鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

文字の大きさ
上 下
28 / 347

閑話 聖剣見た目会議〜管理者会議編〜

しおりを挟む
 聖剣が人型に変身した。

 ウィルフレッドに聖剣レーヴァテインの人型を確認してもらうと、ほぼほぼ人間サイズの耳に、ちょこんと耳の先が尖ったハーフエルフのようだった。
 ただ、このハーフエルフは超絶イケメンで、連れ帰った彼を見たユグドラの女性たちが、顔を真っ赤にしてぶっ倒れた……でもなんだか幸せそうだった。

「正しく麗しいエルフの姿を見た気がします」

 普段、くたびれた服装の残念なイケメンエルフを見てきたレイは、内心感動しつつ、きっぱり言い切った。

「何だ、正しく麗しいって。最近、弟子の言葉が鋭すぎる気がする。あいつはエルフでもハーフエルフでもないからな! 剣だからな!」

 ウィルフレッドが渋い顔をして答えた。

 聖剣レーヴァテイン——略してレヴィと呼んでいる——の人型はスラリとした長身に、厚すぎず細すぎない肢体はバランスが良い。
 エルフらしいサラサラの淡い金髪をしていて、憂いを帯びたアクアマリンのような水色の瞳は、けぶるまつ毛に縁取られている。
 真顔の時は彫像のような硬質な美貌だが、ふとした瞬間の微笑みの艶やかさは、どこぞの巨匠が描いたものか、悠久まで讃えられそうな一級の芸術品だ。

 レヴィをユグドラに連れ帰って三日が経った。
 その間に彼を目にしてぶっ倒れる被害者が増え続けている。昨日だけでも十名、今朝も早くから二名がぶっ倒れた。
 イケメンも度を超すともはや災害である。「美人は三日で飽きる」とは言うが、美人のその上は、その限りではないらしい。

 この現状を重く見た管理者たちは、緊急会議を招集した——聖剣見た目会議である。


 ユグドラの樹の中層階の会議室に、管理者たちは集まった。
 参加者は現在ユグドラにいる管理者たちと聖剣だ。ウィルフレッド、エイドリアン、メルヴィン、モーガン、エルネスト、アイザック、ミランダ、ダリル、レイ、議題のレヴィの十名だ。

 会議室には二十名ほどが座れる大円卓があり、過去のドワーフ管理者の作品だ。

 大円卓の幅広の脚には、会話と集中を促す魔術陣が柄のように丁寧に彫り込まれ、会議を効率的に進められるよう工夫がされている。
 背もたれが高い椅子には、座面に落ち着いた青色の布張りがされていて、淡いクリーム色の糸でユグドラの花の意匠が刺繍されている。
 会議室の白い壁紙には、ボコッと出っ張ったエンボス加工がされていて、よく見ると模様の中に防音の魔術陣が組み込まれていて、会議の内容が外に漏れ出ない仕様だ。

 管理者たちは大円卓をぐるりと囲むように座った。

「そもそも武器を人型に変身させるなど、聞いたことがない」

 ダリルが少し困惑した顔で言った。

「魔力だけあげて、どんな姿にするかはお任せしてたんだけど、そもそもどうしてその姿になったの?」

 レイが真面目な顔で、レヴィに素朴な疑問をぶつけてみた。

「これは十二代目剣聖の姿です。私が彼の剣だった時、彼の周りにはいつも女性がいたため、レイも女性なので喜ばれるかと思ってこの姿にしました」
「え、そんな気遣いされてたの? まあ、その姿だと女性の方から寄ってくるよね。その時はみんな倒れなかった?」
「倒れてましたよ」

(((((((((倒れてたのかよ……)))))))))

 管理者全員の思いが一致した。全員が呆れた目をして、レヴィを見つめている。

「レイは初めてこの姿を見た時に倒れなかったので、問題ないかと思いました」
「問題ありだよ……あの時はそれどころじゃなかったし、私は大丈夫だったけど、他のみんなはなぁ……他の姿にはなれないの?」
「今までのご主人様でしたら誰にでもなれますよ。一通り見ますか?」
「うん、お願い」

 レヴィは初代剣聖から順番に変身していった。
 その都度、管理者たちから「おお」とか「まさか」など、どよめきが聞こえてきた。

「かの英雄をまたこの目で見られるとは……」
「まさか竜人の剣聖がいたとは……」
「私を作ったのは竜人でしたよ」
「歴史的な発見だな。定説が覆されるぞ」

 レヴィは総勢二十五名の剣聖に一通り変身した。
 最後にレイに変身したレヴィは、赤くなってモジモジしている。

「私の姿でそんなモジモジしないで! 恥ずかしい!」

 本物の方のレイも頬を赤らめて、異議を唱えた。

「レイになるのはなんだか背徳感があって……」

 レヴィが女の子らしく、きゃっと小さく叫んで両手で顔を覆っている。

「正しく女の子してる……」

 普段のさっぱりと男らしいレイに見慣れていたウィルフレッドが、こんな女の子らしい表情もできるのかと、目を丸くして零した。

「正しく女の子って何ですか!」

 バシッと、レイはウィルフレッドの背中を叩いた。


「十二代目の姿は刺激が強すぎるから無しだね」

 アイザックの言葉に、管理者全員が頷いている。これ以上被害者を増やしてはいけない。

「八代目か十三代目か十四代目はどうだ?」
「フォレストエイプ一択じゃないですか!」

 含み笑いしているウィルフレッドの提案に、レイが唇を尖らせて渋い顔をした。

 フォレストエイプは、レイの元の世界でいうゴリラのようなAランク魔物だ。ゴリラの約二倍の大きさで、かなり力が強い。
 こちらの世界では、筋骨隆々でがっしりと大柄な体型の者を「フォレストエイプのよう」と例えたりもする。
 ユグドラの防御壁部隊を束ねるエイドリアンもフォレストエイプで、普段はかなり大柄なボディービルダーのような人型に変身している。

「ぱっと見、強そうだぞ~」

 ウィルフレッドが揶揄うような声で、レイを見つめて言った。

(師匠、完全にふざけてる……)

 レイはじと目でウィルフレッドを見つめた。

「お前らふざけてんなよ」

 さすがにエイドリアンから注意が入った。筋肉質の太い腕を組み、人差し指でトントンと叩いている。

 レヴィ曰く、十三代目と十四代目は親子だそうだ。レヴィが剣聖に一通り順番に変身していった時に、十三代目と十四代目がいつ切り替わったのか分からないぐらいのそっくりさんだ。
 フォレストエイプ三名は大柄すぎてかなり目立つ。
 レヴィも彼らに変身していた時は、心なしか、しょぼくれているようだった。

「直近の剣聖は避けた方がいいし、顔が知られてる剣聖も避けた方がいいわね。珍しい竜人も避けた方が無難ね」
「連れて歩くなら、目立ちすぎない方がいいです!」
「十一代目なんてどうだ?」
「逆に影が薄すぎやしないか? それに、あからさまに何人か殺ってる目つきしてるぞ」
「十一代目ご主人様は暗部でしたからね」
「暗部の剣聖がいたのか……」
「その目つきでレイと一緒にいたら、人攫いに間違われない?」

 十一代目剣聖は、やや低めの身長にがっしりとした筋肉質だが、着痩せしそうなタイプだ。肌は浅黒く、グレーの短髪と鋭いグレーの瞳の三白眼で、顎髭が生えてる。暗部で戦闘が多かったためか、耳が一部欠けており、頬や腕にも傷跡がいくつも残っている。
 旅人のような服装ではあるが、醸し出す雰囲気が何か引っかかるような、少し怪しい感じがする。一般人の振りをしている盗賊、といった感じだ。

 喧々諤々けんけんがくがくの会議の結果、レヴィの姿は、多数決で十七代目剣聖に決定した。

 早速、十七代目剣聖に変身を余儀なくされたレヴィは、目線がちょっと不服を訴えている。

 十七代目剣聖の決め手は、ブラウンの髪と瞳で地味で目立たず、印象は十人並み。よく見れば顔が整っている。身長や体格もちょうど良く、レイと一緒にいても違和感が無い。
 どこに行っても目立たず、どこにいてもおかしくない素晴らしい容姿に、管理者全員の意見が一致し可決した。

 レヴィの態度もなかなか失礼だったが、それ以上に、この会議に参加した全員が大変失礼だった。

 レイは「十七代目様、ごめんなさい。お姿使わせていただきます」と心の中で合掌し、十七代目剣聖の冥福を祈った。


 ちなみに何をそんなに嫌がったのか、後でレイがレヴィに訊いてみたところ、フォレストエイプたちは力が強すぎて、レヴィの手入れや扱いが雑だったようで、今回決まった十七代目は、逆にレヴィを溺愛しすぎてて扱いが気持ち悪かったそうだ。

 なお、問題の超絶イケメン十二代目は、一番レヴィの扱いが上手で丁寧だったそうだ。レヴィがご満悦で変身するわけだった。


しおりを挟む
◆関連作品

『砂漠の詩』
『雨の回廊』編の過去編スピンオフです。

『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』
『冒険者パーティーを追放された凄腕治癒師を拾いました』編のスピンオフです。

『ジャスティンと魔法少女のステッキ』
『魔法少女』編のスピンオフです。

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!

家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……? 多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...