酬が支払われた。
 残念ながら、依頼の報酬額は変わらなかったが、功績ポイントは少し上乗せされていた。
 また、ヒュドラの毒爪や高位の水竜、新たにできた湖について等の情報提供の報酬が別に支払われた。

「すまない! タラッサ村の村長とも話し合ったんだが、村の財政的に報酬の上乗せは難しいらしくてな……だが、要注意組織や高位の水竜の情報提供なんかもあったらかな、ギルドの方からは功績ポイントに色を付けさせてもらった」

 応接室でオーガストはすまなそうに、両手を合わせて頭を下げた。

「辺境の村だし、ここ半月は漁にも出られてなかったと言ってたからな……仕方がないだろう」

 ライは苦笑いだ。

 依頼主の懐事情によっては、報酬の追加は難しいことが多い——特に、財政的に厳しい辺境の村などは。


 レイが冒険者証に魔力を通すと、半透明の青いディスプレイがいつもと少し違っていた。

(あれ? 功績ポイントの色がちょっと違う……)

「レヴィの功績ポイントはどうなってる?」
「赤色になってますね」
「功績ポイントの色が赤になったら、ランクアップ試験が受けられるようになるぞ。受付のシドニーさんに確認してみるといい」

 ライがひょいと冒険者証のディスプレイを覗き込んで、教えてくれた。

「思ったよりも、早く溜まりましたね」
「連続して難易度の高い依頼を受けたからな。それで功績ポイントが早く溜まったんだろう……レイたちがCランクに上がるまでは見届けるかな」

 ライは教え子を見るような優しい目で、レイとレヴィを見つめた。

「……ランクアップ試験……」

 ずっと剣として生きてきたレヴィは、試験を受けるのは作られて初めての経験だろう。
 レイがレヴィを見上げると、わくわくとその瞳が輝いていた。

(ランクアップ試験って何やるんだろ??? ……ちゃんと合格できるかな……)

 一方で、レイはほんのちょっぴり不安げだ。
 こちらは元の世界で、何度もいろんな試験を受けたことがあるのだ。試験勉強の大変さも、合格する嬉しさも、試験に落ちる悔しさも、もちろん経験済みだ。

(う~ん……でも、Bランク冒険者になるには、試験受けるしかないし……頑張るか!)

 レイは仕方がない、と諦めて腹を括った。


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◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

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