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事実確認

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「はっ!!?」

 俺はがばりと跳ね起きた。

 はじめに目に入ったのは、やけに豪華な部屋だった。「高位の身分」での転生は嘘ではなかったらしい。

「もう、あの女神マジふざけんな。説明もなくこんな所に放り込みやがって! 無責任にも程があるぞ!!」

 とりあえず俺は現状把握のために例の言葉を口にすることにした。こういう時のお決まりの呪文だ——ただ、不発だったら、めちゃくちゃ恥ずかしいやつだ。

「…………ステータスオープン…………」

 しーんと静まり返った部屋に俺の低い声がこだました。

「うぎゃぁ!! ステータスオープンがねぇ!!!」

 俺は恥ずかしすぎて、顔を両手で隠して、ふかふかのベッドの上でゴロンゴロンと転がった。
 上流階級用の広々ベッドだ。二回転半はいけた。

 ふと、自分の髪が長いことに気づいた。金色の柔らかくて綺麗な髪だ。
 手を見れば、白く細く、肌はきめ細やかで、まさに「白魚のような手」だ。

 俺は、パッと目に入ったドレッサーの鏡に駆け寄った。
 そういえば、この部屋のインテリアもピンクや赤を基調としていて、やけに女の子らしい……

 俺が鏡で自分の姿を確認して叫ぼうとした瞬間——

「おはようございます。エリザベトお嬢様」

 コンコンッとドアをノックする音がして、侍女らしき女性の声がした。

「どうぞ~」

 俺は思わず裏声で返事していた。もうどうにでもなれだ!

 ドアを開けて入って来たのは、きちりとメイド服を着込んだ綺麗な女性だった。

「本日は魔法学園の卒業パーティーですよ。お嬢様をピカピカに磨かせていただきます」

——え? 今、なんて?? 俺、いきなり詰んでないか???

 この手の世界で「卒業パーティー」といえば、大事なイベントの日——大抵、婚約破棄なり、国外追放なり、ざまぁが発生する日だ。

 何か事件が起こりそうな匂いがプンプンする……

 とにかく、落ち着いて鏡の中の美女を見れば、どこかで見たことある顔だった——そうだ! 妹がやってた鬼畜乙女ゲームだ。

『恋のセレニティ~魔法学園のシンデレラ~』——通称『恋セレ』だ。

 元庶民で、希少な光属性の魔力に目覚めたヒロインが、男爵家の養女になって魔法学園に入学。学園イベントをこなしながら、攻略対象者との好感度を上げて絆を深めてハッピーエンドを目指すという、ここまで聞く話だとよくある乙女ゲームだ。

 ただ、選択肢のトリッキーさと攻略対象者のクセの強さ、選択ミス一つで即バッドエンドという初見殺し満載で、ゲーム難易度はかなり高い。

 だが、ストーリー展開は面白く、攻略対象者の美麗スチルも人気絵師が手掛けたらしく、コンプリートするために世の乙女ゲーマーたちがイライラとぼやきながらも攻略していく、なんだかんだ言っても愛されている鬼畜ゲームだ。

 なんで俺がこんなに詳しいかというと、うちの妹が散々、家の居間で叫んでたからだ。

 選択肢ミスって悲壮の雄叫びをあげ、新しいスチルを手に入れれば歓喜の奇声をあげていた——そりゃあ、「どんな内容だ?」って気になって仕方がなくなるだろう。自分じゃやらなかったが、ゲーム実況だけはチェックした。

 で、今の俺は「王太子ルート」でライバルとして登場するエリザベトお嬢様だ。いわゆる、悪役令嬢だ。

 二番目に可愛いなって思ってたキャラに転生して、正直ドキドキしている。

 エリザベトお嬢様、いや、俺が麗しすぎる。

 寝起きでまだ何もお手入れされていないはずなのだが、絹のようなつるりとした肌をしている。人形のような端正な顔立ちで、パッチリと大きな瞳は南の海のような緑がかったマリンブルー。ゆったりと波打つような金髪の髪は艶やかで、さらりと輝いている。

 うん、お美しい。

 そして、エリザベトお嬢様といえば、話題の魅惑のスタイルは……

 待て! 俺、いや、エリザベトお嬢様の胸が無いぞ、全く。つるぺただ。

 非常にいや~な予感がして確認してみたら……あった。ご令嬢にあるまじきモノが……

 ご令嬢♂じゃねぇかっっっ!!?

「エリザベト様、朝食の準備が整いました。本日はドレスの着付けをいたしますので、いつも通り軽食を準備させていただきました」
「……ええ、ありがとう」

 侍女に声をかけられ、無理矢理笑顔をつくって答えた。

 軽食はサンドイッチとコーヒー、少しのスープだった。
 腹に何か納まったことで、少し落ち着いた。

 気持ちが落ち着くと、俺の脳内に、本物のエリザベトお嬢様の記憶が流れ込んできた——


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