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魔動絵本7
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「ゲホッ、ゴホッ……」
レイは次のページまで押し流されていた。
(……ここが絵本の中で良かった……)
レイは心底ぞくりとしつつ、息を整えた。これが絵本の世界でなければ、そのままどこまでも押し流されていた可能性があったのだ。
雨足はさらに強まってきている。
レイは濡れた髪を払うと、アイザックがいないかキョロキョロと周囲を見回した。周りには、さっきの濁流で運び込まれた流木や岩などが、ゴロゴロと転がっている。
アイザックはどこにも見当たらなかった。
(他のページに流されてるかも……)
レイはボロ小屋を見た。さっきの洪水の影響か、屋根の上に流木が乗り上げていて、今にも潰れそうだ。
次のページに行くにしても、ここでやるべきことを進めておかないと、最終的にこの絵本から出られなくなる可能性がある。
レイが慎重にボロ小屋に近づくと、中から「キーッ!」と叫ぶ声が聞こえて来た。
慌てて扉をバタンッと開けると、鉈を持ったずぶ濡れの猿が飛び出して来た。
「きゃっ!」
レイは思わず飛び退いた。
お腹の前をズバッと鉈が薙いだ。
レイが見たこともない猿の魔物だ。
鉈を持ち、凶悪そうな目つきでこちらを見ている。
じりじりと睨み合い、互いに相手の出方を窺っている。
「キーッ!」
「ウォーターウォール!」
猿の魔物の飛びかかってくる気配に、瞬時に水の壁を魔術で前面に出した。
水の壁に阻まれて、猿の魔物は後ろに撥ね飛ばされ、体勢を立て直そうとごろんと転がっている。
レイはその隙に、ポケットの中の護符を掴んだ。
今度は水の壁を挟んで、じりじりと互いに睨み合いを始めた。
レイは左手に護符を、右手で新たな魔術の準備を始めている。
猿の魔物が動いた。水の壁をレイの右手側からまわり込み、鉈を振るう。
そこへレイがウォータスライサーの刃を放つ。
猿が器用に斜め前にごろんと転がって避け、レイに向かって飛びついてかかってきた。
レイはすかさず左手の護符を翳した。
レイの幻影が現れると、猿の魔物は鉈で薙いで幻影を蹴散らし、飛びかかった勢いでそのままレイへと向かった。
その瞬間、猿の魔物の肩が消えかけの幻影に触れ、「ゲギャッ!」と一声鳴いて灰になった。
レイは自分の前に新たに水の壁を作って、その様子を見守っていた。
「はーっ……」
レイは深く一息ついた。
一人で魔物と戦ったのは初めてだった。手が少し震えているが、もう片方の手で押さえる。
(他にまだ魔物がいるかもしれないし、アイザックも探さないと……震えている場合じゃない)
レイは周りを警戒しつつ、ボロ小屋に近づいた。
中の様子を窺うが、何の気配もしない。
レイはボロ小屋の扉の裏に、護符を二枚貼った。
チラリと猿の魔物が倒された場所を見ると、鉈が転がっていた。
(……何かに使えるかも。武器があった方が安心だし……)
レイは鉈を拾って武装すると、次のページへ向かって行った。
***
「レイ! 無事で良かった!!」
レイが次のページに進むと、アイザックが飛びついて来た。
アイザックはぎゅうぎゅうとレイを抱きしめると、ハッとなって、どこか怪我は無いか入念に確認した。
「すっごく心配したんだよ。こっちのページにレイは来てないし、前のページには戻れないし……」
ほっとしたのも束の間、「ぎゅわあああ!」という鈴を転がすような可愛らしい声で、可愛らしくない叫び声が聞こえてきた。
「あのファンシー大蛇が小屋の罠に引っかかりました」
「随分と酷いあだ名を付けたね」
「本当に大変だったんです。このぐらい良いでしょう」
レイはぷんぷんと頬を膨らませて怒っている。
レイが手に持っている鉈に、アイザックは目を剥いた。
「何て物騒なもの持ってるの!?」
「ボロ小屋の中で待ち伏せしてた猿の魔物が持ってたんです」
「……たぶん、イビルマンキーだね。Cランク魔物で、知恵は回るし、残忍な性格の者が多いんだよね」
本当に無事で良かった、とアイザックが胸を撫で下ろしている。
ぎゅわあああ!
再度上がった可愛らしい声の叫びに、二人はハッとなった。
「護符はちゃんと二枚貼りました」
「二枚とも食らったんだね。とにかく、先を急ごうか」
レイがキリッと胸を張って報告をし、二人は次のページへ進むことにした。
アイザックとレイは深い谷の前に辿り着いた。
後ろを振り返ると、バキバキと木を薙ぎ倒し、森の中を猛然と突き進んで来る大蛇がいた。クリームパンのような足は無くなっている。
「小屋の罠で足が灰になったのかもね。確か小屋に巻き付いて締め上げる流れだったはずだから」
一応サーペントとして正しい形にはなったね、とアイザックがうんうんと頷いている。
アイザックとレイを森の木々の上から目視した大蛇は、怒りを露わにした。
首回りのレースやフリルを、エリマキトカゲが威嚇するように立ち広げている。
全体的な鱗の色味も赤っぽくなっており、お人形さんの絵柄も、両方のおさげが怒髪天をつくように逆立っている。
「むしろ変な方向にサーペントから遠退いてないですか!?」
「さっきよりも動きが素早くなってるね。ちょっとごめんね」
アイザックがレイを抱きかかえて走り出した。
森の木々や岩を吹っ飛ばしながら、大蛇が猛然とした勢いで二人を追いかけて来た。
黒く塗りつぶされたような目からは、「絶対に許さない」という怨嗟が見えてとれる。
「十分に引き付けるんだよ」
「はい!」
アイザックは森の木々や吹き飛ばされた物を素早く避けつつ、逃げている。
その時、大蛇が大きな口を開けて二人飲み込もうとして首を素早く伸ばしてきた。
大蛇の口が空いた瞬間、そこへ向けてレイが護符を二枚放り込んだ。
アイザックがレイを抱えたままジャンプして、大蛇の攻撃を避けた。
大蛇はばくりと反射的に口の中に入ったものを飲み込んだ。
「ぐわあああぁぁぁ!!!」
可愛らしい声の断末魔が響き、大蛇はお腹の中から灰になっていった。
「やった!!」
「……やったみたいだね」
二人は少し離れた所に止まると、真っ白な灰になった大蛇を見つめていた。
すると、辺り一面が段々と白色の光に染まっていき、アイザックとレイは薄らと半透明になってきていた。
「!? ここから出られるんでしょうか?」
「そうみたいだね」
眩しくなってきたので、二人は静かに目を閉じた。
レイは次のページまで押し流されていた。
(……ここが絵本の中で良かった……)
レイは心底ぞくりとしつつ、息を整えた。これが絵本の世界でなければ、そのままどこまでも押し流されていた可能性があったのだ。
雨足はさらに強まってきている。
レイは濡れた髪を払うと、アイザックがいないかキョロキョロと周囲を見回した。周りには、さっきの濁流で運び込まれた流木や岩などが、ゴロゴロと転がっている。
アイザックはどこにも見当たらなかった。
(他のページに流されてるかも……)
レイはボロ小屋を見た。さっきの洪水の影響か、屋根の上に流木が乗り上げていて、今にも潰れそうだ。
次のページに行くにしても、ここでやるべきことを進めておかないと、最終的にこの絵本から出られなくなる可能性がある。
レイが慎重にボロ小屋に近づくと、中から「キーッ!」と叫ぶ声が聞こえて来た。
慌てて扉をバタンッと開けると、鉈を持ったずぶ濡れの猿が飛び出して来た。
「きゃっ!」
レイは思わず飛び退いた。
お腹の前をズバッと鉈が薙いだ。
レイが見たこともない猿の魔物だ。
鉈を持ち、凶悪そうな目つきでこちらを見ている。
じりじりと睨み合い、互いに相手の出方を窺っている。
「キーッ!」
「ウォーターウォール!」
猿の魔物の飛びかかってくる気配に、瞬時に水の壁を魔術で前面に出した。
水の壁に阻まれて、猿の魔物は後ろに撥ね飛ばされ、体勢を立て直そうとごろんと転がっている。
レイはその隙に、ポケットの中の護符を掴んだ。
今度は水の壁を挟んで、じりじりと互いに睨み合いを始めた。
レイは左手に護符を、右手で新たな魔術の準備を始めている。
猿の魔物が動いた。水の壁をレイの右手側からまわり込み、鉈を振るう。
そこへレイがウォータスライサーの刃を放つ。
猿が器用に斜め前にごろんと転がって避け、レイに向かって飛びついてかかってきた。
レイはすかさず左手の護符を翳した。
レイの幻影が現れると、猿の魔物は鉈で薙いで幻影を蹴散らし、飛びかかった勢いでそのままレイへと向かった。
その瞬間、猿の魔物の肩が消えかけの幻影に触れ、「ゲギャッ!」と一声鳴いて灰になった。
レイは自分の前に新たに水の壁を作って、その様子を見守っていた。
「はーっ……」
レイは深く一息ついた。
一人で魔物と戦ったのは初めてだった。手が少し震えているが、もう片方の手で押さえる。
(他にまだ魔物がいるかもしれないし、アイザックも探さないと……震えている場合じゃない)
レイは周りを警戒しつつ、ボロ小屋に近づいた。
中の様子を窺うが、何の気配もしない。
レイはボロ小屋の扉の裏に、護符を二枚貼った。
チラリと猿の魔物が倒された場所を見ると、鉈が転がっていた。
(……何かに使えるかも。武器があった方が安心だし……)
レイは鉈を拾って武装すると、次のページへ向かって行った。
***
「レイ! 無事で良かった!!」
レイが次のページに進むと、アイザックが飛びついて来た。
アイザックはぎゅうぎゅうとレイを抱きしめると、ハッとなって、どこか怪我は無いか入念に確認した。
「すっごく心配したんだよ。こっちのページにレイは来てないし、前のページには戻れないし……」
ほっとしたのも束の間、「ぎゅわあああ!」という鈴を転がすような可愛らしい声で、可愛らしくない叫び声が聞こえてきた。
「あのファンシー大蛇が小屋の罠に引っかかりました」
「随分と酷いあだ名を付けたね」
「本当に大変だったんです。このぐらい良いでしょう」
レイはぷんぷんと頬を膨らませて怒っている。
レイが手に持っている鉈に、アイザックは目を剥いた。
「何て物騒なもの持ってるの!?」
「ボロ小屋の中で待ち伏せしてた猿の魔物が持ってたんです」
「……たぶん、イビルマンキーだね。Cランク魔物で、知恵は回るし、残忍な性格の者が多いんだよね」
本当に無事で良かった、とアイザックが胸を撫で下ろしている。
ぎゅわあああ!
再度上がった可愛らしい声の叫びに、二人はハッとなった。
「護符はちゃんと二枚貼りました」
「二枚とも食らったんだね。とにかく、先を急ごうか」
レイがキリッと胸を張って報告をし、二人は次のページへ進むことにした。
アイザックとレイは深い谷の前に辿り着いた。
後ろを振り返ると、バキバキと木を薙ぎ倒し、森の中を猛然と突き進んで来る大蛇がいた。クリームパンのような足は無くなっている。
「小屋の罠で足が灰になったのかもね。確か小屋に巻き付いて締め上げる流れだったはずだから」
一応サーペントとして正しい形にはなったね、とアイザックがうんうんと頷いている。
アイザックとレイを森の木々の上から目視した大蛇は、怒りを露わにした。
首回りのレースやフリルを、エリマキトカゲが威嚇するように立ち広げている。
全体的な鱗の色味も赤っぽくなっており、お人形さんの絵柄も、両方のおさげが怒髪天をつくように逆立っている。
「むしろ変な方向にサーペントから遠退いてないですか!?」
「さっきよりも動きが素早くなってるね。ちょっとごめんね」
アイザックがレイを抱きかかえて走り出した。
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黒く塗りつぶされたような目からは、「絶対に許さない」という怨嗟が見えてとれる。
「十分に引き付けるんだよ」
「はい!」
アイザックは森の木々や吹き飛ばされた物を素早く避けつつ、逃げている。
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大蛇の口が空いた瞬間、そこへ向けてレイが護符を二枚放り込んだ。
アイザックがレイを抱えたままジャンプして、大蛇の攻撃を避けた。
大蛇はばくりと反射的に口の中に入ったものを飲み込んだ。
「ぐわあああぁぁぁ!!!」
可愛らしい声の断末魔が響き、大蛇はお腹の中から灰になっていった。
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◆関連作品
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『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。
『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
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