聖女♂でございます。

拝詩ルルー

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いざ、魔王城へ!

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——さらに半月後、遂に魔王城に到達した。

 瘴気漂う薄暗い森の奥地に、魔王城はあった。
 魔王城らしくおどろおどろしい雰囲気の城だ。瘴気で暗く澱んだ空には、稲光まで走っている。

 王都を出立してから一ヶ月半——歴代最速で魔王城に到達したことになる。

 まぁ、今回の魔王討伐メンバーは全員が男で、体力があったからな。

 それに、エトムントの元のスペックが高すぎた——元々、完璧主義で高スペックなキャラクターだということも関係してるが……

 本来の女子高生ヒロインの聖女であれば、回復役に徹するだけだったが、エトムントは違った。
 この世界の男子として、一通り剣術は習っていたこともあり、戦えたのだ。——そして完璧スペックゆえに、勇者パーティーにとっても重要な火力になった。


「遂に、魔王城だな」

 ディーターが、険しい崖の上の魔王城を見上げて言った。

「ようやくここまで来れたな」

 クリストフが、今までの辛い旅を思い返すように渋い表情を浮かべた。

「いよいよだな」

 ベルンハルトが、ごくりと喉を鳴らした。武者震いするように、拳が震えている。

「ああ。魔王を倒して、平和を取り戻そう」

 アクセルが胸の前でグッと拳を握り、覚悟を決めた。

======
▷「ふっはっは。よく来たな勇者どもよ。吾輩が魔王だ(大嘘)」
 「ええ! 私たちの力を魔王に見せつけてやるぴょん!」
 「あ。自分ちょっとお腹痛いんで帰ってもいいですか?」
 「もし言い伝えが本当ならこの笛で……ピュー(口笛)」
======

……ふざっっっけるなっ!!! ここに来てなんちゅう選択肢だっ!!! 罰ゲームかっ!!?

「え゛ぇ……わたしたちのちからを魔王にみせつけてやる……ぴょん……」

 俺は実質一つしか選べない選択肢を選んだ。思わず棒読みになったのは仕方がないだろう。

 むしろこんなもん、口にしただけでも褒めて欲しいわっ!!

 俺の発言に、全員が驚愕の表情でこっちを振り向いた。全員が「今それ言うか?」って顔をしていた。

——くそぅ!! ゲームの強制力めぇえええぇぇっ!!!

======
 クリストフの好感度が十あがった。
======

 お前はここで好感度が上がるのかよっ!!?


 全員の好感度はほぼほぼMAXなので、全員攻略ルートには無事に進めたと思う——ある意味、俺に選択肢は無かったが。

 そして、モップ犬な聖獣は……巨大なモップになっていた。チワワが軽トラになったようなサイズ感だ。

 聖獣はどのルートでも必ず現れるが、全員攻略ルートでだけ、好感度を上げれば上げる程、大きく成長した。

 そして特別ボーナスとして、大きく成長した聖獣は、俺たち勇者パーティーを背中に乗せて、魔王がいる玉座の間まで連れてってくれるのだ!

 聖獣、なんて便利な子!!


「行け! モップ!」
「いや、ロシナンテ!」
「ハイヨー! シルバー!」
「出発だ! ゴーイング・ケルベロス号!」

「バフッ!」

 聖獣は、何と呼んでもとりあえず元気よく返事をした。だから、みんな思い思いの名前で呼んでいる。ちなみに俺は適当に「シロ」と呼んでいる。

 俺たち四人が聖獣シロの背中にしがみつくと、そのままシロは猛然と魔王城下の崖に向かって駆け出した。
 器用に崖の岩に飛び乗り、ジャンプし、壁を垂直に走って魔王城へと駆け上っていく。

「ぐわぁああぁあっ!!」
「しっかり掴まえれ! 振り落とされたら、死ぬぞ!!」
「Gがっ! 遠心力が!」
「…………」
「クリストフの意識が飛んでないか!!?」
「起きろ、クリストフ! 寝たら死ぬぞ!! マジで!!!」

 俺たちは、命綱も無い乗り心地最悪のジェットコースターのような聖獣に必死にしがみついて、魔王がいる玉座の間上部にあるステンドグラスを突き破って中に侵入した。

 勇者たちってこんな風に聖獣で玉座の間に行ってたのか!?
 ゲームだとロード待ちするだけだったけど、ロード中にこんな酷い目に遭ってたのかよ!!

 ガッシャーーーーンッ!!!

 色とりどりのガラスの破片が飛び散り、大きな玉座に座るイケメンが口をあんぐり開けて、俺たちを見上げているのが見えた。

——あっ! この顔! 魔王は攻略対象者だ!!

 走馬灯のように前世の記憶が駆け巡り、俺はただただそれだけを思った。


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