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魔王襲来
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「レイ、お客様だ」
「えっ? 私にですか?」
レイが団欒室で琥珀にブラシがけをしていると、ウィルフレッドに声をかけられた。
「俺も一緒に同席するが、失礼なことはするなよ。当代魔王のミーレイ様がおいでだ」
「えっ!?」
思わぬ来客にびっくりして、レイは思わずブラシをぽとりと落としてしまった。
琥珀もびっくりして、目をまん丸くして固まっていた。
***
お客様はユグドラの下層階、大きい方の応接室に通されていた。
大きな応接室の真ん中には、十数名ほどまでなら会議もできそうな大きな黒檀のテーブルが置かれている。
同じく黒檀の椅子には、座面と背面に深紅の布張りがされ、ユグドラの花や葉の意匠が織り込まれている。
どちらも過去のドワーフ管理者の作品らしく、脚の部分に精緻な彫りがされており、丁寧に磨きがかけられた家具は、艶やかで、威厳を湛えている。
床には、さまざまな色合いの木材が寄木細工のように組まれていて、さりげなく応接室の外に会話が漏れ聞こえないよう、防音結界の魔術陣の模様を描いている。
応接室の奥の席には、当代魔王ミーレイを中心に、お付きの者たちが彼女の左右に分かれて座っていた。
ミーレイは本日も麗しく、黒真珠のような髪を結い上げ、じゃらりと大振りの金のアクセサリーを付けている。白いシルクのワンピースには、裾や豊かな胸元に朱色の糸で繊細かつ豪華な刺繍がされていて、琥珀色の肌に映えている。
「そなたがフェリクス様の義娘か? 先日は世話になったな、礼を言うぞ」
レイたちが席に着くなり、ミーレイは鷹揚に礼を述べてきた。蜂蜜のように濃厚な黄金眼は、レイを推しはかるように見つめている。
「レイと申します。もったいないお言葉をいただきありがとうございます」
レイは失礼の無いように、頭を下げた。
「そなたに確認したいことがあってな、フェリクス様のことについてじゃ」
「義父のことでしょうか?」
「そうじゃ」
そこでミーレイはユグドラの花茶を上品に一口飲んで、息を整えた。
「フェリクス様とそなたが親子契約を結んだ経緯を知りたくてな」
ミーレイは真剣な顔でじっとレイを見つめた。
レイがウィルフレッドの方を見ると、ウィルフレッドもこくりと頷いた。
レイはフェリクスとの親子契約の話を、順を追って説明した。
ミーレイはその間、静かにじっと聴き入っていた。
レイが最後まで話し終えると、ミーレイは少し不貞腐れたかのように口を尖らせて言った。
「フェリクス様が決めたこと故、妾が口出しするようなことではないが……だが、気に食わないのう……」
「……魔王様は、義父さんの娘になりたかったのでしょうか?」
ミーレイにじとりとした目で見られ、レイは、これは何か言わなければ、自分は害の無い人間だとアピールせねば、と焦って尋ねた。
「……そういえばそうじゃな。親子と恋人は違うな」
ミーレイがむぅと難しい顔をして頷いた。
その時、コンコンコンと応接室の扉が叩かれた。
「どうした?」
ウィルフレッドが扉の方を振り向いて返答した。
お手伝いエルフのシェリーが「失礼します」と応接室に入って来ると、ウィルフレッドに何やらこそこそ耳打ちした。
「何っ!? フェリクスとシルヴェスターがユグドラに来てるだと?」
ウィルフレッドがわざとらしく声に出して言った。
シェリーは苦笑いを顔に出すのを我慢しながらも、こくりと頷いた。
「フェリクス」という単語に、ミーレイはあわあわと慌てだした。隣に座っているお付きの者に何やら確認し、「大丈夫です! ミーレイ様はお美しいです!」とフォローされている。
(……師匠、絶対わざとだ。でも、助かった……)
レイは心の中でウィルフレッドにいいね! ボタンを押した。
「ミーレイ様、フェリクスが来ているようなのですが、こちらの応接室に通してもよろしいでしょうか?」
「か、構わぬよ」
ウィルフレッドの問いに、ミーレイは目をキラキラさせ、頬を上気させて快諾した。
***
「おや? ミーレイも来てたのかい?」
「ご無沙汰しております、ミーレイ様」
フェリクスは朗らかに挨拶をし、シルヴェスターは丁寧にお辞儀をした。
「フェリクス様! 先日はお見舞いをいただきありがとうございました!!」
ミーレイは勢いよく、フェリクスに詰め寄って行った。ちゃっかり両手できゅっとフェリクスの手も握っている。シルヴェスターの方は視界に入っていないようだ。
フェリクスは、当たり前のようにレイの隣に座った。
「同席してしまって悪いね。ミーレイの方の用事は大丈夫なのかい?」
「ええ。もうほとんど終えたところですわ……」
フェリクスに直接話しかけられ、ミーレイは頬を染めてしおらしく答えた。フェリクスを見つめる瞳は、うるうると薄い涙の膜を張っている。
(恋する乙女だ……)
ミーレイの態度の変化に、ウィルフレッドとレイは内心「ゔっ……」とはきていたが、失礼のないように、念入りに無表情を貫いた。
「それじゃあ、こっちの話をしちゃうね。レイ、この前注文していた魔道具ができたんだ。最終調整をしようと思ってね、シルヴェスターも連れて来たんだ」
「もう出来上がったんですか!? 早かったですね。ありがとうございます」
シルヴェスターが手のひらサイズの小さな小箱を手渡してきた。淡いピンク色のビロード張りの小箱に、真紅のリボンがかけられている。
「開けてごらん」
ぱあっとレイの表情が明るくなったのを見て、フェリクスが微笑んで促した。
レイが箱をわくわくと開けると、中にはシンプルでかわいいピンキーリングが入っていた。
シャンパンゴールドの地金で、中央には大きめなフェニックスの炎石を、その左右には小さめの無色透明な聖属性の魔石が三つずつ並んで配置されている。特に中央の炎石は、見る角度や光の反射によって、黄色~オレンジ~ピンク~赤とその色と煌めきを変えている。
応接室にいた全員がぐっと顔を近づけて覗き込んだ——その瞬間、レイとフェリクスと制作者シルヴェスターを除く全員が顔面蒼白になった。
「わぁ、かわいい!!」
フェリクスに指輪をはめてもらうと、レイの左手の小指にぴったりのサイズだった。
「これに魔力を通すことで、漏れ出る魔力量を調整できるからね。あと、聖属性が得意な属性——毒や呪いや麻痺、石化、腐食、精神攻撃系の魔術や効果にはかかりにくくなるからね。外さないようにするんだよ」
「そんなすごい機能まで!? ありがとうございます!! 大事にしますね」
レイはにっこりと微笑んだ。
レイが左手の小指に輝く指輪を、目を輝かせて眺めていると、シルヴェスターが苦笑しながら補足してくれた。
「喜んでもらえて良かった。ここまで高機能な指輪型の魔道具は初めて作ったよ。まあ、フェリクス様の魔石だからこそ作れたんだけどね。そうそう、伝説の装備品レベルだから、失くさないようにね」
「えっ!? 伝説レベル!?」
レイは戦々恐々として、左手の小指にはめた指輪を見た。伝説レベルとなると、失くすのが怖くて、身につけるのも怖くなってしまう、貧乏性のレイだった。
「先代魔王の魔石を使ってるからな、当たり前だろ。しかも、そのサイズの魔道具で、それだけの効果が付いているのは、破格だな」
ウィルフレッドが呆れた顔で言った。
「そうだね、失くさないように、レイの手元に戻ってくる魔術もかけようか。あと、盗難防止に、盗もうという意図で触れた者を灰にする魔術も……「手元に戻ってくる魔術だけで十分です!」」
さすがに誰かを灰にするのはやりすぎである。レイは食い気味にストップをかけた。
「盗人の興味がなくなるような魔術ってありませんか?」
レイは、誰も灰にしない方法を本気で模索し始めた。
「平凡擬態か、印象を薄くするか……」
「せっかくのアクセサリーなので、そういう魔術はちょっと……」
シルヴェスターの表情が曇った。制作者としては、ある程度アクセサリーとしても楽しんでもらいたいようだ。
「精神系の条件式をつけて、盗もうという意思を持つと、見えなくなるというのはどうだ?」
「ああ、それはいいね」
ウィルフレッドの案に、フェリクスがうんうんと頷いている。
一連のやりとりを、ミーレイは顔色を翳らせて、ぷるぷると震えながら見ていた。
お付きの者たちも、顔色を紙のようにして固まっていた。
「……フェリクス様、その指輪は……?」
「ああ、これはね、レイが管理者の仕事をしやすいように、シルヴェスターに作ってもらったんだ。子供の安全を願う、親心かな」
「親心……」
フェリクスの温かい笑みに、ミーレイは目をぱちくりさせた。その後はずっと考え込むかのように、腕を組んで押し黙ってしまった。
***
シルヴェスターはその場で指輪の付与魔術を調整すると、カパルディアの工房へと帰って行った。
フェリクスもそれを見届けてから「そろそろ教会に戻らないと」と言って、戻って行った。
レイとウィルフレッドは、ユグドラの樹の前までミーレイ御一行のお見送りに出ていた。
「フェリクス様も変わられたな。変えたのが妾でないのは残念じゃが……」
ミーレイは、フェリクスが帰って行った方向を切なそうに眺めていた。
「妾と同じ黒い髪じゃな。悪くない。妾に臆せず、意見を言う所も気に入った。義娘と言っても差し支えないじゃろう」
ミーレイはレイの方を向き直って、ポンッと頭の上に手を載せた。その手が淡く光る。
「それでは、またな」
ミーレイの目線は柔らかくなっていた。
「お気をつけて、お帰りください」
レイは、ミーレイの急な行動に内心びっくりしたが、笑顔で別れの挨拶をした。
「心配されるのも悪くはないな」
ふふふ、と淡く微笑むと、ミーレイたちは転移して行った。
「レイ!! 大丈夫か!?」
ミーレイたちがいなくなると、ウィルフレッドが慌ててレイの両方の肩をがしりと掴んだ。
「? 大丈夫ですけど……どうしたんですか?」
「あああああっ!! やっぱり付いてる!」
「なっ、何がですか!?」
レイが訝しがってウィルフレッドを見上げると、彼は頭を抱えていた。
「当代魔王の加護だ! 最後に頭に手を載せられた時に光ってただろ! その時に付けられたんだ!!」
「えええええっ!?」
こうして、レイに新たな加護が加わってしまった。
「えっ? 私にですか?」
レイが団欒室で琥珀にブラシがけをしていると、ウィルフレッドに声をかけられた。
「俺も一緒に同席するが、失礼なことはするなよ。当代魔王のミーレイ様がおいでだ」
「えっ!?」
思わぬ来客にびっくりして、レイは思わずブラシをぽとりと落としてしまった。
琥珀もびっくりして、目をまん丸くして固まっていた。
***
お客様はユグドラの下層階、大きい方の応接室に通されていた。
大きな応接室の真ん中には、十数名ほどまでなら会議もできそうな大きな黒檀のテーブルが置かれている。
同じく黒檀の椅子には、座面と背面に深紅の布張りがされ、ユグドラの花や葉の意匠が織り込まれている。
どちらも過去のドワーフ管理者の作品らしく、脚の部分に精緻な彫りがされており、丁寧に磨きがかけられた家具は、艶やかで、威厳を湛えている。
床には、さまざまな色合いの木材が寄木細工のように組まれていて、さりげなく応接室の外に会話が漏れ聞こえないよう、防音結界の魔術陣の模様を描いている。
応接室の奥の席には、当代魔王ミーレイを中心に、お付きの者たちが彼女の左右に分かれて座っていた。
ミーレイは本日も麗しく、黒真珠のような髪を結い上げ、じゃらりと大振りの金のアクセサリーを付けている。白いシルクのワンピースには、裾や豊かな胸元に朱色の糸で繊細かつ豪華な刺繍がされていて、琥珀色の肌に映えている。
「そなたがフェリクス様の義娘か? 先日は世話になったな、礼を言うぞ」
レイたちが席に着くなり、ミーレイは鷹揚に礼を述べてきた。蜂蜜のように濃厚な黄金眼は、レイを推しはかるように見つめている。
「レイと申します。もったいないお言葉をいただきありがとうございます」
レイは失礼の無いように、頭を下げた。
「そなたに確認したいことがあってな、フェリクス様のことについてじゃ」
「義父のことでしょうか?」
「そうじゃ」
そこでミーレイはユグドラの花茶を上品に一口飲んで、息を整えた。
「フェリクス様とそなたが親子契約を結んだ経緯を知りたくてな」
ミーレイは真剣な顔でじっとレイを見つめた。
レイがウィルフレッドの方を見ると、ウィルフレッドもこくりと頷いた。
レイはフェリクスとの親子契約の話を、順を追って説明した。
ミーレイはその間、静かにじっと聴き入っていた。
レイが最後まで話し終えると、ミーレイは少し不貞腐れたかのように口を尖らせて言った。
「フェリクス様が決めたこと故、妾が口出しするようなことではないが……だが、気に食わないのう……」
「……魔王様は、義父さんの娘になりたかったのでしょうか?」
ミーレイにじとりとした目で見られ、レイは、これは何か言わなければ、自分は害の無い人間だとアピールせねば、と焦って尋ねた。
「……そういえばそうじゃな。親子と恋人は違うな」
ミーレイがむぅと難しい顔をして頷いた。
その時、コンコンコンと応接室の扉が叩かれた。
「どうした?」
ウィルフレッドが扉の方を振り向いて返答した。
お手伝いエルフのシェリーが「失礼します」と応接室に入って来ると、ウィルフレッドに何やらこそこそ耳打ちした。
「何っ!? フェリクスとシルヴェスターがユグドラに来てるだと?」
ウィルフレッドがわざとらしく声に出して言った。
シェリーは苦笑いを顔に出すのを我慢しながらも、こくりと頷いた。
「フェリクス」という単語に、ミーレイはあわあわと慌てだした。隣に座っているお付きの者に何やら確認し、「大丈夫です! ミーレイ様はお美しいです!」とフォローされている。
(……師匠、絶対わざとだ。でも、助かった……)
レイは心の中でウィルフレッドにいいね! ボタンを押した。
「ミーレイ様、フェリクスが来ているようなのですが、こちらの応接室に通してもよろしいでしょうか?」
「か、構わぬよ」
ウィルフレッドの問いに、ミーレイは目をキラキラさせ、頬を上気させて快諾した。
***
「おや? ミーレイも来てたのかい?」
「ご無沙汰しております、ミーレイ様」
フェリクスは朗らかに挨拶をし、シルヴェスターは丁寧にお辞儀をした。
「フェリクス様! 先日はお見舞いをいただきありがとうございました!!」
ミーレイは勢いよく、フェリクスに詰め寄って行った。ちゃっかり両手できゅっとフェリクスの手も握っている。シルヴェスターの方は視界に入っていないようだ。
フェリクスは、当たり前のようにレイの隣に座った。
「同席してしまって悪いね。ミーレイの方の用事は大丈夫なのかい?」
「ええ。もうほとんど終えたところですわ……」
フェリクスに直接話しかけられ、ミーレイは頬を染めてしおらしく答えた。フェリクスを見つめる瞳は、うるうると薄い涙の膜を張っている。
(恋する乙女だ……)
ミーレイの態度の変化に、ウィルフレッドとレイは内心「ゔっ……」とはきていたが、失礼のないように、念入りに無表情を貫いた。
「それじゃあ、こっちの話をしちゃうね。レイ、この前注文していた魔道具ができたんだ。最終調整をしようと思ってね、シルヴェスターも連れて来たんだ」
「もう出来上がったんですか!? 早かったですね。ありがとうございます」
シルヴェスターが手のひらサイズの小さな小箱を手渡してきた。淡いピンク色のビロード張りの小箱に、真紅のリボンがかけられている。
「開けてごらん」
ぱあっとレイの表情が明るくなったのを見て、フェリクスが微笑んで促した。
レイが箱をわくわくと開けると、中にはシンプルでかわいいピンキーリングが入っていた。
シャンパンゴールドの地金で、中央には大きめなフェニックスの炎石を、その左右には小さめの無色透明な聖属性の魔石が三つずつ並んで配置されている。特に中央の炎石は、見る角度や光の反射によって、黄色~オレンジ~ピンク~赤とその色と煌めきを変えている。
応接室にいた全員がぐっと顔を近づけて覗き込んだ——その瞬間、レイとフェリクスと制作者シルヴェスターを除く全員が顔面蒼白になった。
「わぁ、かわいい!!」
フェリクスに指輪をはめてもらうと、レイの左手の小指にぴったりのサイズだった。
「これに魔力を通すことで、漏れ出る魔力量を調整できるからね。あと、聖属性が得意な属性——毒や呪いや麻痺、石化、腐食、精神攻撃系の魔術や効果にはかかりにくくなるからね。外さないようにするんだよ」
「そんなすごい機能まで!? ありがとうございます!! 大事にしますね」
レイはにっこりと微笑んだ。
レイが左手の小指に輝く指輪を、目を輝かせて眺めていると、シルヴェスターが苦笑しながら補足してくれた。
「喜んでもらえて良かった。ここまで高機能な指輪型の魔道具は初めて作ったよ。まあ、フェリクス様の魔石だからこそ作れたんだけどね。そうそう、伝説の装備品レベルだから、失くさないようにね」
「えっ!? 伝説レベル!?」
レイは戦々恐々として、左手の小指にはめた指輪を見た。伝説レベルとなると、失くすのが怖くて、身につけるのも怖くなってしまう、貧乏性のレイだった。
「先代魔王の魔石を使ってるからな、当たり前だろ。しかも、そのサイズの魔道具で、それだけの効果が付いているのは、破格だな」
ウィルフレッドが呆れた顔で言った。
「そうだね、失くさないように、レイの手元に戻ってくる魔術もかけようか。あと、盗難防止に、盗もうという意図で触れた者を灰にする魔術も……「手元に戻ってくる魔術だけで十分です!」」
さすがに誰かを灰にするのはやりすぎである。レイは食い気味にストップをかけた。
「盗人の興味がなくなるような魔術ってありませんか?」
レイは、誰も灰にしない方法を本気で模索し始めた。
「平凡擬態か、印象を薄くするか……」
「せっかくのアクセサリーなので、そういう魔術はちょっと……」
シルヴェスターの表情が曇った。制作者としては、ある程度アクセサリーとしても楽しんでもらいたいようだ。
「精神系の条件式をつけて、盗もうという意思を持つと、見えなくなるというのはどうだ?」
「ああ、それはいいね」
ウィルフレッドの案に、フェリクスがうんうんと頷いている。
一連のやりとりを、ミーレイは顔色を翳らせて、ぷるぷると震えながら見ていた。
お付きの者たちも、顔色を紙のようにして固まっていた。
「……フェリクス様、その指輪は……?」
「ああ、これはね、レイが管理者の仕事をしやすいように、シルヴェスターに作ってもらったんだ。子供の安全を願う、親心かな」
「親心……」
フェリクスの温かい笑みに、ミーレイは目をぱちくりさせた。その後はずっと考え込むかのように、腕を組んで押し黙ってしまった。
***
シルヴェスターはその場で指輪の付与魔術を調整すると、カパルディアの工房へと帰って行った。
フェリクスもそれを見届けてから「そろそろ教会に戻らないと」と言って、戻って行った。
レイとウィルフレッドは、ユグドラの樹の前までミーレイ御一行のお見送りに出ていた。
「フェリクス様も変わられたな。変えたのが妾でないのは残念じゃが……」
ミーレイは、フェリクスが帰って行った方向を切なそうに眺めていた。
「妾と同じ黒い髪じゃな。悪くない。妾に臆せず、意見を言う所も気に入った。義娘と言っても差し支えないじゃろう」
ミーレイはレイの方を向き直って、ポンッと頭の上に手を載せた。その手が淡く光る。
「それでは、またな」
ミーレイの目線は柔らかくなっていた。
「お気をつけて、お帰りください」
レイは、ミーレイの急な行動に内心びっくりしたが、笑顔で別れの挨拶をした。
「心配されるのも悪くはないな」
ふふふ、と淡く微笑むと、ミーレイたちは転移して行った。
「レイ!! 大丈夫か!?」
ミーレイたちがいなくなると、ウィルフレッドが慌ててレイの両方の肩をがしりと掴んだ。
「? 大丈夫ですけど……どうしたんですか?」
「あああああっ!! やっぱり付いてる!」
「なっ、何がですか!?」
レイが訝しがってウィルフレッドを見上げると、彼は頭を抱えていた。
「当代魔王の加護だ! 最後に頭に手を載せられた時に光ってただろ! その時に付けられたんだ!!」
「えええええっ!?」
こうして、レイに新たな加護が加わってしまった。
20
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