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ガラテア4
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薄く霧がかっているコバルトブルー色の湖の真ん中に、湖と全く同じ色の龍が、空へ向けて咆哮を上げていた。
水竜は、レイの元の世界でいう西洋のドラゴンのようなタイプではなく、東洋の龍のようなにょろりと蛇のように長いタイプだ。短い足は付いているが、羽は生えていない。
コバルトブルーの鱗に、真っ白な髭や鬣をしていて、遠目から見ても、かなり大型の龍だ。
(あれが、ガラテア?)
『レイ、泣いてるの?』
琥珀がローブのフードからするり出てきてレイの肩に乗り、ザリッとレイの頬を舐めた。
「また同調しちゃったのかな?」
レイは慌てて指で涙を拭った。
その時、ブワッと背後から大量の生温かい息がかかった。
レイが着ている森織りのローブの裾が、バタバタとはためく。
レイが恐る恐る後ろを振り返ると、すぐ目の前に、先ほど湖の真ん中で遠吠えをしていたコバルトブルーの竜がじっとこちらを見ていた。
硬そうなコバルトブルーの鱗は水に濡れ、同色の目は瞳孔が開いており、白眼の部分が血走っている。大きな口元からは、レイと同じぐらいの大きさの白い牙がのぞいていて、水竜の大きさからいって、レイなど一瞬で丸呑みにできそうだ。
「「っ!!?」」
レイと琥珀は、びっくりしすぎて声も上げられなかった。心臓の音だけがバクバクとうるさいくらいに鳴っている。
(ヤバい!! ……どうしよう!?)
レイと水竜がしばらく睨み合った後、水竜がぐらりと倒れ込むかのように動いたかと思うと、目を開けていられないほどに光った。
レイが顔の前に腕をやって、眩しさでぎゅっと目を瞑っていると、
「あなたも、泣いてくれるの?」
掠れた声がした——夢の中で聞いた声と同じだ。
レイがパッと顔を上げると、目が覚めるようなコバルトブルーの髪と瞳をした、背の高い女性がすぐ目の前に立っていた。品の良い細面で綺麗な女性だが、目の下に酷いクマができていて、疲れてやつれたような雰囲気が漂っている。
(この人は、たぶんさっきの龍だ)
「あなたは、なぜ泣いてるんですか?」
レイはまだバクバクと心臓が鳴っている。今さらながら、ブワッと冷や汗が吹き出した。
「…………子供が、我が子が攫われてしまったのです。卑怯にも、奴らは私をこの湖に縛り付ける複雑な呪いを施して行きました……これが解けぬままでは追うにも追えません……」
女性は、はらはらと泣き出してしまった。
「……私の仲間もこの湖に来ているので、知恵を借りたいです。ここに通してもらえますか? 信頼できる人たちです」
女性はじっとレイの瞳を見つめた。レイも負けじと、じっと彼女の瞳を見つめた。
(今、ここで彼女の信頼を得るしかない!)
しばらく二人して見つめ合った後、女性が少し逡巡し、こくりと頷いた。その瞬間、霧が晴れて、森のそばにいるライたちの姿がくっきりと見えた。
「ライ! ルーファス! レヴィ! こっちです!」
「レイ! 無事だったか!?」
レイが手を上げて大きく振ると、ライたちが慌てて駆け寄って来た。
***
ライはレイに駆け寄ると、ざっと目視でどこにも怪我が無いか確認した。
「無事で良かった」
レヴィは珍しくほっと安堵の表情を浮かべ、すっとレイの後ろについた。聖剣レーヴァテインにとって、レイの背中に背負われるのが正しい位置だ。彼にとっての戦闘体制だ。いつでも最強の剣を使えるようにするための、彼なりの気遣いだ。
ルーファスは、レイたちを庇うように、水竜ガラテアの前に出た。
「あなたが水竜の第七席ガラテアですね? お話を聞かせていただけますか?」
ガラテアは青ざめた表情でこくりと頷いた。
「ここ三週間ほど、見慣れない者たちが湖周辺をうろついていたわ。村の者たちとは違う者たち、血の匂いのする者たち、まとってる魔力も不穏な者たち……そいつらが、我が子を狙うような会話をしていたの。私の縄張りはこの湖だけでなく、湖周辺も私の縄張りになる……奴らも迂闊だったのね。もちろん、我が子を守るために霧の結界を張り、方向感覚を狂わせる魔術を敷いた。それでも奴らは諦めなかったわ……」
ガラテアが悲痛な表情で語り始めた。
銀の不死鳥メンバーも真剣な面持ちで、話をじっと聴いている。
「二日前に、奴らは呪いのスクロールを使って私が湖から出られないようにした。私に呪いがかかった瞬間の結界の緩みと隙をついて、我が子が連れ去られたわ。拐ったのは、はじめに湖の周りをうろついていた者たちとは違う者だった……」
「なるほど。やり口が手慣れているな。おそらく先に湖の周りをうろついていた奴らは、囮で捨て駒だろう。組織的な犯行だな。竜は強力だから、まだ幼くて力が弱いうちを狙ったんだろう」
ライが腕を組んで、そう考察した。
ルーファスが「失礼」と断りを入れて、ガラテアに手をかざした。目を瞑って何かを感じ取ろうとするかのように黙っていたが、しばらくして徐に口を開いた。
「呪いは水属性特化ですね。僕でも解呪可能だから、ちょっと解いて来ます」
「ええ、お願いしますわ」
ルーファスの提案に、すがるような瞳でガラテアは見つめ返した。
「レイも解呪、見学する? 適性はあるから、やり方さえ分かれば、使えるようになるんでしょ?」
「是非、お願いします!」
レイも二つ返事でお願いした。
ルーファスは、呪いの痕跡をたどって行った。レイも彼について行く。
しばらく湖の周縁を歩いていくと、湖近くの岩場の陰で、はたとルーファスは歩みを止めた。
「ああ、やっぱりだね」
「!? ……ミイラ化してる……」
レイは思わず後ずさって、口元を押さえた。
「彼らの魔力だけじゃ足りなくて、命も吸い取られたんだろう。ガラテアは水竜の中でもかなり高位の者だからね。いくら水属性特化でも、簡単に呪いをかけられるわけないんだよ……たぶん、こいつらが村人が言ってた奴らだろう」
ルーファスは眉間に皺を寄せてミイラを見つめていた。
「これが呪いのスクロールだね。魔力が足りない場合は、命も使うように細工されてる……なかなかえげつないね」
ルーファスはミイラの近くに落ちていた紙を拾い上げて、まじまじと見つめた。
「レイ、光魔術での解呪は、呪い自体に光を当てて、呪いの術式を一つ一つ明らかにして、解きほぐしていくような感じなんだ。一方で、聖魔術での解呪は、全てを浄化して灰にする感じかな。聖魔術は呪いに何か媒体を使ってたりすると、うまく調整しないと媒体ごと灰にしたりするんだ。媒体を壊したくない場合や媒体に生き物が使われている場合は、光魔術で解呪することが多いんだ。逆に、全てを灰にしていいなら、聖魔術の方が手っ取り早いかな。光魔術の方は呪いの解析が必要になる分、解呪にかかる時間が多い。聖魔術の解呪は魔力でゴリ押しするものだから、魔力量が少ないとできないんだ」
「解呪方法もいろいろあるんですね」
「今回は光魔術で解呪するよ。五人分の魔力と命を使ってかけた呪いだからね、聖魔術で魔力量ゴリ押しで解呪するのはちょっとキツいかな」
ルーファスは、呪いのスクロールを魔術の光で包み込んだ。淡い黄色の光の魔術陣が幾重にも重なって展開され、ルービックキューブを解いていくかのように、くるくるカシャカシャと正解を合わせにいくように回転した。
ルーファスがふーっと息を吐くと、光の魔術陣は霧散して消えていった。
「これで解呪完了だ」
ものの数分の出来事だった。
(……時間がかかるとは、一体???)
ルーファスの鮮やかな魔術さばきに、レイはポカンとなった。
解呪が終わると、ライたちを呼んで、ミイラの身元を確認することになった。
呪いから解放されたガラテアは静かに怒っており、空には暗雲が垂れ込めていた。湿気混じりの強い風が吹き始めていて、今にも嵐がきそうな雰囲気だ。
「持ち物や体にある刺青を見ると、『ヒュドラの毒爪』の下位構成員のようだな。裏では有名な組織だ。魔物や玉型の精霊エネルギー、呪物などの危険物の収集・売買をやっている。霧が邪魔して、こいつらを回収できなかったようだな」
ライがミイラの腕を持ち上げて言った。その腕には、しわしわになって変形してはいるが、九つの鎌首をもたげた蛇の刺青が入れてあった。
「そんな……それじゃあ、子竜は……」
「竜は魔物素材としても価値は高いし、育てて戦力にしたり、貴族に珍しいペットとして売られる可能性もある……」
レイの質問に、ライはそこまで説明すると押し黙った。不穏な気配を感じたのだ。
ピシャーーーンッ!! ゴロゴロゴロ……
ザアアアアアッ
大きな雷が落ち、打ち付けるような土砂降りの雨が降り始めた。
琥珀は雷にびっくりして、ピュンッとレイの影の中に隠れてしまった。
ガラテアは無言を貫いているが、却って不気味だ。眉間には深い皺を刻み、ただただ重苦しい魔力圧が漏れ出ていて、うっすらと彼女の周りだけ淡く魔力が発光している。
「ギルドの依頼としては、ここまでで十分なんだが……」
「ガラテアをこの状態で放って置けないだろう?」
戸惑いがちなライの言葉に、優しいルーファスが、チラリとガラテアを目線で見るように促した。
「まあ、そうだよな」
ライはガラテアの様子を見て、大きな溜め息をついた。
銀の不死鳥メンバーは、このままガラテアの子竜捜索に手助けすることになった。
「呪いが解けた今であれば、あの子の居場所は分かるわ。迷子になっても大丈夫なように、マーキングをしておいたの。転移するから、近くに来て」
ガラテアが静かにそう言って、手招きをした。
銀の不死鳥メンバーは、神妙な面持ちで顔を見合わせて頷くと、ガラテアに近寄った——そもそも選択肢などはじめから無かったようだ。
ガラテアに近寄った分、漏れ出る魔力圧はより強くなり、ライもルーファスも少し顔色を悪くした。
ガラテアは転移魔術を使って、銀の不死鳥メンバーごと子竜の元を目指した。
水竜は、レイの元の世界でいう西洋のドラゴンのようなタイプではなく、東洋の龍のようなにょろりと蛇のように長いタイプだ。短い足は付いているが、羽は生えていない。
コバルトブルーの鱗に、真っ白な髭や鬣をしていて、遠目から見ても、かなり大型の龍だ。
(あれが、ガラテア?)
『レイ、泣いてるの?』
琥珀がローブのフードからするり出てきてレイの肩に乗り、ザリッとレイの頬を舐めた。
「また同調しちゃったのかな?」
レイは慌てて指で涙を拭った。
その時、ブワッと背後から大量の生温かい息がかかった。
レイが着ている森織りのローブの裾が、バタバタとはためく。
レイが恐る恐る後ろを振り返ると、すぐ目の前に、先ほど湖の真ん中で遠吠えをしていたコバルトブルーの竜がじっとこちらを見ていた。
硬そうなコバルトブルーの鱗は水に濡れ、同色の目は瞳孔が開いており、白眼の部分が血走っている。大きな口元からは、レイと同じぐらいの大きさの白い牙がのぞいていて、水竜の大きさからいって、レイなど一瞬で丸呑みにできそうだ。
「「っ!!?」」
レイと琥珀は、びっくりしすぎて声も上げられなかった。心臓の音だけがバクバクとうるさいくらいに鳴っている。
(ヤバい!! ……どうしよう!?)
レイと水竜がしばらく睨み合った後、水竜がぐらりと倒れ込むかのように動いたかと思うと、目を開けていられないほどに光った。
レイが顔の前に腕をやって、眩しさでぎゅっと目を瞑っていると、
「あなたも、泣いてくれるの?」
掠れた声がした——夢の中で聞いた声と同じだ。
レイがパッと顔を上げると、目が覚めるようなコバルトブルーの髪と瞳をした、背の高い女性がすぐ目の前に立っていた。品の良い細面で綺麗な女性だが、目の下に酷いクマができていて、疲れてやつれたような雰囲気が漂っている。
(この人は、たぶんさっきの龍だ)
「あなたは、なぜ泣いてるんですか?」
レイはまだバクバクと心臓が鳴っている。今さらながら、ブワッと冷や汗が吹き出した。
「…………子供が、我が子が攫われてしまったのです。卑怯にも、奴らは私をこの湖に縛り付ける複雑な呪いを施して行きました……これが解けぬままでは追うにも追えません……」
女性は、はらはらと泣き出してしまった。
「……私の仲間もこの湖に来ているので、知恵を借りたいです。ここに通してもらえますか? 信頼できる人たちです」
女性はじっとレイの瞳を見つめた。レイも負けじと、じっと彼女の瞳を見つめた。
(今、ここで彼女の信頼を得るしかない!)
しばらく二人して見つめ合った後、女性が少し逡巡し、こくりと頷いた。その瞬間、霧が晴れて、森のそばにいるライたちの姿がくっきりと見えた。
「ライ! ルーファス! レヴィ! こっちです!」
「レイ! 無事だったか!?」
レイが手を上げて大きく振ると、ライたちが慌てて駆け寄って来た。
***
ライはレイに駆け寄ると、ざっと目視でどこにも怪我が無いか確認した。
「無事で良かった」
レヴィは珍しくほっと安堵の表情を浮かべ、すっとレイの後ろについた。聖剣レーヴァテインにとって、レイの背中に背負われるのが正しい位置だ。彼にとっての戦闘体制だ。いつでも最強の剣を使えるようにするための、彼なりの気遣いだ。
ルーファスは、レイたちを庇うように、水竜ガラテアの前に出た。
「あなたが水竜の第七席ガラテアですね? お話を聞かせていただけますか?」
ガラテアは青ざめた表情でこくりと頷いた。
「ここ三週間ほど、見慣れない者たちが湖周辺をうろついていたわ。村の者たちとは違う者たち、血の匂いのする者たち、まとってる魔力も不穏な者たち……そいつらが、我が子を狙うような会話をしていたの。私の縄張りはこの湖だけでなく、湖周辺も私の縄張りになる……奴らも迂闊だったのね。もちろん、我が子を守るために霧の結界を張り、方向感覚を狂わせる魔術を敷いた。それでも奴らは諦めなかったわ……」
ガラテアが悲痛な表情で語り始めた。
銀の不死鳥メンバーも真剣な面持ちで、話をじっと聴いている。
「二日前に、奴らは呪いのスクロールを使って私が湖から出られないようにした。私に呪いがかかった瞬間の結界の緩みと隙をついて、我が子が連れ去られたわ。拐ったのは、はじめに湖の周りをうろついていた者たちとは違う者だった……」
「なるほど。やり口が手慣れているな。おそらく先に湖の周りをうろついていた奴らは、囮で捨て駒だろう。組織的な犯行だな。竜は強力だから、まだ幼くて力が弱いうちを狙ったんだろう」
ライが腕を組んで、そう考察した。
ルーファスが「失礼」と断りを入れて、ガラテアに手をかざした。目を瞑って何かを感じ取ろうとするかのように黙っていたが、しばらくして徐に口を開いた。
「呪いは水属性特化ですね。僕でも解呪可能だから、ちょっと解いて来ます」
「ええ、お願いしますわ」
ルーファスの提案に、すがるような瞳でガラテアは見つめ返した。
「レイも解呪、見学する? 適性はあるから、やり方さえ分かれば、使えるようになるんでしょ?」
「是非、お願いします!」
レイも二つ返事でお願いした。
ルーファスは、呪いの痕跡をたどって行った。レイも彼について行く。
しばらく湖の周縁を歩いていくと、湖近くの岩場の陰で、はたとルーファスは歩みを止めた。
「ああ、やっぱりだね」
「!? ……ミイラ化してる……」
レイは思わず後ずさって、口元を押さえた。
「彼らの魔力だけじゃ足りなくて、命も吸い取られたんだろう。ガラテアは水竜の中でもかなり高位の者だからね。いくら水属性特化でも、簡単に呪いをかけられるわけないんだよ……たぶん、こいつらが村人が言ってた奴らだろう」
ルーファスは眉間に皺を寄せてミイラを見つめていた。
「これが呪いのスクロールだね。魔力が足りない場合は、命も使うように細工されてる……なかなかえげつないね」
ルーファスはミイラの近くに落ちていた紙を拾い上げて、まじまじと見つめた。
「レイ、光魔術での解呪は、呪い自体に光を当てて、呪いの術式を一つ一つ明らかにして、解きほぐしていくような感じなんだ。一方で、聖魔術での解呪は、全てを浄化して灰にする感じかな。聖魔術は呪いに何か媒体を使ってたりすると、うまく調整しないと媒体ごと灰にしたりするんだ。媒体を壊したくない場合や媒体に生き物が使われている場合は、光魔術で解呪することが多いんだ。逆に、全てを灰にしていいなら、聖魔術の方が手っ取り早いかな。光魔術の方は呪いの解析が必要になる分、解呪にかかる時間が多い。聖魔術の解呪は魔力でゴリ押しするものだから、魔力量が少ないとできないんだ」
「解呪方法もいろいろあるんですね」
「今回は光魔術で解呪するよ。五人分の魔力と命を使ってかけた呪いだからね、聖魔術で魔力量ゴリ押しで解呪するのはちょっとキツいかな」
ルーファスは、呪いのスクロールを魔術の光で包み込んだ。淡い黄色の光の魔術陣が幾重にも重なって展開され、ルービックキューブを解いていくかのように、くるくるカシャカシャと正解を合わせにいくように回転した。
ルーファスがふーっと息を吐くと、光の魔術陣は霧散して消えていった。
「これで解呪完了だ」
ものの数分の出来事だった。
(……時間がかかるとは、一体???)
ルーファスの鮮やかな魔術さばきに、レイはポカンとなった。
解呪が終わると、ライたちを呼んで、ミイラの身元を確認することになった。
呪いから解放されたガラテアは静かに怒っており、空には暗雲が垂れ込めていた。湿気混じりの強い風が吹き始めていて、今にも嵐がきそうな雰囲気だ。
「持ち物や体にある刺青を見ると、『ヒュドラの毒爪』の下位構成員のようだな。裏では有名な組織だ。魔物や玉型の精霊エネルギー、呪物などの危険物の収集・売買をやっている。霧が邪魔して、こいつらを回収できなかったようだな」
ライがミイラの腕を持ち上げて言った。その腕には、しわしわになって変形してはいるが、九つの鎌首をもたげた蛇の刺青が入れてあった。
「そんな……それじゃあ、子竜は……」
「竜は魔物素材としても価値は高いし、育てて戦力にしたり、貴族に珍しいペットとして売られる可能性もある……」
レイの質問に、ライはそこまで説明すると押し黙った。不穏な気配を感じたのだ。
ピシャーーーンッ!! ゴロゴロゴロ……
ザアアアアアッ
大きな雷が落ち、打ち付けるような土砂降りの雨が降り始めた。
琥珀は雷にびっくりして、ピュンッとレイの影の中に隠れてしまった。
ガラテアは無言を貫いているが、却って不気味だ。眉間には深い皺を刻み、ただただ重苦しい魔力圧が漏れ出ていて、うっすらと彼女の周りだけ淡く魔力が発光している。
「ギルドの依頼としては、ここまでで十分なんだが……」
「ガラテアをこの状態で放って置けないだろう?」
戸惑いがちなライの言葉に、優しいルーファスが、チラリとガラテアを目線で見るように促した。
「まあ、そうだよな」
ライはガラテアの様子を見て、大きな溜め息をついた。
銀の不死鳥メンバーは、このままガラテアの子竜捜索に手助けすることになった。
「呪いが解けた今であれば、あの子の居場所は分かるわ。迷子になっても大丈夫なように、マーキングをしておいたの。転移するから、近くに来て」
ガラテアが静かにそう言って、手招きをした。
銀の不死鳥メンバーは、神妙な面持ちで顔を見合わせて頷くと、ガラテアに近寄った——そもそも選択肢などはじめから無かったようだ。
ガラテアに近寄った分、漏れ出る魔力圧はより強くなり、ライもルーファスも少し顔色を悪くした。
ガラテアは転移魔術を使って、銀の不死鳥メンバーごと子竜の元を目指した。
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