2 / 9
事実確認
しおりを挟む
「はっ!!?」
俺はがばりと跳ね起きた。
はじめに目に入ったのは、やけに豪華な部屋だった。「高位の身分」での転生は嘘ではなかったらしい。
「もう、あの女神マジふざけんな。説明もなくこんな所に放り込みやがって! 無責任にも程があるぞ!!」
とりあえず俺は現状把握のために例の言葉を口にすることにした。こういう時のお決まりの呪文だ——ただ、不発だったら、めちゃくちゃ恥ずかしいやつだ。
「…………ステータスオープン…………」
しーんと静まり返った部屋に俺の低い声がこだました。
「うぎゃぁ!! ステータスオープンがねぇ!!!」
俺は恥ずかしすぎて、顔を両手で隠して、ふかふかのベッドの上でゴロンゴロンと転がった。
上流階級用の広々ベッドだ。二回転半はいけた。
ふと、自分の髪が長いことに気づいた。金色の柔らかくて綺麗な髪だ。
手を見れば、白く細く、肌はきめ細やかで、まさに「白魚のような手」だ。
俺は、パッと目に入ったドレッサーの鏡に駆け寄った。
そういえば、この部屋のインテリアもピンクや赤を基調としていて、やけに女の子らしい……
俺が鏡で自分の姿を確認して叫ぼうとした瞬間——
「おはようございます。エリザベトお嬢様」
コンコンッとドアをノックする音がして、侍女らしき女性の声がした。
「どうぞ~」
俺は思わず裏声で返事していた。もうどうにでもなれだ!
ドアを開けて入って来たのは、きちりとメイド服を着込んだ綺麗な女性だった。
「本日は魔法学園の卒業パーティーですよ。お嬢様をピカピカに磨かせていただきます」
——え? 今、なんて?? 俺、いきなり詰んでないか???
この手の世界で「卒業パーティー」といえば、大事なイベントの日——大抵、婚約破棄なり、国外追放なり、ざまぁが発生する日だ。
何か事件が起こりそうな匂いがプンプンする……
とにかく、落ち着いて鏡の中の美女を見れば、どこかで見たことある顔だった——そうだ! 妹がやってた鬼畜乙女ゲームだ。
『恋のセレニティ~魔法学園のシンデレラ~』——通称『恋セレ』だ。
元庶民で、希少な光属性の魔力に目覚めたヒロインが、男爵家の養女になって魔法学園に入学。学園イベントをこなしながら、攻略対象者との好感度を上げて絆を深めてハッピーエンドを目指すという、ここまで聞く話だとよくある乙女ゲームだ。
ただ、選択肢のトリッキーさと攻略対象者のクセの強さ、選択ミス一つで即バッドエンドという初見殺し満載で、ゲーム難易度はかなり高い。
だが、ストーリー展開は面白く、攻略対象者の美麗スチルも人気絵師が手掛けたらしく、コンプリートするために世の乙女ゲーマーたちがイライラとぼやきながらも攻略していく、なんだかんだ言っても愛されている鬼畜ゲームだ。
なんで俺がこんなに詳しいかというと、うちの妹が散々、家の居間で叫んでたからだ。
選択肢ミスって悲壮の雄叫びをあげ、新しいスチルを手に入れれば歓喜の奇声をあげていた——そりゃあ、「どんな内容だ?」って気になって仕方がなくなるだろう。自分じゃやらなかったが、ゲーム実況だけはチェックした。
で、今の俺は「王太子ルート」でライバルとして登場するエリザベトお嬢様だ。いわゆる、悪役令嬢だ。
二番目に可愛いなって思ってたキャラに転生して、正直ドキドキしている。
エリザベトお嬢様、いや、俺が麗しすぎる。
寝起きでまだ何もお手入れされていないはずなのだが、絹のようなつるりとした肌をしている。人形のような端正な顔立ちで、パッチリと大きな瞳は南の海のような緑がかったマリンブルー。ゆったりと波打つような金髪の髪は艶やかで、さらりと輝いている。
うん、お美しい。
そして、エリザベトお嬢様といえば、話題の魅惑のスタイルは……
待て! 俺、いや、エリザベトお嬢様の胸が無いぞ、全く。つるぺただ。
非常にいや~な予感がして確認してみたら……あった。ご令嬢にあるまじきモノが……
ご令嬢♂じゃねぇかっっっ!!?
「エリザベト様、朝食の準備が整いました。本日はドレスの着付けをいたしますので、いつも通り軽食を準備させていただきました」
「……ええ、ありがとう」
侍女に声をかけられ、無理矢理笑顔をつくって答えた。
軽食はサンドイッチとコーヒー、少しのスープだった。
腹に何か納まったことで、少し落ち着いた。
気持ちが落ち着くと、俺の脳内に、本物のエリザベトお嬢様の記憶が流れ込んできた——
俺はがばりと跳ね起きた。
はじめに目に入ったのは、やけに豪華な部屋だった。「高位の身分」での転生は嘘ではなかったらしい。
「もう、あの女神マジふざけんな。説明もなくこんな所に放り込みやがって! 無責任にも程があるぞ!!」
とりあえず俺は現状把握のために例の言葉を口にすることにした。こういう時のお決まりの呪文だ——ただ、不発だったら、めちゃくちゃ恥ずかしいやつだ。
「…………ステータスオープン…………」
しーんと静まり返った部屋に俺の低い声がこだました。
「うぎゃぁ!! ステータスオープンがねぇ!!!」
俺は恥ずかしすぎて、顔を両手で隠して、ふかふかのベッドの上でゴロンゴロンと転がった。
上流階級用の広々ベッドだ。二回転半はいけた。
ふと、自分の髪が長いことに気づいた。金色の柔らかくて綺麗な髪だ。
手を見れば、白く細く、肌はきめ細やかで、まさに「白魚のような手」だ。
俺は、パッと目に入ったドレッサーの鏡に駆け寄った。
そういえば、この部屋のインテリアもピンクや赤を基調としていて、やけに女の子らしい……
俺が鏡で自分の姿を確認して叫ぼうとした瞬間——
「おはようございます。エリザベトお嬢様」
コンコンッとドアをノックする音がして、侍女らしき女性の声がした。
「どうぞ~」
俺は思わず裏声で返事していた。もうどうにでもなれだ!
ドアを開けて入って来たのは、きちりとメイド服を着込んだ綺麗な女性だった。
「本日は魔法学園の卒業パーティーですよ。お嬢様をピカピカに磨かせていただきます」
——え? 今、なんて?? 俺、いきなり詰んでないか???
この手の世界で「卒業パーティー」といえば、大事なイベントの日——大抵、婚約破棄なり、国外追放なり、ざまぁが発生する日だ。
何か事件が起こりそうな匂いがプンプンする……
とにかく、落ち着いて鏡の中の美女を見れば、どこかで見たことある顔だった——そうだ! 妹がやってた鬼畜乙女ゲームだ。
『恋のセレニティ~魔法学園のシンデレラ~』——通称『恋セレ』だ。
元庶民で、希少な光属性の魔力に目覚めたヒロインが、男爵家の養女になって魔法学園に入学。学園イベントをこなしながら、攻略対象者との好感度を上げて絆を深めてハッピーエンドを目指すという、ここまで聞く話だとよくある乙女ゲームだ。
ただ、選択肢のトリッキーさと攻略対象者のクセの強さ、選択ミス一つで即バッドエンドという初見殺し満載で、ゲーム難易度はかなり高い。
だが、ストーリー展開は面白く、攻略対象者の美麗スチルも人気絵師が手掛けたらしく、コンプリートするために世の乙女ゲーマーたちがイライラとぼやきながらも攻略していく、なんだかんだ言っても愛されている鬼畜ゲームだ。
なんで俺がこんなに詳しいかというと、うちの妹が散々、家の居間で叫んでたからだ。
選択肢ミスって悲壮の雄叫びをあげ、新しいスチルを手に入れれば歓喜の奇声をあげていた——そりゃあ、「どんな内容だ?」って気になって仕方がなくなるだろう。自分じゃやらなかったが、ゲーム実況だけはチェックした。
で、今の俺は「王太子ルート」でライバルとして登場するエリザベトお嬢様だ。いわゆる、悪役令嬢だ。
二番目に可愛いなって思ってたキャラに転生して、正直ドキドキしている。
エリザベトお嬢様、いや、俺が麗しすぎる。
寝起きでまだ何もお手入れされていないはずなのだが、絹のようなつるりとした肌をしている。人形のような端正な顔立ちで、パッチリと大きな瞳は南の海のような緑がかったマリンブルー。ゆったりと波打つような金髪の髪は艶やかで、さらりと輝いている。
うん、お美しい。
そして、エリザベトお嬢様といえば、話題の魅惑のスタイルは……
待て! 俺、いや、エリザベトお嬢様の胸が無いぞ、全く。つるぺただ。
非常にいや~な予感がして確認してみたら……あった。ご令嬢にあるまじきモノが……
ご令嬢♂じゃねぇかっっっ!!?
「エリザベト様、朝食の準備が整いました。本日はドレスの着付けをいたしますので、いつも通り軽食を準備させていただきました」
「……ええ、ありがとう」
侍女に声をかけられ、無理矢理笑顔をつくって答えた。
軽食はサンドイッチとコーヒー、少しのスープだった。
腹に何か納まったことで、少し落ち着いた。
気持ちが落ち着くと、俺の脳内に、本物のエリザベトお嬢様の記憶が流れ込んできた——
8
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~
及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら……
なんと相手は自社の社長!?
末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、
なぜか一夜を共に過ごすことに!
いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる