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万屋と商品棚の妖精
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「モーガン、こっちの世界の猫用品を教えてください!」
「ああ、いいぞ」
レイは食堂で食事をとり終わったモーガンに、単刀直入にお願いをした。
モーガンは、メルヴィンの弟で管理者だ。兄と同じ赤茶色の髪を三つ編みにしている。しっかりした鷲鼻で、鋼色の瞳は兄とは違ってやや垂れ目だ。作業の邪魔になるからと、もみあげから繋がった髭は、ドワーフにしては珍しく少し短めにカットしている。
モーガンは魔法猫が大好きで、違う種類の魔法猫を三匹使い魔にしている。猫用品を買い揃えるのに相談するなら、ユグドラでは彼が一番だろう。
「キラーベンガルは毛が短いからな。ブラッシング用のブラシは一本だけで十分だ。猪毛がいいだろう。琥珀は縮小化の魔術が使えてサイズが変えられるんだろう? 首輪は魔術で琥珀のサイズに合わせて伸び縮みする物がいいだろう。純粋な魔法猫なら、魔力の他に猫用の食事やおやつも好きなんだ。キラーベンガルは魔物だから、ユグドラの魔力や主人の魔力で一応は十分だな。魔物と言っても魔獣寄りだから、魔力の他に餌も欲しがるかもな……そこら辺は少しずつ探っていった方がいいだろう。念のために餌皿もだな。爪研ぎやおもちゃはうちの猫たちが使わなくなったので良かったらやるよ。キラーベンガルだし、すぐにボロボロになるかもな」
レイは、モーガンから言われた物を必死にメモ書きしている。
異世界召喚の特典なのか、レイはこちらの言葉で読むことと話すことはできている。ただし、書くことは練習が必要なようだった。難しい漢字を何となく読むことはできるが、改めて書いてみようとすると書けないのと同じような感覚だった。
書き慣れない異世界の文字をのたくらせて、少しずつ練習している。
時々モーガンに「字がちょっと違うぞ」と指摘を受けつつ、メモ書きを進めた。
「猫用のトイレはどうしましょう?」
「トイレは魔法猫にもよるな……結構、影魔術で外に出て用を足す子も多いな。魔力を食べてるだけなら、トイレの回数自体も少ないし……琥珀は今の所どうなんだ?」
「……そういえば、トイレしてるのでしょうか? 見たこと無いです……琥珀、トイレどうしましょう?」
『影伝って外に出てる。できるなら部屋の中でも外でも、どっちでもいい』
琥珀はな~んと鳴いて、レイに念話で伝えてきた。使い魔契約のおかげで念話ができるようになったのだ。
猫好きのモーガンは目尻を更に下げて、その様子を微笑ましげに見ている。
「影魔術で外に出ていたようです。琥珀はどちらでもいいと言ってるんですが、どうしましょう?」
「トイレも念のために買っとくか。何らかの理由で外に出られない時には、あると便利だしな」
「了解です!」
レイは一通りメモを終え、モーガンに間違いがないか確認をとった。
琥珀は、レイの膝の上でゴロゴロしている。
「一緒に買いに行った方がいいんだろうが、今日は防具の修繕の仕事が入っててな……でも、もう猫は迎えてるから、早めに揃えた方がいいよな。レイもまだユグドラに慣れてないし、付き添いがいた方がいいしな……」
モーガンは短めの顎髭を撫でつつ、うーんと考え込んでいると、ぽんぽんと彼の肩を叩く者がいた。モーガンが振り向くと、シェリーだった。
「ちょうど母さんが万屋に用事があるから、一緒に行ってもらいましょうか?」
「ああ、それは助かるが、いいのか?」
「いいよ! この食事の時間が終われば、次の仕込みまでに少し時間があるからね。買い出しに行こうと思ってたのさ」
調理場からアニータが出てきた。
アニータはシェリーの母親だ。恰幅のいいエルフのおばさまで、小麦色の髪をシニヨンにまとめている。緑色の瞳はシェリーに似ていて、ふくふくとした笑顔が朗らかだ。
「それなら、是非よろしくお願いします!」
「ああ、よろしくね」
アニータはにっこりと微笑んだ。
食堂が一段落してから、二人は万屋に向かうことになった。
琥珀はまだ首輪も無くて、他の人がびっくりしてしまうため、お留守番だ。な~ん、と寂しそうに鳴いていたが、レイは苦渋の選択で部屋に待機してもらった。
***
アニータの仕事が一段落して、南の大通り沿いへ向かった。
南大門に繋がる大通りは、ユグドラのメインストリートだ。日用品や食料品店などのお店が立ち並び、たくさんの人々が行き交っている。
レイは逸れないように、アニータに手を繋いでもらっている。
「昔はこうやって、シェリーと手を繋いで買い出しに行ったもんだよ」
「シェリーはユグドラ育ちなんですか?」
「そうだよ。うちの弟が管理者でね。旦那が早くに亡くなってね、弟の伝手をたどって、幼いシェリーとここに来たのさ。そういえば、レイはまだ弟に会ってないね」
アニータの弟のダンカンは、エルフで管理者をしている。魔術研究家で、世界中をまわって各地の特殊魔術を集めているそうだ。その傍ら、管理者として情報収集も行なっているらしい。
「魔術バカで、ほとんどユグドラには戻って来ないんだよ。管理者の仕事も、魔術研究のついでさ」
全く困ったもんだね、とアニータは眉を下げて呟いている。
「ほら、着いたよ。ここが万屋だ」
ユグドラの樹と南大門のほぼ中ごろに、万屋はあった。
ユグドラの他のお店と同じく赤煉瓦に濃いグレーの屋根の建物だが、少し様子がおかしい。
店の前まで商品が溢れ出していて、大通りの道端までごちゃごちゃとせり出している。往来客も慣れているようで、店の前で商品を見ている客以外は、器用にその店の前を避けている。
「物が多すぎやしませんか?」
レイは呆気にとられてポカンと口を開けて見ていた。
「これがユグドラの万屋だよ。世界各地の商品を集めすぎて、店に入り切らないんだって」
アニータも半分呆れたように見ている。
「万引きとか、心配ないんですか?」
「ああ、そこら辺はうちの弟が高度な魔術を仕掛けたみたいでね。盗もうという気持ちで商品に触ると、捕獲魔術が働いて、即捕まって逆さ吊りになるみたいだよ。同時に防御壁部隊にも連絡が行くから、今の所、盗人の捕獲率は百パーセントらしいよ」
(魔術が便利すぎる……そして効果がえげつない)
レイは遠い目をした。
「盗もう」という気持ちに反応して、犯行前に捕まるのだ。しかも、見せしめのような逆さ吊りで。中々恐ろしい魔術を、アニータ弟は仕掛けていた。
「普通にしてれば問題ないから、そんな怖がらないくて大丈夫だよ」
朗らかな表情でアニータはレイの手を引いて、万屋の店の中へ入って行った。
「いらっしゃい! ああ、アニータさん、今日はどうしたんだい?」
カウンターの中から、ドワーフの女性が声を掛けてきた。店主のようだ。
ダークブラウンの髪をアップにして結い上げている。三日月型の目元はとても愛嬌があり、ころころした体型も相俟って、とても愛らしい。
彼女は、幼い子供が高いテーブルで食事をとる際に座るような椅子に座っていた。
「タバサ、元気そうだね。ユグドラの備品をいくつか切らしててね、その補充だよ。あと、この子が新たに使い魔を迎えてね、猫用品が欲しいんだ」
「猫用品? いいよ。リストはあるかい?」
「これです。お願いします」
レイとアニータは、店主のタバサにリストを渡した。
「スーザン! お客だよ!」
「ふわぁ~い!」
手乗りサイズの眠そうな目をした妖精が、あくびをしながら飛んで来た。
明るいブラウンの髪をポニーテールにしていて、丸みを帯びた蝶々の羽は、チョコレート色の筋が入った淡いクリーム色をしている。
スーザンは、タバサからリストを受け取ると、リストを眺めて少し考え込んだ後、徐に脇腹と羽の間に手を突っ込み、バサバサバサッとその場にたくさんの商品を落とした。
「!?」
レイはびっくりして目を丸くした。
アニータは、スーザンから戻されたリストと商品を突き合わせてチェックしている。いい笑顔で頷いているので、商品はリスト通りのようだ。
「びっくりしただろう? こう見えてこの子はすごく優秀でね、うちの商品棚から派生したんだよ」
「え!?」
(……妖精ってそんな生まれ方するの???)
疑問に思ったことが顔に出ていたのか、アニータが説明してくれた。
「妖精はね、妖精の親から生まれてくる子と、スーザンみたいに自然派生する子がいるんだよ。特に妖精は、自然界のエレメントや植物や鉱物の他に、時には人間や亜人なんかが愛用している物から派生することがあるんだ」
「不思議な生まれ方ですね……」
「……人間からしたら、確かに不思議かもね。はい、あなたもリストと確かめてみて」
スーザンが、レイにもリストを渡してきた。
レイもリストと商品をチェックしてみると、きちんと全ての商品が揃っていた。
「全部、揃ってます……すごいですね」
レイが不思議なものを見る目でまじまじとスーザンを見つめると、スーザンはふふふっと得意げに微笑んだ。
「ふふふ。あなた、こういう魔術見たことないのね。そうだ! 面白いものを見せてあげる!」
ふわふわ、ふらふらと、スーザンが店の前の商品まで飛んで行った。
レイもその後を追う。
「……あ! こらっ!!」
タバサが気づいて止めるのも虚しく、スーザンは店先の商品に手をかけると、一瞬で消してしまった。まだ店先で商品を見ていた客が「ギャッ!」とびっくりして、飛び上がっている。
「ふっふ~ん! すごいでしょ!」
スーザンは胸を張って自慢げだ。
「おおっ!」
レイはまるでマジックでも見たように驚いている。
「ス~ザンッ!! 早く商品を戻しな! 客がまだ見てるんだよ!」
「うわ~ん、ごめんなさ~い!」
タバサが、その身長からはびっくりするぐらいに高くぴょんと跳ねて、空中のスーザンをガシッと捕まえると、きっちり叱っていた。
スーザンは慌てて商品を元に戻していた。
「スーザンは数年前に派生したばかりで、まだいろいろなことが分からないんだ。いつも眠そうだし、すっとぼけてるけど、うちの店の商品の扱いと空間魔術については天才なんだよ」
当のスーザンは、一仕事を終えて、寝ながらふよふよと浮かんでいる。
(……妖精って寝ながら飛べるの!? 妖精の生態が不思議すぎる……)
レイが新生物を見つけたかのように、スーザンをまじまじと観察していると、
「レイ、普通の妖精は寝ながら飛ばないよ」
アニータが苦笑しつつ、正しい妖精の姿を教えてくれた。
「ユグドラは子供が少ないからね。スーザンもまだまだ子供だし、嬉しかったんだろ。また会いに来てやってね」
「はい!」
レイはタバサに頭を撫でられた。自分より小さい身長のタバサに、子供のように撫でられるのは不思議な気分だったが、レイは何だか認められたようでちょっぴり嬉しかった。
***
レイがユグドラの樹内の自分の部屋に戻ると、琥珀がビュンッと飛び込んできた。レイが抱き上げると、まだ慣れない環境で不安だったのか、頭をスリスリとレイに擦り付けてニャーニャー鳴いている。
「うん、かわいい!」
万屋で買ってきた飼い猫用のリボンを付けてあげると、琥珀は得意そうに胸を張った。深みのある赤いリボンは、琥珀のオレンジブラウンの毛色にとてもよく似合っていた。
『次はちゃんと連れてってね』
琥珀がまじまじとレイを見つめる。
「うん、次は一緒に行こうね」
レイが頭を撫でると、琥珀は幸せそうに目を眇めていた。
「ああ、いいぞ」
レイは食堂で食事をとり終わったモーガンに、単刀直入にお願いをした。
モーガンは、メルヴィンの弟で管理者だ。兄と同じ赤茶色の髪を三つ編みにしている。しっかりした鷲鼻で、鋼色の瞳は兄とは違ってやや垂れ目だ。作業の邪魔になるからと、もみあげから繋がった髭は、ドワーフにしては珍しく少し短めにカットしている。
モーガンは魔法猫が大好きで、違う種類の魔法猫を三匹使い魔にしている。猫用品を買い揃えるのに相談するなら、ユグドラでは彼が一番だろう。
「キラーベンガルは毛が短いからな。ブラッシング用のブラシは一本だけで十分だ。猪毛がいいだろう。琥珀は縮小化の魔術が使えてサイズが変えられるんだろう? 首輪は魔術で琥珀のサイズに合わせて伸び縮みする物がいいだろう。純粋な魔法猫なら、魔力の他に猫用の食事やおやつも好きなんだ。キラーベンガルは魔物だから、ユグドラの魔力や主人の魔力で一応は十分だな。魔物と言っても魔獣寄りだから、魔力の他に餌も欲しがるかもな……そこら辺は少しずつ探っていった方がいいだろう。念のために餌皿もだな。爪研ぎやおもちゃはうちの猫たちが使わなくなったので良かったらやるよ。キラーベンガルだし、すぐにボロボロになるかもな」
レイは、モーガンから言われた物を必死にメモ書きしている。
異世界召喚の特典なのか、レイはこちらの言葉で読むことと話すことはできている。ただし、書くことは練習が必要なようだった。難しい漢字を何となく読むことはできるが、改めて書いてみようとすると書けないのと同じような感覚だった。
書き慣れない異世界の文字をのたくらせて、少しずつ練習している。
時々モーガンに「字がちょっと違うぞ」と指摘を受けつつ、メモ書きを進めた。
「猫用のトイレはどうしましょう?」
「トイレは魔法猫にもよるな……結構、影魔術で外に出て用を足す子も多いな。魔力を食べてるだけなら、トイレの回数自体も少ないし……琥珀は今の所どうなんだ?」
「……そういえば、トイレしてるのでしょうか? 見たこと無いです……琥珀、トイレどうしましょう?」
『影伝って外に出てる。できるなら部屋の中でも外でも、どっちでもいい』
琥珀はな~んと鳴いて、レイに念話で伝えてきた。使い魔契約のおかげで念話ができるようになったのだ。
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「影魔術で外に出ていたようです。琥珀はどちらでもいいと言ってるんですが、どうしましょう?」
「トイレも念のために買っとくか。何らかの理由で外に出られない時には、あると便利だしな」
「了解です!」
レイは一通りメモを終え、モーガンに間違いがないか確認をとった。
琥珀は、レイの膝の上でゴロゴロしている。
「一緒に買いに行った方がいいんだろうが、今日は防具の修繕の仕事が入っててな……でも、もう猫は迎えてるから、早めに揃えた方がいいよな。レイもまだユグドラに慣れてないし、付き添いがいた方がいいしな……」
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「ちょうど母さんが万屋に用事があるから、一緒に行ってもらいましょうか?」
「ああ、それは助かるが、いいのか?」
「いいよ! この食事の時間が終われば、次の仕込みまでに少し時間があるからね。買い出しに行こうと思ってたのさ」
調理場からアニータが出てきた。
アニータはシェリーの母親だ。恰幅のいいエルフのおばさまで、小麦色の髪をシニヨンにまとめている。緑色の瞳はシェリーに似ていて、ふくふくとした笑顔が朗らかだ。
「それなら、是非よろしくお願いします!」
「ああ、よろしくね」
アニータはにっこりと微笑んだ。
食堂が一段落してから、二人は万屋に向かうことになった。
琥珀はまだ首輪も無くて、他の人がびっくりしてしまうため、お留守番だ。な~ん、と寂しそうに鳴いていたが、レイは苦渋の選択で部屋に待機してもらった。
***
アニータの仕事が一段落して、南の大通り沿いへ向かった。
南大門に繋がる大通りは、ユグドラのメインストリートだ。日用品や食料品店などのお店が立ち並び、たくさんの人々が行き交っている。
レイは逸れないように、アニータに手を繋いでもらっている。
「昔はこうやって、シェリーと手を繋いで買い出しに行ったもんだよ」
「シェリーはユグドラ育ちなんですか?」
「そうだよ。うちの弟が管理者でね。旦那が早くに亡くなってね、弟の伝手をたどって、幼いシェリーとここに来たのさ。そういえば、レイはまだ弟に会ってないね」
アニータの弟のダンカンは、エルフで管理者をしている。魔術研究家で、世界中をまわって各地の特殊魔術を集めているそうだ。その傍ら、管理者として情報収集も行なっているらしい。
「魔術バカで、ほとんどユグドラには戻って来ないんだよ。管理者の仕事も、魔術研究のついでさ」
全く困ったもんだね、とアニータは眉を下げて呟いている。
「ほら、着いたよ。ここが万屋だ」
ユグドラの樹と南大門のほぼ中ごろに、万屋はあった。
ユグドラの他のお店と同じく赤煉瓦に濃いグレーの屋根の建物だが、少し様子がおかしい。
店の前まで商品が溢れ出していて、大通りの道端までごちゃごちゃとせり出している。往来客も慣れているようで、店の前で商品を見ている客以外は、器用にその店の前を避けている。
「物が多すぎやしませんか?」
レイは呆気にとられてポカンと口を開けて見ていた。
「これがユグドラの万屋だよ。世界各地の商品を集めすぎて、店に入り切らないんだって」
アニータも半分呆れたように見ている。
「万引きとか、心配ないんですか?」
「ああ、そこら辺はうちの弟が高度な魔術を仕掛けたみたいでね。盗もうという気持ちで商品に触ると、捕獲魔術が働いて、即捕まって逆さ吊りになるみたいだよ。同時に防御壁部隊にも連絡が行くから、今の所、盗人の捕獲率は百パーセントらしいよ」
(魔術が便利すぎる……そして効果がえげつない)
レイは遠い目をした。
「盗もう」という気持ちに反応して、犯行前に捕まるのだ。しかも、見せしめのような逆さ吊りで。中々恐ろしい魔術を、アニータ弟は仕掛けていた。
「普通にしてれば問題ないから、そんな怖がらないくて大丈夫だよ」
朗らかな表情でアニータはレイの手を引いて、万屋の店の中へ入って行った。
「いらっしゃい! ああ、アニータさん、今日はどうしたんだい?」
カウンターの中から、ドワーフの女性が声を掛けてきた。店主のようだ。
ダークブラウンの髪をアップにして結い上げている。三日月型の目元はとても愛嬌があり、ころころした体型も相俟って、とても愛らしい。
彼女は、幼い子供が高いテーブルで食事をとる際に座るような椅子に座っていた。
「タバサ、元気そうだね。ユグドラの備品をいくつか切らしててね、その補充だよ。あと、この子が新たに使い魔を迎えてね、猫用品が欲しいんだ」
「猫用品? いいよ。リストはあるかい?」
「これです。お願いします」
レイとアニータは、店主のタバサにリストを渡した。
「スーザン! お客だよ!」
「ふわぁ~い!」
手乗りサイズの眠そうな目をした妖精が、あくびをしながら飛んで来た。
明るいブラウンの髪をポニーテールにしていて、丸みを帯びた蝶々の羽は、チョコレート色の筋が入った淡いクリーム色をしている。
スーザンは、タバサからリストを受け取ると、リストを眺めて少し考え込んだ後、徐に脇腹と羽の間に手を突っ込み、バサバサバサッとその場にたくさんの商品を落とした。
「!?」
レイはびっくりして目を丸くした。
アニータは、スーザンから戻されたリストと商品を突き合わせてチェックしている。いい笑顔で頷いているので、商品はリスト通りのようだ。
「びっくりしただろう? こう見えてこの子はすごく優秀でね、うちの商品棚から派生したんだよ」
「え!?」
(……妖精ってそんな生まれ方するの???)
疑問に思ったことが顔に出ていたのか、アニータが説明してくれた。
「妖精はね、妖精の親から生まれてくる子と、スーザンみたいに自然派生する子がいるんだよ。特に妖精は、自然界のエレメントや植物や鉱物の他に、時には人間や亜人なんかが愛用している物から派生することがあるんだ」
「不思議な生まれ方ですね……」
「……人間からしたら、確かに不思議かもね。はい、あなたもリストと確かめてみて」
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レイもリストと商品をチェックしてみると、きちんと全ての商品が揃っていた。
「全部、揃ってます……すごいですね」
レイが不思議なものを見る目でまじまじとスーザンを見つめると、スーザンはふふふっと得意げに微笑んだ。
「ふふふ。あなた、こういう魔術見たことないのね。そうだ! 面白いものを見せてあげる!」
ふわふわ、ふらふらと、スーザンが店の前の商品まで飛んで行った。
レイもその後を追う。
「……あ! こらっ!!」
タバサが気づいて止めるのも虚しく、スーザンは店先の商品に手をかけると、一瞬で消してしまった。まだ店先で商品を見ていた客が「ギャッ!」とびっくりして、飛び上がっている。
「ふっふ~ん! すごいでしょ!」
スーザンは胸を張って自慢げだ。
「おおっ!」
レイはまるでマジックでも見たように驚いている。
「ス~ザンッ!! 早く商品を戻しな! 客がまだ見てるんだよ!」
「うわ~ん、ごめんなさ~い!」
タバサが、その身長からはびっくりするぐらいに高くぴょんと跳ねて、空中のスーザンをガシッと捕まえると、きっちり叱っていた。
スーザンは慌てて商品を元に戻していた。
「スーザンは数年前に派生したばかりで、まだいろいろなことが分からないんだ。いつも眠そうだし、すっとぼけてるけど、うちの店の商品の扱いと空間魔術については天才なんだよ」
当のスーザンは、一仕事を終えて、寝ながらふよふよと浮かんでいる。
(……妖精って寝ながら飛べるの!? 妖精の生態が不思議すぎる……)
レイが新生物を見つけたかのように、スーザンをまじまじと観察していると、
「レイ、普通の妖精は寝ながら飛ばないよ」
アニータが苦笑しつつ、正しい妖精の姿を教えてくれた。
「ユグドラは子供が少ないからね。スーザンもまだまだ子供だし、嬉しかったんだろ。また会いに来てやってね」
「はい!」
レイはタバサに頭を撫でられた。自分より小さい身長のタバサに、子供のように撫でられるのは不思議な気分だったが、レイは何だか認められたようでちょっぴり嬉しかった。
***
レイがユグドラの樹内の自分の部屋に戻ると、琥珀がビュンッと飛び込んできた。レイが抱き上げると、まだ慣れない環境で不安だったのか、頭をスリスリとレイに擦り付けてニャーニャー鳴いている。
「うん、かわいい!」
万屋で買ってきた飼い猫用のリボンを付けてあげると、琥珀は得意そうに胸を張った。深みのある赤いリボンは、琥珀のオレンジブラウンの毛色にとてもよく似合っていた。
『次はちゃんと連れてってね』
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「うん、次は一緒に行こうね」
レイが頭を撫でると、琥珀は幸せそうに目を眇めていた。
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