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流行性の恋4
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レイは這々の体で唯一の安息の地、教会にたどり着いた。ここならば恋も黒歴史の精霊も手出しはできないはずだ。
教会の庭にある、マルメロの木の下に据えられた白いペンキ塗りのベンチに、レイは腰掛けた。ぐったりとうなだれ、下を向いて両手で顔を覆った。
(……よりによって、こんなベタな展開に引っかかるなんて!! それに、何だかもういろいろ負けてて辛い……)
数々のテンプレートのような恋のハプニングに一々反応してしまい、チョロすぎる自分が悔しい!! とレイは内心憤っていた。
そして毎回、女子としていろいろと負けを突きつけられてきた。レイの心は乱れに乱れていた。
ふと、地面を向いている自分の前に、誰かが立ち止まるのを感じた。
「大丈夫ですか?」
レイは顔を上げた。
見習いだろうか、白と青を基調とした教会の聖騎士の見習い服を着た少年が、そこには立っていた。緑色の目を心配そうに瞬かせて、レイをじっと覗き込んでいる。
レイが顔を上げると、一瞬ハッと目を丸くしたが、気を取り直したように「具合が悪いのですか? ご家族は?」と矢継ぎ早に尋ねてきた。
「だ、大丈夫です。少し疲れたので休んでいただけです。もう少し休めば大丈夫ですから。心配してくださって、ありがとうございます」
レイがにこりと微笑めば、少年は少しどぎまぎして頬を赤らめた。
「アレクシスー!」
目の前の少年が、声がした方を振り返った。
彼と同じ制服を着た少年たちが、手を振っている。
「もし何かありましたら、教会の者に気兼ねなく仰ってください。何かしら力になれるかと」
アレクシスと呼ばれた少年は、レイに振り向き、片手を胸に当て、真摯に言ってくれた。
「ありがとうございます。もう少しだけ、ここで休ませていただきますね……えっと、お友達が呼んでるようですが……」
「ああ、大丈夫ですよ。それでは、失礼します」
にこりとアレクシス少年は微笑むと、仲間の聖騎士見習いの元へ駆けて行った。
レイはぼーっとその背中を見ていた。
***
「あ、あの小僧!」
フェリクスが、ウィルフレッドが飛び出さないよう服を掴んでいる。
ここは教会の庭が覗ける路地裏だ。
フェリクスはじーっとレイたちの方を見つめて、考え事をしていた。
「フェリクス、カルロが心配じゃないのか!?」
保護者たちは、カルロ——ことレイの活躍をバッチリと遠くから見ていた。
ここにきて、まさかの少年からの接触である。保護者ウィルフレッドは、気が気では無かった。
「あの少年はレイから離れたようだし、大丈夫だよ。それに、教会の聖騎士見習いの子だよね。悪夢のC型には罹ってないはずだ」
同じく保護者フェリクスは、何やら落ち着いていた。
その時、ミランダから再度、通信の魔道具に連絡がきた。青い魔道具がぴかぴかと光っている。
フェリクスは防音結界を展開し、応答した。
「どうしたんだい? ミランダ?」
『奴らの居場所を見つけたわ。これから捕縛するから、来てちょうだい』
フェリクスは、ウィルフレッドを掴んだまま転移した。
***
その頃、恋と黒歴史の精霊は、レイの打ちひしがれる姿を見て、ハイタッチを決めていた。
「「やったー!!」」
「直接行くんじゃなくて、罹患した者を差し向けて正解だったな」
「見た? あの子のあの打ちひしがれた顔! 今回は私たちの勝利ね!!」
恋と黒歴史の精霊は、ルルコスタの港町から離れた海辺の崖の上にいた。
レイの様子は、遠見の水晶から見ていたようで、数々の恋のハプニングが成功して大盛り上がりである。
「そうでもないわよ」
ミランダの声とともに、ボンッと魔術陣が展開され、恋の精霊の周りをグレー色の輪が幾重にも巡り、きゅっと彼女の両腕と胴体を締め上げた。
「きゃーっ!! 黒歴史、逃げて!!」
黒歴史の精霊はかろうじて捕縛の魔道具は避けたが、気づけば、ウィルフレッドにローブの首裏を掴まれていた。
「はーなーせーっ!!!」
「ほら、暴れないの」
じたばたと最後の抵抗をする黒歴史の精霊をなだめるように、ウィルフレッドは言った。
その時、暴れた勢いで黒歴史の精霊の黒いローブのフードが、ふぁさっと脱げた。
黒歴史の精霊の顔を見た恋の精霊から、ボンッと破裂するような音がし、湯気が上がった。
黒歴史の精霊はとてもイケメンだった。
スッと通った鼻筋に、形の良い唇。怒りをしたためた二重の黒い瞳は黒曜石のように煌めき、さらさらの黒髪の間にちらちらと見え隠れしている。
フードも脱げ、両手を後ろ手に固定された黒歴史の精霊は、「クソッ」と吐き捨てるように言って、大人しくなった。
連行されている間、恋の精霊は非常に大人しく、半分放心状態だった。顔を真っ赤にした彼女は「……ギャップ萌え……」と小さく呟いている。
逆に黒歴史の精霊はずっと不貞腐れていた。一言も喋らずに、移動させようとしても、梃子でも動くもんか! と拙い抵抗を続けていた。
二人は悪夢のC型の流行が収まるまで、しばらく隔離されることとなる。
フェリクスの転移魔術で、二人は強制的にユグドラへと送られていった。
***
「お疲れさまです……」
「お疲れさま。レイ、大丈夫?」
恋と黒歴史の精霊が無事に捕縛された後、ルルコスタの町外れに四人は集合した。
再会したレイは、くたびれていた。
なぜか彼女のズボンのポケットが、パツンパツンに膨れ上がっている。
「……これ、どうしましょう? 落とし物を預けるような場所ってないんでしょうか?」
落とし物のハンカチをポケットから大量に出してきたレイに、三人は目をぱちくりとさせた。
「これ、どうしたの?」
ウィルフレッドが呆れながら確認してきた。
「街でぶつかった女の子たちが落としていったハンカチです。返してあげたいとは思うのですが、どこにいるかも分からないですし、量も多すぎて、もはやどのハンカチがどの子の物かも分からなくて……」
眉毛を八の字にして、しょぼくれたレイがそう説明した。
「一応、教会の落とし物処に届けておこうか」
フェリクスがサッとハンカチを受け取ると、転移させた。
そんな適当で良いのかとレイは目を丸くしたが、今日は相当疲れていたので、疑問を口にする余裕は無かった。
「折角だからルルコスタで夕飯を食べてから帰るか。あと、時間的にルルコスタの夕日が見れるな。穴場スポットがあるからそこに行くか」
ウィルフレッドの提案に、他のメンバーはこくりと頷いた。
「レイ、疲れてるみたいだから抱っこしようか?」
フェリクスが優しく尋ねた。
普段なら年齢的に遠慮したいレイだが、今日はもうそんな余裕が無いので、お言葉に甘えることにした。
フェリクスがレイを抱っこすると、ウィルフレッドが転移魔術を展開した。
ルルコスタの街並みと海が少し遠目から眺められる崖の上、レイたちは夕日が沈むのをじっと眺めて待っていた。他には誰もいなくて、貸し切り状態だ。
崖の上を吹く風が、夜のひんやりとした気配をはらみ始めた。
少しずつ夕日が沈んでいき、海と港町の白い壁も、赤い夕日色に染まっていく。
「わあ! 綺麗!」
絵画のように夕日色に染まっていく絶景に、レイは少し元気を取り戻した。
夕日が沈み切り、その残光が水平線から空へ向けて赤からオレンジ、黄色、緑、濃い青色のグラデーションになって、世界を静かに夜へといざなっている。
ちらほらと港町に魔道電灯が灯り始め、オレンジ色の点々とした光が、ルルコスタを幻想的に彩り始めた。
「本当に綺麗で素敵ね」
「天気も良かったし、普段はここまで綺麗なのはなかなか見れないぞ」
(リリスの加護のおかげかな)
レイはこんなに素敵な景色を見せてくれるなんて、とリリスの加護に感謝した。
夕食はフェリクスおすすめの店になった。
店の前の立て看板には、大きなロブスターの人形が豪快に載っていた。
バルのカウンターと、丸テーブルの店内テーブル席とテラス席があり、大きな窓は広く開け放たれていて開放的だ。テラス席の先には夜の海が見え、ザザーンという波の音も聞こえてくる。丸テーブルの真ん中には、キャンドルが灯されていて、雰囲気も抜群だ。
大人たちはワインやエールで、レイはオレンジジュースで乾杯した。
地元で本日採れた魚介がふんだんに使われた、日替わりのアクアパッツァやパスタが人気メニューで、本日の食材はタイとムール貝だった。
レイたちは、蕪とイワシのマリネと一緒に、日替わりのアクアパッツァとパスタも注文した。アクアパッツァはミニトマトや黒オリーブ、パセリが彩りを添え、ムール貝のパスタはもちもちした生パスタに濃厚なクリームソースで、たっぷりの粉チーズがかかっている。
お店の看板にも使われているジャイアントロブスターの蒸し焼きもこの店の定番メニューで、早速レイたちも頼んではふはふと頬張った。
どの料理も絶妙に美味しく、レイは今日一日頑張って良かったと心から思った。
食後にレモンのソルベを頼んで、一同は一息ついた。
「今日は本っっっ当に疲れました! いつもこんな感じなんですか?」
「私の時はそんなことは無かったわ。恋も黒歴史も前回のことを反省して、対策を立ててきたみたいなの」
「うう……そんな傍迷惑な……」
レイはやけ食い気味にソルベを頬張った。
「恋も黒歴史もなんだかんだ言って楽しんでたみたいだな」
「ああ、人間の恋は特に楽しいみたいだね」
フェリクスはさりげなく自分のソルベの半分を、レイのお皿に移してくれた。
「そうなのよ。恋も黒歴史も、人間の恋の方がバリエーション豊富だし、ハプニングも多くて面白いみたいで、他の種族の管理者だと反応してくれないのよ……だからいつも三大魔女の新人の役目なの」
だからごめんね、とミランダはレイにウィンクしてきた。
(……え、新人が入ってこない限りは私が毎回これやるの? 数十年後にも、ずっと大人になった私がこれやるの……?)
最悪の展開を想像したレイは固まり、スプーンに乗ったソルベがぽとりとテーブルの上に落ちた。
レイは真っ白に燃え尽きた。
教会の庭にある、マルメロの木の下に据えられた白いペンキ塗りのベンチに、レイは腰掛けた。ぐったりとうなだれ、下を向いて両手で顔を覆った。
(……よりによって、こんなベタな展開に引っかかるなんて!! それに、何だかもういろいろ負けてて辛い……)
数々のテンプレートのような恋のハプニングに一々反応してしまい、チョロすぎる自分が悔しい!! とレイは内心憤っていた。
そして毎回、女子としていろいろと負けを突きつけられてきた。レイの心は乱れに乱れていた。
ふと、地面を向いている自分の前に、誰かが立ち止まるのを感じた。
「大丈夫ですか?」
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レイが顔を上げると、一瞬ハッと目を丸くしたが、気を取り直したように「具合が悪いのですか? ご家族は?」と矢継ぎ早に尋ねてきた。
「だ、大丈夫です。少し疲れたので休んでいただけです。もう少し休めば大丈夫ですから。心配してくださって、ありがとうございます」
レイがにこりと微笑めば、少年は少しどぎまぎして頬を赤らめた。
「アレクシスー!」
目の前の少年が、声がした方を振り返った。
彼と同じ制服を着た少年たちが、手を振っている。
「もし何かありましたら、教会の者に気兼ねなく仰ってください。何かしら力になれるかと」
アレクシスと呼ばれた少年は、レイに振り向き、片手を胸に当て、真摯に言ってくれた。
「ありがとうございます。もう少しだけ、ここで休ませていただきますね……えっと、お友達が呼んでるようですが……」
「ああ、大丈夫ですよ。それでは、失礼します」
にこりとアレクシス少年は微笑むと、仲間の聖騎士見習いの元へ駆けて行った。
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***
「あ、あの小僧!」
フェリクスが、ウィルフレッドが飛び出さないよう服を掴んでいる。
ここは教会の庭が覗ける路地裏だ。
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「フェリクス、カルロが心配じゃないのか!?」
保護者たちは、カルロ——ことレイの活躍をバッチリと遠くから見ていた。
ここにきて、まさかの少年からの接触である。保護者ウィルフレッドは、気が気では無かった。
「あの少年はレイから離れたようだし、大丈夫だよ。それに、教会の聖騎士見習いの子だよね。悪夢のC型には罹ってないはずだ」
同じく保護者フェリクスは、何やら落ち着いていた。
その時、ミランダから再度、通信の魔道具に連絡がきた。青い魔道具がぴかぴかと光っている。
フェリクスは防音結界を展開し、応答した。
「どうしたんだい? ミランダ?」
『奴らの居場所を見つけたわ。これから捕縛するから、来てちょうだい』
フェリクスは、ウィルフレッドを掴んだまま転移した。
***
その頃、恋と黒歴史の精霊は、レイの打ちひしがれる姿を見て、ハイタッチを決めていた。
「「やったー!!」」
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「見た? あの子のあの打ちひしがれた顔! 今回は私たちの勝利ね!!」
恋と黒歴史の精霊は、ルルコスタの港町から離れた海辺の崖の上にいた。
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「そうでもないわよ」
ミランダの声とともに、ボンッと魔術陣が展開され、恋の精霊の周りをグレー色の輪が幾重にも巡り、きゅっと彼女の両腕と胴体を締め上げた。
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黒歴史の精霊はかろうじて捕縛の魔道具は避けたが、気づけば、ウィルフレッドにローブの首裏を掴まれていた。
「はーなーせーっ!!!」
「ほら、暴れないの」
じたばたと最後の抵抗をする黒歴史の精霊をなだめるように、ウィルフレッドは言った。
その時、暴れた勢いで黒歴史の精霊の黒いローブのフードが、ふぁさっと脱げた。
黒歴史の精霊の顔を見た恋の精霊から、ボンッと破裂するような音がし、湯気が上がった。
黒歴史の精霊はとてもイケメンだった。
スッと通った鼻筋に、形の良い唇。怒りをしたためた二重の黒い瞳は黒曜石のように煌めき、さらさらの黒髪の間にちらちらと見え隠れしている。
フードも脱げ、両手を後ろ手に固定された黒歴史の精霊は、「クソッ」と吐き捨てるように言って、大人しくなった。
連行されている間、恋の精霊は非常に大人しく、半分放心状態だった。顔を真っ赤にした彼女は「……ギャップ萌え……」と小さく呟いている。
逆に黒歴史の精霊はずっと不貞腐れていた。一言も喋らずに、移動させようとしても、梃子でも動くもんか! と拙い抵抗を続けていた。
二人は悪夢のC型の流行が収まるまで、しばらく隔離されることとなる。
フェリクスの転移魔術で、二人は強制的にユグドラへと送られていった。
***
「お疲れさまです……」
「お疲れさま。レイ、大丈夫?」
恋と黒歴史の精霊が無事に捕縛された後、ルルコスタの町外れに四人は集合した。
再会したレイは、くたびれていた。
なぜか彼女のズボンのポケットが、パツンパツンに膨れ上がっている。
「……これ、どうしましょう? 落とし物を預けるような場所ってないんでしょうか?」
落とし物のハンカチをポケットから大量に出してきたレイに、三人は目をぱちくりとさせた。
「これ、どうしたの?」
ウィルフレッドが呆れながら確認してきた。
「街でぶつかった女の子たちが落としていったハンカチです。返してあげたいとは思うのですが、どこにいるかも分からないですし、量も多すぎて、もはやどのハンカチがどの子の物かも分からなくて……」
眉毛を八の字にして、しょぼくれたレイがそう説明した。
「一応、教会の落とし物処に届けておこうか」
フェリクスがサッとハンカチを受け取ると、転移させた。
そんな適当で良いのかとレイは目を丸くしたが、今日は相当疲れていたので、疑問を口にする余裕は無かった。
「折角だからルルコスタで夕飯を食べてから帰るか。あと、時間的にルルコスタの夕日が見れるな。穴場スポットがあるからそこに行くか」
ウィルフレッドの提案に、他のメンバーはこくりと頷いた。
「レイ、疲れてるみたいだから抱っこしようか?」
フェリクスが優しく尋ねた。
普段なら年齢的に遠慮したいレイだが、今日はもうそんな余裕が無いので、お言葉に甘えることにした。
フェリクスがレイを抱っこすると、ウィルフレッドが転移魔術を展開した。
ルルコスタの街並みと海が少し遠目から眺められる崖の上、レイたちは夕日が沈むのをじっと眺めて待っていた。他には誰もいなくて、貸し切り状態だ。
崖の上を吹く風が、夜のひんやりとした気配をはらみ始めた。
少しずつ夕日が沈んでいき、海と港町の白い壁も、赤い夕日色に染まっていく。
「わあ! 綺麗!」
絵画のように夕日色に染まっていく絶景に、レイは少し元気を取り戻した。
夕日が沈み切り、その残光が水平線から空へ向けて赤からオレンジ、黄色、緑、濃い青色のグラデーションになって、世界を静かに夜へといざなっている。
ちらほらと港町に魔道電灯が灯り始め、オレンジ色の点々とした光が、ルルコスタを幻想的に彩り始めた。
「本当に綺麗で素敵ね」
「天気も良かったし、普段はここまで綺麗なのはなかなか見れないぞ」
(リリスの加護のおかげかな)
レイはこんなに素敵な景色を見せてくれるなんて、とリリスの加護に感謝した。
夕食はフェリクスおすすめの店になった。
店の前の立て看板には、大きなロブスターの人形が豪快に載っていた。
バルのカウンターと、丸テーブルの店内テーブル席とテラス席があり、大きな窓は広く開け放たれていて開放的だ。テラス席の先には夜の海が見え、ザザーンという波の音も聞こえてくる。丸テーブルの真ん中には、キャンドルが灯されていて、雰囲気も抜群だ。
大人たちはワインやエールで、レイはオレンジジュースで乾杯した。
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レイたちは、蕪とイワシのマリネと一緒に、日替わりのアクアパッツァとパスタも注文した。アクアパッツァはミニトマトや黒オリーブ、パセリが彩りを添え、ムール貝のパスタはもちもちした生パスタに濃厚なクリームソースで、たっぷりの粉チーズがかかっている。
お店の看板にも使われているジャイアントロブスターの蒸し焼きもこの店の定番メニューで、早速レイたちも頼んではふはふと頬張った。
どの料理も絶妙に美味しく、レイは今日一日頑張って良かったと心から思った。
食後にレモンのソルベを頼んで、一同は一息ついた。
「今日は本っっっ当に疲れました! いつもこんな感じなんですか?」
「私の時はそんなことは無かったわ。恋も黒歴史も前回のことを反省して、対策を立ててきたみたいなの」
「うう……そんな傍迷惑な……」
レイはやけ食い気味にソルベを頬張った。
「恋も黒歴史もなんだかんだ言って楽しんでたみたいだな」
「ああ、人間の恋は特に楽しいみたいだね」
フェリクスはさりげなく自分のソルベの半分を、レイのお皿に移してくれた。
「そうなのよ。恋も黒歴史も、人間の恋の方がバリエーション豊富だし、ハプニングも多くて面白いみたいで、他の種族の管理者だと反応してくれないのよ……だからいつも三大魔女の新人の役目なの」
だからごめんね、とミランダはレイにウィンクしてきた。
(……え、新人が入ってこない限りは私が毎回これやるの? 数十年後にも、ずっと大人になった私がこれやるの……?)
最悪の展開を想像したレイは固まり、スプーンに乗ったソルベがぽとりとテーブルの上に落ちた。
レイは真っ白に燃え尽きた。
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