聖女♂でございます。

拝詩ルルー

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魔王登場

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「侵入者か!?」

 魔王が俺たちの前に立ち塞がった。バサリと漆黒のマントが翻る。

 魔王は漆黒のストレートの長髪に、赤く鋭い瞳の俺様系のイケメンだ。頭からは、魔族らしい二本の立派な巻き角が生えている。

「我々は王国の戦士……」

 ヨロヨロと、ベルンハルトが剣を杖にして立ち上がった。

「……勇者アクセルとその一行……」

 ヨロヨロと、ディーターも膝をつきながら苦しげに立ち上がった。

「……覚悟せよ、魔王よ……」

 ヨロヨロと、アクセルも気合いで立ち上がった。

「…………」

 クリストフは気絶したままだ。

「おいっ。起きろ、クリストフ。見せ場だ。寝てる場合じゃない」

 俺はクリストフの頬をペチペチ叩くと、状態異常回復魔法をかけて叩き起こした。

======
 ベルンハルトの好感度が三あがった。
======

 どういうことだっ!?

「……悪の魔王を倒しに来た……」

 クリストフがヨロヨロとかろうじて上半身を起こして、決め台詞を吐いた。

「満身創痍じゃねぇか!!」

 魔王が腕を組みつつ、スパッとツッコミを入れた。

——その時、突然シロが甘えるような声を出して、魔王に近づいて行った。

「キュウ~ン、クゥ~ン……」

「あっ! 待て、シロ!」

 俺は慌てて呼び止めようとした。

「シロリアン! よくぞ無事で!!」

 魔王が涙目になって、シロに抱きついた。わしゃわしゃとモップ毛を撫でくりかえしている。

「「「「へっ?」」」」

 俺たち四人の声が重なった。

「キュキュ~ン、ク~ン……」
「うん、うん。そうか。……お前、うちのシロリアンを救ってくれたようだな。コイツは迷子になっていたんだ。それを、魔王城うちまで届けてくれたのか。しかも、洗濯までしてくれたようだな。飼い主として礼を言おう。ありがとう」

 シロをモフっていた魔王は、急にくるりと俺の方に振り返ると、お礼を言い出した。

「は、はぁ……どういたしまして……」

 俺は急な魔王の態度の変化に、呆気に取られてとりあえず返事だけした。

======
 魔王の好感度が五百あがった。
======

……嘘だろっ!? おいっ!!?

「あの~。俺がモップを見つけて来たんですが……」

 ディーターが少し言いづらそうに、横から口を挟んだ。

「ああ、お前か。シロリアンは、お前の抱っこの仕方が悪かったと貶してるぞ」
「けなっ…………」

 魔王の一言に、ディーターは言葉を失った。

 ディーターが固まっている間に、シロは魔王のマントを咥えると、クイッと引っ張った。

「キュ~ン!」
「何? 何か一つ願いを叶えてやれだと?」
「キュン!」

 シロに何やらキュンキュン言われ、魔王が鋭い視線を俺に向けてきた。

「お前は我に何を望む?」

 魔王が重々しく問うてきた。こちらから膝を折りたくなってしまうような圧倒的な威圧も放っている。

「それなら、この世界の平和を。王国や他国への侵略をやめて下さい。私は平和を望みます」

 俺は威圧になんか負けずに、真っ直ぐに魔王の目を見つめて言った。
 彼の鋭い赤い瞳が、一瞬だけ丸く見開いた。

「フッ。それならこの魔族の国の平和も入れてもおう。お前達人間は、勝手に我らの国にやって来て、勝手に荒らして帰って行く。それを止めるというのなら、侵略とやらを止めてやろう。元はと言えば、そちらから始めたことだ」

 俺がチラリとアクセルの方を見ると、彼も深く頷いた。

「それならば、互いに不可侵の和平条約を結びましょう。我が国が責任を持って他国にも呼びかけます」

 今度はアクセルが魔王の前に出た。胸に手を当て、真摯に言葉を重ねる。

「ハッ。今度の奴らは話が分かりそうだな。俺たちは静かに暮らせればそれでいいんだ。何もしてないのに毎回攻め込んで来やがって」

 魔王が皮肉げに言い放った。だが、その表情はやけに晴々としていた。

「ええ。これからは敵対ではなく、友好を築いていきましょう」
「いいだろう。それからステンドグラス代は弁償しろよな」

 アクセルと魔王は、ガシッと力強く握手をした。

——こうして、人間の国と魔族の国に平和が訪れた。


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